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テュエルが静かに死んでる横で王が優勝してた


浴場に足を踏み入れた瞬間、

湯気と石鹸の匂いが、ふわりと二人を包んだ。


「わぁ……」

リアが小さく声を漏らす。


「やっぱり、宿のお風呂って落ち着くよね」


レイラは無言で頷き、

外套を外し、帯に手をかける。


――その動きは、いつもよりゆっくりだった。


リアは、何も言わずにそれを見ている。


鎧はない。

武器もない。

髪もほどかれていく。


(……あ)


リアは、胸の奥で小さく息を呑んだ。


(レイラ、こんなに……)


裸になったレイラの背中は、広い。

けれど、昔よりもどこか線が柔らかく見えた。


湯に浸かると、

レイラは小さく息を吐いた。


「……生き返るな」


その声は、戦場で聞くものとはまるで違う。


リアは向かいに座り、

何気ない調子で言った。


「ねぇ、レイラ」


「ん?」


「綺麗になったね」


一瞬、レイラの動きが止まる。


「……急に何を言う」


「急じゃないよ」


リアは肩まで湯に沈みながら、にこっと笑う。


「前より……」

「女の人っぽくなったな、って思っただけ」


レイラは、ふっと笑った。


「気のせいだ」

「昔から変わっていない」


そう言って、湯を手ですくう。


けれど――

視線は、わずかに揺れていた。


「そうかしら」


リアは首を傾げる。


「なんていうか……」

「雰囲気が違う」


「柔らかい、っていうか」


レイラは返事をしない。

代わりに、目を閉じた。


湯の音だけが、静かに響く。


(……柔らかい、か)


その言葉が、胸の奥に残る。


リアは、それ以上踏み込まなかった。


――今日は、まだ。


ただ隣にいる。

それだけでいい、と分かっていたから。


 ――――――――――


男湯には、低く湯音が響いていた。


先に浸かっていたテュエルは、

背筋を伸ばしたまま、目を閉じている。


シュンは一瞬ためらう


 その時――


「……どうぞ」


短い声。


馴れ合いは嫌いなはず、

断られないことに、

シュンは少しだけ驚く。


二人の間に、沈黙。


湯気が、輪郭をぼかしていく。


やがて、テュエルが口を開いた。


「……明日」


シュンが、視線を向ける。


「レイラ様から」

「あなたに告げられる“頼み”は――」

「……楽なものではありません」


言い切り。


予測でも、憶測でもない。


シュンは、息を詰めた。


「……うん。」


少し間を置いてから、

シュンは、低く言った。


「……ごめんなさい」


テュエルは、目を開ける。


「人の……奥さんに」

「想いを寄せているなんて」


湯の中で、拳が震える。


「本当に……ごめん……」


テュエルは、しばらく何も言わなかった。


やがて。


「……知っています」


責めない。

否定しない。


ただ、受け取る。


「だからこそ」

「明日は――」

「あなたにとって、重い」


それは、

同情であり、

理解であり、

そして――距離だった。


シュンは、小さく笑った。


「……優しいね」


「違います」


即答。


「俺は、選んだだけです」


それ以上は語らない。


シュンは、湯面を見つめて言う。


「……ねぇ、」


テュエルが、わずかに視線を向ける。


「テュエルは」

「そのままで……いいの?」


問いは、柔らかい。

けれど、逃げ場はない。


沈黙。


湯気の奥で、

テュエルは目を閉じた。


「…………」


答えは、ない。


それが、答えだった。


シュンは、それ以上聞かない。


「……そう、だよね」


湯音だけが続く。


やがて、テュエルが立ち上がる。


「先に、上がります」


すれ違いざま、

ほんの一瞬、足が止まる。


「……明日」


「うん」


「耐えきれなくなったら」

「……無理は、しないでください」


言い残して、去っていく。


シュンは、湯に残されたまま、

天井を見上げた。


(俺……耐えられるかな……)

(テュエルみたいに……)

(いや……テュエルだって……)


「……………」

 

問いは、

まだ、誰のものでもない。


 ――――――――――――――――――

 シャガル×ロイロ×ナイル(アダルト組)

 ――――――――――――――――――


肩まで湯に浸かり、

大きな体を預けているシャガルは、

珍しく――どこか機嫌がいい。


……表情は、いつも通りなのだが。


「いやぁ〜♡

 王様と一緒に湯なんて、

 なかなか無い経験だねぇ♡」


ナイルが、気楽に湯をかき回す。


「静かにせよ」


そう言いながらも、

追い出す気配はない。


ロイロは少し離れた位置で湯に浸かり、

二人の様子を静かに眺めていた。


ナイルが、ちらりとシャガルを見る。


「それにしても……さ?」

「レイラちゃん……」


わざとらしく、間を置く。


「いい奥さんだよねぇ♡」


シャガルは、即答した。


「当然だ」


間髪入れずに。


「余の妻だ」

「誇りに思わぬ理由がない」


――完全なマウント。


ナイルは吹き出しそうになるのを、必死に堪える。


「はいはい、出ました」

「自慢の妻♡」


「事実だ」


「いやぁ〜」

「強くて、美しくて、優しくて」


ナイルは肩をすくめる。


「正直さ、

 そそるよねぇ♡」


一瞬。


湯の表面が、

ぴたりと静止した。


ロイロ

(こいつ……死にたいのか……?w)

(やめとけ、マジで……w)


(冗談通じる相手じゃないだろ……w)


シャガルは、

ゆっくりと目を細める。


「……何が言いたい」


ナイルは、わざと軽く笑う。


「夜這いでも、

 したくなっちゃうなぁ〜って♡」


次の瞬間。


――湯気が、爆ぜた。


シャガルから放たれる、

言葉にならない“圧”。


妖王の覇気。


視覚ではなく、

本能で「死」を理解させるそれ。


ナイルの笑顔が、

一瞬で凍りついた。


「……あ、はは」

「冗談だよ、冗談♡」


「その舌――」


シャガルの声は、低い。


「二度と使えぬようにしてやろうか」


そして、静かに告げる。


「余の前で」

「二度と、その名を汚すな」


湯の温度が、

体感で数段下がった気がした。


ロイロが、咳払いを一つ。


「……随分と本気だな?」


「無論」


シャガルは、視線を外さない。


「余の妻だ」

「触れさせぬ」

「想わせもせぬ」


「余が、そう決めている」


ナイルは、両手を上げた。


「はいはい」

「降参、降参♡」


「いやぁ〜」

「これは確かに……」


ちらりと、ロイロを見る。


「割り込める隙、ないね♡」


ロイロは小さく息を吐き、

逆に“任せられる”と悟ったように、わずかに微笑む。


「……ああ、そうだな」


それ以上は、言わない。


(守る覚悟も)

(独占する覚悟も)

(どちらも、本物だ)


湯殿に、

再び穏やかな音が戻る。


シャガルは湯に身を沈めながら、

ふと呟いた。


「……今夜は」

「よく眠れそうだ」


それは、

完全に満たされた男の声だった。


ナイルは、苦笑しながら天井を見る。


「……重いなぁ」

「愛って」


ロイロは、静かに立ち上がる。


「レイラは……」

「幸せそうだな」


シャガルは、

ほんの一瞬だけ口角を上げた。


「――ああ」


それだけで、

十分だった。

 



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