六合目の村で休息する一行と“猿の仮面の男”
シュン
「あーーーー……空気、もっとくれーーーー……」
リア
「吸っても吸っても……ちゃんと吸えてる感じがしないわね……」
レオ
「吸っても吸っても、入ってくるのは霧ばっかりー」
白い息のような霧が、もくもくと漂う。
ロイロ
「確かに……これは休み休み行かないと、酸欠になりますね」
ナイル
「ここに住んでる人たち、ほんとすごいよね。
全然平気そうだし、子供たちなんてこんな中でも走り回ってるよ……」
(若いっていいね…)
シュシャ
「双国の者は、相当肺が鍛えられていそうだ!
凱帝国の者では、この環境についてくるのも難しいだろうな」
リア
「そうみたいね。
兵士はちらほら見かけるけど、見張り程度で……
侵略って雰囲気は感じないわ」
レオ
「平和が一番さぁ〜」
ロイロ
「………………」
リア
「さっきから周り気にして…どうしたの、ロイロ?」
ロイロ
「いや……たまに、誰かに見られてる気がして。
……気のせいかもしれませんが」
リア
「……」
――温泉で感じた、あの視線が脳裏をよぎる。
リア
「シアン……少し周りを見てみて?」
シアン
「……うん」
こくり、と頷く。
ゆっくりと、四方へ視線を巡らせる。
霧の向こう、木々の隙間、足元――
どこにも、人の気配はない。
シアン
「……何も……いないよ」
リア
「ほら、大丈夫よ」
ロイロ
「……考えすぎ、か」
シュン
「そうそう! こんな平和な国、そうそうないよ!
行こ行こ!」
すっかりお気に入りらしい。
――――――――――――
――それでも
見つめる視線は、確かにあった。
⸻
シュン
「……ごめん。ちょっと休憩……頭、痛い……」
リア
「シュン、大丈夫?」
シュン
「うん……ちょっと無理しすぎただけ。
ゆっくりすれば大丈夫だと思う」
ナイル
「じゃあ、ボクはここの村で少し聞き込みしてこようかな♪」
シュシャ
「おぉ!いい匂いだ! あそこが気になるぞ! 行くぞ、シアン!」
とシアンの腕を強引に引っ張り去っていく。
レオ
「…みんな元気だなー」
シュン
「……あいつら元気で羨ましいよ……
ほら、あそこに珍しい野菜……あ、あっちにも……」
リア
「ふふ。シュン、ちゃんと休んでね?」
シュン
「うん……ごめん」
ロイロ
「それにしても……この村、霧が深いな。
それに、やけに静かだ……」
八百屋の中年男性に声をかける。
ロイロ
「おやっさん。煌龍国から来た観光の者なんだが、
この村、他より活気がないように見える。どうしてだ?」
おやじ
「おぉ! 煌龍国からか!
えらい遠いところから、よく登ってきたなぁ!」
りんごを二つ、差し出す。
おやじ
「あんなぁ……ここは東部なんだが、
東部の兵士だった若い男どもは、大体ここらに住んでたんだ。
……ガラガラに見えるだろ?」
ロイロ
「……おやっさんにも、息子が?」
おやじ
「あぁ。バカ息子がな。
今は砦に連れて行かれて、何年も会ってねぇ。
……元気にしてりゃいいが……」
ロイロ&リア
「………………」
――――
ロイロ
「なるほどな……。
下の方に住んでいた人たちは、兵士にもならない層だった。
だから連れて行かれなかったんだな。老人も多い」
リア
「上に行くほど、静かになるのね……悲しいわ」
シュン
「……あぁ……」
顔をしかめる。
リア
「今日は、この村で宿を取って休みましょう?」
シュン
「うぅ………………」
(見たいのに……)
⸻
一行は合流し、宿へ。
狐の銅像が立つ旅館。
女将
「ごゆっくりお過ごしくださいまし」
リア
「あの……」
女将
「はい?」
リア
「双国には、どうして狐の置物が多いのですか?」
女将
「煌龍国の方でしたね。
それなら、少し親近感を持ってくださるかもしれません」
女将
「昔、この地には悪さばかりする狐がおりました。
その狐が、ある時――煌龍国から来た龍を助けたそうです」
「それが縁で、狐と龍は友となり、
龍は礼としてこの地を作りました。
二人はしばらく舞い続け……
龍が去った後、悪い狐は良い狐となり、
今もこの地を守っている――そう言われております」
一同
「へぇ……」
リア
「本当に、狐がいるのですか?」
女将
「さすがに昔話ですよ」
「悪いことをすると狐に食われる、なんて……
子供を叱る時の脅し文句です」
女将
「ただ、歌や音楽は色濃く残っておりまして。
ちょうど今の時期、お祭りもございます。
よろしければ、ぜひご覧になってください」
リア
「……ありがとうございます」
女将
「ごゆっくりどうぞ」
――扉が閉まる。
シュン
「ゔぇーーーー……」
完全にグロッキー。
ナイル
「シュンくん、大丈夫?」
シュン
「……お前たち、ほんとピンピンしてて可愛くない」
ロイロ
「俺たちのナースが倒れて困ったねぇ」
シュン
「……一日、休ませて……」
そう言って、眠りに落ちる。
リア
「……寝ちゃった」
レオ
「俺、診てるからさ。
みんな遊んできていいぞー」
⸻
ロイロ
「……まだ早いですし、少し散歩しますか」
リア
「うん、そうね」
シュシャ
「私は温泉に浸かってくる!」
ナイル
「ボクは外で、もうちょっと聞き込みしてくるよ♪」
シアン
「…また団子、食べたい」
それぞれ、別行動へ。
――――――――――――――――――
リア
「ロイロ、どこ行くの?」
ロイロ
「旅館の人が言ってました。
西側に、また“猿”が出たって」
リア
「猿?」
(小さくて可愛い猿を思い浮かべる)
ロイロ
「どうも動物じゃなく、人のことらしくて。
少し話を聞こうかと」
リア
「氷霧の剣士に、猿……変わった人が多いのね」
ロイロ
「危なそうなら、すぐ引き返します。行きます?」
リア
「ええ、気になるわ」
――――――――
村の外れへ。
――――――――
リア
「あれ……ナイル?」
ナイル
「あれ、二人とも。こんなとこでどうしたの?」
ロイロ
「猿探し」
ナイル
「お、ボクと一緒だね」
ナイル
「村人が“猿が出た”って言ってて、気になってさ」
ロイロ
「で、何かわかったのか?」
ナイル
「……正直、ちょっと…いや、かなり危険かもしれないね」
ロイロ
「どういうことだ?」
ナイル
「その猿っていうのが――
凱帝国の将軍、“エール将軍”のことらしい」
ロイロ&リア
「……!」
ナイル
「双国を監視してる役で、ここでは“猿魔”って呼ばれてるんだって。
…………聞いたことない?」
ロイロは一瞬だけ目を細めた。
ロイロ
「…………あるな」
ナイル
「だよね。
凱帝国で“裁かれたら終わり”って噂のやつ」
リア
「猿…魔……?」
ロイロ
「なるほどな。
だから“猿”じゃ通じなかったわけか」
「“命の裁判官”まさか、こんな場所が持ち場だったとはな」
ナイル
「…ね、実際見たことはないけど、やたら背が高くてさ、しかも筋肉バッキバキらしいよ。
猿の仮面をしてるって――
……人間とは思えないって噂もあるくらいでさ」
ロイロ
「一度、手合わせでも願い出てみるか」
リア
「ロイロ!」
ロイロ
「冗談ですよ。そんな目立つ真似しません」
ナイル
「一目見たい気もするけど……
引き返した方が良さそうだね。
……さすがに、やばい。」
リア
「……そうね」
⸻
引き返そうとした、その時。
足元のぬかるみに取られ――
リア
「あっ!!」
ロイロ
「リア!!」
ナイル
「リアちゃん!!」
――ずるり。
リア
「……いたたた……」
二人が駆け寄る。
ロイロ
「まったく……何やってるんですか」
ナイル
「霧で見えなかったけど……
思ったより深くなくてよかった」
リア
「ごめんなさい……」
――その瞬間。
ゾクッ。
……何かが、いる。
気配。
三人は、同時に視線を走らせた。
ロイロ
「……来る」
ナイルが、釵を構える。
ザッ……
ザッ……
ザッ……
霧の向こう。
大きな影。
――――――――――
三人の視線が、一斉にその影へと向く。
そこに立っていたのは――
猿の仮面をつけた、大男だった。




