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中庭で暴かれる“本物の狂愛”


中庭――


三人で茶を楽しんでいた。


レイラが湯気をふっと吹き冷ますと

二人は同時に

(かわいいな…♡)

と思っているのが丸わかりの顔。


そんな二人を知ってか知らずか、レイラは立ち上がる。


レイラ

「…じゃあ、検診、行ってくる。また後でな……」


手をちょこんと振る。


シャガル&テュエル

「……♡」


どちらも鼻の下を伸ばし、

ほぼ条件反射で手を振り返す。


(お前ら、本当に妖王と護衛(王)か?)

とツッコミたくなるほどデレデレ。


レイラが角を曲がって見えなくなるまで見送ってから、

ようやく二人は茶席へ視線を戻した。


中庭に静寂が広がる。


シャガルは茶杯を一度だけ口にして、

静かに置いた。


シャガル

「此度の件、お前にはだいぶ世話になった。

 そして……騒がせた。悪かったな。」


テュエル

「…詫びられる筋合いはない。

 俺はレイラ様のご意向に従っただけだ。」


淡々とした声。

(だが、妙に静かな目をしている)


そして一拍置き——


テュエル

「……だが、ひとつ言っておく。」


シャガル

「?」


テュエル

「俺もレイラ様を“逢瀬”に誘うつもりだ。」


シャガル

「……は?」


唐突すぎる宣言。


テュエルは真顔のまま続ける。


「お前の真似ではない。

 ただ、この間のお前の逢瀬の“巡り先”と“内容”を教えろ。

 できれば被りたくない。」


シャガル

(こやつ……)

(いや、迷惑もかけた……)

(でもレイラを取られたくない……)


反省5:嫉妬5

茶を一口飲むたびに、脳内の天秤がギシギシ揺れている。


テュエル

「今回の騒動の詫び、とでも思って教えろ。」


シャガル

「……もちろんだ。お前には助けられた。」


そこからシャガルは例の逢瀬を語る。


氷の林の景色。

鍋の湯気。

子供たち。


テュエルの筆記速度は業務用。


テュエル

「氷の林……そんな場所があったとは。」

 (レイラ様につきっきりで……知らなかった……)

【付きっきりの弊害】


シャガル

「城を離れて気持ちを整えていた折に見つけた。

 レイラが喜ぶと思ってな。」


――


テュエル

「なっ。鍋?!

 レイラ様に庶民の食物を……!

 それに猫舌だと知っているだろう!」


シャガル

「ゆっくり食べさせた。

 楽しんでおったぞ。」


――


テュエル

「お前、レイラ様を放置して子供と遊ぶなど……!」


シャガル

「レイラがそうしろと言った。

 最後はレイラも混ざった。」


テュエル

「なんだとっ!」


手帳に書き込み続ける。


その姿を見つめ、シャガルはわずかに目を伏せた。


(……やはりこやつ、過剰だ)

(いや……違う)


(あれほど過剰でなければ、レイラの心には届かなかった。

 異常でなければ、繋ぎ止められなかった)


(だからこその……狂愛)


シャガルは深々と頭を下げた。


シャガル

「……レイラのために、余は狂気に傾きすぎていた。

 お前のやり方を誤解していた。

 本当に……すまなかった。」


テュエル

「…いきなりなんだ…

 なんの話だ。」


シャガルは淡々と、しかしどこか痛みのある声で続ける。


シャガル

「以前……レイラの寝具の匂いを嗅いでいたお前を見た後、

お前の行動を執拗に見、過去を探ったことがある。」


テュエルの手が止まる。


シャガル

「初対面での拒絶。

 護衛が二人になると知った時の反発。

 あれら全て、執着が異常だからだと……

 余は判断していた。」


「レイラのために必要以上に愛で、壊れ、完全になったのだと……

 余は理解した、いや、そう確信した。」


「すまなかった…。

 …何度でも詫びよう。」


それは、

王ではなく、同じ妻を愛する夫としての言葉。


テュエルは言葉を失っていた。


シャガルが頭を上げて視線を合わせると、

まるで「何を言っているんだ?」と言わんばかりに、

力の抜けた顔をしている。


(む……? 謝罪が足りなかったか……?)


やがてテュエルがゆっくりと口を開く。


「……なるほど。

 俺のこと……そう思っていたんだな。」


気まずげに、シャガルは再び口を開こうとする。


「すまな——」


その言葉は遮られた。


テュエルが、不気味に、しかし誇らしげに微笑んだからだ。


「……お前が、

 俺のことをそこまで理解していたとはな。」


シャガル

「……?」


テュエル

「そうだ。

 ――俺がしたくてしてきたことだが?」


シャガル

「……は?」


テュエル

「レイラ様を愛するのは当然だろう?」


「初めて手合わせしていただいた時から、

 俺の気持ちは一度も、揺らいだことはない。」


「それが“狂愛”に見えるなら……そうなのだろうな^^」


シャガル

「…………」

(理解が……追いつかん……)


シャガル

「では……護衛以上に磨いた、あの数々の技術は……?」

(人智を超えたあの手つき……)


テュエル

「決まっているだろう?」

「レイラ様のお世話を、護衛としての立場を使って

 全力で堪能するため だ。」


シャガル

「…………………………」


口が塞がらないとは、まさにこのこと。


テュエルは淡々と続ける。


「ものすごい努力をしたさ。寝る時間も惜しんだ。」

「姫という存在に何が必要か、何をされたら喜ぶか……常に考えていた。守るなど当然。」

「だから技術を手に入れた。」


「レイラ様が俺だけを必要とする世界……♡

 考えるだけで胸が苦しくなる……♡」


シャガルは震えた。

胃の奥が捻れるように痛む。


(こやつ……)

(本……物……!!)


思い出したようにシャガルが聞く。


「レイラが……言っていた。

 お前は本来、西部族だから月に一度しか顔を出さないはずだったと。

 だが、毎日いたと……あれは?」


テュエル

「……あぁ。」

「レイラ様と手合わせをした“その日に”、東部族へ移った。」


シャガル

「………………」

(確信犯ではないか……)


シャガル

「では……つまり……

 お前は……女官も、宦官も、従者すら……

 誰も、レイラに近づけたくなかった……と?」


テュエル

「言うまでもない^^」


シャガル

「…………………………」

(吐き気が……再来する……)


テュエルは静かに息を整え、告げる。


「……夫が二人という現状は、もう変えられない。

 レイラ様のお決めになったことだ。従う。」

「必要とあれば協力もする。」


「だが——」


にっこりと笑う。

目だけは、一切笑っていない。


テュエル

「だから……お前も。

 無駄な動きは、見せてくれるなよ……?^^」


──その声音の奥に、はっきりと響く“心の殺気”。


(※完璧な“テュエル像”を崩してくれるな。

 余計な真似をしたら、ただ首を斬るだけでは済まさん……)


シャガル

「わ、わかった……」


(……聞こえる……!

 言葉にしていない“殺気”が!!)

(こいつは……絶対に敵に回すな……!!)


テュエルはそこでふいに視線を横にずらし、

何かを思い出したように、淡々と告げた。


テュエル

「……それと、お前。」


シャガル

「……? なんだ。」


テュエル

「レイラ様の隣にいる時の“あの癖”、やめろ。」


シャガル

「癖だと?」


テュエル

「レイラ様の髪だ。」


シャガル

「…………は?」


テュエル

「無意識だろうが……

 指先で髪を巻き取るのをやめろ。

 レイラ様の絹のような髪が傷むだろう。」


シャガル

「………………」


(触っていた、だと……?

 いつ……余が……?)


テュエル

「……まあ、無自覚なのは仕方ない。」

「だが二度とするな。」


シャガル

「……わかった……?」

(そんなこと、しておったか……?)


テュエルはゆっくり息を吐き、立ち上がる。


テュエル

「少しだけ離れる。レイラ様の護衛はしばらく任せた。」


シャガル

「…? もちろんだが、どこへ行く。」


テュエル

「……下見だ。

 俺も、逢瀬の下見をしなければ。」


「失敗する醜態など、見せられない。」


「すぐ戻る。」


そう言い残し、足早に去っていった。


⸻


しばらくして――

レイラは検査を終えて、中庭へ戻ってきた。


そこには、シャガルだけが座っていた。


シャガル

「レイラ……戻ったか。」


隣に腰を下ろすよう促し、

当然のようにその腰を引き寄せる。


レイラ

「……あれ、テュエルはどうした?」


シャガル

「……少し外す、と申しておった。」


レイラ

「どこへ?」


シャガル

「……さぁな。」

(本当の理由など……言えん。)

※殺される


レイラ

「珍しいな。

 もう護衛以上にすることもないしな……

 たまには羽を伸ばすべきだ、あいつも。」


シャガル

(いや……逆に縮こまっていると思うが……)


レイラは軽く笑い、茶を啜る。


シャガルはさっきテュエルに指摘されたばかりの癖を秒速で忘れ、

レイラの髪をふわりと掬うと、指に巻きつけて遊びだす。


巻く、ほどく、巻く、ほどく。(※死)


シャガル

「で、検診はどうであった。」


レイラ

「……ん、もうなんともない。痺れも取れたし、完治だって。

 シャガルのおかげだな……?

 色々世話をかけてごめんな……。」


シャガル

「よい。

 だが……すぐ謝る癖は治せ。」


レイラ

「ごめ――……あ。」


言いかけて、苦笑する。


シャガル

「全く……お前は。

 本当、たまらなく……かわいいな。」


レイラ

「……っ」


シャガル

「元は余のせいだ、気にするな。

 ――それに、お前の世話……悪くなかったぞ。

 …また何かあれば、余を頼れ。」


「まぁ……もう“何か”は起こさんがな。」


レイラは照れて笑い、シャガルの胸へ頭を預ける。

シャガルも肩に腕を回し、ゆっくり甘い時間に浸ろうとした――その時。


⸻


ドドドドドッ!!!


中庭の向こうから土煙が上がる。


シャガル

(……来た……!?

 いや、早すぎるだろ……!!

 まだ半刻も経っておらぬ!!)


次の瞬間――


テュエルが、風のようにすぐそばへ現れた。

息は乱れていない。

だが “全力で戻ってきた速度” だけは隠せていない。


テュエル

「……レイラ様。

 ご無事でしたか。」


レイラ

「…? どうした、テュエル」

(髪、ちょっと乱れてるぞ)


声は低い。冷静。

しかし、瞳の奥だけが完全に 「置いていかれた猿」。


テュエル

「……無理でした。」


レイラ

「……無理?」


テュエル

「レイラ様と……理由もなく距離を取るなど……

 耐えられず……戻ってまいりました。」


レイラ

「……え? 理由、なかったのか……?」


テュエル

「いえ……その……

 レイラ様が検査から戻られたかと思い……

 少々足早に帰ってきただけです。」


※実際は【死ぬほど寂しかった】


シャガル

(嘘だ。ただ離れられなかっただけだ。)

(下見すらできぬとは……いや、こやつは本当に男か?いや……猿か)


テュエルはレイラの前に跪き、静かに手を取る。


テュエル

「離れて……

 何をしておられるかも分からず……

 お声も聞けず、ただ時間が過ぎるだけ……」


「拷問でした。」


シャガル

(病か。)

(愚か者め。)


レイラは苦笑しながら、その頭を軽く撫でた。


レイラ

「テュエル……無理に離れる必要はないんだぞ?」

「昔は……億劫に思う時もあったがな……」


テュエル

「はい……!

 ……もう離れません。」


シャガル

(いや、離れろとは言わぬが……

 せめて下見くらい行け。)


テュエルは当然の顔をして、

レイラのもう片側へ迷いなく腰を下ろす。


結果――


対面の広い長椅子は誰も座っていないのに、

レイラ側の長椅子だけ 三人横並びでギュウギュウ という、

中庭の品格を粉砕する配置となった。


シャガル

(長椅子は余裕で三人掛けられる……

 が、これは……近すぎる……!)


テュエルはレイラに完全密着。

肩が重なり、呼吸すら感じる距離。


シャガル

(くっついておる……いや、これはもう“吸着”……!)


レイラは左右から包囲されながらも平然としている。


レイラ

「……本当は、どこ行ってたんだ?」


テュエル

「……少しだけ、気を整えに。」

(※下見は三歩で断念した)


シャガル

(絶対言わぬよな、下見のことは……)


レイラ

「ふふ、そうだったのか。」


テュエル

「レイラ様のそばが、一番落ち着きますので。」


シャガル

(なら最初から行くな!!!)


テュエルは、レイラの横顔をそっと見つめた。

その視線は静かで、落ち着いていて、

しかし奥には “決めている男” の鋭い意志があった。


ほんの一呼吸置いて――

シャガルの存在など最初から見えていないかのように、

レイラへだけ声を向けた。


テュエル

「……レイラ様。」


レイラ

「ん?」


テュエル

「明日……時間をいただけませんか。」


シャガル

(え、今誘うのか!?この状況で!?

 レイラは余の腕の中なのだが!?)


レイラは驚いて瞬きをする。


レイラ

「明日?」


テュエル

「はい。

 レイラ様と……ゆっくり歩きたい場所があります。」


シャガル

(歩きたい場所……?

 余の時のように“逢瀬”と言わぬのだな。

 慎ましいふりを……しておるだけだろうが……)


テュエルはほんのり微笑み、

けれど目だけは鋭くレイラへ吸い付いていた。


テュエル

「もし、お嫌でなければ……

 お連れしたい所があるのです。」


その声音は静かで柔らかい。

しかし、言葉の裏には

“断られる未来を一切想定していない男の自信” があった。


レイラ

「……良いぞ。約束したもんな?」

と微笑む


テュエルの瞳が一瞬だけ揺れる。

喜びが隠しきれず、呼吸が浅くなる。


テュエル

「……ありがとうございます。」


シャガル

(なんだ今の息……っ

 こやつ……完全に猿ではないか!)


テュエルはレイラの手に軽く触れ、

ほんの刹那だけ親指で撫でる。


テュエル

「では、明日。

 必ず……ご満足いただけるように。」


シャガル

(はぁ!?

 余の目の前で“それ”をやるな!!)


レイラは笑って頷く。


レイラ

「楽しみにしてる。」


テュエル

「全身全霊で。」


シャガル

(……殺意が湧く。)


レイラが微笑んだまま、温かい茶を一口含む。

三人はぎゅうぎゅうの長椅子に座ったまま、しばし静寂が落ちる。


その沈黙の中——

テュエルの内側だけが嵐だった。


テュエル(外側)

無表情を保つ。背筋は一直線。呼吸は極めて穏やか。

完璧、優雅、爽やか、隙なし。


テュエル(内側)

(……庶民の逢瀬……)

(どうすればいい……?!)


(俺……庶民だったのは確かだが……

 物心ついてから十二までは、

 “庶民らしい遊び”より毎日親父の鍛錬……!)


(サボろうとしても……捕まって……また鍛錬……!!)


(そこから十二以降はすべて、

 レイラ様へ付き従うための努力と修行……!)


(つまり俺……庶民としての経験……

 “実質ほぼゼロ”では……?!)


レイラ

「……テュエル? どうした、黙って。」


テュエル(外側)

「いえ。レイラ様のお顔が近いので、幸福なだけです。」


レイラ

「…そ、そうか。」


テュエル(内側)

(はぁ……♡近い……♡

 いやいやいや、今はそれどころじゃない!!)


(レイラ様を喜ばせる方法といえば……

 宮内でのお世話と……寝台での技巧……)


(いや、それは逢瀬ではない!!)


(歩きながら何を話せば……!?

 シャガルのように千年の話の引き出しなどない……!)


(……いや待て)

(もし俺……“中身が空っぽ”と思われたら……?)


※ 実際ちょっと空っぽ


(俺という男……

 “レイラ様が好き”以外、何も無い……!?)


※ はい、そうです


(【俺……圧倒的……負け組……!?】)


背後に冷や汗がダラァ〜〜と落ちる。

もちろん外側は一切見せない。


シャガルが横目でちらり。


シャガル

(……む?)

(涼しい顔だが……目の奥が漂流しておる……)


(ふ……こやつ……“焦っておる”な……

 余には丸見えだぞ……)


レイラ

「……テュエル、大丈夫か? 手が少し冷えてるぞ?」


テュエル(外側)

「問題ありません^^」


テュエル(内側)

(問題“大アリ”だ……っ!!!)


——こうして。

完璧を装う男の内側で、

明日の逢瀬を前にした大混乱が静かに育っていく。


そしてその日の夜、

レイラの快気祝いを皮切りに——

テュエルの“失敗の連続”が幕を開けることになる。


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