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双国ノ巫女 〜九尾の力を持つ雪女の姫は、戦場でその力を解き放つ〜  作者: Su
出会いと誓い――護衛テュエルとレイラの軌跡
22/65

九尾と雪女──双国神話の正体


 リア

「そういえば……

私と関係あるって言ってたけど、

今の私と、その神話がどう関係あるの?」



レイラ

「ちょうどこの時期に、

その言い伝えを意識すると言っただろう?」


 


レイラ

「狐と龍は……

ただ楽しく舞を踊っていただけじゃない」



リア

「というと?」



レイラ

「……リア」



「お前は、“魂”……

 “黄泉の国”を信じるか?」


 


リア

「黄泉の国……?」


 


レイラ

「あぁ。

どこの国にも、死者を悼む風習はあるだろう」


 


レイラ

「……あの舞は、本来」


「狐と龍が共に舞うことで、

 成り立つ儀式だ」


 


レイラ

「だが今、この場に

 “龍そのもの”はいない」



一瞬、間が落ちる。



レイラ

「……それでも、あの舞はな」



レイラ

「ただ、魂を送るためのものじゃない」



揺れる火を見つめたまま、静かに続ける。



「狐と龍が――

 “友である”と示すためのものでもあった」


 

リア

「友……」


 

その言葉を、そっとなぞる。



レイラ

「だからこそ、あの二人は舞った」



「ただの儀式ではなく――

 互いを認め合うために」


 

わずかに、間。


 

「……もっとも」


「言い伝えでは“舞”とされているが――

 実際は、そんな綺麗なものじゃなかった。」



「ただの、手合わせだ」


 

「互いを認めるためのな」


 

ロイロ

「へぇ?」


 


焚き火が、ぱちりと音を立てて揺れた。


その火の奥で、遠い昔の影が、かすかに重なった気がした。



レイラ

「……私は」



「父と同じように、そう在りたいと思った」


 


視線を、まっすぐ向ける。


 


レイラ

「だから――」



レイラ

「リア。

 私と、一緒に舞ってくれないか」


 


リア

「えぇ?! わ、わたし?!」


「そ、そんな……

 ここの舞なんて、やったこともないわよ?!」


 


レイラ

「……私もだ」


「儀式は、したことがない」


 


レイラ

「……それに、これは本来の形でもない」


 


わずかに目を伏せる。


 


レイラ

「だが――」


 


レイラ

「お前は、他の誰よりも

 “向こう側”に近い」


「……魂に、触れられる側だ」


リア

「……?」



レイラ

「何千年も、途絶えていた儀式だ」


「だからこそ――

 やってやりたいと思った」



レイラ

「彷徨う魂を……

 ちゃんと、送り届けるために」


 


リア

「魂を…送る儀式……。」


 


レイラ

「言い伝えの中の“舞”はな」


「彷徨える死者を悼み、

 彷徨う魂を黄泉へ送り出すためのものだった」


 


レイラ

「そしてこの時期は、

 黄泉の国との距離が、最も近くなる」


 

「だから……安らかに眠った者たちも、

 黄泉の国から“遊びに来る”」


 

「運が良ければ――

 死者に、会えるかもしれない」


 


シュン

「死者に?!」

「ひっ……!」


 


リア

「……父上にも、挨拶できるかしら」


 


レイラ

「したことがないから確証はない」


「だが……上手くいけば、な」


 


リア

「……」


 


少しだけ俯き、考える。


 


やがて、顔を上げる。



リア

「……やるわ」

「レイラと一緒に――舞う」

 


少しだけ、照れたように笑って



「……レイラと、友でありたいから」



静かに、言い切り

小さく、微笑む。



「戻ったら、やりましょう」



レイラ

「……ふっ、ありがとう」


 


胸の奥が、ふわりと温かくなる。


それは、戦場では決して触れることのない――

やわらかな熱だった。



レイラ

「……だが、歓迎されるとは思えないがな」


「そううまくはいかないだろう」


ほんのわずかに、視線を落とす。



「……明日は、よろしく頼む」


 


リア

「大丈夫よ、レイラ」



まっすぐに、言い切る。



リア

「目で見えるものが、すべてじゃないわ」


「自分の心の声を聞いて――

 ちゃんと声に出せば」


 

柔らかく、微笑む。



リア

「きっと、みんな分かってくれる」


 


レイラ

「……自分の心の声、か」


 


テュエル

「そうです。

 レイラ様は、自己決定をなさらないところがありますから」

「もっとご自身の意思を持って、

 もっと、わがままになってください」


 


テュエル

「ボクが……

 全部、叶えてみせますから」



レイラ

「……努力する」



シュン

「はいはい、話はもう終わり!

明日もあるんだし、今日はもう寝る!

続きは明日!!」


 


全員

「はーーーーーい」


 


――――――――――――――――――


 天幕の中。

眠るリアの寝顔を見つめながら。

 

レイラ

「…………………………」



静かな寝息に、わずかに目を細める。



(目で見えるものが、すべてではない……か)



ふと、脳裏をよぎる。



――『目に見えるものだけを、信じるな』



レイラ

(……父上と、同じことを言う)



小さく、息を吐く。



どこか懐かしく――

どこか、くすぐったいような感覚が胸に残った。



やがて、レイラも静かに目を閉じた。


――――――――――――――――――


 


……外が、少し賑やかだ。


 


レイラ

「…………」


 


気を失ったことはあったが、

ここまで安心して熟睡できたのは久しぶりだ。


 


隣を見る。

リアの姿はない。


 


レイラ

「…………………………」

小さく息を吐き、天幕を出る。


 


テュエル

「レイラ様!!

おはようございます!!^^

ゆっくりお休みになれましたか?!」


 


テュエル

「先ほど、レイラ様がお好きな魚を獲ってきました。

朝食に焼きましょう^^」

「……あ、寝癖ついてますよー」


そう言って、髪を整える。


 


レイラ

「……ん」

 


リア

「……完璧ね。

ロイロも見習ったら?」



ロイロ

「いや、あれは護衛じゃなくて世話役だろ……。

 それともなんだ?

 ああいうのがいいのか?」


リア

「っ――!

 いらない!!」

 ちょっと恥ずかしくなる。


 


レイラ

「みんな、おはよう。

 ……早いな」


 

 全員

「おはよー!」

 と手を振る



リア

「おはよう、レイラ。

よく眠れた?」


 

レイラ

「あぁ……久々に、安眠できた」


 

リア

「よかった」



レイラ

「…………」



リアの笑顔を見て、

ほんのわずかに肩の力が抜ける。



その穏やかな空気を見つめたまま――


 

テュエル

「……」


(邪魔ですね)


 

(レイラ様の傍に、あまり近づかないでいただきたい)


わずかに、目を細めた。



シュン

「あれ?

 ここ……ほつれてたはずなのに……」



シュシャ

「シュン、どうした?」



シュン

「天幕のここ、ほつれてたと思うんだけど……

 完璧に直ってるんだよね。

 気のせいだったかな?」



テュエル

「あぁ、そこなら。

 先ほど、直しておきました」



シュン

「え?!

 テュエルが?!」


 


テュエル

「変でしたか?」


 


シュン

「いやいや!

 綺麗すぎでしょ?!

 どうなってんの?!」


 


テュエル

「レイラ様は、簪などの装飾品を好まれませんから。

 普段から、身につける小物や衣類の修繕、

 刺繍などは、ボクがしていました」


 

シュン

「……さっき、朝食の準備も手際よかったよね」


 

テュエル

「宮内で食事を担当していたわけではありませんが……

“こういう時”のために、学んでおきました」



シュン

「……他には?」



テュエル

「着付けと、調髪、化粧、

 多少の医学の心得くらいでしょうか。

 もっと増やしたいとは思っていますが……

 レイラ様が、どれも“不必要”と仰るので……」



シュン

「……あんた、充分スパダリだよ……」



 テュエル

「一応、お世話になっていますから」


「それくらいは、当然ですよ」



ナイル

「この魚の焼き加減も、最高だね」



ロイロ

「確かに、うめぇな」



シアンとレオも、黙々ともぐもぐ。   



ふ、と風が抜ける。


頬を撫でたその空気に――

わずかに、眉をひそめた。


 レイラ

「……」



テュエル

「レイラ様?

どうされました?」



レイラ

「……いや。

 少し、嫌な感じがしただけだ」


 


テュエル

「ご心配なさらないでください。

双国は、必ず復興します。

……ボクも、できる限りのことはします。

ずっと、おそばにいますから」



レイラ

「……ありがとう」


(気のせい、か……)



リア

「私も、手伝うよ」



シュシャ

「リア様がそう仰るなら、我々も力になろうぞ!!」



ナイル

「うんうん♡レイラちゃんのためなら、

 なんだってするよ♡」



シアン

「うん」

 


レオ

「助けになるなる〜!」




レイラ

「……みんな、ありがとう」



ロイロ

「よし、腹ごしらえも済んだし……

 ちょっと、運動しません?」



にやりと、口の端を吊り上げる。

 


ロイロ

「……エール将軍?」


 


テュエル

「……もう、その名で呼ばないでください。

 手合わせ、ですか。

 いいですよ」


 


ロイロ

「よっしゃ…!」


 


――――――――――――――――――


 


素手でやり合う、二人。




シュン

「朝から元気だねー」



ナイル

「ほんと。

 あんなにボコボコにされた相手に、

 また挑むなんて……

 ボクなら心折れるよ……」



――――


ロイロ

「ほんと……

 バケモンじみた動きだな!」


 

踏み込む。


鋭い拳が、一直線にテュエルの顔面へ――


だが、


ガシッ、と。


真正面から、受け止められる。


ロイロ

「……っ!」


力で押し込む。


だが、びくともしない。


次の瞬間、手首をひねられ、体勢が崩れる。


ロイロはそのまま、もう一方の拳を叩き込む――


それも、腕で受け流される。


鈍い衝撃音。


テュエルは一歩も退かない。



テュエル

「あなたも、筋はいいですね。

 ……ですが、そのままでは勝てません」


ロイロ

「俺に、心臓でも喰ってこいってか?」


テュエル

「あなたには、そこまでの力は必要ありません」



ロイロ

「……俺だって、護衛してるんだ。

 このままでいいなんて、思えねぇ」



低く踏み込み、今度は蹴りを放つ。



――が、



足を、取られる。

 

そのまま、軸を崩される。


ロイロ

「くっ……!」


転びかけたところで、止まる。



喉元に、テュエルの足が軽く添えられていた。



動きが、止まる。


 

テュエル

「……自分の体の中心にある力を見つけ、

それを引き出せるようになれば……

ボクの動きにも、ついてこれるかもしれません」



ロイロ

「中心の力……?」



テュエル

「その力は、

 レイラ様も、すでに習得されています」



ロイロ

「……!」


 

テュエル

「あなたは、

 ボクやレイラ様から……何か見えませんか?」


 


ロイロ

「……初めて対峙した時、

 赤黒い靄みたいなものが見えた。

 今のお前からは……

 赤金色の光が、たまに飛び出してるように見える」


 


テュエル

「……もう、視えているのですね」


 

「それが“オーラ”です。

 可視化されているのなら……

 あなたも、もう一段階強くなれる日は近いですね」


 

ロイロ

「………どうすればいい」


 


テュエル

「自分のオーラに、気づくことです。

 ボクは、護衛になった十七の頃に発現しました」


 

「そこに至らない者には、

 オーラを見ることすらできません」


 

ロイロ

「オーラ……」



テュエル

「靄のようなもののことです。

 それを纏った攻撃は、

 筋力以外の……

 気力、精神力、魂力といった力が加わり、

 威力が跳ね上がる」


 テュエル

「集中させれば、

 盾のように使うことも可能です」


 


ロイロ

「……!」


 


あの時の手応えのなさが、脳裏に蘇る。


 


ロイロ

「俺たちの攻撃が効かなかったのは、

 オーラで防御してたってことか?」


 


テュエル

「……あぁ」


 


わずかな間。


 


テュエル

「あれは単純に、弱かっただけです」


 


ロイロ

「………」


 


ぴくり、とこめかみが引きつる。


 


ロイロ

「……言ってくれるじゃねぇか」


 


ナイル

「いやいやそれよりさ――」


 


気づけば、すぐ傍にいた。


 


ひらり、と指を向ける。


 


ナイル

「昨日、胸に二本は刺さってたよね?♡」


 


一瞬、空気が止まる。


 


テュエル

「……あぁ」


 


視線だけ、自分の胸元へ落とす。


 


すでに血は止まり、傷もほとんど残っていない。


 


テュエル

「オーラで防ぎました。

 問題ありませんよ。浅いものです」


 


ナイル

「いやいやいや、“浅い”の基準おかしくない?♡」


 


ロイロ

「……お前、治療もできんのか?」


 


テュエル

「いえ。治療ではなく、再生の速度を上げただけです。

 あと多少、出血くらいなら抑えられます」


 


さらり、と言い切る。


 


ロイロ

「多少、ねぇ……」


 


どう見ても、“多少”ではない回復。


 


ナイル

(……これ、普通じゃないね)


 


テュエル

「とにかく。

 自分の中の力――オーラを探してあげることです」


 


「発現させ、制御できれば、

 戦術の幅もかなり広がりますから」


 


ロイロ

「……わかった。

 探してみる」


 


――その力を使えれば。


 


俺も、リアを守り抜けるだろうか。


 


(あそこまでに……なりてぇな)


 


初めて、自分の前に立ちはだかる“壁”を見据える。



――――



レイラ

「……珍しいな。

 指導するなんて」


 


テュエル

「あの方にも、

 守りたいものがあるようでしたので」


 


「“誰よりも強くなりたい”という気持ちは……

 とても、理解できますから」


 


レイラ

「……」


 


わずかに、目元がやわらぐ。


その言葉が胸の奥に静かに落ちて――

小さく、微笑んだ。


 


リア

「私も、オーラ使えるようになりたいなー。

 かっこいいし」


 


ナイル

「ね。さっきの、ぼんやり見えたの……

 あれがオーラだったんだなぁ」


 


シュシャ

「私には、なにも見えんぞ」


 


ロイロ

「お前にはセンスがないんだろ、脳筋マグロ」


 


シュシャ

「誰がマグロだ!!!」


 


一瞬の静寂のあと――

空気が、ふっと緩む。


 


戯れる一同。


そのやり取りを、レイラは静かに眺めていた。


 


(……リア。

 お前は、自覚がないだけだ)


 


(オーラを……出している時があるんだぞ)


 


――双国の兵に、弓を向けた時。

――ソンゴルに、矢を放った時。


 


その瞬間、確かに。


矢に宿っていたのは――

“ただの力”ではなかった。


 


淡く、しかし確かに揺らめく気配。


意志と感情を帯びたそれは、

確かに――オーラだった。


 


その記憶を、レイラは静かに辿る。





——その瞬間、どこかで気配がひとつ、消えた。

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