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双国ノ巫女 〜九尾の力を持つ雪女の姫は、戦場でその力を解き放つ〜  作者: Su
出会いと誓い――護衛テュエルとレイラの軌跡
17/67

会いたくて捕まりに行ったら、三年前の約束通り迎えに来られて泣いた


 

「……縁談の続きでも、するか……?」



ソンゴル

「……お前は……本当に……?」

「レイラ……

 姫……なのか……?」



 リア一行

「!!!」


 

「このような無様な姿で、申し訳ない」


「私は――

 双国王ダインの娘――レイラ」



――その一言が落ちた瞬間。


空気が、変わる。


先ほどまで張り詰めていた空気が、

さらに一段深く沈み、静寂が支配する。



視線が、自然とレイラへと集まる。


 

恐れではない。

侮りでもない。


ただ――


“無視できない存在”として、

その場に刻まれる。



エール

「…………………………っ」


 

猿の仮面の奥から、静かに涙が落ちる。

噛み殺した嗚咽が、わずかに喉の奥で震える。


 

リア

「……レイ……ラ……?」


 

一行は言葉を失い、

ただその姿を見つめることしかできなかった。


 

ソンゴル

「…………………………」



ソンゴル

「まさか……生きていたとは……」



わずかに目を細め、口元に薄い笑みを浮かべる。


 

ソンゴル

「……縁談、か……」



ゆっくりと視線をなぞるように向ける。



その視線は――


値踏み。


いや、それ以上に――


所有欲。


ソンゴル

「こやつらを捨て、

 俺と――来るか?」



欲を隠そうともしない、露骨な誘い。


レイラ

「……面白い考えだな」



その一言に、場の空気が凍りつく。



――寝返るのか?



そんな疑念が、一瞬だけよぎる。



リア一行の呼吸が、わずかに止まる。



ソンゴル

「……だが」


低く、ねっとりとした声。



「本当に女なのだろうな?」



視線が、下から這い上がるように絡みつく。

先ほど確かめたはずの体に、再び興味を向ける。


 

レイラ

「……確認……してみるか?」


艶を含んだ静かな声。



その一言で――



場の温度が、さらに歪む。



ソンゴルは喉を鳴らし、視線を揺らす。

理性と欲の境界が、わずかに崩れる。



その右手が――



ゆっくりと、着物の内へと伸びた。



(…蹴る)



――その瞬間。



ゴォォォォン!!!



鎖が、断末魔のような音を響かせる。



ガンッ、ガンッ、ガンッ――!


 

エールが鎖を引きちぎらんばかりに暴れる。

その怒りと衝動が、空間そのものを揺らす。



ソンゴル

「五月蝿い……

 これから“お楽しみ”だというのに……」



冷ややかに吐き捨てる。



ソンゴル

「カーカス……」


手を軽く振り、矢を射るように命じる。



――しかし。


 

カーカスは、動かない。



ソンゴル

「…………カーカス……?」

  


その瞬間――



上階から、慌ただしい足音が響いた。



「ソンゴル殿下!! 兵より伝令です!」


シエル将軍の声が、緊迫を帯びて響く。


「カーカス二名――撃破されました!!」

 


一瞬の静寂。



空気が、ぴたりと止まる。


ソンゴル

「……貴様ら……何者だ?」


その問いに応えるように――


二人の“カーカス”は、ゆっくりと口元を歪めた。


――にやり。


そして。


迷いなく衣を脱ぎ捨てる。


現れたのは、別人の姿。


ロイロとナイル。


次の瞬間――


ロイロが踏み込む。

大地を抉るような一撃。


ナイルが続く。

軸の合った、無駄のない一撃。


二人の力が重なり、爆ぜるような衝撃が走った。


バコオォォォォォォオオォオォン!!


外側から叩き込まれた一撃が、

牢を内側へと粉砕した。


鉄と木が悲鳴を上げ、構造そのものが崩壊していく。


同時に、木材が裂け、石が砕ける音が連鎖し、砂埃が視界を覆った。


シエル将軍

「なっ……!!」


ソンゴル

「こざかしい……!!」


その刹那。


――キンッ、キンッ。


金属が軋み、断ち切られる音。


鎖が引き裂かれ、床へと落ちる。


――ジャラ……


その音だけが、やけに長く響いた。


エール将軍。


一度、床を踏みしめる。


次の瞬間、全身に力を込める。


鎖を断ち切り、自らの意思で、その場を抜け出した。


――踏み込む。


その姿が、視界から消える。


そして――


空気が、ふわりと揺れた。


崩壊の混乱の中。


レイラを包んでいた拘束が断たれ、何者かの腕に抱き留められる。



猿の仮面が外れた、その奥。



見慣れたはずの輪郭。



だが――違う。



髪の色も。


瞳の色も。


纏う気配さえも。



記憶にある“彼”とは、明らかに異なっていた。



だが。



触れた瞬間に、分かった。



腕の強さ。


体温。


そして――匂い。



何度も、すぐ傍で感じてきたもの。



身体が、先に思い出す。



(……懐かしい……)



腕の感触が、記憶と重なる。



かつて何度も預けた、その安心。



ゆっくりと視線を上げる。



声が、落ちる。



「大変、お待たせいたしました」



――間違えるはずがない。



その声。



レイラ

(……テュエル……)


「お迎えにあがりました――レイラ様」


その言葉。


三年前、別れ際に交わした約束が蘇る。


『必ず、お迎えにあがります』


長い時間を越えて、ようやく果たされた言葉。


レイラの感情が、一気に崩れ落ちる。


レイラ

「……………っ…」


頬を伝う涙が、止まらない。


レイラ

「……随分と……遅かったじゃないか……」


震えた声。


だがその言葉に、責める色はない。


ただ――


長い時間、胸の奥に押し込めていた想いが、

わずかに滲んでいた。



テュエル

「……申し訳ございません……レイラ様……」



次の瞬間。


強く、抱きしめる。


失われていた時間を、

埋めるように。


確かめるように。


逃がさぬように。



レイラの身体から、力が抜けていく。


抗うことなく、

その腕の中へと身を預ける。



ただ――


その温もりだけを、

確かめるように。



 ソンゴル

「……死ね……!」

 


 一瞬の隙。


 再会に意識が向いた、その背後へ――


 滑り込むように踏み込み、刃を振り上げる。



 その標的は――テュエル。


 だが。


 テュエル

「…………」

 

 振り向かない。



 ただ、わずかに視線だけが動く。



 ――次の瞬間。



 キィィィィィィィン……



 空気が、凍りついた。



 踏み込めば、死ぬ。



 それだけが、はっきりと分かる。



 視界の奥に焼き付くのは――

 無数に切り刻まれた、自分の未来。



 刃を振るう前に、

 自分が“斬られている”。

 


 脳が、警鐘を鳴らす。



 ――これ以上、踏み込むな。



 ソンゴルの動きが、止まる。



 シエル将軍

「……いけません!!ソンゴル殿下!!」



 即座にその身体を引き寄せ、抱え上げる。



 強引に、後退。



 ソンゴル

「……っ……離せ……!」


 なおも抗おうとする。


「……まだだ……!」


 視線は、ただ一人。


 レイラへと向けられていた。


「レイラ姫……!!」


 歪んだ執着が、言葉に滲む。


「俺のだ……!!」


 引きずられるように後退しながらも、叫ぶ。

 

「俺の姫だぞ……!!」


 そのまま、上階へと連れ去られていく。 



 ――その背へ。


 リア

「待ちなさい!!」


 即座に、床に転がっていた弓を拾い上げる。


 構え――迷いなく放つ。


 ヒュンッ――


 一直線。


 迷いのない軌道。


 ソンゴル

「……っぐぁ!!」


 矢は、肩へと突き刺さる。


 シエル将軍に抱えられたまま、身体が揺れる。


 ソンゴルが振り返る。

 その視線には、露骨な憎悪。



 だが――


 

 リアは、微動だにしない。



 わずかに視線を逸らし、


 まるで“外した”とでも言うような顔を見せる。



 ロイロ

「追うか?」


 レイラ

「……いや、いい……」



 短く、首を振る。



 レイラ

「……皆……来てくれたんだな……」



 その声は、どこか柔らかい。



 レイラ

「ありがとう」


一行は、どこか照れたように視線を逸らす。


 テュエル

「……………………」


 沈黙。


 そして――


 テュエル

「……レイラ様」


 低く、抑えた声。


 だが次の瞬間――


 テュエル

「なぜ、あのような無茶をなさったのですか?!

陶器よりも美しい肌にこれほどの傷を負って、

罠と分かっていて飛び込むなど理解しかねます!

それだけではなく、あの男に色目まで使って……」


 一息。


 止まらない。


 テュエル

「…そのお身体を、これ以上粗末に扱わないでいただきたい!」

 

 リア

「……ほんと、口数多いのね」


ぽつりと、半ば呆気に取られたように漏らす。


 レイラ

「悪かった、悪かった」


 苦笑しながら、軽く肩をすくめる。

 

 そして――


 レイラ

「……でも」

 

 わずかに視線を上げる。


 レイラ

「お前だと気づいて……

 ……居ても立ってもいられなかった」 



 テュエル

「……………………」



 沈黙。



その場の空気が、わずかに緩む。


 テュエル

「……涙腺が、弱くなったかもしれません」


 ぽつりと、こぼす。

 

 その瞳は、明らかに潤んでいた。



 ロイロ・ナイル・シュシャ・リア

「……ギャップがすごいな」



 ――その時。


 

 ナイルの視線が、わずかに上を向く。



 耳が拾う。

 石を踏む足音。

 鎧の擦れる音。

 複数。


 確実に、こちらへ集まりつつある気配。

 

 シアン

「…ナイル…どうしたの?」

 

 ナイル

「……そろそろ上行かないとね」



 軽く肩をすくめる。



 ナイル

「集まってきてるみたいだよ」



 ロイロ

「そうだな、こんなとこで話してねぇで、出てからゆっくり話そうぜ」



 ナイル

「無事に出られれば、だけどね」


 

 わずかに笑う。



 テュエル

「恐らく、戦闘は不要です」



 シュシャ

「なぜ、そう思う?」



 レイラ

「……この砦の兵の大半は、双国出身だ」



 リア

「…………!」


 一瞬、息を呑む。


(だから……あの時……)


(武器を持っていたのに……レイラは、使わなかった……)


 脳裏に蘇る。


 砦から脱出する際。


 素手で兵をいなしていた姿。


(それに……)


 弓を構えた、自分の前に――


 滑り込むように入ってきた――


(……庇うように……)


 矢の軌道へと、躊躇なく。


(……兵を……)


(……レイラは……最初から……)


(……自分の民だと……分かって……?)


 レイラ

「…まぁ……」


「……認めてもらえるとは思わんがな」



 短く、嘲笑気味に吐き捨てる。



 レイラ

「…行こう。話は後だ」


 

 立ち上がろうとした――その時。


 

 ふわり。


 

 身体が、浮く。


 レイラ

「……歩ける…」


 テュエル

「いいえ」



 即答。



 視線が、わずかに足元へ落ちる。


 ほんの僅かな筋肉の遅れ。

 踏み込もうとした“気配”の鈍さ。



 それだけで、理解する。



 テュエル

「……足、麻痺していますね」



 一切の迷いがない。


 そのまま、腕に力を込める。


 テュエル

「それに――」


 わずかに、声が揺れる。


 テュエル

「……今は、離しません」


 一瞬、息を詰める。

  


 そして――



 テュエル

「こんなにも……ずっと、

 会いたくて……たまらなかったんです」



 抑えていたものが、溢れる。



 テュエル

「毎日、レイラ様のお髪を眺めて……

 乾いた心を、なんとか繋いでいたんですから……」



 リア

「……ナイルより……危ない人、初めて見た……」



 ナイル

「ちょっと待って、それボクも危ない扱いなの?」



 ロイロ

「行くぞ」



 短く告げる。


 ――


 テュエルに抱えられたまま。



 レイラの髪が、ふわりと揺れる。



 その動きに合わせて、


 微かに、香りが流れる。


 

 懐かしい腕。



 逃げ場のないほどに、確かな温もり。



 レイラは、わずかに目を細めた。


 


 ――心地いい。


 

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