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双国ノ巫女 〜愛されることを諦めた姫が愛を知る物語〜  作者: Su
奪われかけた巫女と、帰還する王
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長年一緒にいたので気付きませんでしたが、この護衛ちょっとおかしいです。


部屋に戻ってきたテュエルは、言葉通り、何事もない様子だった。


 湯気の立つ湯たんぽを両手で包み、

 それを丁寧に、寝台の脇へ置く。


テュエル

「レイラ様」

「どうぞ。お腹、冷えないように^^」


 声は穏やかで、距離も近すぎない。

 触れる指先も、布越しで、ほんの一瞬。


 ――ちょうどいい。


 温度も。

 距離も。

 配慮も。


 それが、今のレイラには、ひどく不安だった。


(……なんで)

(こんなに、落ち着くんだ)


 レイラは、無意識に呼吸を整えている自分に気づく。


 怖いはずだ。

 警戒すべきだ。


 それなのに――


 テュエルは、それ以上、何もしなかった。


 湯たんぽを用意し、

 水を用意し、

 膝掛けを直し、

 灯りを少し落とす。


 それだけ。


 寝台の脇に立ったまま、静かに様子を見ている。


 あまりにも、いつものテュエルすぎて。

 恐怖を覚えた自分の方が、悪いような気さえした。


 ――管理。


 それすらも、テュエルの配慮であり、

 愛なのだと、思ってしまう。


 少し視線を落とし、考え込むレイラに、テュエルが気づく。


テュエル

「レイラ様……」

「痛みますか?」


 一歩、近い。

 けれど、触れない。


「……医官をお呼びしましょうか?」


(……近い)

(でも、触れない)


 視線は外さない。

 だが、押し込んでこない。


 まるで――

 ここにいること自体が、当然だと言わんばかりに。


レイラ

「……大丈夫だ」


テュエル

「そうですか……」

「なにかしてほしいことがあれば」

「遠慮なく、仰ってくださいね」


 その献身的な様子を見ながら、

 シャガルは部屋の端で腕を組み、険しい顔をしていた。


(……月のものだろう)

(こやつの対応を見れば、わかる)


(だから襲わないのか、と最初は思ったが……)


(……おかしい)

(……まだ、何かが噛み合わない)


(こやつは、“終わるのを待っている”だけではない)

(そんな気がしてならぬ)


 ――いや。


(考えすぎか……)

(妻への献身を疑うのも、よくない)

(……しかし……)


(どこからどこまでが、こやつの読みなのだ)


 その先を考えたくなくて、シャガルは視線を逸らした。


 沈黙が、長く伸びる。


 耐えきれず、レイラが口を開く。


レイラ

「……テュエル……大袈裟すぎだ」

「私は……そこまで弱っていない」


テュエル

「はい^^」

「存じております」


 一拍。


「ですが」

「“弱る前”に整え、支えるのが」

「ボクの役目ですから」


 さらりとした言い方。

 否定も、主張もない。


 ――事実を述べただけ、という口調。


(……やっぱり)

(この男は……)


 レイラは、胸の奥がじわりと冷えるのを感じた。


 自分の体調。

 周期。

 変化。


 それらを、すべて前提にして動いている。


(……いつから)

(いや……)

(どこから……どこまで……)


 問いは、浮かんだだけで消えた。

 答えが、怖かったからだ。


 夜が深まる。


 テュエルは、ついに一歩、下がった。


テュエル

「では、ボクはこの辺で……」

「ごゆっくりお休みください」

「何かあれば、お呼びくださいね^^」


 本当に、それだけだった。


 そう言って、シャガルも促し、二人で部屋を出ていく。


 扉が閉まり、

 足音が遠ざかる。


 ――静かだ。


 湯たんぽの温もりが、じんわりと腹に広がる。


(……安心、するな)


 そう思うほど、

 体は正直に、力を抜いていた。


 しばらくして。


 レイラは、考え事を始める。


 今日の出来事が、脳裏に一気に蘇る。


 温かい茶。

 膝掛け。

 散歩を止めた言葉。

 抱き上げた、あの一瞬。


 そして――

 何もしなかったこと。


 テュエルは、相変わらず……


《優しい》

《献身的》

《包容力がある》


 完璧だ。


 ……でも。


 ――管理、されている?


 気づいた瞬間、

 理解してしまった。


 逃げ道は、もう無い。

 拒絶も、成立しない。


 なぜなら――

 何も、されていないのだから。


 そして、同時に思ってしまう。


 それが、嫌じゃない。

 それが、テュエルからの愛で。

 それが――テュエルだから。


 そう、納得してしまう自分がいる。


 でも……。


 テュエルとも、もう半年以上。

 触れ合っていない。


 煽っただけの罰を与えた。

 口付けは、たっぷりとした。


 ……それで、本当に大丈夫なのだろうか。


 また、いきなり爆発しないか。

 心を壊さないか。


 ……心配だ。


 レイラは、寝台の上で身じろぐ。


 それに、純粋に――


(……確かめたい)


(この、モヤモヤを)

(すっきりさせたい……)


その時――


 ズキン、と。

 腹の奥から、鈍い痛みが走った。


「……っ」


 思わず、息を詰める。


(……あ)


(やっぱり……)


 脳裏に、さっきの声がよぎる。


『今日は、もうゆっくりしましょう?』

『体に触りますよ』


(……そうか)


(やっぱり、無理して歩かなくて正解だったな……)


 じわり、と広がる違和感に、

 体が自然と丸くなる。


(……テュエルの言った通りだ)


(まだ……ちゃんと、休む時だった)


 不思議と、焦りはなかった。

 むしろ、胸の奥が静まっていく。


(……あの男は)


(私より、私の体を分かってる……)


 そう思ってしまう自分を、

 否定できなかった。


 ……今は、休もう。


 そう言い聞かせて、

 レイラは、ゆっくりと目を閉じた。


 湯たんぽの温もりが、

 腹の奥の痛みを、少しずつ溶かしていく。


 その温度に身を委ねながら。


(……少し、寝よう)


 まるで、

 正しい選択をしたと、

 誰かに保証されたかのように

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