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双国ノ巫女 〜愛されることを諦めた姫が愛を知る物語〜  作者: Su
出会いと誓い――護衛テュエルとレイラの軌跡
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21/132

世界の“前提”が崩れる夜


 シュシャは、先ほどからの刺激が強すぎたのか、

 顔を真っ赤にしたまま何も言わず、

 天幕へと引っ込んでいった。


 レオはというと――すでに横になり、

 穏やかな寝息を立てている。


 シアンは静かに立ち上がり、

 無言のまま見張りへと向かった。


 


 焚き火の周囲には、

 ようやく、落ち着いた空気が戻り始めていた。


 


 ぱち、と薪が弾ける音だけが響く。


 


 テュエル

「まったく……最初から気づいていましたけど、

 悪趣味です」


 


 頬をわずかに膨らませ、

 露骨に不満をにじませる。


 


「こちらは三年ぶりの再会だったというのに」


 


 リア一行

「ごめんなさーーーーい!!」


 


 綺麗に揃う謝罪。


 だが、どこか軽い。


 


 レイラ

「……いいじゃないか」


 


 静かに、口を開く。


 


「これから先、時間はいくらでもあるのだから……」


 


 一瞬。


 


 テュエル

「…………っ」


 


 顔が、一気に赤く染まる。


 言葉を失い、

 視線が泳ぐ。


 


 ロイロがそれを見て、

 思わず吹き出した。


 


 ロイロ

「ちょろすぎだろ、こいつ」


 



 


 リア

「そういえばテュエル」


 


 ふと、思い出したように口を開く。


 


「どうしてエール将軍の時、声を出さなかったの?

 双国の兵たちに正体がバレるのが嫌だったの?」


 


 テュエル

「いえ」


 


 あっさりと首を振る。


 


「レイラ様以外と話す必要性がなかっただけです」


 


 さらりと。


 


「部下に命令するのも面倒ですし、

 敵国の連中と声を交わすなど……虫唾が走ります」


 


 温度のない声音。


 


「……双国の兵は基本的に、あの砦の担当でした」


 


「ボクの担当は双国でしたから、

 そこまで顔を合わせる機会もなかったんですよ」


 


 シュン

「ソンゴルは、なんであんな砦に双国の兵を送ったんだろう」


 

 腕を組み、少し考え込む。

 


「双国の兵って、選りすぐりの武人が集まってるって聞いてたからさ。

 てっきり凱帝国の前線に連れていくのかと思ってた」



 テュエル

「そこが……ソンゴルが下衆なところですよ」


 


 ロイロ

「……なるほどな」


 


 短く呟く。


 


 シュン

「え?どういうこと?」


 


 ロイロ

「考えてもみろよ」


 


 焚き火を見つめたまま、低く言う。


 


「自分の故郷が、手の届きそうな距離にあるんだぜ?」


 


 シュン

「……!」


 


 言葉の意味が、遅れて刺さる。


 


 ロイロ

「相当、きつかったはずだ」


 


 リア

「……酷いこと、思いつくわね……」


 


 ナイル

「…で?」


 


 軽い調子のまま、本題に踏み込む。


 


「レイラちゃんはどうするの?

 凱帝国の連中とやり合うつもり?」



 レイラ

「…………」



 一瞬、考えるように目を細める。



「とりあえずは、相手の出方次第だな」



「しばらくは、何もしてこられないはずだ」



 ロイロ

「なんで、そう言い切れる?」



 レイラ

「……最初にリアを攫っていったカーカス」



 静かに告げる。



「あれが、お前たちを調べていた者だったようだ」



 リア

「……!」


 


 レイラ

「私が砦に戻った際、

 凱帝国方面へ馬を走らせていた」


 


 リア

「……調べ終わった、ってことね」


 


 レイラ

「恐らくな」


 


「……あの連中が、

 何も得ずに引くとは思えない」


 


 ロイロ

「なるほど」



 ゆっくりと頷く。


 

「双国と煌龍国、両方の姫だと分かれば――

 下手に動けば、一気に二国を敵に回す」



「だから、すぐには攻め込めない……か」


 


 レイラ

「そういうことだ」


 



 


 しばしの沈黙。


 


 焚き火の音だけが、

 静かに響く。


 


 リア

「あ、あの……っ」


 


 おずおずと口を開く。


 


 レイラ

「?」


 


 もじもじと、

 言いづらそうに視線を泳がせる。


 


 ロイロ

「厠か」


 


 即答。


 


 リア

「違うわよ!!」


 


 即座に否定。


 


 リア

「さっき、盗み聞きしちゃっておいて何なんだけど……」



 少しだけ、真剣な顔になる。



「あれって、どういう意味だったのかなって……」



 レイラ&テュエル

「?」



 リア

「“気配がどうの”って……」



「なんで、テュエルの気配が変わったの?」



 レイラ

「………………」



 一瞬、沈黙。



 テュエル

「それは……

 先ほど、レイラ様が伏せたことです」



 レイラ

「……いや、いい

 聞かせてしまったのは、私たちの方だ」



 テュエル

「レイラ様……!」



 レイラ

「…………」



 一度、全員を見渡す。



 そして――



「……お前たちなら」



「……お前たちだけなら、

 話してもいいのかもしれない」



 一拍。

 


「むしろ、話しておいた方が……

 力になってくれるかもしれない」



シュン

「いいの!?

 そんな大事そうなこと、

 見ず知らずの俺たちに話して!」


 


リア

「……そんなに大事なことなら……

 無理に話さなくても、大丈夫よ?」


 


レイラ

「リア。

 お前にも関係がある。

 いずれ伝えねばならないことだ」


 


リア

「……!」


 


レイラ

「この話は……先ほど言った通り、身が危うくなる、と……伏せたことだ」


 


一同、息を呑む。


 


レイラ

「……双国の歴史を、知っているか?」


 


リア

「――狐と龍の友情の話、かしら?

 煌龍国の龍が狐に助けられ、そのお礼に双国の地を創り、

 しばらく二人で舞い続け、悪い狐は良い狐になり、龍が去った後も――狐がこの地を守っている、というお話。


 村の人たちが歌って、琴や笛で奏でていたわ。

 あれは、歴史からの風習なのでしょう?

 ……とても綺麗だった」


 


レイラ

「……そうだ。

 この時期は祭りもあるし、特に、

 皆あの言い伝えを意識するからな」


 


シュン

「でもさ……

 さすがにそれは逸話でしょ?

 それが、なんの関係があるの?」


 


レイラ

「…………」


 


焚き火が、ぱちりと音を立てた。


 


レイラ

「……その言い伝えは――」


 


少しだけ、間を置いて。


 


レイラ

「――実話だ」


 


シュン

「え、じゃあ……狐と龍が、本当にいたってこと?!」


 


レイラ

「そうだ。

 時は流れ、語られ方も少しずつ変わってはいるがな」


 


長い沈黙。


 


ナイル

「……その……つまり、その狐って……さ?

 レイラちゃんが狐――とか、そういう話じゃないよね?」


 


レイラ

「――そうだ。

 ……私には、妖の血が流れている」


 


一同

「!!!」


 


レイラ

「怖いか?

 ……もう少し詳しく話すと、

 私は父から賜った“九尾”の血、

 そして母から受け継いだ“雪女”の血、そして巫女の目を持っている」


 


一同

「!!!!!!!!」


 


ナイル

「九尾……! 雪女……!

 なんてロマンティックなんだ……♡

 ……どうりで、こんなにも美しいわけだね……」


 


ロイロ

「なるほどな。

 確かに……人間離れした強さがあるわけだ」


 


シュン

「雪女って、人を凍らせたりするんじゃないの?!

 それ、できるの?!」


 レイラ

「…………………………」


一瞬、言葉が止まる。


(――この反応は……)


普通なら恐れるはずの話に、誰一人として怯えを見せない。

むしろ目を輝かせる者までいる。


(……なぜ、怖がらない?)


レイラは、きょとんと目を瞬かせる。

拍子抜けしたように、ただ静かにその場を見つめていた。



レイラ

「……はっ。ほんと、困った人たちだ」


 「私の母は、私を産み落としてすぐに事切れたそうだ。

 雪女の力の扱い方については……」


言葉を選ぶように、一瞬だけ視線を落とす。


「……私も、まだ掴みきれていない部分が多い」


曖昧に言葉を濁す。


「だが、父から妖力の制御は教わってきた。

……だから、暴発することはまずない。」



リア

「お父上の……九尾の力って?」


 

レイラ

「単純だ。

 五感が異常に発達していて、極めて繊細。

 それから……匂いを放出し、

 相手に吸わせることで、

 フェロモンによって相手を酔わせることができる」


 


リア

「フェロモン……」



ナイル

「なんか……エッチ♡」


 


リア

「あ……!もしかして……あの時、ソンゴルにも、

 そのフェロモンを……?」


ふと、あの場面がよぎる。


テュエルに強く制され、諭されていたレイラの姿。

あのときの言葉と重なって、リアははっとした。



レイラ

「あぁ……ほんの少しだけな。

 おかげで、正常な判断ができなくなっていたようだ」


「蹴り上げようとしたがテュエルに止められてしまったがな」



ふっと、小さく笑う。



リア

「……そして……目の力も備わっているのね」


 

レイラ

「そうだ。

 この目と五感があれば、大体の情報は読み取れる」


「あと……想いが強ければ強いほど、目を合わせれば、心が聞こえる」



シュン

「心が……」



ナイル

「迂闊に目合わせらんないじゃん♡」

「見ちゃうけどね」


 

ロイロ

「やめとけよ、しょうもない内側見せんな」



ロイロ

「で、その狐と龍が……どう繋がるんだ?」


レイラ

「……その言い伝えに出てくる九尾。

 それは――私の父、ダインのことだ」



一瞬の沈黙。



「そしてその煌龍国から来た龍――それは、遠い昔の煌龍国の王だ」



リア

「え?え?え?!どういうこと?!!」



シュン

「いやいやちょっと待って!レイラのお父さんって何歳なの?!」



ナイル

「煌龍国の龍ってただの人間だったの?」


なんだか少し拍子抜けしたように、肩をすくめる



レオ

「そうだよ」



――次の瞬間。


気配が、すっと傍に寄る。



さっきまで眠っていたはずのレオが、

いつの間にかリアのすぐ隣に腰を下ろしていた。



リア

「レオ?!」



レイラ

「……やはり、お前は……そうだったのだな。

 不思議な気配を感じていた」


 

レオ

「うん、俺は神官の血筋。

 最後の生き残りだ」



レイラ

「……いいのか?」

「他言して」


 レオ

「いいよ。俺、ちゃんと言っていい人とダメな人」

「区別できてるから」


軽い調子の言葉だった。

直接言われたわけではない。

それでも、その言葉はまっすぐに伝わってくる。


お前は大丈夫だ、と。


レイラ

「…そうか……」



レオ

「うん、姫ちゃんも大事なこと話してくれたしな」



レイラ

(姫ちゃん……?)



レオ

「神殿に、煌龍国と双国の伝承は確かに記録されてたよ。

 双国王アインと、煌龍国王……名前は消えてるけどな」



リア

「え……アイン?

 レイラの父上の名前は……ダインじゃないの?」



レイラ

「父は、自分が長寿だと悟られないように、

 およそ五十年ごとに名前を変えていたらしい。

 ……一文字ずつ、な」



めんどくさがりの父らしい、と小さく笑う。



…………………………



――ということは。



簡単に計算しても……

二千三百年以上、生きていた……?


 

レオ

「でも、アイン王は死んだんだな」



テュエル

「……申し訳ありません」



ロイロ

「あ。そうだ。

 “気配が変わった”って話……

 あれ、結局なんだったんだ?」



テュエル

「はい。

 陛下から、その長寿の話を聞かされた後……

 “何を望む”と問われたのです」



一同、息を呑む。



テュエル

「だからボクは、

“レイラ様を一生涯お守りするための、悠久の時間”

と、そう答えました」


 


テュエル

「すると陛下は、

 “ならば私を殺し、生き血を飲め”と仰せられた」


 


ロイロ・シュン・ナイル・レオ

「……っ」


 


リアは顔面蒼白になる。


 


テュエル

「首を切った後……血を、飲み干しました」


 


テュエル

「それから、

“もっと力がもらえたらいいな”と思いまして……

陛下の心臓も、食べました」


 


レイラ

「……!」


 


全員

「う゛ぇ……」


 


ロイロ

「いやいやいやいや……

 そこまで、できるのかよ……」


 


テュエル

「やれることは、全てやります。

 そうでなければ……レイラ様を、お守りできませんから」


 


ナイル

「……もう、人の枠で考えちゃダメだね……。

 その執念……いや、信念には脱帽だよ」


 


レイラ

「……心臓。

 それで、気配が変わったのか」


 


テュエル

「きっと、そうでしょう。

 食べた時は……体が焼けるように熱くて、

 正直、死ぬかと思いましたが……

 それが治まった後、世界が……ガラリと変わって見えました。

 ……陛下のおかげです」



レイラ

「…………………………」

 


ナイル

「……正直どうなの、レイラちゃん?

 自分のパパの心臓を食べちゃう護衛って」


 


レイラ

「別に。それが……父の意向だったのであれば、

 なんとも思わない。」


 

「私は、こいつを否定しない。

 私の最善を考え、行動してくれると……信じているからな」


 


その言葉に、迷いはなかった。


 


リアは、そっと二人を見つめる。


 


(……絶対的な絆)


 


言葉にせずとも伝わるもの。

揺らぐことのない、確かな信頼。



(この二人は――)



静かに、確信する。



(……きっと、大丈夫だ)



焚き火が、ぱちりと小さく弾けた。


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