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守られすぎた結果、異変に気づかなくなっていました


朝の城は、いつも通りだった。


窓から差し込む光は柔らかく、

鳥の声も、遠くで聞こえる人の気配も、

すべてが平穏そのもの。


レイラは執務机に向かい、

久しぶりに積み上がった書類に目を落とした。


(……溜めすぎたな……)


小さく息を吐き、

一枚、また一枚と目を通していく。


誰にも邪魔されない。

声も、足音も、訪問もない。


(……今日は、やけに静かだな……)


ふと、視線を上げる。


開け放した扉の向こう。

廊下の先、視界に入る位置に、

シャガルが壁に背を預けて立っていた。


腕を組み、

目を閉じているようにも見えるが、

眠ってはいないと、なぜか分かる。


(……珍しいな……)


いつもなら、

この時間帯は、どこかで昼寝をしているはずだ。


昨日のことが、脳裏をよぎる。


(……やっぱり……)

(昨日の質問、良くなかったのかな……)


胸の奥が、ちくりと痛む。


だが、すぐに首を振った。


(……いや……考えすぎだ)

(変に気にして、仕事が進まない方がよくない)


再び、視線を書類へ戻す。


不思議なほど、手が止まらなかった。


内容が頭に入る。

判断も早い。

署名も、指示も、淀みなく進む。


(……こんなに、捗るなんて……)


気づけば、時間が経つのを忘れていた。


――――――


その日、テュエルはほとんど執務室にいなかった。


城内を巡回し、

城門の様子を見、

外壁を確認し、

また戻ってくる。


扉の外で一礼し、

短く状況を告げては、すぐに離れる。


「異常はありません」

「問題ありません」


いつも通りの言葉。

いつも通りの声。


(……真面目だな……)


レイラは、そう思うだけだった。


(私が仕事してるから、気を遣ってくれてるのかな……)


それが、

護衛としての異常行動だとは、

考えもしなかった。


むしろ――

ありがたいとさえ、感じていた。


誰にも邪魔されない一日。


昼食も簡単に済ませ、

昼寝もせず、

レイラは書類に向かい続けた。


気づけば、外は夕暮れ色に染まり始めていた。


(……あ……)


肩に、ずしりとした重さを感じる。


(……ちょっと、やりすぎたか……)


だが、達成感の方が勝っていた。


(……ここまで片付くとは思わなかったな……)


満足げに書類を整え、

レイラは立ち上がる。


その動きに気づいたのか、

シャガルが、ゆっくりと目を開けた。


視線が、一瞬だけ交わる。


何も言わない。

何も聞かない。


ただ、そこにいる。


(……うん……)


レイラは、小さく微笑んだ。


(……そのうち……)

(昨日のことも、気にしなくなるだろう……)


自分に言い聞かせるように、

そう思った。


――――――


夜。


湯を使い、

身体を休め、

寝台へ向かう頃には、

思考が、ひどく鈍っていた。


(……今日は……よくやった……)


灯りを落とし、

布団に身を沈める。


瞼が、重い。


(……シャガルも……)

(……じきに、機嫌は治るだろう……)


その言葉を最後に、

意識は、すとんと落ちた。


――深い、眠り。


夢も、ない。


――――――


その頃。


城で、

“歪み”が、生まれた。


音は、ない。


光も、ない。


ただ、

空気の流れが、

ほんのわずかに、噛み合わなくなる。


誰かが気づくには、

あまりにも小さく。


だが――

確実に、そこに在った。


眠る姫は、

それを知ることはない。


彼女は今、

守られている。


だからこそ――

気づかなかった。


――――――――――――

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