あなたに会えて──双国追悼祭、魂の夜明け
祭りの歌と舞が、静かに終わる。
熱を帯びていた空気はゆっくりと夜へ溶け、
湖畔には穏やかな静けさが戻ってきた。
やがて人々は、手にした灯籠を一つずつ湖面へ流していく。
小さな火が水に揺れ、夜風に押されながら静かに進んでいった。
その瞬間——
夜空に、双国名物の花火が咲いた。
一発、また一発。
色鮮やかな光が夜を染め、弾けた光は湖面にも映り込む。
かすかな火花の音が、祭りの終わりを告げていた。
リアはそっと手を伸ばし、灯籠を湖に浮かべる。
リア
「……父上……みんな……無事に帰ってね……」
その声は風に溶け、
黄泉と此岸の狭間を、やさしく包み込んだ。
レイラも隣で灯籠を流す。
月光を纏ったようなその姿に、周囲は思わず息をのむ。
花火が夜空を染める中、
人々の顔には安堵と喜び、そして名残惜しさが浮かんでいた。
少し離れた場所で、ロイロはリアを守るように立ちながら夜空を見上げる。
ロイロ
「……綺麗だな」
小さな呟きだったが、胸の奥から溢れた本心だった。
シュンは目を丸くし、笑みをこぼす。
シュン
「すげぇ…!黄泉の花火、想像以上だよ………………」
湖の縁では、シュシャとシアンが穏やかに微笑む。
シュシャ
「こういう景色を見ると、全てが報われた気がするな……」
シアン
「……心が満たされる気がする……」
ナイル
「……綺麗な花火だね………最高だ……」
レオは静かに目を細め、夜空を見つめていた。
レオ
「お前達も……見てるか……?綺麗だな……」
レイラの隣で、テュエルも花火を見上げる。
テュエル
「……レイラ様、まだまだボクにも隠し事があったんですね……?本当に、すごい方だ……」
レイラ
「……ふっ、成功するとは思ってもみなかったがな……」
花火の光が二人の瞳に映り、
その表情はいつもより穏やかで、誇らしげだった。
やがてレイラはリアの元へ歩み寄る。
二人は自然に手を取り合い、目を合わせた。
リア
「……レイラ、あなたと一緒に舞えて
あなたに会えて、本当に良かった……」
かすかに震える声に、偽りはない。
レイラは微笑み、リアの手を強く握り返す。
レイラ
「……私もだ、リア。共に過ごしたこの時間……
一生忘れぬだろう」
リア
「……本当に、ありがとう」
湖面に映る花火と灯籠の光が、
黄泉の魂たちをそっと包み込む。
二人の存在は、まるで光の橋のように、
互いの心を確かにつないでいた。
夜空に咲く花火は、
祭りの終わりと共に、人々の心へ深く刻まれていく。
リアはふと、レイラの肩にもたれかける。
リア
「……もう少し、このままでいられたらいいのに」
レイラはその気配を受け止め、静かに腕を回した。
夜風が二人を撫で、
灯籠の光も、花火の残光も、ゆっくりと溶けていく。
こうして黄泉と此岸の境は再び静まり、
二人だけの、穏やかな時間が流れていった。
花火の光が夜空を覆い尽くし、
最後の一発が高く弾けて消えた。
祭りの喧騒は静まり、人々はそれぞれの想いを胸に、
灯籠の流れを見つめていた。
リアはそっと息をつき、目を細める。
レイラ
「すまない、無理をさせたな、リア……ゆっくり休むといい」
リアは「大丈夫」と微笑もうとしたが、瞼が落ちてゆく。
視界の端がぼやけ、花火の残光が滲んで見えた。
リア
「………レイラと一緒に踊れて
……幸せだったよ……」
その言葉を最後に、リアの体から力が抜ける。
レイラがすぐに抱き上げた。
レイラ
「ありがとう、リア……」
テュエルが静かに近づく。
テュエル
「疲労でしょうか」
レイラ
「あぁ……自分の意思に反して体が動き続け、
無理をしていることに気づけなかったはずだ……
リアは元々、そういうものを受けやすい体質だからな……悪いことをした……」
祭りの終わりを告げる太鼓が、遠くで小さく響いた。
――――――――――――――――――――
夜明けとともに、
双国の街は再び穏やかな日常を取り戻していた。
昨夜の灯籠の余韻がまだ湖面に漂い、
人々はどこか名残惜しげに後片付けをしている。
リアはまだ深い眠りの中。
その傍らでロイロは椅子に腰かけ、退屈そうに窓の外を眺めていた。
ロイロ
「リア…………まぁ、
昨日あれだけ踊れば当然か……」
小さく笑いながらも、視線は優しい。
差し込む光に照らされたリアの頬を見て、
ロイロは一瞬見惚れ、そっと目を伏せた。
窓辺にもたれ、空を見上げる。
快晴の空を小鳥が二羽、森へと消えていく。
昨夜の二人を思わせる、どこか幻想的な光景だった。
一方その頃。
双国の外れ、緑の丘にて――
レイラとシュン、そしてテュエルの姿があった。
シュン
「この辺り……薬草がすごく豊富だね!!
昨日のお祭りで出てた薬湯とか、香草も、この種類かな?」
レイラ
「そうだ。これは“白香草”。
魂を鎮めると信じられている薬草だ」
シュン
「へぇ……!香りも強い!採取して乾燥させれば、
胃薬としても使えそう……!」
レイラ
「残念ながらこれは毒だ、食用ではない」
シュン
「え!毒?!」
と焦るシュン。
レイラはそんな様子を見て、微笑む。
レイラ
「本当に好きなんだな、薬草の研究が」
シュン
「う、うん……こういうのを見ると、
どうしても夢中になっちゃって…………
昨日のあの光景も、この地の自然が持つ
“力”が関係してるのかなって思ったら、
いてもたってもいられなくて……。ごめん。
里の案内とかのほうが楽しかったよね……」
レイラ
「変な気を遣うな。私はお前と居れて楽しい」
シュンは目を丸くし、顔から耳まで真っ赤になる。
シュン
「…………あ……ありがとう…///」
ふと寒気を覚え、振り返ると――
そこには、目が笑っていないテュエル。
シュン
「ひっ………………」
変なことはできない、と焦るのであった
⸻
街の方では――
シュシャ、ナイル、シアン、レオがそれぞれの時間を過ごしていた。
シュシャ
「この市場……まるで祭りがまだ続いているようだ!」
ナイル
「うんうん、さすが双国。
雰囲気が煌龍国とは違って異国的だよねぇ。
あ、あのお店……良さそうだよ♡」
シュシャ
「むっ!まさかナイル、
また女性に声をかけるつもりではあるまいな!?」
ナイル
「いやいや、ただの文化交流さ♡」
シュシャ
「言い訳をするな!!」
市場の人々が笑い、二人のやり取りに場が和む。
シアンは通りから少し離れ、
丘の上でポルと小鳥に餌をやっていた。
シアン
「君たちも……お祭り行った?
……ポル、花火、綺麗だったよね……」
ポル
「もきゅ?」
レオは高台から街を眺める。
レオ
「……俺も、ちゃんと生きないとな……」
そう呟き、静かに微笑んだ。
⸻
それぞれが大切な時間を過ごし、
やがて夕刻を迎える。
その頃――
リアが、静かに目を覚ますのであった。
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