週一では、足りません
(……ん……朝……?)
瞼を開いた瞬間、視界いっぱいに
テュエルの鎖骨と腕が飛び込んできた。
昨夜の熱がまだ胸に残っていて、
その記憶が一気に蘇る。
(…………っ!!)
レイラは思わず両手で顔を覆った。
冷静に考えれば考えるほど――
“私は昨夜、とんでもないことを口にしたのでは?”
という焦りが胸を走る。
でも――すぐ気づく。
テュエルの腕が、しっかり自分の腰を抱きしめていることに。
「逃がさない」「離さない」と静かに主張するように。
(……テュエル……)
昨夜よりずっと穏やかで、
優しくて、安心する匂い。
幼い頃から、この匂いがそばにあると
すぐ眠くなってしまったのを思い出す。
(……幸せだな……)
気づけば、指先でテュエルの腕をそっとなぞっていた。
しばらく静かに見つめ――
レイラは自然にテュエルの頬へ、
小さな口付けをひとつ落とす。
テュエルのまつ毛がぴくりと震えた。
「……ん……」
ゆっくり瞼が開き、
レイラの微笑みに焦点が合う。
「すまない、起こしてしまったか?」
「……おはよう、テュエル」
距離が近い。
呼吸ひとつ分。
テュエルは寝起きの低い声でつぶやく。
「……今……のは……?」
レイラは頬を少し赤らめて答える。
「……おはようの……口付け……だ」
――その瞬間。
テュエル、秒で覚醒。
(今の……今の……レイラ様から……?
俺に……?
自主的に……?)
胸の奥で“ぼっ”と音を立てて火がつく。
(……まずい……)
(いや……違う……)
(これは……俺のせいじゃない……)
火は一瞬で燃え広がる。
テュエルの声が危険な温度に落ちる。
「レイラ様……」
「今……俺に火をつけたの、分かっていますか……?」
レイラ「…………っ///」
次の瞬間、視界がふっと影に包まれた。
「テュ、テュエル……!」
「……レイラ様が、そんな可愛い真似をするから悪いんですよ……」
耳元に落ちる低い囁き。
そのあと――
昨夜より甘く、深く。
朝から完全に自主規制案件だった。
ーーーー
(……遅い)
(……ん?)
(……何をしておる……?)
(なぜ二人して遅い??)
シャガルの眉がぴくりと跳ね上がる。
昨日の夜の空気。
そして今の遅れ。
(……あの……猿が……)
長椅子で足を組み、腕も組み、
めちゃくちゃ不機嫌な王子の顔で待ち構える。
ようやく現れた二人はというと――
レイラ、髪ふわっふわ。
テュエル、つやつやでキラッキラ
シャガル
「…………………………」
(貴様……やりおったな?)
テュエル
(ええ、もちろん^^)
(取り決め通りですから) ←ドヤ顔
視線だけで殺し合いを始める二人。
レイラ
(あぁ……もうめんどくさい……)
そこでレイラはゴホンと咳払いし、
二人の喧嘩を強制停止させる。
レイラ
「ちょっと……三人だけで話せる部屋に行こう。
会議室だ…話がある」
シャガル&テュエル
「?」
その一言で、
二人は反射で姿勢を正し、レイラの後について歩く。
――そして三人は会議室へ移動し
部屋に入り、扉を閉めると――
レイラはもじもじしながら二人を見上げた。
シャガル
「どうした、レイラ。改まって」
テュエル
「聞かれてまずい話なのですか?」
レイラ
「その……あの……」
二人
「?」
レイラ
「……最近、その……
“しすぎ” ではないだろうか……?」
「だから……【取り決めの改良】を提案したい……」
言い終えて俯き、頬を赤らめる。
テュエル
「…………」
シャガル
「…………」
(理解が追いつかず、沈黙)
レイラ
「ほら……”しすぎ”て……
淫乱みたいだろう……?
破廉恥だ……」
その言葉に、テュエルとシャガルが 一瞬だけ 目を合わせた。
そして、いつもの心の会話。
シャガル(心の声)
(これはまずいぞ、猿!)
テュエル(心の声)
(ええ……これは異常事態です!)
シャガル&テュエル
(……停戦だ……)
二人は同時に頷いた。
テュエル
「そんなことありません」
シャガル
「そんなことないぞ!!」
(ぴったりハモる)
レイラ
「……っ!?」
圧に押されながらも、反論を続ける。
レイラ
「そんなこと……あるだろう……」
テュエル
「いえ、レイラ様はまったく悪くありません」
シャガル
「そうだ。お前は優しいだけだ」
レイラ
「……でも、少しくらい…減らした方が……」
シャガル&テュエル
「具体的には!?!?」
(圧がすごい)
レイラ
「えぇと……週に一回とか……
いや、2週に一回……?
それくらいがちょうど良くないか……?」
テュエル
「………………」
シャガル
「………………」
レイラ
「あっ、でも添い寝は別にいいぞ……?
一緒に寝たくないわけじゃないしな……
二人の匂い、安心するし……」
“ぽっ”照れながら微笑むレイラ。
――煽っていることに完全無自覚。
シャガル(心の声)
(……は……? 添い寝“だけ”…?)
(どう考えても無理だろうが……!)
(この女……本気で言っておるのか?)
テュエル(心の声)
(はぁ…無自覚ですね……レイラ様……)
(それは……煽っているんですよ……)
レイラ
「どうだ? よくないか?」
きらきら顔。
沈黙0.5秒。
次の瞬間――
シャガル&テュエル
「よくない!!!!!!」
レイラ
「……ぇっ……?」
シャガル
「週1など足りるわけがない!!」
テュエル
「レイラ様、真剣に考えてください!!」
二人の必死さが尋常じゃない。
レイラ
「え? なにがそんなに……?
……少ない……のか?」
テュエル
「当然です」
シャガル
「当然だ!」
(この時だけ異様に仲がいい)
レイラがたじろぐと、二人は同時に前へ。
テュエル
「レイラ様……
恥ずかしがるのは可愛いですが……」
シャガル
「“しない理由” にはならん」
レイラ
「……そう…だろうか……」
俯くレイラ。
テュエル
「まず、誤解を解かねばなりません」
レイラ
「……?」
テュエル
「“頻度が多い=淫乱” ではありません」
シャガル
「あぁ。それは誤解だ」
レイラ
「……そうなのか?」
テュエル
「えぇ。むしろ、愛情が深く、
信頼が強い証です」
シャガル
「たまにしかしない方が、不安になるぞ」
レイラ
「不安……?」
テュエル
「“自分だけが求めすぎているのでは” とか……
“嫌われたのでは” とか……」
シャガル
「誰かに取られるのでは、とか」
(説得というより命がけ)
レイラ
「……そういうものか…?でも…それは困るな……」
しゅん、と肩を落とすレイラ。
シャガル&テュエル
(よし、食いついた)
シャガル
「レイラ……
余とするのが、そんなに嫌か……?」
レイラ
「え……?」
テュエルはそっとレイラの手を包む。
テュエル
「昨夜……あれほど抱きついてくださったのに……」
レイラ
「っ……!」
シャガル(心の声)
(ほう……昨夜はそんな……?)
ピキリ。
テュエル
「……あれは…嘘ではなかったはずです」
シャガル(心の声)
(……卑怯だが……効く……
よし、やるぞ、猿……)
レイラの顔は一気に真っ赤。
シャガル
「レイラ。
“したくないのにさせられていた” なら問題だが……」
「お前は……嫌だったか……?」
レイラ
「っ……!」
シャガル
「そう……なのか……?」
(妙に色気を出して指を絡める)
レイラ
「…嫌……じゃ……ない……」
シャガル
「そうか!! よかった!!」
テュエル(心の声)
(シャガル……よく言った……!)
シャガル
「では聞く。
“したくない” のか?」
レイラ
「そ、そんなことは……///」
目をそらし、頬にうっすら熱。
声は小さく、震え気味。
シャガル
「したいか、したくないかだ。」
レイラ
「……い……じわる……」
「ずるい……よ……」
ほんのり涙目。
テュエル
(その顔……反則だ……)
(可愛すぎる……)
シャガル
「どっちだ?」
レイラ
「……した…い……」
シャガル&テュエル
「ぶっ……………」
(鼻血不可避)
━━ レイラの一撃、致命傷 ━━
レイラ
「じゃあ……しすぎ問題は……」
シャガル&テュエル
「問題なし!!」
またハモった。
シャガル
「したい時にする。それこそ最善だ!」
テュエル
「ええ。回数の調整など無意味です!」
レイラ
「なんなんだ…お前たち……
こんな時ばかり仲良しで……」
テュエル
「必要な時は組むだけです」
シャガル
「目的が一致しているからな」
レイラ
「目的……?」
ぱち、と瞬きをして見つめ返す。
【目的=レイラが “しなくなる未来” を阻止】
レイラ
(……私の案、なにも通らないじゃないか……)
――そこで、ふとレイラは何かを思いつく。
レイラ
「一つだけでいい……
通してほしい案がある」
シャガル&テュエル
「なんだ?」
「なんですか?」
レイラ
「“私がしたい時は、絶対に断らないこと”。
取り決めに入れたい」
――完全なる無自覚。
テュエル
「…………ッ!?」
(こ、殺す気か……!?)
シャガル
「…………!!?」
(まて……それは……死ぬ……!)
瞬間、二人とも固まる。
レイラ
「……お互い様、だろ?」
【レイラ、まさかの正面突破(無自覚すぎる反撃)】
テュエル(内心)
(“レイラ様が望む時に断れない”……?
正気でいられる未来が……見えない……)
シャガル(内心)
(いやいやいや……!
お前、相手が余と猿だぞ……!?
想像して言ってるのか……!?)
━━ 二人、脳内で未来を想像 ━━
ーー レイラに突然抱きつかれる
ーー 耳元で「……したい……」と言われる
ーー 首元に顔をすり寄せられる
── 死ぬ。
── 幸せすぎて死ぬ。
普通に死ぬ。
テュエル
「……レ、レイラ様……?
その……“いつでも”とは……」
レイラ
「いつでも、だ……
断られたら……私だって……寂しい……」
「二人は…私のこと…好きなんだろう…?」
肩がほんの少しだけ、強ばっている
テュエル
「す、好き……というか……
もうその……生きる理由みたいなもので……」
シャガル
「……好きだと言っただろうが……
何度言わせる……
浅い思いでは…ない」
レイラは首を傾げ、静かに見つめる。
“通していいのか?”
と言わんばかりに。
テュエル(内心)
(……断る理由は……ない……)
(むしろ願ってもないが……)
(危険だ……甘すぎる……!)
シャガル(内心)
(くっ……反論できん……)
(これは……罠……!
あまりに甘美な……!!)
二人はまた視線だけで会話する。
シャガル
【……おい猿、どうする……】
【レイラに“したい”と言われて断れるか?】
テュエル
【断れるわけがないでしょう……】
【あの可愛さで言われて……生きていられる自信がありません……】
シャガル
「……詰んだな」
テュエル
「ええ……詰みましたね……」
レイラ
「何がだ?」
テュエル
「……わかりました。
その案件は通しましょう…」
シャガル
「うむ」
レイラ
「いいのか? よかった……」
ほっと息をつく。
シャガル&テュエル
(かわいい……♡)
レイラ
「でも、とりあえず一週間くらいは休ませてくれ」
シャガル&テュエル
「なっ……!!?」
レイラ
「一応これでも奇跡の生還を果たした患者だったんだぞ?」
ジト目で刺してくる。
シャガル
「ぐっ……」
テュエル
「うっ……」
レイラ
「……いいだろう? 少しくらいは休みたい……」
テュエル
「……わかりました」
レイラ
「やった…!」
小さく拳を握って喜ぶ。
シャガル(心)
【なに?! 猿…いいのか?!】
テュエル(心)
【俺に考えがあります……】
【シャガル。レイラ様から……】
【“したい…”と言われたくないですか?】
シャガル(心)
【!!】
【ふ……任せたぞ】
──二人は“レイラ自発の『したい』”を引き出す作戦に移行。
テュエル
「ただし……」
レイラ
「???」
テュエル
「添い寝も……できません」
レイラ
「……え、なんでだ……?」
「添い寝はいいだろ? 一人で寝るのは……」
その瞬間。
シャガル&テュエル
「――それは無理だ(です)」
(ハモる)
レイラ
「……ぇ?」
テュエル
「レイラ様。添い寝は……理性が耐えられません」
シャガル
「隣に寝ていて……“触れるな”とは無理だ」
レイラ
「……でも……」
テュエル
「レイラ様の匂いの横で一晩何もせず横になるなど……無茶です」
シャガル
「余の自制心が持たぬ」
レイラ
「…………」
(少し耳が赤い)
レイラ
「じゃ、じゃあ……ほんの少しだけ横になってから離れるとか……」
テュエル
「無理です」
シャガル
「無理だ」
レイラ
「……そんな……」
テュエル
「レイラ様。あなたは自覚がありませんが……
あなたの寝息だけで、我々は発狂寸前です」
シャガル
「漂う匂いも……温度も……拷問に近い」
レイラ
「…………っ」
(耳がさらに赤い)
テュエル
「禁欲するなら、“触れられない距離”が必要です」
シャガル
「ああ。でなければ……我らは禁欲中に死ぬ」
レイラ
「死ぬ……のか……?」
シャガル
「ああ、精神的に死ぬ」
テュエル
「はい……自制心が死にます」
レイラ
「…………そ、そんな大げさな……」
テュエル
「――いえ。本気です」
レイラ(小声)
「そ、そうか……」
「わかった…………
じゃあ、とりあえず一週間、一人で寝る」
すん、と宣言。
シャガル&テュエル
(よし……!)
テュエル(内心)
(これでレイラ様は……寂しさが募る……!)
シャガル(内心)
(そして余の名を呼ぶ!
“会いたい……したい……”と!!)
二人
(焦らし作戦……完璧!!)
──だがこの三人、全員が勘違いしている。
果たして思惑どおりにいくのか――。




