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双国ノ巫女 〜愛されることを諦めた姫が愛を知る物語〜  作者: Su
選ばれた理由、選び続けた想い
199/226

禁欲三日目、レイラが求めた


門兵を牽制した直後


引き止められず、門兵と三人だけが残される。


テュエルが一歩前に出て、静かに――だが有無を言わせぬ声で告げた。


「……レイラ様はボクの奥さんです。

 あなたが口を挟む必要はない。」


さらりと微笑んでいるが、目は笑っていない。


シャガルも肩で風を切るように前へ出る。


「余の妻の話を聞けるのは、余と猿だけだ。以上だ。」


二人の放つ圧は、もはや“殺気”と呼ぶほかなかった。


門兵は一瞬で顔色が青褪める。


「し、失礼しました!!!」


(ガチで命の危機…!!)


逃げるように立ち去っていった。


沈黙が落ちる。


シャガルがぽつりとこぼした。


「……レイラ、泣いておったな。」


テュエルは、ぐっと唇を結び――そして小さくうなずいた。


「…………はい。

 寂しい想いを…させてしまっているのですね。」


シャガルは深く息を吐く。


「あぁ…。

 もう、理性が、自制心が、など言ってられぬな。」


「はい。作戦は白紙です。」


「うむ。」


二人とも、レイラが涙を落とした時点で、

“我慢させよう”という計画は跡形もなく吹き飛んでいた。


⸻


夜 ―― レイラの部屋


(逃げてきちゃった……)

(勝手に“添い寝したいけど、したくない”なんて条件つけて……)

(今さら寂しいなんて……私は自分勝手すぎだ……)


胸の奥が痛む。

布団にもぐり、声を押し殺して泣いた。


(女官達に囲まれてるテュエルもシャガルも、皆に優しくしていただけ…ただそれだけなのに……)

(嫉妬して……心が狭い……私なんて……)

(こんなんじゃ、愛想尽かされても当然だ……)


(……抱きしめてほしい……

 してもいい……してもいいから……

 二人の温もりがほしい……)


孤独が押し寄せ、肩が震えた。


⸻


二人、レイラの部屋前で鉢合わせ


同じ時間、同じ理由で、二人はレイラの部屋前に来てしまう。


シャガル「……はぁ…」


テュエル「…………」


視線が合う。


二人「考えてることは……」


「「一緒だな?」」


完全にハモった。


無言で戸を開ける。


⸻


寝台へ歩み寄ると――

布団の中から、かすかな声。


「ぐすっ……ぐすっ……ひっく……」


その瞬間、二人の理性はHP0。


テュエルとシャガルは顔を見合わせ、同時に息を呑む。


「…レイラ様」「…レイラ」


布団の動きがぴたりと止まる。


だが、顔は出てこない。


テュエルが困ったように声を落とす。


「レイラ様……? 一緒に寝ませんか……?」


返事はない。


(泣き顔なんて見せられない……)


沈黙に耐えかねて、テュエルがさらに優しく問いかけた。


「……レイラ様? めくっても……いいですか……?」


それでも応えない。


するとシャガルが、低い声で告げた。


「……一緒に寝るぞ、レイラ。」


その言葉で


レイラは布団からそっと顔を覗かせる。


レイラの目は真っ赤に腫れ、涙がぽろぽろ落ちていた。


「……ぅっ、ぐす……

 し、しても……いい……

 してもいいから……

 ひとりは……やだ……

 一緒に……いたい……よぉ……」


テュエル&シャガル

「……っ!!!」


可愛い、と思うより先に、胸が痛んだ。


(こんなこと……言わせてしまった……)


二人は深く息を吐き――

レイラの両隣へ滑り込むように入った。


「レイラ様……」「レイラ……」


そっと抱き寄せると、

レイラは張り詰めていたものが一気に崩れ、また泣き出す。


シャガルは優しく背をさすり、

テュエルはぎゅっと手を握る。


(テュエル……)

(シャガル……)


二人の心臓の早い鼓動が伝わってくる。


(二人の匂い……安心する……)


泣き疲れたレイラは、しばらくして眠り込んでしまった。


⸻


レイラの寝顔を見るや、二人の理性は危険域。


テュエル

(はぁ……拷問だ……

 あぁ……辛い……

 触りたい………)


シャガル

(ぐっ……

 なんだその無防備な顔は……

 触れたら死ぬ……

 だが触れたい……)


二人とも白目寸前。


テュエルの手は頬に触れそうになり、ぷるぷる震え、宙で静止。


シャガルの唇は、

レイラの少し開いた口元に吸い寄せられるように近づくも――

ギンッと理性で踏みとどまる。


二人(【辛い……!!!】)


夜は長かった。


⸻


朝


薄明かりが差し始め、レイラは眠い目をこすりながらゆっくり身を起こした。


(……朝、だ……)


両脇では――


両隣の男たちは 白目で瀕死 。

魂が半分抜けていた。


レイラ

(……二人とも……

 手、出してない……

 私のために……)


胸がじん、と熱くなる。


レイラがそっと彼らの名を呼ぶ。


「……おはよう、テュエル。シャガル」


ピクリ、と二人の身体が動く。

そして同時に――


「…………おはようございます(限界)」


「……朝か。生きておるな(限界)」


声が死んでいる。


レイラは思わずくすっと笑った。


レイラ

「二人とも……寝れなかったのか?」


テュエル(目の下真っ黒)

「…………はい。

 レイラ様が……可愛くて……尊くて……

 触りたいのに触れなくて……地獄でした……」


シャガル(無言でこめかみに青筋)

「……余はもう……二度と……

 “自制”などという言葉を信じぬ……」


レイラは頬が熱くなる。

それと同時に胸がぎゅっと締めつけられた。


――こんなに、自分を想って我慢してくれていたんだ。


レイラ

「ありがとう……ふたりとも……」


二人はその言葉だけで首元まで赤く染まり、

耐え切れず視線をそらした。


テュエル

「……今日は剣術の指南のため……

 離れますが……すぐ戻ります」


シャガル

「……レイラ、今日は余から離れるな」


レイラ

「大丈夫だ…、そんなに心配しなくても……」


二人

「大丈夫じゃない!!!!」


「………………」


朝から全力で否定された。


――――――――――――――――――――


テュエルが稽古場へ向かった後。

シャガルはいつも通り――いや、以前より自然に、

レイラの後ろを歩いていた。


無表情。

だがその無言の気配ひとつで、

近づこうとする者が勝手に距離を取っていく。


(※本人は“普通に歩いているだけ”)



────ふわり。


レイラの髪が風に揺れ、

光を受けて柔らかく煌めく。


柔らかな毛先が、

規則正しい歩幅に合わせて跳ね、

シャガルの頬を、かすかに掠めた。


シャガル

(……ふわり…と)

(……また揺れおって……)

(触れよと誘っておるのか?この髪は……)


一瞬、指が伸びかけ

ほんの半歩だけ、レイラへと距離が縮まる。


もちろん無意識。

本人だけはまったく気づいていない。


レイラ

(……シャガル……今日はいつもより近い……

 手が、かすりそう……)


ふと、彼の体温と匂いが風に混ざる。

冷たいのに甘く、深く落ち着く香り。


胸が――じん、と温まる。


レイラ

(……落ち着かない……でも……嫌じゃない……)


そんな時だった。


「きゃっ……!」


斜め後ろで女官が大げさによろめいた。

その動きは――どう見ても不自然。


抱えていた大きな花瓶を、

わざとレイラの進路へ滑らせる。


レイラ

「――っ!」


思考より先に動いたのはシャガルだった。

反射の鋭さは、もはや獣。


レイラを強く抱き寄せ、

自分の身体で庇う。


ガシャァァン!!


花瓶が粉砕し、破片が四散する。

そのひとつが、レイラの髪先をかすめた。


息が止まる。

だが――その瞬間、レイラの身体を抱く腕が震えていることに気づく。


シャガル

「……誰だ。」


低く、空気を震わせる声。


「余の妻に……傷をつけようとしたのは」


女官

「あっ……!その……っ」

わざとらしい震え、作った涙。

背筋に悪意の匂いが走る。


しかしシャガルは聞かない。


瞳は紅く燃え、完全に“獣の目”だった。


「主の目の前で、そのような醜態……」

「もし怪我をさせていたなら、貴様――」


女官

「ち、ちが……わ、わざとでは……!」


震える声とは裏腹に、

その視線はレイラを素通りして、シャガルだけに吸い寄せられていた。


まるで

「気づいてください」

とでも言いたげな、熱のこもった目で。


シャガルの怒りは一瞬で頂点に達した。


シャガル

「……余の妻を前にして、余だけを見るとは――」

「身の程を弁えぬにも程があるぞ。」


低く、噛み殺すような声音。


女官が震え、視線を落とす。


だがシャガルの声はさらに冷えた。


シャガル

「勘違いするな。」

「余が目を向けるのは、レイラただ一人だ。」


そして――トドメの一言。


シャガル

「二度と、余の妻を“見えぬもの扱い”をするな。」

「次は許さぬ。」


レイラを抱く腕は震えているのに、

その震えは怒りだけではなかった。


怒り。

恐れ。

安堵。

愛しさ。

そして抑え切れない本能。


全部が混ざって、熱を帯びていた。


レイラ

(シャガル……そんなに……

 私のことで……)


レイラはそっと彼の胸に触れた。

紅い瞳が、一瞬ふるりと揺れる。


レイラ

「……シャガル。私は大丈夫だ。ほら、な?」


その一言に

シャガルの呼吸がわずかに整う。


シャガル

「…………レイラ」


レイラが安堵した、その刹那。


女官は小さく息を呑み――

先ほどまでの熱が一気に冷め、

自分が“やらかした”ことに気づいたように青ざめる。


そして形だけ深く頭を下げ、


「し、しつれい……い、いたしました……っ」


声は震え、足取りも覚束ない。

逃げるようにその場を後にした。


レイラ

(……今の……絶対わざと…だな。)


シャガル

「…………レイラ」


喉が震えた。


「余は……お前が怯えるのも、

 傷つくのも……もう見たくない」


レイラを抱く腕が、きゅっと強くなる。


レイラの胸が温かく締め付けられた。


レイラ

「大袈裟だぞ……本当に……」


言葉とは裏腹に、

心の奥がじわりと甘く痺れた。


(……こんなふうに抱かれたら……

 改めて…好きって……思わされる……)


シャガルの香りが深く近づく。

冷たいのに、内側は熱を孕んだ甘い匂い。

その気配に包まれるだけで――

下腹部が、きゅう、と微かに疼いた。


レイラ

(ぁ……だめ……こういうの……)


シャガルはレイラの髪をすくい上げ、

そっと口づけた。


シャガル

「余は……お前の隣にいる時の方が、

 よほど理性が危うい。」


「……早く、触れたい。

 お前に」


その視線は、

狂おしいほど深いのに、

どこか必死で――ただただ真っ直ぐ。


レイラ

(……っ……)


胸の奥が弾けるように熱くなる。

足元がふわりと浮くような感覚。

息が吸いづらいほど甘い。


まるで、

心の中心ごと掴まれてしまったように。


レイラ

「シャガル……守ってくれて……ありがとう……」


その囁きに、

シャガルは静かに微笑む。


けれどその笑みの奥にあるのは、

“愛しすぎて、恐れる”ほどの執着だった。


――


夜


自室に戻ったレイラは、胸に手を当てたまま動けずにいた。


昼の出来事が、何度も頭の中で反芻される。


(シャガル……私のために……

 あんなに怒って……

 あんなに強く抱きしめて……

 震えて……)


思い返すほど、胸が熱くなる。


(優しかった……

 力強かった……

 怖いほど……“欲されている”って……感じた……)


そして――


(……あんなふうに守られたら……

 私だって……)


下腹が、きゅうっと甘く疼く。


昼間に覚えたあの熱が、またじわじわと身体の奥に灯り始める。


「…………」


気づけば、レイラは部屋を出ていた。


ただ、歩く先ははっきりしていた。


辿りついた先は――


シャガルの私室。


「……」


コン、と小さな音だけで戸を叩く。


(気づかれなければ……帰ろう……

 変な期待なんて……したく、ない……)


そう思った矢先――


戸が、すぐに開いた。


「……レイラ?」


ゆるりと顔を出したシャガルは目を瞬かせた。


「どうしたのだ……

 また眠れないのか……?」


(“添い寝…か”…?

 また……理性との……戦い……)

一瞬だけ、シャガルの意識が白目になる。


だがレイラは返事をしない。

ただ俯き、指先をもじ、と揺らすだけ。


シャガル

「……レイラ?

 何が、あった……?」


レイラ

「…………ぃ……」


「……?」


「シャ……ガル……と……ぃ……」


「聞こえ――」


聞こえない、と言おうとしたその瞬間。


──レイラの腕が、ふわりと彼の首の後ろへ回された。

触れた瞬間にわかるほど、

その腕はかすかに震えていた。


熱い体温がぴたりと触れ、レイラが抱きついてくる。


そして耳元で震える声。


「シャガルと……したい……」


シャガル、固まる。


(…………)

(………今……なんと……?)

(…レイラが……余に……?)


レイラは瞳をぎゅっと閉じ、

羞恥に耐えるように肩を震わせていた。


顔は真っ赤に染まり、

指先まで強張って小さく震えている。


それでも――

逃げずに、言葉を絞り出した。


「シャガル……。

 だ、抱いて……。

 シャガルに……触れてほしい……」


声だけでなく、

腕も、身体も、かすかに震えている。


熱い吐息。

震える声。

触れた場所から体温がとろけ落ちる。



その必死さが――

シャガルの胸の奥を、完全に撃ち抜いた。


目がゆっくり細められ、

その奥が獣のように紅く光る。


「……今すぐだ」


低く、喉の奥でくぐもる声。


レイラの腰を強く、逃がさぬように抱き寄せ――

そのまま、戸を静かに閉めた。


カタン――


――――


戸が閉まった瞬間――

空気が変わった。


レイラを壁際に追い詰めるように、

シャガルの手が戸に添えられる。


逃げ場を塞ぐ、獣の影。


「……レイラ」


低い。

喉の奥で熱が震えている。


レイラは息を呑む。

その刹那――


シャガルの唇が、噛みつくように落ちた。


深く、強く。

まるで長く飢えていたものを

やっと手に入れた、と言わんばかりに。


レイラ

「……っ!」


肩がびくりと震える。

戸が背にあるのに、

口付けの衝撃で身体が押しつけられる。


シャガルの片腕がレイラの腰に回り、

ぎゅうっと、逃がさぬように抱き寄せる。


「……お前が“したい”と言った瞬間……

 余が静かにできると思うな」


唇が離れるたび、糸が光る。


「……その言葉を聞いた時点で……

 もう余は、お前を離す気などない」


囁きは完全に理性を失っていた。


シャガルはレイラの腰を掬うと――


そのまま、戸を背にしたまま抱き上げた。


レイラ

「シャガ……ル……!」


足が宙に浮き、

服の裾が揺れ、腕の中に収まる。


シャガルの瞳は紅く、熱く濡れている。


「……寝台まで待てと言うのか?」


息が触れ合う距離で、

獣のように笑う。


「無理だ。

 今すぐ……お前が欲しい」


また唇が落ちる。

今度は戸とシャガルに挟まれたまま、

身体の芯が震えるほど深く。


レイラ

(……だめ……

 こんなの……逃げられない……)


でも――逃げたくなかった。


シャガルの指先がそっと頬をなぞる。

レイラの瞼がとろりと落ち、

口元が甘く緩む。


完全に、彼に委ねる形。


その表情を見た瞬間――

シャガルの喉がぐっと鳴る。


呼吸が抑えきれず熱を帯びる。


「……レイラ」


低い声が震える。


「レイラ……。

 そんなに余を求める顔をするな……

 奪いたくなる……」


「うん…。シャガルに……触れて……ほしい……」


レイラのか細い声が届いた瞬間、

シャガルの喉が熱をこらえるように鳴る。


レイラの腰を抱き上げる腕に力がこもり、

そっと額を重ねてから囁く。


「……このまま寝台へ運ぶ。

 お前を、もう離したくない。」


レイラは息を吐き、

かすかに首を傾けてシャガルに寄り添う。


(…私を…シャガルの………好きにして……)


その無言の願いが、確かに伝わった。


シャガルの瞳がさらに熱を孕み――

レイラはそのまま寝台へと抱き上げられた。


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