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双国ノ巫女 〜九尾の力を持つ雪女の姫は、戦場でその力を解き放つ〜  作者: Su
出会いと誓い――護衛テュエルとレイラの軌跡
20/66

あの日の答えは、唇の先に


 顔の火照りが、いつまでも引かないテュエル。


 耳の先まで赤く染まり、

 視線が定まらない。


 ロイロ

「ヒューヒュー」



 ナイル

「いやぁ〜、見せつけてくれるねぇ」



 レオ

「仲良しだねぇ〜♡」



 遠慮のない野次が飛ぶ。


 レイラは、それらを一切気にした様子もなく。


 ただ、静かに

 いつも通りの落ち着いた呼吸で、視線を落とした。


 レイラ

「…………リア」


 一度、視線を落とす。


 ほんのわずかに間を置いてから――静かに。


 

「少し……テュエルと、二人で話してきてもいいか」


 

 テュエル

「……っ」


 心臓が、大きく跳ねた。



 リア

「もちろんよ」



 やわらかく微笑む。



 リア

「積もる話もあるでしょう?

 ゆっくりしてきて」



 レイラ

「……ありがとう」

 


 その時――



 シュン

「ちょっと待った!!」



 びしょ濡れのテュエルを指差す。



 シュン

「そのまま行く気!?

 風邪引くに決まってるでしょ!!」


 ずかずかと近づき――


 布と着替えを、半ば押し付けるように渡す。


 シュン

「いいから拭いて!着替えて!

 話はそれから!!」


 テュエル

「……あ、はい……」


 勢いに押されるまま。



  ――ほどなくして。



 きちんと整え直された姿で戻ってくる。


 だが、髪の先にはまだわずかに水滴が残っていた。



 それを確認してから――


 

 レイラが立ち上がろうとした、その瞬間。


 テュエルの表情が、変わる。


 先ほどまでの動揺が嘘のように消え――


 一瞬で、“護衛”の顔に戻る。



 テュエル

「まだ、歩かないでください」



 低く、落ち着いた声。



「傷に障ります。

 ボクが……お運びします」



 レイラ

「……あぁ」


 

 迷いなく――抱き上げる。


 ふわり、と


 だが、その重みは確かに腕にある。



 焚き火の熱から離れ、

 夜の冷たい空気へ。


 

 川を越える。


 水音が、静かに響く。



 そのまま、

 月明かりに照らされた草原へと歩みを進める。



 後を追おうとするロイロ、シュシャ、ナイル、シュン。


 


 リア

「……だーめ」


 


 ぴしり、と。


 優しく、だがはっきりと制する。


 


 ――――――――――――――――――――――



 草原に辿り着く。



 風が、草を揺らす。

 音は、それだけ。



 テュエル

「……暑くないですか」


 

 レイラ

「うん」



 テュエル

「……傷は」


 

 レイラ

「大丈夫だ」


 

 短いやり取り。


 

 だが――


 その間に、言葉にならないものが詰まっている。


 

 テュエル

「…………」


 言葉が、多すぎる。


 どれから口にすべきか、わからない。


 テュエル

「……なぜ」


 ようやく、絞り出した。



 低く。



「なぜ、あのような無茶を……」



 レイラ

「…………」



 テュエル

「罠だと分かっていて……

 あんな怪我をして……」



 声が、わずかに揺れる。



「もし……」


 一拍


「もし、この程度で済まなかったら」



 喉が、詰まる。



「……死んでいたら

 どうするおつもりだったのですか……」


 

 レイラ

「捕えるための罠だと、分かっていた」


 

 テュエル

「……そういうことを、聞いているのではありません…!」


 低く。


 はっきりと。

 

 抑えていたものが、滲む。


 レイラ

「………………」



 テュエル

「……もし…

  ボクだけが、残されていたら……」



 震える声。



「そう考えるだけで……

 怖くて……」



 拳が、わずかに強く握られる。



「……震えが、止まらない」



 沈黙。



 テュエル

「……地下牢での言葉」


 一拍。


「“会いたかった”と……」


 目を伏せる。


 逃げるように。


 確かめるのが、怖いように。



「……あれは

 ボクに向けて、仰ってくださったのですか」



 レイラ

「…………それ以外に」



 まっすぐに。




「誰がいるというのだ」


 ――その一言で、十分だった。


 テュエルは、答えなかった。


 ただ――


 抱えたまま、強く引き寄せる。


 腕に、力がこもる。


 逃がさないように。

 確かめるように。


 ほんの一瞬。


 躊躇は――あった。


 だが、それすらも飲み込んで。


 距離は消え――



 触れた。




 そっと。



 抑えきれない感情が、滲むように。



 ――離れられないと、知ってしまったように。






 少し離れた焚き火の方の茂みで――


 


 リア

「……」


 


 ロイロ

「……」


 


 ナイル

「……」


 


 シュシャ

「……」


 


 シュン

「……」


 


 全員、無言。


 


 ――息を潜めている。


 


 ――そして。


 


 ナイル

「……やるねぇ」


 


 ぼそり。


 


 ――なお、全員同罪である。



 ――――――――――



 レイラ

「…………」


 ゆっくりと、息を吐く。



「……お前に、会いたかった」


 その声は、静かで――


 だが確かに、震えていた。



 テュエルの胸元に、そっと額を預ける。



 縋るように。


 確かめるように。



 そして――



 今度は、レイラから。



 距離を詰める。

 迷いなく。



 唇を、重ねた。

 


 テュエルの呼吸が、わずかに止まる。


 だが――拒まない。 


 受け止めるように、静かに応じる。



 やがて。



 テュエルはゆっくりと腰を下ろし、

 そのまま、あぐらをかく。


 そして。


 抱えたままのレイラを、

 その上へと、静かに座らせた。


 


 自然に。

 逃がさないように。


 腕の中に、収める形で。

 レイラは、ゆっくりと顔を上げる。


 月明かりが、その瞳を淡く照らした。


 


 テュエル

「……どうしました」


 声音は穏やかだが――

 その視線は、逃げ場を与えないほどに真っ直ぐだった。



 レイラ

「……垢抜けたな、と思ってな」



 指先が、そっと前髪に触れる。


 ついさっきまで濡れていたはずなのに、

 気づけば、すっかり乾いていた。


 かつての黒ではない、

 今の色。


 テュエル

「……レイラ様と離れた、あの日から」


 一瞬、目を伏せる。


 その影が、長く落ちる。


 


「……色々、ありましたから…」


 


 レイラ

「…………」


 


 わずかに、

 ほんのわずかに、視線が揺れる。


 


 そして――


 


 レイラ

「……父上を殺したのは」


 静かに。


 


「……お前なのだろう」


 


 テュエル

「…………はい」


 


 迷いは、ない。


 隠しもしない。


 ただ、受け入れるように。


 





 少し離れた茂みの奥。


 


 リアたちが――固まる。


 


 リア

「……え……?」


 


 ロイロ

「……は……?」


 


 ナイル

「……ちょっと待って……」


 


 理解が、追いつかない。


 


 今、何を聞いたのか。


 


 一拍遅れて――


 


 空気が、張り詰める。


 


 ――“父を殺した”。


 


 その言葉だけが、

 重く、場に落ちた。


 


 誰も、動けない。

 



 


 レイラ

「……気配が変わったのは、

 そういうことだったのだな」


 


 静かに、頷く。


 


「……父が、

 力を貸してくださったのだな……」


 

 テュエル

「……はい」



 目を閉じる。



「最後まで、国を想い……」



「レイラ様を想い……」



「……誠に、立派な方でした」



 レイラ

「……すべて、聞いたのか」



 テュエル

「……はい」



「恐らく……

 すべてを、ボクに託して逝かれました」



 レイラ

「…………」



 静かに、息を吐く。


 夜風が、その吐息をさらっていく。


 そして――



 レイラ

「……それでも尚」


 

 視線を上げる。


 

「私についてくると、言うのか」


 

 テュエル

「もちろんです」


 

 即答。


 一瞬の迷いもなく。



「ボクは、レイラ様のために生き」



「レイラ様を、生き甲斐にします」


 

 その言葉は、

 誓いというより――


 “既にそうである事実”だった。



「……それとも」



 ほんのわずか、

 口元が緩む。


 

「このままボクを護衛にして、

 後悔なさいますか?」



 一拍。



「……まぁ、

 仮に駄目だと言われても――」


 

 目を細める。



「ついて行きますけどね」



 レイラ

「……ふ」

 


 小さく、笑う。



 レイラ

「後悔なら、とっくにしている」


「お前が護衛である限り……

 私は誰とも婚姻は結べないだろう」


 

 テュエル

「……!」



 空気が、変わる。



 テュエル

「……あのような輩」


「ソンゴルのような者が、

 レイラ様に触れるなど――」



 殺意が、はっきりと形を持つ。



「その腕を落とし、

 目を潰し、

 舌を抜き……」



 一拍。

 


「……去勢します」



 レイラ

「………………だから」



 静かに。



「……あの日、

 お前を解雇するつもりだった」



 テュエル

「……………………」



 完全に、止まる。



 レイラ

「形は歪だが……」



「双国の被害が最小で済んだのは……」


 

「……お前のおかげだ」



 目を伏せる。


 

「私のせいで……

 嫌な思いも、させたな」



 テュエル

「……いいのです」


 

 即答。



「ボクには……」


 腕が、わずかに強くなる。



「レイラ様さえ、いてくだされば」



「どんなことも、耐えられます」


 


「どんなことも……やり切れます」



 膝の上のレイラを、

 包み込むように抱き寄せる。



 レイラ

「…………」



 少しだけ、

 力を抜くように息を吐く。



 レイラ

「……私は、

 王の器ではない」



「統治したいとも、思えない」



 視線を落とす。


 

「……ただ」


 

「父上が愛した民を……

 私も、大切にしたいと思っている」



 テュエル

「……それで、十分です」



 迷いなく。



 テュエル

「ボクも同じです」



「陛下を殺し、

 部族長を手にかけた本人なのですから」



 一瞬の静寂。



「……それでも」



「レイラ様が王になろうと」



「名もなき放浪者になろうと」



 視線が、絡む。



「一生、ついていきます」



「たとえ、民が受け入れなかったとしても……」



「ボクは」


 一瞬。


 ぎゅ、と。



 はっきりと抱きしめる。


 

「レイラ様だけを想い」


 

「共に、生きます」


 


 レイラ

「…………ありがとう」


 


 ぽつりと。


 


 レイラ

「……お前の前でしか、

 私は弱くなれない……」


 

 テュエル

「……そのために、

 ボクがいるのです」



 ――腕に、力がこもる。



 引き寄せる。


 

 今度は、

 衝動ではなく。



 確かめるように。



 静かに、

 強く。



 額が触れそうな距離で、

 一瞬、止まる。

 


 そして。



 ゆっくりと――



 唇を、重ねた。



 二人の距離が、

 静かに溶けていく。



 


 少し離れた茂みの中。


 


 リア

「……」


 


 ロイロ

「……」


 


 ナイル

「……」


 


 シュシャ

「……」


 


 シュン

「……」


 


 全員、息を殺している。


 


 ――そして。


 


 ナイル

「……甘いねぇ」



リア

「…甘いわ……」

 


 ぼそり。


 


 (※反省はしていない)





 


 テュエル

「………………」



 ぴくり。



 テュエル

「……気づいてますよ」


 


 低く。


 


 間。


 


 茂みが、わずかに揺れる。


 


 全員

「……バレた!!!」


 


 レイラ

「最初から、知っていたぞ」


 


 さらりと。


 


 リア

「えっ、知ってたの!?」


 


 レイラ

「あぁ」


 


(気にしていなかっただけだ)


 



 


 そして――


 


 何事もなかったかのように。


 


 皆で焚き火へと戻った。



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