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双国ノ巫女 〜愛されることを諦めた姫が愛を知る物語〜  作者: Su
選ばれた理由、選び続けた想い
201/226

嵐の前の、穏やかな朝


——翌朝。


薄明の光が寝台の帳を透かし、

静かな部屋にやわらかく落ちていた。


レイラはゆっくり目を開け、まず感じたのは——


ずしり、とした腰の痛みに近い重み。

テュエルに愛された次の日だけに残る、体の芯のあたたかい倦さ。

そして遅れて腕の重み。

呼吸をするたび、昨夜の熱がふわりと蘇る。


横にはテュエルがいた。

眠っていても離れまいとするように、

腕がレイラの腰を抱き寄せている。


レイラ

「……テュエル……」


小さく呼ぶと、

テュエルの指がゆるりと動き、

まるで確認するように、レイラの腰の線を沿って撫でた。


次の瞬間、彼は微かに眉を寄せ、

まだ完全には目覚めないまま呟いた。


「……レイラ様……離れないで……」


あまりに必死な声で。

まるで、夢の中でさえレイラを失うのを恐れているようで。

胸がきゅっと締め付けられる。


昨夜の――

暴走寸前の熱、涙を吸い取るような抱擁、

求め合ったあとの息の重なり。

全部を思い出し、頬が熱くなる。


レイラ

「……離れない……」


そっと背に触れると、

テュエルはゆっくり目を開けた。


その瞳は、

まだレイラ以外を映せないほどの、深い熱の色。


「……おはようございます、レイラ様……」


声さえ震えている。


テュエル

「…すみません……昨夜……

 痛ませていませんでしたか……?」


レイラ

「……ぅうん。……ちょっと腰…重いけど……」

「………安心した……」


その言葉にテュエルの喉が震え、

抱き寄せる腕にふっと力がこもる。


「……よかった……」

「俺は……あなたを抱きしめるたび……」

「あなたがいなければ、生きていけないと思ってしまう……」


朝の光でも、

その狂おしい愛は隠しようがなかった。


「昨日…、仰っていましたよね」

「なぜ触らせたのか、と」


——言い訳ではない。

——誠実に、誠実に。


「触らせたのではありません。

 触れられたのです。

 ……ですが」


声が苦しそうに低く落ちる。


「レイラ様の名を背負っている以上、

 俺は“巫女王の夫となる者”。」


「あなたの家臣を、俺の手で払いのけることは——

 “レイラ様が彼らを見捨てた”と同義になってしまう。」


レイラは黙って耳を傾ける。

テュエルは続ける。


「俺はあなたに恥じないように生きたい。

 あなたの名のもと、誰かを理不尽に傷つけることは……

 絶対にしてはならない。」


「だから、

 “巫女王の夫”の顔をして、

 優しく見えただけです。」


ふっと、彼のまつげが震える。


「本当は——」

「指先ひとつ触れられただけで、吐き気がしました。」

「あなた以外の香りなんて……耐えられない。」


そして最後に。

テュエルの声が震えた。


「レイラ様。

 俺の理性は、あなたの名と誇りに救われているだけです……」


「あなたが“嫌だ”と言ってくれたら、

 俺は次から家臣が相手でも——

 腕を折ってしまうかもしれない。」


レイラ

「…ふ……すまなかった……。」

「寂しくて……そんなことまで…気が回らなかった。」

「…腕は…折るなよ?」


テュエルは一瞬、ほっとしたように、

そしてどこか名残惜しそうにレイラの頬へ顔を寄せる。

「寂しい思いをさせてしまい。申し訳ありません。」


「……では……」

「次からは―視線で殺すだけにしておきます。」


レイラ

「……殺すな…」


冗談めかしながらも、二人の声はまだ掠れていて、

空気には昨夜の熱がかすかに残っていた。


――――――



——翌朝の余韻も落ち着き、

レイラは平常に戻ろうとしていた。


……が。


身体のどこかがまだ熱を帯びているような、

落ち着かない感覚だけが残っていた。


その理由に、レイラ自身はまだ気づいていない。


シャガルは朝の執務前、長椅子に深く腰かけながら

レイラが来るのを待っていた。



そこへ――

廊下の向こうから、ふわりと甘い気配が流れてきた。


歩いてくるレイラは、

一歩ごとに香りと艶が空気を揺らすような歩き方。


肩や腰の動きがいつもより柔らかく、

何気ない仕草が妙に艶やかに見える。


そして隣には、

どこか達成感を隠しきれていないテュエル。


シャガル

(……っ……ッッ?!

 な、な、なんだその色香の奔流は……!)


レイラが何気なく髪を指先で払った瞬間、

甘い空気が濃くなる。


その瞬間、空気が揺れた気がした。


シャガル

「うっ……!!」

(……あれは……九尾の……!

 甘い……濃い……危険だ……!!)


鼻を押さえて必死に耐えるシャガル。

(鼻血寸前)


レイラ

「……? シャガル、おはよう。」

「どうした……顔が赤いぞ?」


シャガル

「ぐ……レイラ……」

「お前、昨日……猿と……」

(呼吸が乱れすぎて声が震える)


レイラ

「あ、あぁ……」

「……そうだ。」

(思い出して一気に頬が熱くなる)


テュエルはレイラの横で、

つやつやと達成感に満ちた顔で微笑んでいた。


テュエル

「いつも以上に深く愛しただけですが……?」

「何か問題でもありましたか…?^^」

(まさに完璧な煽りスマイル)


レイラ

「っ……///」

(その一言でさらに顔が発火)


シャガル

「問題しかないわ愚か者!!」

「気づかぬか?! レイラのフェロモンが……」

「またとんでもないことになっておるぞ!!」


テュエル

「……!! なんですって……?」

「す……すみません、レイラ様……気づきませんでした……」

「申し訳ございません……」

(ようやく事態を理解してしゅんとする)


レイラ

「……っ……」

(更に視線のやり場を失い、耳まで真っ赤)


シャガル

「愛し合うことを止めろとは言わん。」

「だが……レイラの色香が強くなりすぎると」

「余と猿ですら近づけなくなる時期が来るんだぞ?!」

「また隔離されたいのか猿!!」


テュエル

「いえ……それは……」

(“やらかした”の顔)


シャガルは長いため息をつき、

レイラのそばへ歩み寄る。


そして――

そっとレイラの毛先を取って中指に引っ掛け、

くるり、と無意識に巻きながら撫でた。

シャガル

「……レイラ。今日は余と休め。」


レイラ

「……ん……今日はダメだ……。用事がある……」


シャガル

「……そうか。」

「なら――余と猿から離れるな。わかるな?」


レイラ

「…わかった……」

(相変わらず……過保護だなぁ……)


――その瞬間だった。


テュエルが一歩前に出る。


テュエル

「大丈夫だ、シャガル。」

「お前はゆっくり、いつもの“特等席”で休んでいるといい。」

「レイラ様をお守りする務めは……ボクだけで十分です^^」


昨夜の余韻を、

“護衛”という立場を使って

全力で味わおうとしている顔。


シャガル

「……なんだと?」


空気がすぅっと冷え込んだ。


レイラ

(あ……また始まった……)

日常茶飯事の光景に、レイラはすでに慣れっこだった。


レイラが視線を逸らした瞬間、

二人の間に 静かな火花 が散る。


テュエル(心の声)

【ふ……俺は昨晩、レイラ様“自ら”求めてくださった】

【お前より上だと……証明されたな?】


シャガル(心の声)

【相変わらずの腹黒め……】

【しかし、残念だったな?】

微笑みながら、完璧なるドヤ顔。

【余は“一昨夜”、レイラから抱いてと懇願されておる】


テュエル(心の声)

【なっ……!】

【……だとしても、中身の濃さでは俺の勝ちだ】

【軍配が上がっているのは……お ・ れ⭐︎】


シャガル(心の声)

【ふ……浅いな】

【先に求められた時点で勝負はついている】

【レイラが選んだのは余だ】


テュエル(心の声)

【順番など瑣末……!】

【老人は黙ってろ…!】


シャガル(心の声)

【……ほぉ……?】

【青二歳が喚くでない】


……バチッ……!


二人の間の空気が低く震えた。


そしてふと、同時に違和感を覚える。


「……………?」


シャガル & テュエル

「「レイラ?(様?)」」


二人が視線をぶつけ合っている間に――

レイラの姿は、跡形もなく消えていた。


……その日の当のレイラは、

まだ知らない。


“苦労”が――

確実に、待っていた。




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