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あの時よりも、ずっと


冬空を滑るように飛びながら、シャガルは腕の中のレイラをちらりと見下ろした。

風は冷たいのに、その眼差しだけは酷く優しい。


「……寒くないか、レイラ。」


「…ん……私は平気……」


その答えに、シャガルはほっとしたように息を吐く。


「……そうか。なら良い。」


広がる冬の山並み。

やがて、リュウコ北の深い林が見えてきた。


シャガルは高度を落とし──

林の枝をかき分けるほどの低空で、滑るように飛び抜けていく。

梢が肩に触れそうなほど近く、風が葉をざわりと揺らす。

レイラは腕の中で、その野生的な飛び方に密かに胸を高鳴らせた。


そして林を抜けた瞬間。


世界が、淡い光を放った。


木々も、岩も、湖も──

すべてが氷に封じられ、朝陽を受けて淡青色の輝きを散らしている。

まるでこの一帯だけが“冬”という宝石の中に閉じ込められたようだった。


「……きれい…。こんな場所…あったのか…。」


レイラが小さく息を呑むと、

シャガルは満足げに、誇らしげに頷いた。


「余が見つけた。

 ……お前が、きっと好きだと思った。」


その静かな言葉が胸に触れる。

生まれてからずっとこの地にいたのに知らなかった場所。

その場所をわざわざ探し、見つけてくれたという事実に、レイラの胸はほんのりと熱を帯びる。


シャガルは氷のほとりへ静かに降り立ち、レイラを下ろした。

湖は風ひとつなく凍り、鏡のように世界を映している。


レイラはしゃがみこみ、指先で氷に触れた。


「……ふふ…、冷たい……」


その小さな笑みに、シャガルはほんのわずか眉を緩める。


「お前に見せたかった。」


淡い声が、冷たい空気にすっと溶けた。


ふたりは氷の湖をゆっくりと進む。

足音はほとんどなく、ふたりしかいない世界のようだった。


しばらくしてシャガルが、腕を組んで横目でレイラを見る。


「……レイラ。今日の着物、似合っておるぞ。

 髪型も……余の好みだ。」


レイラがふっと笑う。


「そうか……。

 ……しかし、お前も。着物なんて珍しいな?」


シャガルはわずかに顎を上げ、得意げに言う。


「お前との逢瀬だからな。

 こういうのも、たまには良いだろう。」


レイラが肩で小さく笑うと、シャガルは満足げに鼻を鳴らした。


「……だがしかし、余は寒い。」


「……お前は…寒さに弱いからな……」


「お前が強いだけだ。雪女とはずるいぞ。」

とくす、と笑う。

「お前に強いところを見せられんのが……悔しい。」


レイラは目を細め、静かに笑った。


「じゃあ……少し、暖かいところへ行くか?」


シャガルは目を細める。


「余が言うつもりだったがな。」


その気取った言い方に、レイラが小さく喉で笑う。

シャガルは嬉しそうに近づき、再びレイラを抱き上げた。


「行くぞ、レイラ。」


「……うん…」


そしてふたりは再び空へ。

冬の冷気を切り裂きながら、どこか暖かな食事処へと向かっていった。


⸻


人目を避けるように降り立った、五合目の小さな旅館兼食事処。


「ここだ……」


シャガルが当然の顔で案内する。


(……? 旅館?)

レイラは首を傾げる。


庶民が暮らす地域だけに、建物はどこか素朴であたたかい。


だが――扉を開けた瞬間。


女将

「ひっ……!? ひ、姫様……!?

 し、し、シャガル様まで……!?

 こ、こんな小さな古旅館へ……な、何の御用で……!」


完全に固まった。

笑顔どころか、体ごと震えている。


シャガル

「予約してあるはずだが……?」


(……お前、予約までしてたのか)

レイラは思わず横目で見た。


女将は慌てて帳簿をめくる。


「…………」

「も、もしかして……この……シャル…ガ様、で……?」


シャガル

「……む………。

 そうだ。」


一瞬だけ“しまった”顔をした。

(村の子供に代わりに予約させた、など言えるわけもなく)


レイラは慌てて手を上げた。


「普通に扱ってくれ。今日は客として来ただけだから。」


「は、はいィ……!」


緊張で90度のお辞儀のまま固まる女将。

レイラは気の毒さに苦笑する一方、

シャガルはまるで気にしていない顔で奥の席へ進む。


「よし、通せ。」


「りょ、了解いたしましたァ!」


通されたのは、二人なのに妙に広い個室。

気遣われているのが丸わかりで、レイラは再び苦笑した。


シャガルは当然のように席に腰を下ろす。


「お前との逢瀬に、無駄な段取りは不要だ。」


その言葉がなぜか誇らしげで、

レイラは胸の奥がじんわりと熱くなった。


席につき、ふと気づいてレイラが尋ねた。


「……まだ選んでいないが、何を食べるんだ?」


シャガルは瞬きひとつ。


「選ぶ必要はない。もう注文してある。」


「え?」


「“鍋”……なるものが、あるらしい。」


「……鍋?」


「村の子供に聞いた。

 家族で囲う、野菜がたくさん入った……熱い食べ物だと。」


レイラは驚いた。


「……お前、調べてきたのか?」


シャガル

「お前との逢瀬だ。怠る理由があるか。」


(なんでそんな真顔で言えるんだ、お前は……)


胸の奥がまた温かくなる。


しかし同時に、レイラは少し不安になる。

自分が雪女で、熱いものが得意ではないことを——

シャガルは誰よりよく知っている。


「……熱いんだよな? 私、食べれるだろうか……」


シャガルは淡々と、しかし迷いなく言う。


「焦らずゆっくり食せば良い。……まだ、時間はある。」


その言葉に、レイラはふと気づく。


(……知っているはずだ、私が熱いものは苦手だと。)

(なのに……あえて熱いという“鍋”を選んだのか。)

(……ゆっくり、時間をかけて……私と過ごすために。)


胸の奥がじんわりと熱くなる。

冷たい身体を、別の温度がゆっくり満たすように。


レイラの肩から静かに力が抜けた。


「……そう、だな。ゆっくりなら……大丈夫だ。」


シャガルの眉がわずかに和らぐ。

ほんの短い息のような微笑みが、口元だけに静かに灯る。


「……そうか。」


その声音は、小さな安堵に満ちていた。


やがて、湯気の立つ大きな鍋が運ばれてきた。

女将は緊張のあまり手が震え、鍋がぐらつく。


「お、お熱いので……お気をつけくださいませぇ……ッ!」


(……気の毒すぎる)


レイラが内心で女将へ祈る横で、

シャガルは鍋をじっと見つめていた。


ぐつぐつ煮える湯気。

野菜と出汁の柔らかな香り。


シャガルは箸を構える。


「……熱そうだな。」


「お前が言うな。」


「余は……お前にやけどなどしてほしくない。」


そう言いながら、具材をつまみ――


ふー…………


無駄に真剣に冷ます。


その横顔を見て、レイラはくすっと笑った。


「……レイラ。口を開けろ。」


「自分で食べれる……」


「食べさせたいのだ。」


レイラは頬をほんのり赤くして息をつく。


「……まったく。」


でも口を開けば、

優しい出汁がじんわり広がり、体の芯が温まる。


「美味い……。」


「そうか。なら余の勝ちだな。」


「何と張り合ってるんだ……?」


くすりと笑うと、シャガルはさらに得意げになった。


「しかし……今さらだが、随分と箸が上手くなったな?」

「前は食べづらそうにしていたが」


(酒呑童子のシャガルに、私が【シャガル】の名を贈った日……

 あの日、箸の扱いが下手で、食べさせてあげたんだったな)


シャガル

「ふん……。簡単だ、こんなこと。」


どこか誇らしげ。


その言葉に笑みを浮かべ、レイラがシャガルに取り分けようと鍋に手を伸ばした――瞬間。


「あっつ……!」


「おい。」


シャガルが即座に手首をつかんだ。


「……余より先にやけどするとは何事だ。」


「…ごめん……。」


「まったく……

 火傷させるために選んだわけではないぞ。」


口では文句を言いながら、

その指先はひどく優しく、

レイラの手を包み、温度を確かめながら撫でる。


(……そんな手つきされたら)


鍋の湯気の中、

ふたりの距離はまた自然と近づいていく——。


⸻


店を出て、ひんやりした冬の空気に包まれながら、

ふたりは並んでゆっくり歩いていた。


シャガルが、ふと横目でレイラを見る。


「……レイラ。」


「…ん?」


「今さらだが……

 なぜ余の名を“シャガル”と決めたのだ?」


レイラの背筋がビクッと跳ねた。


ドキィィッ!!!!!


(……ま……まずい……!!)


頭が真っ白になり、

心臓が変な方向へ走り出す。


(ど、どうしよう……絶対怒られる……!

 だって理由……理由が……!!)


その瞬間、脳裏に“あの日”が蘇る。


——酒呑童子だったシャガルと対峙した翌日。

なぜか当然のように、またレイラに会いに来たあの日。

テュエルとシャガルの二人は早々に言い争いを始め、

まるで獣のようにシャーシャーガルガル吠え合っていた。


(……あれを見て……

 シャーシャーガルガル……って……

 そこから“シャガル”にしたなんて……!!)


(言えるわけないだろ…………!!!!!)


真顔のシャガルが静かに待っている。


逃げ場が……ない。


「……………あ、あの……」


言いかけた、その瞬間——。


「――あっ!!

 シャガルだーーーー!!!!」


「わぁぁ!姫様もいるーー!!」


村の子供たちが、雪煙をあげて突っ走ってきた。


レイラ

(た、助かったぁぁぁぁ!!!)


心の中で土下座しているのが、

顔に出そうになる。


シャガル

「む……?」


状況が理解できず、眉をわずかに寄せる。


そしてレイラの脳裏に別の衝撃が走る。


(……子供達……シャガルを呼び捨てに……?)

(怒らないのか……!?)


子どもたちがわらわらとシャガルに群がる。


「シャガルー!!

 また遊んでくれよ!!」


シャガルは眉間にしわを寄せた。


レイラ

(まずい……子どもたちが危ない……)


だが——


「……今は逢瀬中だ。無理だ。」


(…………え?)

(許してる……だと……?)


普通に会話している。


子どもたちは「えぇぇぇ……」と露骨に落ち込み、


「せっかく美味しい店教えたのにー!」

「予約だって“シャガル”でちゃんと取ったのにー!」

「おにぎり専門店も教えてあげたのにー!」

「もう “ショミン” の美味しいの教えてあげないからなー!!」


などと容赦なく拗ねはじめた。


「おい、レイラの前で言うな。」


と、シャガルは珍しく頬をわずかに赤らめて子どもたちを窘める。


レイラは思わず小さく吹いた。


(……そうか。

 今日の逢瀬の”巡り先”は全部、子供たちから聞いたのか……)


胸の奥が、ぽっと温かくなる。


レイラはほほえみながら言った。


「……少しくらい、遊んでやったらどうだ?」


「しかし――」


「逢瀬は逃げない。

 子どもは、一瞬だぞ。」


子ども

「だぞ!」

「そうだぞーー!!」


と大賛同。


シャガルは一瞬目を丸くし、

そして諦めたように息を吐いた。


「……仕方ない。少しだけだぞ。」


「やったーーー!!!!!」


瞬間、妖王は人間の子どもたちに引っ張られ、

チャンバラごっこ、雪玉、追いかけっこ……

全力で振り回されていた。


いつもは家臣も女官も(テュエルも爺も)

皆に対抗心と苛立ちを撒き散らす男が——


無垢な子どもたちには、信じられないほど甘い。


それを見つめるレイラの唇が柔らかく緩んだ。


(……ほんと……

 愛しいやつだ……)


胸の奥で、静かな熱が広がった。


⸻


子どもたちと別れ、にわかに静けさが戻った雪道を歩く。

夕陽が雪に溶け、世界はゆっくりと橙に染まっていく。

静かな光が降り積もる中、レイラは隣を歩くシャガルの横顔を盗み見る。


夕焼けに照らされたその表情――

恋に落ちた日の景色と重なる。


(……ほんと、綺麗な顔をしているな……)


今日の逢瀬が胸の奥を温めていく。

氷の林、旅館、鍋、子どもと遊ぶ姿。


(……やっぱり、好き……)

(あの時よりも……ずっと)


(不器用で、でもまっすぐで)

(強くて……優しくて)

(……たまに、かわいくて)


言葉にすれば壊れてしまいそうで、レイラは心の中だけで呟く。


(私なんかのために……

 いつも……待ってくれる……

 時間をくれる……)


込み上げた気持ちが胸を満たし、レイラは思わず足を止めた。


振り返ったシャガルの眉がわずかに動く。


「……レイラ、どうした。」


レイラはゆっくりと彼に近付き、

夕陽の色を映す瞳を見上げた。


「……やっぱり……夕陽が……お前に、似合うと思って……」


一瞬、シャガルの瞳が揺れる。

それから――誰よりも慎重に、ゆっくりと、

レイラの腰へ手を添えた。


夕陽の中、そっと抱き寄せる。

触れるだけの、細心の注意で。


「……レイラ……」


呼ばれた名が胸に落ちる。


レイラは背伸びして、そっと――

自分から唇を重ねた。


優しく、触れ合うだけの短い口付け。

けれどシャガルは驚いたように目を見開いた。


離れたあと、彼は押し殺した息を落とす。


「……今日は、抱きしめるだけで済ますつもりだった……」

「今のは……、余の理性が揺らぐ……」

「……どうしてくれるのだ……レイラ……」


低く掠れた声が、夕暮れに溶けた。


レイラは頬を赤らめ、胸の前で手をぎゅっと握る。


「……私は……っ……

 もっと……お前と……触れ合いたい……」


シャガルの喉がかすかに鳴る。


「……レイラ……」

「判断が揺らぐ……今日は……これ以上、煽るな……」


抱き寄せる腕に力が入る。

欲望も愛も隠さずに。

それでも――彼は、止まった。


「……大切にしたい。

 だから……今日は、これでいい。」


レイラはそっと胸に額を寄せる。


「……ん……ありがと……シャガル……」


二人の影が、夕陽の中でひとつになった。


⸻


八合目への移動を終え、静かな雪道を名残惜しそうに歩く。

白い息が重なり合い、沈黙がふたりを包んだ。


やがて、城の灯が見えてきた頃。


「……レイラ。」


シャガルの低い声が、夜気を震わせた。


「……夜も……お前と過ごしたい。

 ダメか?」


その声音は強くも傲慢でもなく、

ただ一人の女を求める、痛いほど素直な響きだった。


レイラの胸が跳ねる。


「……余計な気遣いをするんだな。

 私は……お前と居たい。」


その言葉に、シャガルは瞳を細め、

触れたら壊れてしまうものを抱くようにレイラを抱き寄せた。


「……レイラ。」


それだけで胸が熱くなる。


⸻


城に入ると、一度別れて身支度を整える。


そして──

レイラはシャガルの部屋の前で深呼吸した。


(……一緒にいたい。触れたい……)


扉を小さく叩き、シャガルが静かに迎え入れる。


「疲れただろう。……来い。」


シャガルは、ただ一緒に横になるだけで安堵したように微笑み、

布団へとレイラを誘った。


ふたりは向かい合って横になり、

静かな呼吸だけが部屋に染みていく。


「……おやすみだ、レイラ。」


その優しい声が、胸の奥の柔らかい場所に触れた。


レイラはそっと目を閉じる。

小さく息を吐いた──が。


(……好き……大好き……)


堪えられなかった。


ゆっくり身を寄せ、

向かい合わせのままシャガルの唇に、そっと触れるような軽い口付けを落とした。


シャガルの瞳が揺れ、大きく開く。


「……レ、レイラ……?」


掠れた声。

驚きと、喜びと、胸を叩く動揺。


けれどレイラはもう止まれない。


(……足りない……触れたい……もっと……)


胸の奥が熱で溢れて、抑えきれなくなる。


次の瞬間──

レイラはシャガルの胸に手をつき、

その体を押し倒すように覆いかぶさり、

深く、強く、息を奪うように口付けた。


温度のある唇を重ね、離し、また重ね──

追い求めるように、ひたすら深く。


長く。

熱く。

離れようとする気配すら許さないほどに。


シャガルの瞳が震える。

息が乱れ、喉が熱を押し殺すように詰まる。


「……っ……レイラ……!」


その声には驚きすら追いつかない。

ただ、嬉しすぎて苦しいという色が滲んでいた。


それでもレイラは止まらない。

舌先が触れ、唇を甘く引き寄せる。

また深く貪るように重ねる。


シャガルの体がびくりと震えた。

肩に置かれた手が、無意識に締め付ける。


止めようとする手──

なのに、触れた指先が耐え切れずピクリと震えている。


「……レイラ……っ……余が……持たぬ……!

 こ、これ以上……煽るな……っ……!」


声が苦しい。

理性が軋む音すら聞こえそうだった。


でもレイラは止まらなかった。


むしろ求める気持ちが溢れて、さらに深く──

まるでシャガルの息まで欲しがるように、ひたすら重ねる。


シャガルの指先は震え、

布団を掴むか、レイラを抱き寄せるか、その狭間で揺れる。


レイラは息を整えるように一度だけ瞬きをし──

覆いかぶさった体勢のまま、

レイラはゆっくりとシャガルを見下ろした。


その瞳は、熱を含んでとろけるように潤み、

求める想いを隠そうともしない艶を帯びていた。


「………シャガル……もっと……

 お前を……感じたいんだ……」


その一言に、シャガルの全身が跳ねた。


次の瞬間──

シャガルの大きな手がレイラの腰を掴む。


「っ……!」


気付けば、レイラは一瞬で下に敷かれていた。

シャガルが覆い被さる形になる。


瞳が、荒れた獣のように揺れている。


「……レイラ……」


そして

堰を切ったように、何度も何度も口付けが落ちる。


深く、熱く、名前を確かめるように。

触れた息が混ざり、身体の奥が震えた。


指先が頬をなぞり、

首筋へ滑り、

熱を追いかけるように彷徨う。


触れられたところが、全部、熱を持つ。


息が漏れ、声にならない声が喉で震えた。


(……シャガル……)


彼は、もう限界だった。


レイラのすぐ耳元で、押し殺した声が漏れる。


「……いかぬ……っ……これは……

 このままでは…………」


荒い呼吸のまま、レイラの額に自分の額を合わせた。

触れた場所でお互いの鼓動がぶつかる。


「……ダメだ……レイラ……

 余は……まだ……お前を抱けぬ。」


その声は苦しいほど優しくて、

切なくて、

抱きしめるだけで泣きたくなるほど愛しい。


「お前を……大切にしたいのだ……

 お前の心に触れても……良いと思える日まで……

 その時……お前を、抱きたい。」


レイラは唇を震わせた。


(……もう……いいのに……

 どうして……そんなに……)


胸がぎゅっと締めつけられる。


シャガルはレイラを抱き寄せ、

限界の熱を押し殺しながらも、優しく囁く。


「……寝るぞ、レイラ。

 ただ……抱きしめさせてくれ……」


その腕は震えていた。

抱きしめる以上のことをしたいのに、必死で止めている腕だった。


レイラはそっと胸に顔を寄せた。


「……うん…………」


ふたりはただ寄り添い、

ひとつの温もりを分け合いながら、

夜を過ごした。


その熱は、決して触れ合わなかったのに──

眠れないほど、溶けるほど、深かった。


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― 新着の感想 ―
シャガルに食べさせていた時のことをレイラ様同様に思い出して、凄く感慨深いなぁと。 話が進むごとにひとつひとつの行動に重みや深みが出てきて、最高です(*´ω`*)
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