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双国ノ巫女 〜九尾の力を持つ雪女の姫は、戦場でその力を解き放つ〜  作者: Su
出会いと誓い――護衛テュエルとレイラの軌跡
11/66

霧の中の遭遇戦 猿魔との戦闘と姫誘拐事件


霧の向こう。

 猿の仮面をつけた大男が、じっとこちらを見据えている。


 ――声はない。


 ただ、その場の空気が、凍りつく。


 ロイロ

(……やばいな)


 ナイル

「うーん…どうしようか。とんでもない大物に出くわしちゃったみたいだよ?」


 リア

「この人が……」

(……猿魔……!)



 エール将軍が、ゆっくりと構えを取る。


黒ずんだ靄のようなものが、

エールの身体の奥で、ゆらりと揺れた気がした。



ロイロ

(……なんだ、今の)



次の瞬間には、もう見えない。



気のせいかと思うほど、一瞬だった。



 ナイル

「…えぇと、エール将軍……ですよね?

 ちょっと、お話ししません?

 ボクたち、別に怪しい者じゃないんですけど♡」


 ロイロ

「……話が通じる相手には見えねぇぞ」


 ナイル

「……だよね」

「じゃあ――少し、おとなしくしてもらおうか」


 ――バッ!


 風を裂く音。


 エール将軍の朝星棒が、一直線にロイロへと飛ぶ。


 ロイロ

「ッ!!」


 ――ガキィン!!


 槍で受ける。


 だが――


 ドッ……!


 足が、地面を削る。


【重い……!?】


 ただの一撃で、間合いを押し崩される。


 ナイル

(ロイロが……押された!?)


 間髪入れず、ナイルが踏み込む。


 懐へ滑り込み――


 振るわれた朝星棒の鎖を、釵で絡め取る。


 そのまま引き寄せ、体勢を崩し――


 渾身の蹴りを叩き込む。


 ――ドン。


 確かな手応え。


 だが。


 エール

「…………………………」


 微動だにしない。


 ナイル

「……え?」


 次の瞬間。


 視界がぶれる。


 ――ドゴッ!!


 裏拳。


 見えなかった。


 ナイル

「がっ!!」


 身体が宙を舞い、地面に叩きつけられる。


【今の……見えなかった……】


 息を詰まらせながら、なんとか立ち上がる。


 その一瞬。


 エールの懐が、わずかに空く。


 ロイロ

「……よそ見してんじゃねぇよ!!」


 一歩踏み込む。


 間合いの外から――


 一直線。


 喉元へ、槍を突き出す。


 ――ガッ!!


 止まる。


 空気ごと、止められたかのように。


【手応えが……ない……!?】


 エールの片手が、穂先を掴んでいた。


 ロイロ

「……止められた……?!」


 力を込めても、びくともしない。


 まるで、地面に突き刺したかのような感触。


 ロイロ

「……化け物が」


 ナイル

「同感……」


 リア

【どうして……

 ロイロもナイルも……通じてない……】


【あの二人が……

  こんなふうに押されるなんて……】




 防がれ、かわされ、叩き込まれる。

 息つく間もない攻防。


 ロイロ

「……っ、はぁ……!」


 ――空気が、薄い。


 ナイル

「……っ、はっ……!」


 ――視界も悪い。


 ロイロ

【心臓の音……うるせぇな……】


 エール

「………………………………」


 ロイロ

【なんだよ、こいつ……

 息一つ、乱れてねぇ……】


 ナイル

「……ちょっと、傷つくね……」


 リア

「……っ!」


 どうすればいいかわからない。

 でも、このままじゃ――二人ともやられる。


 思わず、リアが駆け出す。


 リア

「ロイロ――!」


 ロイロ

「リア!! 来るな!!」


 ――その瞬間。


 ロイロとナイルの視線が、リアの背後へと跳ねた。


 二人の目が、見開かれる。


 ロイロ&ナイル

「……ッ!!」


 霧を裂くように、馬の蹄の音。


 現れた兵が、リアを抱え上げる。


 リア

「えっ……!?」


 ロイロ

「待て!!」


 ナイル

「ちっ……!!」


 追おうとした瞬間。


 ――ジャラッ。


 エール将軍の鎖が、ナイルの足を絡め取る。


 同時に、ロイロの間合いにも踏み込まれる。


 ロイロ

「くそっ……!!」


 リア

「ロイロ!! ナイル!!」


 霧の中へ――

 その姿は、一瞬で消えた。



 ロイロ

「……っ、あぁあああ!!」


 怒りのまま、槍を振りかぶる。


 大きく踏み込み――


 全力で、叩きつける。


 ――ドゴォ!!


 振り下ろす、その一瞬。


 視界の端から、影が滑り込む。


 ロイロ

「――っ」


 避けきれない。


 ――ドゴッ!!


 裏拳が、顎を打ち抜く。


 鈍い衝撃。


 意識が、ぐらりと揺れる。


 ロイロの身体が、崩れ落ちた。


 ナイル

「ロイロ!!」


 ふらつきながらも、エールを睨む。


 ナイル

「……最初から、リアちゃんが狙いだった……

 ――そうだろ?」


 エール

「…………………………」


 返答はない。


 ただ――


 霧が、揺れた。


 ナイル

「……え?」


 視界から、消える。


 ――次の瞬間。


 “横”から来た。


 ――ドゴォォォ!!


 回し蹴りが、顎を打ち抜く。


 ナイル

「……っ……」


 何もできない。


 そのまま、意識が落ちる。


 エール

「…………………………」



 霧の中へ、音もなく溶けていった。



 ――戦いの音が消えてから、しばらく。



 残されたのは、倒れた二人と、重い静寂だけだった。


 やがて。


 霧の向こうから、駆けてくる足音。


 シュシャが駆け寄り、

 倒れたナイルの肩を強く揺さぶる。


 シュシャ

「おい!! 何があった!!」


 息を切らしながら、シアンも駆けてくる。


 シアン

「ロイロ! ナイル!」


 ロイロ

「……っ、いてぇ……」

 顎を押さえながら、ふらつく。


 ――ハッ。


  ロイロ

「リアは……!!」


 弾かれたように、飛び起きる。


 視線を彷徨わせるが、


 ――いない。


 ロイロの顔が、歪む。


 シュシャ

「リア様はどうした!!」


 ナイルも、遅れて意識を取り戻す。


 ナイル

「……っ……は……」


 息を詰まらせながら、状況を思い出す。


 ロイロ

「…………連れて行かれた」


 絞り出すような声。


 シュシャ&シアン

「……!!」


 シュシャ

「なんだと……!?」


 一歩、踏み出す。


 怒りが滲む。


 ナイル

「……一瞬だった」

「本当に……何もできなかった……」


 悔しさを押し殺すように、俯く。


 シアン

「…霧が濃い…見えない……」


 ロイロ

(トドメを刺さなかった……)

(リアだけを連れて行った……)


(……最初から狙いは――)


 ロイロ

「……っ」


 歯を食いしばる。


 そのとき。


 視界の端に、違和感。


 地面に突き立つ、一本の矢。


 ロイロ

「……なんだ、これ……」


 近づく。


 紙が括りつけられている。


 ナイル

「ロイロ、それ……」


 ロイロ

「…………」


 無言で紙をほどき、開く。


 全員が、覗き込む。


――――――――――――――――――

 「姫は国境を出た先。

 夜明けまでに、北北東の砦を目指せ」

――――――――――――――――――


 空気が、張り詰める。


 ロイロ

「北北東の砦……」


 シュシャ

「……罠ではないのか」


 低く唸るような声。


 シアン

「……罠でも……」


 ロイロ

「あぁ……」


 迷いはない。


 ロイロ

「行くしかねぇ」


 ナイル

「夜明けまで、か……」


 顔を上げる。


 ナイル

「急ごう…!時間がない…!」


 ロイロ

「あぁ」


 霧の中へ、四人は駆け出す。


 ――夜明けが来る前に。


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