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双国ノ巫女 〜九尾の力を持つ雪女の姫は、戦場でその力を解き放つ〜  作者: Su
出会いと誓い――護衛テュエルとレイラの軌跡
32/66

言えなかった愛の形


馬で北へと駆けている最中――

テュエルの匂いに包まれ、

レイラは安心したように、またウトウトし始めてしまう。


 


テュエル

「レイラ様^^

 寝ないでください?w

 陛下の骨壷、落として割れちゃいますよw」


 


レイラ

「……悪い……。

 そうだったな……。

 お前の匂いがあると、眠くなるんだ」


 


テュエル

「えっ。

 それって……褒めてるんですか?」


(まさか“退屈”って意味じゃ……?!)

と、内心ちょっと傷つく。


 


レイラ

「…………?

 さぁ??」


本当に、わかっていない。


 


テュエル

「本当にわからないヤツですね……?」

(あーもう……)


 


テュエル

「でも……

 ボクも、レイラ様の匂い……本当に心地いいんです……」



「まるで、陽だまりの中に咲くスズランのような……

 いや、雪化粧をした桜のような……

 艶やかな香りで……」


 


「……もはや、麻薬です……♡」


 


レイラ

「……九尾は、初潮を迎えてから

 自分の意思に反してフェロモンを放出してしまう」


 


「きっと、その臭いだろう」



――ものすごく真顔で、マジレス。


 


テュエル

「………………」


(そうなの……?)

という気持ちと、

(じゃあボク、フェロモンに当てられて

 ただ発情してる猿なだけ……?)

というショックが同時に襲う。


 


レイラ

「……着いたぞ」


 


テュエル

「……はい」


まだ、少し引きずっている。


 


馬から降り、レイラを降ろすテュエル。

馬を木に繋ぎ終え、出発しようとするレイラに向かって――


 


テュエル

「では、いってらっしゃいませ」


と、丁寧にお辞儀をする。


 


レイラ

「…………テュエル。

 お前も来い……」


 


テュエル

「え?!

 いいのですか?」


 


「今まで、ここから先は

 ボクでも、陛下の護衛の方でも

 同行できなかったのに……」


 


レイラ

「……もう父は居ない。

 私が決めたことだ……。

 だから、いい」


 


テュエル

「……かしこまりました。

 では、参りましょう」


(ミコト様の墓……

 レイラ様の母君……)

――自然と、胸がざわつく。


 


少し歩くと、

大きな鳥居が視界に現れた。


 


テュエル

「すごく……立派な鳥居ですね……

 こんなところに、こんな場所があったなんて……」


 


レイラ

「リュウコは皇族の地だからな」


 


「そして、この鳥居をくぐり、

 少し行った先は――

 第二の禁足地であることは間違いない」


 


テュエル

「第二の禁足地……ですか」


(神の縁台と……ここ、か……)


 


レイラ

「お前や護衛たちは、

 いつも鳥居よりも、さらに手前で待機させられていた」


 


「知らなくて当然だな」


 


テュエル

「そうですね。

 ボクたちからすると、

 リュウコの北側は神聖な気がして……

 足を運ぶことは、滅多にありませんから」


 


レイラ

「……神聖……か」



「……あながち、間違ってはいないかもしれないな……」


 


テュエル

「……?」


 


 ――――――フッ――――――


 


突然、

テュエルの背筋を、冷たい感覚が走る。


 


テュエル

「…………っ」


寒気。

そして、言いようのない居心地の悪さ。


 


レイラ

「……やはり、辛いか?」


 


テュエル

「……なにがです?」


平静を装って答えるが、

顔色は、わずかに悪い。


 


レイラ

「ここから先が、禁足地だ」


 


「……私の母、

 ミコトの墓がある場所だ…………」

 

 

 テュエル

「!!!」


 


レイラ

「母の遺骨は、骨になり埋められていても……

 雪女としての性質が、なぜか消えていない」


 


「暑い季節でも、この辺りは冷気を帯びているし、

 所々、凍っている場所もある」


 


「それに……

 巫女としてか、雪女の治癒の特性か……

 あたりが浄化されていて、澄み切っている」


 


テュエル

「なるほど……

 ボクは、そこまで純粋じゃないってことですね……」


「ちょっと、悲しいな……」


(なんだかんだで、いっぱい殺してきたしな……)



レイラ

「浄化されて、消えて無くなることはない。

 安心しろ」



テュエル

「……冗談が怖いですよ、レイラ様」


 

「まぁでも……

 このことが他の者に知られたら、

 墓荒らしが出てもおかしくないですね」


 


レイラ

「……そういう事だ」



「骨になっても、利用される恐れがあるなんて……

 母も、思ってもみなかっただろうからな」



テュエル

「……………………

 綺麗な場所ですね…………」



森の中を、澄んだ川が所々で流れている。

水は透き通り、苔があちこちに生え、

緑と自然に満ちている。


 


木々の間から光は差し込むが、

明るすぎず、暗くもない。

妖精でも現れそうな、幻想的な森。


 


レイラ

「生と魂が交差する森だ」


 


「魂になった者は、母に救いを求め、

 この地へ辿り着く」


 


「しばらく来ていなかったが……

 そこまで変わっていなくて、よかった……」


 


テュエルは、

以前レイラから聞いた――

黄泉の国、狐と龍の伝承を思い出す。


 


レイラ

「……着いたぞ」


 


テュエル

「……!」


 


小さな滝が流れ、その傍らに――

墓とは思えないほど簡素な、

岩というより氷塊のような墓石が立っている。


 


テュエル

「こちらが……

 母君、ミコト様のお墓……ですか」


 


レイラ

「あまりにも簡素だろう?」


 


「父が作った墓だ…………」


 


テュエル

「陛下が…………」


 


レイラ

「まぁ……

 これくらい存在感のない墓で、

 結果、正解だったがな……」


 


…………………………………………


 


レイラ

「テュエル。

 手を貸してくれ」


 


そう言って、

ミコトの墓の隣を指し示す。


 


――――――――――――――――――――


 


テュエルが穴を掘り終え、

骨壷をその中へ納める。


 


近くにあった氷塊を、墓石代わりに据える。

※名を刻むことは、できない。


 


レイラは跪き、手を合わせ、静かに語りかける。


 


レイラ

「父上…………

 母上には……無事、会えましたか……?」


 


「父上のお気持ちに応えることのできない、

 ダメな娘で……申し訳ございません」


 


「……父上を、恨んだりはしておりません」


 


「私は……

 父上の代わりに、自由に生きていこうと思います」


 


「双国の民と共に…………」


 


「母上も……

 長い間、訪ねられず申し訳ございません」


 


「……近々、儀式を実施しようと思います。

 力を貸していただけると……嬉しいです」


 


「では…………」


 


五歩ほど離れた場所に立つテュエル。


 


テュエル

「あれ……

 もう、よろしいのですか?」


 


レイラ

「あぁ。

 墓を作れた。充分だ……帰ろう」


 


来た道へ戻ろうとした、その時――


 


…………………………?



わずかな違和感を感じる

 


レイラ

「どうした、テュエル」


 


立ち止まり、

滝を見つめるテュエル。


 


テュエル

「……………………」


 


レイラ

「……?」


 


テュエル

「レイラ様……

 墓の隣に滝がある場所って、

 ここしかないですよね?」


 


レイラ

「?

 ……滝の近くの墓は、

 ここ以外、知らないが」


 


テュエル

「……少し、

 この滝の中を見てください」


 


レイラ

「……?」


 


小さな滝だが、

濡れずに回り込めるほどの幅がある。


 


二人で滝の裏へ回ると、

入口の低い、小さな洞窟があった。


 


そこから、

強い冷気が流れ出ている。


 


テュエル

「……足元、お気をつけください」


 


レイラ

「……うん」


 


入口をくぐると――


 


そこは一面、氷塊に覆われた洞窟。

天井から漏れる地上の光が、

氷を照らし、

水晶のように輝いている。


 


テュエル

「…………綺麗ですね……」


 


レイラ

「……そうだな……」


 


――その時


 


レイラが、何かに気づく。


 


視線の先――

白い鞘、白い柄、

金色の目貫が施された一振りの刀。


 


氷塊に、深く突き刺さっている。


 


レイラ

「…………刀……?」


 


レイラが柄を握り、

テュエルが双剣で氷を砕く。


 


レイラ

「……なんだ、この刀は……」


 


テュエル

「………………

 外へ出ましょう」


 


「……寒いですし」


 


二人は刀を手に、洞窟を出る。


 


外の光の下で、

改めて見れば――

息を呑むほど美しい刀だった。


 


レイラ

「……綺麗……」


 


抜刀し、刃文を見る。


 


レイラ

「……すごい……

 桜の模様………………」


 


――!!!


 


テュエル

「……こちらは、

 陛下が亡くなる間際に、

 ボクに託されたものです」


 


――――――


 


ダイン

「私から……

 あの子への贈り物がある」


 


「場所は……

 墓の隣の滝の中、と言えば……

 伝わるはずだ」


 


――――――


 


テュエル

「……滝を見て、思い出しました」


 


「…………陛下、

 本当に、愛情表現が下手くそですね……」


 


レイラの目から、

静かに涙がこぼれ落ちる。


 


テュエル

「……本当は……

 なんでも自由に、

 やりたいことをやらせてあげたかった」


 


「……ただの、父親だったのですね…………」


 


テュエルは、

レイラの背にそっと手を置き、

優しく、撫でる。


 


レイラ

「………………っ……

 ふっ………………

 ぅうぅうぅ……っ」


 


「……ぐ……

 ぅう……

 ぅううう……っ……!」


 


嗚咽を噛み殺しながら、

レイラは泣いた。


 


その手に握られた刀の刀身には――


 


【愛娘】


 


そう、刻まれていた。


 


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