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最愛の妻が純粋すぎて話が進みません。どうやら寝所以外という発想がないようです


扉が、静かに叩かれた。


「……入ります」


その声に、レイラははっと顔を上げる。


入ってきたのは、テュエルだった。


「……レイラ様」


いつも通りの声音。

だが――どこか、違う。


視線が、逃げていない。


レイラはすぐに気づいた。


(……もう、大丈夫だな)



シャガルは、立ちあがり、軽く顎を上げる。


「終わったか」


「はい」


短い応答。 


だが、その返しには棘も敵意もなかった。


(終わった……?)

レイラは何のことかと首を傾げる



一瞬の沈黙。


空気を破ったのは、テュエルだった。


「……誤解のないように言っておきます」


視線は、シャガルに向けられる。


「俺は、あなたが好きではありません」

「今後も、恐らくそれは変わらない」


レイラの肩が、わずかに強張る。



だが――



「ですが」


テュエルは、そこで一拍置いた。


「敵として扱うつもりも、ありません」


静かに、しかしはっきりと。


「レイラ様が信頼し」

「俺が、背中を預けると決めた」


「それだけで……十分です」


シャガルは、一瞬だけ目を細め――

それから、ふっと笑った。


「奇遇だな」


肩をすくめる。


「余も、お前を敵だと思ったことは一度もない」


さらりと。


「恋敵ではあるがな」


「……それは同意します」


ぴしり。


だが、そこに火花はなかった。


レイラは、そのやり取りを見つめながら――

胸の奥が、じんわりと温かくなるのを感じていた。


(……争わない、って)

(こんなにも……安心するんだな)


テュエルが、ふっと息を吐く。


「レイラ様」

「……一つだけ」


今度は、レイラに視線を向けて。


「三人で話しておきたいことがあります」


シャガルが、わずかに眉を上げる。


「…そうだな」


テュエルは、間を置かず続けた。


「夜の営みについての――」

「取り決めです」


 ――――――?


レイラが、数秒反応が遅れた後思わず咳き込む。


「…………なっ!!」

(終わったとは、まさかその事か?!)



――めんどくさい男による


《夜間行動に関する規定(説明会)》


静かな部屋。


テュエルは真顔で一枚の紙を机に置いた。


「……念のため、決めておくべきことがあります」


レイラは、その時点で嫌な予感がしていた。


「……何の話だ」


「共同生活における、私的な接触行為についてです」


「???」


すでにレイラの思考は追いついていない。


⸻


その①

痕跡を残す行為の禁止


「※血跡、噛み跡など、外見に残る痕跡は禁止です」

「争いと嫉妬しか生みません。」

 ※キスマーク


「…………?」


レイラは一瞬、言葉の意味を整理しようとして――

理解した瞬間、耳まで一気に赤くなる。


シャガル

「ふむ、よかろう」


レイラ

「な、ななな何の話をしている……!!」


シャガルは肩を揺らして笑った。


「聞いたままだが?」


「〜〜〜〜ッッ///!」


⸻


その②

怪我・体調不良時の全面禁止


「怪我をしている場合は、いかなる接触も行いません」

「首筋が痛む状態で抱き合うなど、論外です」

「添い寝は許可します」


 レイラ

「……添い寝はいいのか……」

(ちょっと安心)


なぜかそこだけ真剣に受け取る。


⸻


その③

連続実施の制限


「原則、二日連続は禁止です」


シャガル

「なんだ、世知辛いな……」



「?????」


レイラ、完全に停止。


「……二日……連続……?」


(そ、そんな発想がそもそも無い……)


 顔が赤いを通り越して熱い。


⸻


その④

精神状態が不安定な場合の禁止


「逃避目的での接触は、関係を歪めます」


「…………」


レイラはここだけ、少し真面目に聞いた。


「……そうだな」


テュエルは静かに頷く。


⸻


その⑤

違和感があった場合の報告義務


「痛み、違和感、精神的負荷があった

 場合は必ず報告してください」


シャガル

「異論ない」


レイラ

「……たしかに」


(これは大事だな)


完全に保健指導のテンション。


⸻


その⑥

場所の制限


「任務中・移動中は禁止」


「安全が確保された場所のみとします」


「…………場所……?」


レイラは、きょとんと首を傾げた。


「……寝所、以外に……あるのか?」


沈黙。


次の瞬間。


シャガルが、腹を抱えて笑い出した。


「ははははは!!」

「お前……本気で言っているのか?」


「な、なにがだ……?」


テュエルは、こめかみを押さえる。


「……レイラ様」


「世の中には……」

「寝所“以外”で考える者もいます」


「………………ッ///」

(思考オーバーヒート)


シャガル、にやり。


「それが可愛いと言われる理由だぞ」

「それとも、試してみたいか??」


レイラ

「〜〜〜ッ!!馬鹿者!!」


⸻


説明が終わり。

テュエルは、真面目に一礼した。

「以上です」


レイラは、しばらく黙って――

ぽつりと。


「……お前たちは……」


一拍。


「普段、何を考えて生きているんだ……」


顔は真っ赤。

完全に処理落ち。


シャガルは満足げに頷く。


「安心しろ」

「余も大体、同じことを思っていた」


テュエルだけが、真顔で言った。


「ですが」

「必要な話です」


「不要だ!!」


――こうして。


淡白すぎる姫と、理詰め護衛と、愉悦王による

妙に平和で、やたらと温度差のある

三人の新しい日常が始まったのであった

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