『一日だけ』という言葉を、信じるべきではありませんでした。
テュエルとレイラは部屋を出て、
二人並んで、食堂で朝餉を済ませた。
あの日から――
ちょうど、一週間。
テュエルは言うまでもなく、
つやつや、ぴかぴかだった。
全身から放たれるのは、
隠しようもない「幸福」。
――生まれてきてよかった。
そんな顔をしている。
一方のレイラは。
げっそり、というわけではない。
むしろ顔色は、過去一と言っていいほど良かった。
徹底された衣食住。
健康管理。
……すべて、テュエルの成果である。
それに加えて。
シャガルの時と同様、
――いや、それ以上に。
愛されすぎた結果として、
抑えきれない色気をまとっていた。
九尾としてのフェロモンは、
もはや隠蔽不可能。
――ダダ漏れである。
当然のように、
テュエルの視線は、そこに吸い寄せられていた。
テュエル
「……レイラ様」
声に、わずかな熱。
テュエル
「やっぱり……あともう一週間……」
「頂けませんか……?」
「………………」
(もう、絶対に勘弁してくれ)
(本気で、死ぬ)
レイラは、内心で呻いた。
だが。
「はぁ……」
(しかし……)
⸻
外の空気を吸う、という行為が、
こんなにも贅沢だったとは。
レイラは、ゆっくりと背伸びをして、
空を仰いだ。
やけに晴れやかだ。
空気が、美味しい。
修行を耐え抜いたあとのような、
妙な達成感。
(……終わったんだ)
(一週間)
本当に、そう思った。
――その瞬間。
シャガル
「……レイラ」
低い声。
振り向くより先に、続く。
シャガル
「余を放置するとは……いい度胸だな」
レイラ
「……お前達が、勝手に決めたことだろう」
呆れた声音。
もはや、それ以外の感想が出てこない。
それでも――
シャガルは、一歩、距離を詰めた。
シャガル
「一週間だぞ」
そして、追い打ち。
シャガル
「余に、会いたいとも思わなかったのか」
妙に、重たい一言。
レイラは答えなかった。
「…………」
(そんなわけがない)
(テュエルも、シャガルも――愛している)
(ただ)
(会いたいと、思う余裕すらなかっただけだ)
だが。
それはもう、終わった。
一週間は――終わったのだ。
その背中を見送りながら、
シャガルの視線が、別の男へと向いた。
⸻
声を落とし、近づく。
シャガル
「……余も、先をお前に譲ってもらった身だ」
テュエルは、黙っている。
シャガル
「少しは、待ってやるつもりだった」
間。
シャガル
「……お前も、一週間。こういう気持ちだったのであろう?」
視線が、絡む。
シャガル
「ならば……言いたいことは、わかるな?」
テュエル
「……あともう一週間は、無理ですよ」
「レイラ様が、耐えられません」
シャガル
「わからぬか?」
低く、確信めいた声。
シャガル
「お前も――まだ、足らぬのだろう?」
テュエル
「…………」
沈黙。
そして、察したように。
テュエル
「……あぁ……」
思わず、緩む表情。
テュエル
「そういうことですか……」
「……いいですね……」
シャガル
「だろう?」
にやり、と。
テュエル
「……でも、流石に一日だけですよ?」
シャガル
「十分だ」
⸻
次の瞬間。
両脇から、腕。
がし、と確かな感触。
レイラ
「…………ん?」
疑問符が、遅れて浮かぶ。
そして――
空気が、弾けた。
短い音。
視界が、一気に切り替わる。
⸻
再び、寝室
見慣れた天井。
寝台。
意味が、追いつかない。
レイラ
「……?????」
影が、二つ。
シャガル
「大丈夫だ、レイラ」
テュエル
「はい。あと一日だけで済ませますので^^」
揃って、当然のように。
逃げ道は――
最初から、提示されていなかった。
その先は――
語られなかった。
……はずだった。
⸻
気づけば、朝だった。
いや。
朝だったはずの空は、
もう一度、夕焼けに染まり。
再び夜を迎えていた。
レイラ
「…………」
(……終わらない)
二人は、
どちらも笑っていた。
シャガル
「まだ平気だな?」
テュエル
「まだ半分ですよ^^」
(……誰か助けてくれ)
その願いだけは、
最後まで届かなかった。
⸻
それから、レイラは二人の間で、何度も意識を手放し、また取り戻した。
目を覚ましても、腕も胸も、決して離してはもらえなかった。
障子越しの色が白だったはずの時間から始まり、
気づけば黒、次には黄色、また白、そして黒──
時間の感覚も、考える余裕も、すべて飲み込まれていた。
「一日で済ませる」という約束は、
おそらく、最初から破られていたのだろう。
それでも、これが夢だったのか現実だったのか、
誰も、語らなかった。
ただ、残ったのは――深く、重く、
そして静かに満たされた記憶だけだった。
愛されている、と感じた。
疑いようもなく、全身で――。
シャガルも、テュエルも。
心も、体も、惜しみなく注いでくる。
満たされすぎるほどに、与えてくれる。
それが、嬉しくないわけがない。
むしろ――幸福だった。
だからこそ、途中から、
もういい、と思ってしまった。
頼むから、もういい。
これ以上は――体が、もたない。
それでも、拒むことはできなかった。
意識が遠のくたびに、胸の奥では、はっきりと分かっていた。
……本当に、愛しい。
どうしようもなく、愛しいやつらだ。
幸せだ。
本当に――そう感じてしまう自分が、そこにいた。
その記憶だけは、
夢ではなかった。




