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最後の夜…のはずだった


城へ戻った後。


レイラが湯殿に入る時は、テュエルが外で護衛についた。


その間に、シャガルも湯殿へ向かう。


やがてシャガルが先に湯殿から出てくると、

今度はテュエルが入れ替わるように湯殿へ入った。


そうして三人は順に身支度を整え、

その後、揃って夕餉を取った。


夕餉を終えた後。

居間で、三人でゆっくりと過ごしていた時だった。


シャガルがふと口を開く。


「……レイラ」


低い声。


「して……今日は、どちらと寝るのだ?」


テュエルもまた、黙ってレイラを見つめる。

その視線は、まるで獲物を狙うように鋭い。


レイラは少し驚いた顔をした。


「え……」


シャガルは腕を組む。


「あの勝負、引き分けとお前が決めつけただろう」


「だが、あのまま続けていれば――」


口元が歪む。


「余が勝っていたのは、目に見えていたがな」


テュエルが肩をすくめた。


「何を言い出すかと思えば……」


涼しい顔で言う。


「“オーラのみ”。妖力は使ってはいけないと、レイラ様が決めていたはずです」


「それなのに、お前は規定を破った」


「違反したのはお前だ」


淡々と続ける。


「つまり――俺がレイラ様と寝るに決まっている」


シャガルが目を剥いた。


「なっ……!」


しかしすぐに口元を歪める。


「……ふん」


「だが、お前も言える立場ではあるまい」


「妖力……使っていたではないか?」


テュエルは一瞬沈黙し――


「…………」


そして平然と言った。


「…なんのことでしょう」


しれっとした顔だった。


シャガルのこめかみに青筋が浮く。


「貴様……」


そしてレイラを見る。


「レイラ」


「今からでも遅くはない」


「決着をつけさせよ」


テュエルもすぐに乗った。


「そうです」


「きちんと別の形でもいいので、順位を決めなければ」


二人の視線が、同時にレイラへ向く。


レイラは腕を組み、唸った。


「うぅーん……」


(添い寝だけ……)

(この感じだと……無理だろうな……)


(明日は最後の日だし……)

(ゆっくりしたい……)


少し考えてから言った。


「……三人で寝ないか?」


ぽつりと。


(もうこの際…まとめてでいいや…)


二人が沈黙する。


「…………」


選ばれないことへのわずかな不満。


だが――


ある意味、”それ”は刺激的でもある。


テュエルが咳払いした。


「コホン……まぁ、いいでしょう」


シャガルも肩をすくめる。


「…余も、別に構わん」


レイラはほっと息を吐いた。


「そうか……」


(明日、させなかった側が絶対文句言うのは目に見えているからな……)


――そして。


レイラの部屋。


三人で寝支度を整え、寝台へ向かう。


レイラはふと考える。


(……なんか)

(すでに…二人の呼吸……熱くないか……)


(…やっぱり逃げたくなってきた……)


その時。


シャガルがふと呟く。


「ふ…、レイラから三人で寝ようなど、珍しいな」


レイラは少し視線を逸らす。


「……まぁ…な」


「…明日は最終日だ」

「ゆっくりしたい…」


そしてぽつりと続ける。


「それに……妖界へ行ったら」


「それどころではないのだろう?」


「ならば……まぁ」


少し頬を赤くして俯く。


「最後くらいは……とな」


テュエルとシャガルが同時に声を上げた。


「え?」


「は?」


レイラは首を傾げる。


「……?」


シャガルが眉をひそめる。


「レイラ……お前」


「何を言っている?」


レイラはさらに首を傾げた。


「……え?」


「妖界へ行ったら、できないだろ?」


小さな声で続ける。


「だから……今日くらいは……」

「いいか……と思っただけだ……」


顔を赤くして俯く。


その姿を見て――


テュエルとシャガルは、


心底理解できない、という顔をした。


レイラはそれを見て不思議そうにする。


「?」

「なにか変なこと言ったか?」


テュエルが頷く。


「えぇ」


シャガルも続ける。


「……かなりな」


レイラはますます混乱した顔になる。


シャガルがため息をついた。


「…レイラ」

「お前……妖界をどんな場所だと思っている」


レイラは真面目に答える。


「……危険な場所だろう?」

「常に危険が伴うような……」


「だから、のんびり寝たりすることも」


少し言いづらそうにする。


「……ましてや」

「…そ、そんなことも……」


「……できないだろう」


「人間界に戻るまでは…その…無理だろうし」

「だから……最後くらいはいいか…と……」


テュエルが吹き出した。


「ふふ……」


シャガルは額に手を当てる。


「レイラ……」


「……どうした」


シャガルは呆れながら説明する。


「余にも城がある」


「外へ出れば確かに危険は伴う」

「だが、城の中は別だ」


「むしろ結界を張る」

「中にいれば安全だ」


レイラが固まる。


「……え」


「……つまり?」


シャガルがにやりと笑った。


「あぁ」


「“し放題”だ」


「むしろ皇務もない」

「縛るものなど、なにもない」


レイラの顔がひくひくと引きつる。


テュエルが爽やかに微笑む。


「それは……とても楽しみですね」

「……ね?」


「レイラ様^^」


レイラの心は、まったく穏やかではなかった。


(……なんだと!!!?)


(しばらく無くなると思っていたから……)

(最近……割と色々許していたのに……!!)


(あの時も……あの時も……!)

(時間を……返せ!!!)


過去の夜を思い出し、


心の中で叫び、泣く。


その時。


シャガルがレイラの肩に手を置いた。


「……レイラ」


少し柔らかい声。


「お前がそこまで考えていてくれたとはな」

「思ってもおらんかった」


「感謝する」


本当に礼を言うような顔だった。


レイラはジト目で見上げる。


「…………」


(もう信じない)


その横でテュエルが優しく微笑む。


「レイラ様」


「明日は……」

「ゆっくり過ごしましょうね^^」


春風のような爽やかな笑顔。


レイラは小さく答える。


「…………ぁぁ」


「そう……だな」


ほとんど聞こえない声。


その瞬間。


ふわりと身体が浮いた。


テュエルに抱え上げられていた。


そのまま寝台へと運ばれる。


壊れ物を扱うように、


静かに、


丁寧に、


そっと降ろされる。


両隣から、微笑みが落ちた。


レイラは悟った顔になる。


そして心の中で呟いた。


(あぁ……)


(終わった……)


その後のことは


【語られなかった】


――――――――


翌日。


レイラは――昼過ぎになっても、寝台から動けずにいた。


「……腰が……」


かろうじて起き上がり、座ってはいるものの、顔色はどこかぐったりしている。


その横で、テュエルはいつもと変わらぬ落ち着いた様子で荷物をまとめていた。

しかもどこか上機嫌で、鼻歌まで混じっている。


衣類、薬、日用品。


必要そうな物を淡々と選び、布に包み、箱へと収めていく。


「……何をしているんだ」


レイラが力なく尋ねる。


テュエルは振り返り、にこりと微笑んだ。


「妖界への旅支度です^^」


「今のうちに整えておこうかと」


そして安心させるように続ける。


「ご安心ください。レイラ様の分は、ボクがきちんと支度しますから」


レイラは少しだけ嫌な予感を覚えながらも頷く。


「……そうか」


そして、ぼそりと付け加えた。


「テュエル……確かに長旅になるかもしれないが」


「ほどほどに……な?」


テュエルはにこやかに頷く。


「もちろんです^^」


その笑顔が、逆に不安を煽る。


レイラはそれ以上何も言わなかった。


その様子を見ていたシャガルが、ふっと鼻で笑った。


「レイラ、まだまともに歩けぬようだな」


「うるさい……」


レイラは睨むが、迫力はない。


シャガルは立ち上がり、レイラの前に来ると、何の前触れもなく彼女を抱き上げた。


「な、何をする――」


「散策だ」


シャガルは平然と言う。


「今日は人間界で過ごす最後の日だ」


「城を見ておけ」


レイラは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに目を細めた。


「……うん」


「ありがとう」


シャガルは肩をすくめる。


「ふ……目に焼き付けておくのも悪くあるまい」


「お前が守ってきた国だからな」


その言葉に、レイラは胸の奥が少し熱くなるのを感じた。


やがて小さく息を吐く。


「……歩ける」


「無理をするな」


あっさり却下された。


シャガルはそのまま歩き出す。


城の廊下を抜け、庭へ出た。


昼の光が柔らかく降り注いでいる。


風に揺れる木々。


遠くで兵たちの訓練する声が聞こえる。


レイラはしばらく黙って、それらを見ていた。


「……いつも通りだな」


ぽつりと呟く。


シャガルが静かに答える。


「……あぁ。そうだな」


レイラは小さく笑った。


(シャガルと過ごしたのも、この城だ)


(妖界から来て……しばらくここで暮らしていた)


(きっと……)


(シャガルにとっても、ここは悪くない思い出になっているのだろう)


そう思うと、少しだけ嬉しくなった。


レイラはまた、静かに城の景色を見つめる。


――しばらくして。


二人は再び、レイラの部屋へ戻ってくる。


扉を開けた瞬間、


レイラは思わず言葉を失った。


「……」


そこには――


床一面に広がる、荷物の山があった。

箱。袋。包み。


それらがいくつも積み上がっている。


とても三人旅とは思えない量だった。


(……え)


(永住するのか……?)


レイラでさえ、もはや少し混乱していた。


その中央で――


テュエルが満足そうに立っている。


「レイラ様!!!」


ぱっと振り向いた。


「準備整いました!!!^^」


レイラはしばらく黙って、その光景を見つめていた。


そして、静かに言う。


「……テュエル」


「はい!」


「これは……何だ」


テュエルは胸を張った。


「妖界への旅支度です!!」


シャガルはもはや目が点だった。


「……軍か?」


テュエルは気にした様子もなく、荷物の一つを誇らしげに指さした。


「まずはこちらです!!!✨」


――①レイラ様快適生活セット


・予備の外套 ×5

・戦闘服の替え ×4

・包帯、薬、湿布一式

・お茶セット(レイラ様の好きな茶葉三種類)

・レイラ様の好きな和菓子

・特製まくら 〜旅先でも安眠を〜

・小型湯沸かし器


レイラは額を押さえた。


(前と似たような内容だが……)


(量が……増えている……)


「…………」


深く息を吐く。


「……そっちは」


テュエルはさらに元気に答える。


「こちらです!!!✨」


――②武器の予備の予備の予備


・剣 ×5

・暗器の束 ×3

・レイラ用の小型刀(勝手に入れた)

・鎖

・手錠(?)

・拘束具(?)


シャガルが眉をひそめた。


「……最後のは何だ」


テュエルはさらりと言う。


「暴走した時用です」


「誰が暴走する」


「念のためです」


レイラはこめかみを押さえた。


「……次」


テュエルの目が輝く。


「こちらです!!!!✨」


――③テュエルこだわり野営セット


・高級鍋

・組み立て式かまど

・調味料一式(塩、胡椒、砂糖、味噌、醤油、だし)

・米 三俵

・干し肉

・茶碗、皿、木製匙

・携帯式まな板

・折りたたみ椅子


シャガルが低く言う。


「……店でも開く気か」


テュエルは胸を張った。


「食事は士気に関わります」


レイラは遠い目をした。


「…………」


(どうやって持っていくつもりだ……)


しかしテュエルはまだ終わらない。


「そしてこちらです!!!✨」


――④万が一のための装備


・携帯式簡易風呂(レイラ様用)

・着火石三種類

・レイラの刀の手入れセット

・予備の靴

・雨具

・毛布

・非常食


そして最後に、少し申し訳なさそうに頭を下げた。


「……申し訳ございません」


「長旅になるとのことでしたが――」


「持ち運ぶ関係で……これしか準備ができませんでした……」


沈黙。


レイラはゆっくりと顔を上げる。


「……テュエル」


「はい!」


「半分捨てろ」


即答だった。


テュエルが固まる。


「えっ」


シャガルは腕を組んで頷いた。


「むしろ三分の二だな」


そして呆れたように続ける。


「妖界をどんな場所だと思っておる」


「物資くらい調達できる」


「人間界と変わらん。物々交換もある」


テュエルはショックを受けた顔をする。


「……そんな……」


レイラはため息をついた。


「テュエル」


「はい……」


「選別するぞ」


テュエルの顔色が変わる。


「あぁっ!!それだけは……!!」


しかしレイラの手は止まらない。


「いらん。これも、これも……」


次々と荷物を脇へ放り投げていく。


外套の予備。


鍋。


調味料。


枕。


袋。


箱。


ぽい、ぽい、ぽい。


テュエルが青ざめる。


「あぁレイラ様ぁぁ!!」


捨てられていく荷物を見て、今にも泣きそうな顔だった。


「それは必要です!!」


「それもです!!」


「それは絶対必要です!!!」


しかしレイラは容赦がない。


「いらない」


ぽい。


「レイラ様ぁぁぁ!!」


シャガルは腕を組み、呆れたように言った。


「愚か者め」


結局。


山のようだった荷物は、かなりの量が削られることになった。


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― 新着の感想 ―
戦争に行く時のデジャヴ…….そして数増えてる、笑わせて頂きました!! テュエルのレイラに対する愛が増えた証ですかね(*´∀`*)
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