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双国ノ巫女 〜愛されることを諦めた姫が愛を知る物語〜  作者: Su
選ばれた理由、選び続けた想い
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二夜連続は、さすがに許されませんよ?^^


朝。


障子越しに、白い光がふわりと揺れていた。

静かに舞い落ちる雪が、部屋の中にまで冷たく澄んだ気配を運んでくる。


レイラは、その淡い光を受けながら

シャガルの寝顔を見て、思わずくすっと微笑んだ。


(愛しい……)

(かわいい……)

(私の夫……)


少し、シャガルの髪を撫でようと手を伸ばしたその瞬間――


ハッ


胸の奥が急激に、猛烈に冷える。血の気が一気に引く。


(まずい……)

(まずいまずいまずい……)


触れようとした手を慌てて引っ込め、雪の気配に満ちた静かな空気の中、

思わず急ぎ足でシャガルの部屋を後にする。


そして、淡い期待を胸に――

(テュエルがまだ、私の部屋の前に居ませんように……)

自室に戻るとき、息を潜める。


(テュエルにバレたら……)

(取り決めを破ったと詰められたら……)

(きっと……罰と言う名の、甘い処刑が待っている……)


嫌ではないけれど、本気で危うくなる可能性がある“アレ”は、避けたい……!!


 ――幸い、レイラの部屋前にはテュエルの姿はなかった。


(ほっ……)


安堵の息をつき、急いで自室に入る。

戸を閉めて、思わず小さく漏らす。


「……はぁ……危なかった……」


すると――


「なにが…危なかったのでしょうか……」


ぞくり。

凍る。

急激に、空気が、氷点下まで下がるような感覚。


レイラはゆっくりと振り返る。


そこに立っていたのは――

ものすごく、怖いほどにこやかな笑みを浮かべた、テュエル。


「ヒッ」

思わず喉が鳴る。


いつもよりも丁寧すぎる微笑。

そして、声が――やけに静かだった。


「レイラ様、おはようございます^^」


 一拍。


「二夜……連続でしたね?」


ゆっくりと歩み寄る。音ひとつ立てずに。


「……禁忌だと、ご存じのはずでしょう?」


レイラは言葉に詰まる。

テュエルは遮らない。ただ近づき、逃げ道を塞ぐように。


「俺が、どれだけ嫉妬深いかも……

 知っていますよね?」


少し首を傾げ、甘く静かな声で囁く。


「それとも――

 わざと……でしたか?」


レイラは慌てる。


「ち、違……ごめん……っ」


「違う?」

テュエルは優しく微笑む――それが一番怖い。


「では……どうして?」


指先がレイラの頬をそっとなぞる。

優しいのに、震えを止めるような、威圧的な温もり。


「どうして俺を……

 こんな気持ちにしたのですか?」


胸の奥に押し込んでいた感情が、テュエルの声でじわりと滲み出す。


「レイラ様を……誰にも触れさせたくない。

 奪わせたくない。

 ……俺だけを、見ていてほしいのに」


指先が唇に触れ、軽くなぞり、唇の温もりで微かに震わせる。

抱きしめるでも、押し込むでもない――

ただ、逃がさない、全てを吸い上げるような触れ方。


レイラは、ただ震えながら答える。


「……っ……テュエル……」


「謝らないでください。

 謝るくらいなら――」


目を細め、静かに切実に。


「……もう、離れないでください」


肩が小さく震える。

テュエルの手がそっと彼女を包む。

抱きしめるでも、押し込むでもない。

ただ、逃さないように――


「レイラ様が苦しむのは、嫌です。

 でも……

 俺を苦しませるのも……もっと嫌です」


レイラは小さくうなずく。


「……うん……ごめん……

 もう……しない……」


テュエルはゆっくり目を閉じ、額をレイラの肩に預ける。


「……ありがとうございます。

 本当に……

 怖かったんです」


その声は震えていた。

そして――

抱き寄せる腕は、もう離す気など一切なかった。


だが、テュエルはもう余裕などない。

胸中の独占欲が爆発しそうになり、呼吸は荒く、目には軽く煽る光が宿る。


「……っ!」


一気にレイラを抱き上げ、寝台にドサッと押し倒す。

その柔らかさに顔を埋め、強引に唇を重ねた。


レイラは咄嗟に体をよじり、手を押しつけて必死に逃れようとする。

「テュエル…!…ダメだ」

「悪いが……今日は……」


しかしテュエルは、力強くもがく彼女の腕を抱き留め、唇の圧も緩めない。

荒い呼吸と、焦れた動き。


いつもなら遊び半分で手加減するところを、今はそれどころではない。


レイラはもがきながらも、必死に言葉を振り絞る。

「今日は……用事がある……!」


その瞬間、テュエルはわずかに止まり、目に炎のような熱を灯す。

けれど全身はまだ戦闘体制のまま。

レイラの必死の抵抗を前に、余裕のない独占欲がみなぎっていた。


レイラは深く息を吐き、手を伸ばしてなんとか寝台に着地する。

心臓はまだ早鐘を打つように高鳴り、体の奥は、昨夜の余韻でじんわりと熱を帯びたままだ。


「……すまない、テュエル」

「でも……今は、無理……」


テュエルは、名残惜しさと煽られた欲のせいで、しばらくその場から動けない。

ゆっくりと距離を取るものの、肩はわずかに震え、息はまだ荒い。


レイラを見下ろすその目は、

“我慢を強いられた男” の、静かに煮えたぎる光を宿していた。


「……では」

押し殺した声で、ひどく冷静に問いかける。


「いつ――

 取り決めを反故にした“支払い”を

 してくれるのですか?」


レイラの頬が一気に赤くなる。


「……っ……」

視線をそらし、布を握りしめながら。


「……今夜……な?」


その一言で、テュエルの瞳がわずかに揺れた。

レイラのその照れた声音、伏せた艶やかな視線、昨夜の余韻を含んだ熱。


彼の脳裏に、

“今夜”の光景が、一瞬で鮮やかに再生される。


喉が鳴り、呼吸が一拍止まる。


(……今夜)

(……生きていられるだろうか……)

(いや……それでも……)


(……早く日よ沈め……)


テュエルの胸が、焦れと期待で締めつけられる。

指先まで熱が走り、まるで再度燃え上がるように、声がかすれた。


「…………必ずです」


もう今すぐでも触れたいのに、

触れられないままの地獄の時間に放り込まれた男の声音だった。


そして――


レイラは急ぎ足で謁見用の着物を手に取り、着付けを始める。

朝の光が障子越しに差し込む中、布の感触に集中しようとするが、

手は昨夜の余韻でわずかに震えていた。


一方テュエルは、レイラから

「ヤヒロと急ぎで謁見する」とだけ聞かされるや否や、

瞬く間に正装を整え終えていた。


髪も衣も、わずかな乱れすらない。

気配すら静かに整え、

まるで最初から“レイラの隣に立つために仕上がっていた影”のように、

静かに彼女のそばへ控えていた。


テュエルはレイラの手元を見守りながら、必要な箇所だけそっと手を貸す。

着物の裾を整えるたびに、肩や腰の曲線がちらりと見える。

そのたびテュエルの瞳が熱を帯び、呼吸が知らず知らず荒くなる。


内心で舌打ちする。

(……また、シャガルのやつと……)

(そんな俺は?)

(こんな朝から……煽られて……)

(……約束されているとはいえ)

(今夜まで…?待ちきれるのか……)


レイラが手を伸ばすたび、テュエルの手がそっと重なり、

着付けの補助の名目で触れたその指先が、彼の煮えたぎる欲をさらにかき立てる。


視線は自然に、細かい仕草も、布の下に隠れる曲線も追う。

着物を整える度に、レイラの背筋や首筋が見え、テュエルはそのたびに息を飲み、胸の奥で熱がじわりと膨らむ。


(……あぁ……)

(レイラ様……)

(こんなにも無防備なのに……)

(…今は触れられないなんて……)


テュエルの頭の中は、早く夜になれと祈る思考でいっぱいだった。

日が沈むまでの時間が、無意味に長く、苛立たしく、そして甘美に感じられる。


一方のレイラは、少し気まずそうに視線を逸らしつつも、着付けを進める。


(次からは…気をつけないと…)

(今夜…大丈夫かな…)


背後のテュエルの熱い視線を意識してか、手はわずかに緊張して震える。


(でも…取り決めを破ったのは事実)

(…仕方ない)

(嫌なわけではないけど、今日は謁見が終わったらゆっくりと過ごそう…)

と心に決めた。


――そして、謁見の間へ


レイラは背筋を伸ばし、朝の光に照らされる自分の姿を一度確認してから、静かに歩を進めた。


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