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双国ノ巫女 〜愛されることを諦めた姫が愛を知る物語〜  作者: Su
選ばれた理由、選び続けた想い
200/226

俺の世界には、あなたしかいない


幸か不幸か――

昨夜シャガルと過ごしたことは、テュエルには悟られなかった。


いつもなら必ず立っているはずのレイラの寝室前に、

テュエルの姿がない。


レイラ

(……いない?)


珍しいことで、胸が少しざわつく。


居間へ向かうと、爺がゆったりと茶を飲んでいた。


「姫さま、おはようございます^^」


「爺、おはよう。テュエルは知らないか?」


「テュエル殿なら、早朝から剣術の指南を頼まれたようでしてな。

 双国を離れる前に皆、思い出を作りたいのでしょう^^」


「思い出……かぁ」


レイラは俯く。


「爺は……本当に戻らないんだろ?」


爺は苦笑した。


「はっはっは。私は戦闘が苦手でこちらへ逃げてきた身。

 妖界に戻れば、骨も残らんでしょうな」


しかし、表情は優しい。


「姫さまと離れるのは寂しいですが……

 戻ってきてくださるのでしょう?」


レイラ

「当たり前だ。

 爺をほったらかしにはできない。

 私も……会いたい」


その一言に、爺は目を細めた。


レイラはそのまま爺に抱きつく。

その温もりに、昨夜の甘さとはまた違う安心があった。



⸻



テュエルは剣の指南を終えた後も、休む暇などなかった。


彼が管理する仕事は予想以上に多く、

女官、宦官、兵士……

次々に話しかけられ、仕事を押しつけられ、

“テュエル様〜♡”という黄色い声まで飛ぶ。


レイラ

(……テュエル、忙しそうだな……)

胸の中に小さく黒いものが渦を巻く。


そして、さらに最悪な追い打ち。


女官がテュエルに異様に近い。

袖を引っ張ったり、胸を押しつけたり、

ひどい者はわざと体をくっつけてくる。


なのに――


テュエルはいつもの爽やか笑顔。


レイラ

(………………)

(……なんか……)

(…………ちがう……)


じわじわともやもやが溜まる。


⸻



少しの隙をついて、

テュエルがレイラのもとへ走ってきた。


「レイラ様……! お待たせしました……!」


だがその笑顔は、どこか引きつっている。


レイラ

(……引きつってる)

(……私のところに来るの、無理してる?)

(……たくさんの…女官の匂い…………)

(……嫌……)


レイラ

「べつに、待ってない」

「忙しいなら無理しなくていい」

「戻っていい」


ぷい、と視線を逸らす。


テュエル

「無理などは……」

(やっと会えたのに?!)


だがその思いも虚しく、また邪魔が入る。


女官

「テュエル様〜!こちらの荷物はどこに?」


宦官

「テュエル様!書物の整理方法を……!」


テュエル

「あ……少々お待ちください。

 レイラ様ーー」


レイラ

「早く行け。

 待たせないでやれ」


氷のような声。


テュエル

「…………はい……」

(ほんっっっとにこいつら黙れ)

(俺の唯一の安らぎの時間を……)


心の中で地獄のように毒づきながら、

テュエルは仕事へ戻る。


⸻


「はぁ……」


(冷たくしすぎた……)

(でも……あんなに女の匂いをつけて……)

(……不快……)

(嫌……)


じわじわと、胸の奥がきつくなる。


嫉妬と不安が、丸一日かけて熟成されていく。


そして夜――

 事件は起こる。


――――


夜


昼間の出来事が胸に引っかかっていた。

(あんな言い方……流石に…冷たく…しすぎた……)


レイラは、夜になっても戻らないテュエルを心配して

冷たい回廊をそっと歩いていた。


テュエルのほのかな匂いが、夜気に混じる。

(……こっち……)


導かれるように物置部屋の方へ足が向く。


──────────────────────



物置部屋の前。

灯りがぼんやり床を照らす。

そして――

女官が一線を越えようとしていた。


※女官は“荷物のことで手伝ってほしい”と口実をつけて呼び出した。


女官

(今日こそ……今日こそ……♡

 テュエル様に触れられる……

 思い出…残すんだ…♡)


息は妙に熱く、

目はうるみ、頬まで赤い。


それは“恋”ではなく、

完全なる“執着”だった。


背後から滑るように近づき、

震える指先をテュエルの背へ伸ばす。


ちょうど――

抱きつくように見える角度で。


女官の胸の中には歪んだ思い込みが渦巻いていた。


(テュエル様……なんてお可哀想に……)

(姫様はシャガル様とばかり……)

(お昼もあんな冷たい言葉……)

(私が……私だけが……慰めて差し上げられるのに……♡)


「テュエル様……♡

 私が……慰めて差し上げます……♡」


腕を回そうとした――その瞬間。


テュエルの手が、氷のように冷たく女官の手首を掴んだ。


「……触れるな」


声は低い。

低いどころか、底が抜けていた。


女官

「テ、テュエル……さ……ま……」


笑おうとしたが、

頬が引きつっている。


なぜなら――

テュエルの眼は笑っていなかった。


完全に無表情。

温度ゼロ。

光すらなく、


ただ、

“殺意だけがある瞳”。


「…何をする気でしたか」

「その手を、二度と俺に向けるな」


(近寄るな……)

(俺は、レイラ様のために存在している)


───────────────────────


だがその構図は、


・女官がテュエルの背に腕を回す角度

・テュエルが彼女の手首を掴んでいる姿勢


遠目にいる者には

“抱きしめられている”

としか見えなかった。


廊下の手前に立っていたレイラも、例外ではない。


レイラ

(…………え……?)


胸の奥に、鋭い槍が突き刺さったような痛み。


(……やだ……)

(いや……そんな……)

(見たくない……っ)


レイラの目には、

テュエルが女官の身体を支えているように映る。

女官が嬉しそうに身を預けているように見える。


距離が近い。

触れ合っている。


そして――

レイラの鼻先を、

女官の濃い愛の匂いが刺した。


“テュエルを欲している匂い”。


(……いやだ……っ)


足が震え、

視界がにじみ、


レイラは反射的に走りだした。

振り返る余裕なんてなかった。


───────────────────────



女官の手首を掴んだまま、

レイラが背を向けて駆けていくのが視界の端に映る。


テュエル

(…………?)

(レイラ様……?)


次の瞬間、

テュエルの心がずるりと沈む。


(……見られた……?)

(レイラ様……!

 まさか……これを……?勘違いして……?!)


レイラを追おうと踏み出した足を、

女官が袖を掴んで引き止める。


女官

「テュ……エル、さま……ぁ……♡」


そして――

殺気を感じながらも、

着物の襟に手をかけて脱ごうとする。


完全に発情した獣の目。


その瞬間、

テュエルの表情が完全に凍った。


「離せ――」


声は静かだが、

鋭すぎて空気が裂ける。


「今すぐ物置を出ろ。

 次に近づいたら……手首などで済まん」


女官の顔は真っ青になり、

震えながら逃げていく。


テュエルは彼女の背を見る余裕すらない。


レイラしか見えていなかった。


(……逃げた……

 俺から……?)

(レイラ様……俺を……信じていないのですか……?!)


胸に痛みが走る。


(待ってください……レイラ様……)

(行かないで……!)


そして――

テュエルは全速力で走り出した。


ただ

レイラを取り戻すために。


――――


テュエルが慌てて追う。


「レイラ様ッ!!」


階段の影、庭への出口。

そこでようやく、テュエルの手がレイラの腕を掴む。


「レイラ様、待ってください…!!

 逃げないでください……!!」


ぎゅっと後ろから抱きしめられる。


レイラ

「っ!触らないで!!」

「テュエルなんて…嫌い!!」


振りほどこうとしても、テュエルは絶対に離さない。


「そんなにしたいなら……

 女官とでもすればいいじゃないか……!!」


泣き声で吐き出されたその言葉で、

テュエルの空気が一瞬で凍りついた。


音もなく、気配が変わる。


低く、鋭く、震えるほどの怒気。


「……全く。あなたは……」

「何を見ていると言うんですか?」

「今まで……何を、俺の隣で見てきたのですか……?!」


レイラ

「……っ」


テュエルの声が、震える。荒くなる。

怒りで、悔しさで、そして――愛で。


「俺が……」

「この俺が……!!」

「あなた以外の誰に触れられて、喜ぶと?!」

「あなた以外の誰に……欲情すると言うのですか……!!」


レイラを抱く腕が、ぎゅうっと締まる。

逃がす気など一切ない力。


「レイラ様以外……要らない」

「レイラ様以外……見えない」

「レイラ様以外……触られたくもない!!!!」


しかし、それだけでは終わらない。


テュエルの声はさらに低く沈む。

底の底に沈んだ、独占の色。


「ふざけないでください……!」

「俺を見くびらないでください……!」

「甘く、見ないでください……!!」


「俺の気持ちを……っ……」

「俺が……どれほどあなたを欲しているか……」

「俺が……どれほどあなたを愛しているか……」

「どれほどあなた以外を拒絶しているか……」


そして――

ついに抑えきれず、耳元で囁く。


「……俺の世界には、あなたしかいないんです」

「他の誰かが俺に触れるなど――ありえない」

「ありえないんですよ……レイラ様……」


最後の言葉は、震えるほど必死で。

まるで“狂気と愛情の境目”のような声音だった。


その必死さに押されて、レイラの感情も爆発する。


「……っ……じゃあ!!」


振り向きざま、涙の目で睨む。


「なんで触らせた……!」

「なんで……触るんだ……!!」


「…やだ……!!」

「やだよ……!!!」


「テュエルは……私のなの……!!」


「私のなのに……!!」


嗚咽混じり。


「テュエルの……ばかぁ……!」

「取られたくない……っ」

「取られたくないよぉっ……!!」


胸に拳でぽす、ぽすと弱く当てながら。


「テュエルに触ってほしいよぉ……」

「テュエルと……したいよぉ……」

「ばかぁ………っ」


その瞬間――


テュエルの呼吸が止まり、胸の奥で何かが弾けた。


瞳が大きく見開かれ、

そこには理性の影すらない。


レイラを抱く腕が震え――

それは怒りではなく、歓喜に近い震え。


「……レイラ様……」


掠れた声で、噛みしめるように。


「そんなことを……」

「そんなことを俺に言って……」


息が震える。


「俺が……我慢できるはずが……ないでしょう……!」


涙で濡れたレイラの瞳を見た瞬間、

テュエルの目がゆっくりと細められ、熱を帯びる。


「あなたに触れたいと……どれほど思っていたか……」


レイラの腰を一気に引き寄せ、

逃げられないように抱きしめる。


耳元で、囁きとも唸りともつかない声。


「そうです……」

「そうです……!!」


レイラの肩へ額を押し当て、震える呼吸で続ける。


「俺は――」

「レイラ様……あなただけのものです……!!」


抱きしめる腕がさらに強くなる。


「あなた以外に触れられるわけがない……」

「あなた以外を欲しがれるわけがない……」

「あなた以外を抱きたいと思うはずがない……!!」


レイラの顎を掴んで顔を上げさせ、

まっすぐに、どこまでも狂おしく囁く。


「だから……そんなふうに泣かないで…」

「そんな顔で……」

「そんな声で……」

「俺を呼ばないでください」


「あなたが望むなら……俺は……」


唇が触れる距離。

テュエルの呼吸が、レイラの肌を震わせた。


「全部……あなたに捧げます」


その瞬間――

テュエルはゆっくりと、レイラの唇に触れた。


押し倒すような激しさはない。

けれど、逃れられないほどの熱があった。


ふれるだけのはずなのに、

厚みのある、深く甘い“誓いの口付け”。


レイラの震えを、

涙ごと包み込むような。


触れる。

離れない。

ただ静かに重ねる。


「……レイラ様」


囁きが唇にかかる。


「あなたが望むなら、俺はどこへでも堕ちます」


夜の闇の中、ふたりだけの世界が音もなく閉じた。


レイラを抱き上げた腕は強いのに、

その表情は壊れそうなほど優しい。


涙で濡れたレイラが胸元にしがみつくたび、

テュエルの心も、理性も軋んだ。


「……大丈夫です、レイラ様」

「今……部屋へお連れしますから」


低い声が震えている。


物置の廊下を抜け、静かな中庭へ続く渡り廊下へ出た瞬間――

空気が変わった。


さっきテュエルに絡んでいた“あの淫らな女官”が立っていた。

その隣には、宮内の事をよく知る先輩女官が二人。


彼女たちは驚いた目で

“テュエルに抱きかかえられているレイラ” を見た。


レイラは泣き顔のまま、必死に服を掴んでいる。

テュエルはそれを包み込むように抱いている。


女官たちの視線が刺さる。


その視線に、テュエルの中の何かが“静かにキレた”。


──勘違いするな。


──俺を慰められる女など、この世に一人しかいない。


歩みを止めたテュエルは、レイラの腰を支えたまま

ゆっくりとレイラの顎を指で上げた。


レイラ

「……テュ、エル……?」


次の瞬間。


テュエルはレイラに、深く、美しい口付けを落とした。


音も、息も、すべて奪うような――

まるで「これは俺の妻だ」と世界に刻み込むような。


女官たちが息を呑む。


レイラ

「……ん……っ……」


目の端に涙を浮かべて、レイラはテュエルにしがみつく。


テュエルはなおも唇を重ねながら、

背後の女官たちへ、ちらりと目を向けた。


その瞳は、氷のように冷たく笑っていた。


(勘違いするな)

(俺はレイラ様以外、糞でしかない)


とでも言いたげに鋭い目を向け、

笑顔に見えるのに、

“絶対に近寄るな” と突きつける殺気が宿っている。


口付けを終えると、テュエルはレイラの額にそっと唇を当て、抱き直して去っていく。


廊下に取り残された女官たち。

その場の空気が凍る。


この騒動を起こした女官は

は呆然として震えている。


すると、近くにいた年長の女官が

肩をぽん、と叩く。



先輩女官A

「……あー……言ったでしょ?」


先輩女官B

「あなた、新しく入ったばかりだから

 知らなかったんだろうけど……」


二人が顔を見合わせる。


先輩女官A

「正直に言うけど……シャガル様よりよっぽど怖いわよ、テュエル様は。」


先輩女官B

「ええ、誰にでも微笑んではみえるけれど……

 あの眼の奥には“レイラ様しか映っていない”の。

 関わろうとするほうが愚かってこと。」


新入り女官

「……え………?」


先輩女官たちがため息。


先輩女官A

「というか、あの方は……

 レイラ様以外に触れられることを、まるで“災い”のように思っておられるんだよ?」


先輩女官B

「だから今日あなた、

 一番やっちゃいけない地雷……踏んだのよ。」


新入り女官

膝から崩れ落ちる。


先輩女官A

「まあ、まだ生きてるだけ、運が良かったわよ」

「本気で怒らせたら…まずかったわよ…凍るからね?」


二人は肩をすくめ、ため息を混ぜて去っていく。


──静寂が戻る。


回廊に残されたのは、

ただレイラを抱き上げるテュエルだけ。


灯火が揺れ、影が彼の横顔を切り取る。


そして、誰にも聞こえないほど小さく。


「……レイラ様」

「俺に触れていいのは……」

「俺を泣かせていいのは……」

「あなた一人だけです」


そのまま、レイラを抱いた腕を緩めることなく

ゆっくりと自室へ歩き出した。


───────────────────────


扉が閉じると同時に、

レイラの体をそっと寝台へ座らせる。


テュエルは膝をつき、

レイラの手を包み込むように握った。


「……さっきのは」

「あなたが……泣いて、俺の名を呼ぶから」

「もう、抑えられないと思って……」


広い肩が震える。


そして、レイラの手に口付けを落としながら囁く。


「……夜は、これからです」

「レイラ様」


そして二人は、

外の世界を忘れる夜へ落ちていく。


――――――


そして――


その夜、二人は互いの温もりを確かめるように、静かに寄り添っていた。


触れ合うたびに、レイラの胸に残っていた不安が、ひとつずつほどけていく。


嫉妬も。

寂しさも。

「自分は愛されているのだろうか」という、あの苦しい気持ちも。


少しずつ、消えていった。


「……テュエル……」


レイラはそっと手を伸ばした。


探し当てた彼の手を、きゅっと握る。

指を絡めるようにして、離れないように。


そして――

胸の奥にあった本音を、静かに口にした。


「不安にならないように……」


一度、言葉を止める。


それでも、今夜だけは隠したくなかった。


「テュエルと……一つになれたら……いいのに……」


「…………っ」


テュエルの呼吸が止まる。


(……レイラ様……)

(そんなことを……言われたら……)


抱き寄せる腕に、思わず力がこもった。


ぎし、と寝台が小さく軋む。


「……っ」


レイラがかすかに息を呑んだ。


その声に、テュエルはすぐに我に返る。


「す、すみません……!」

「つい……」


申し訳なさそうに眉を下げる。


(やってしまった……)

(抑えなければ……)


けれど――


レイラはそんな彼の頬へ、そっと手を添えた。


「……いい」


囁くような声。


「抑えないで……」


テュエルの瞳が揺れる。


「……レイラ様」


「抑えないで、いい……」


恥ずかしそうにしながらも、

レイラは目を逸らさなかった。


その言葉に、テュエルはしばらく何も言えなくなる。


「……抑えないで、など……」


額をそっと重ねる。


互いの吐息が触れる距離。


「そんなことを言われたら……」

「もう……保てるはずがありません……」


レイラは小さく笑った。


そして、彼の手をもう一度握り直す。


「……いいの」


「テュエル……」


「もっと……欲しがって……」


その瞬間、テュエルの表情が揺れた。


「……レイラ様」


苦しそうに、けれど愛おしそうに名前を呼ぶ。


「ダメです……」

「そんなこと……言わないでください……」


「どうして……?」


「あなたにそんなふうに求められたら……」


言葉が途切れる。


それでも、レイラは彼を見つめ続けた。


「……私を、見てよ」


その声は、とても小さかった。


けれど――

テュエルには、はっきり届いた。


彼は迷うことなく答える。


「見ています……ずっと」


その瞳には、レイラしか映っていない。


「あなたしか……見えない……!」


その言葉を聞いて、

レイラの胸の奥が、じんと熱くなる。


ずっと欲しかった言葉だった。


だから今度は――

自分から伝えた。


「……テュエルの……好きにして……」


テュエルの身体が、ぴくりと震える。


「……レイラ様……」


抱きしめる腕に力がこもる。


「これ以上……煽らないでください……!」


声が震えている。


「そんなに求められたら……」


一度、目を閉じる。


「……壊してしまう……っ」


レイラはその言葉を聞いて、

そっと彼の首へ腕を回した。


額を寄せる。


そして、安心させるように囁く。


「…………うん」


「テュエルなら……いい……」


その一言に――

テュエルの瞳が、滲むほど熱を帯びた。


しばらく何も言わず、

ただレイラを見つめる。


やがて、確かめるように尋ねた。


「……全部……委ねますか?」


レイラは少しだけ目を伏せた。


けれど次の瞬間――


こくん。


小さく頷いた。


「……うん……」


その返事だけで、十分だった。


テュエルはレイラを強く、けれど壊さないように抱きしめる。


もう、不安にさせない。


もう、寂しい思いをさせない。


言葉にしなくても、そんな想いが伝わってくる。


レイラもまた、その腕の中で目を閉じた。


今だけは――

何も考えなくていい。


愛されている。


それだけを感じていればいい。


灯火が静かに揺れる。


やがて二人の影はひとつに重なり――


夜は、誰にも知られることのない二人だけの時間へと、静かに沈んでいった。

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― 新着の感想 ―
良すぎる!! レイラへの想いを押さえつけてる最中に、女官からの突然の奇襲……テュエルを想うと、邪魔するな!と一緒になって腹も立ち、レイラを想えば言い出したのはレイラでも、不安になってしまう気持ちもわか…
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