表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
107/137

無邪気な再会の中で、一つだけ重すぎる真実が落とされた


城下町・再会の輪の中で


一通りの再会が落ち着いた、その時だった。



リアが、にこやかに首を傾げる。



「そろそろ、街を歩きたいんだけど――」


 

その前に。


一歩、妖王の前に出た影があった。


「……王様」


「お初にお目にかかります」


深く、だが堅すぎない一礼。


「私め、ロイロと申します」

「リア姫の護衛を務めております」

「以後、お見知り置きを」


声色は軽いが、所作はきっちりとしたものだった。


シャガルは、じっとその姿を見下ろし――

ふっと、鼻で笑う。


「ほう」

「礼儀がなっている者も、おるのだな」


ロイロは、口角を上げる。


「光栄です」


レイラは、内心ほっと息をついた。


(……よかった)

(噛み合っている)


――そう、思った、その直後。


「……ふむ」


シャガルが、何気ない風を装って、口を開く。


「余はシャガル」


間。


「――レイラの、夫だ」


「それ以上の説明は、要らぬだろう」

 


沈黙。


空気が、止まった。


「…………」


レイラのこめかみに、冷たい汗が伝う。


(あっ……)


――それ、私が説明する予定だった。


リア一行。


「?????????」


完全な思考停止。


「……ん?」

「んん?」

「どゆこと?」


真っ先に声を出したのは、ナイルだった。


「ん?ん?シャガル様……?」

「夫、って……?」


リアも、目を瞬かせる。


「……え?」

「レイラとテュエルが、婚姻を結んだのよね?」


周囲が、ざわりと揺れる。


その様子を、シャガルは横目で眺め――

ほんの少しだけ、意地の悪い目で、レイラを見た。


(余が言ってやったぞ)


そんな顔。


レイラは、額に手を当て、髪をくしゃりと掻く。


「…………」

「……なにから説明すればよいのか……」


一度、息を整え。


「……シャガルとも」

「婚姻を、結んだ」


「え?」


リアの口から、間の抜けた声が零れる。


「……じゃあ」

「テュエルとは……?」


ついさっき、祝福して、

「ありがとう」と言っていたような…

そんな記憶が、頭をよぎる。


「………………」


シュンは、言葉を失い。


「……テュエルとも」

「婚姻を結んだ」


「………………」


完全沈黙。


レイラは、そっと目を伏せる。


(……説明、大変だな……)


次の瞬間。


「ええぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?」


悲鳴にも似た叫びが、城下町に響いた。



※場面転換※

(状況説明:シャガルと婚姻に至った経緯)



「……なるほど……」

「いや……なるほど、なのかすら分からないけど……」


ナイルは、乾いた笑いを浮かべる。


「やっぱすげぇな……」

「住む次元が、色々ちげぇわ……」


ロイロは、肩をすくめた。


「じゅ……重婚……?」


シュンは、ほぼ干からびていた。


リアは、レイラをじっと見つめ――

ふっと、息を吐く。


「……レイラ」

「やっぱり、あなたってすごいわ……」


そして、ふと、思い至る。


(……だから、なのね)

(テュエルが、あんなに元気がないのは……)


胸の奥が、ちくりと痛む。


(あんなに健気に、レイラを想ってきたんだもの)

(……当然よね)


一瞬、視線を伏せ。


(レイラにも、事情がある)

(人の心を踏みにじる人じゃない……それは、わかってる)


――だからこそ。


(後で、ちゃんと聞かなければ)


リアは、ぱっと顔を上げ、明るく言った。


「とりあえず!」

「話は、城下町を散策してからにしましょ!」


一同。


「賛成ー!!」


一斉に、手が上がる。


賑やかな声に包まれながら、

それぞれが、それぞれの想いを胸に秘めたまま。


煌龍国の街は、今日も、にぎやかだった。



 ――――――



通りの奥、装飾品を扱う露店の前で、

レイラは簪を手に取って眺めていた。


銀地に、深紅の石。

繊細な細工だが、どこか芯のある佇まい。


「似合いそうだねぇ♡」


隣で、ナイルがにこにこと覗き込む。


「レイラちゃんさ」

「本当、ずっと印象が柔らかくなったよね♡」


「……そうか?」


レイラは首を傾げる。


「うんうん」

「戦の時のレイラちゃんも綺麗だったけどさ」

「今は……なんていうか……」


視線が、自然とシャガルに向く。


「人に触れられるのを、許してる顔♡」


レイラが、ぴたりと動きを止めた。


「……ナイル」


「はは♡冗談冗談」

「でも――」


声を少し落とす。


「シャガル様の前では、乙女の顔になるよね♡」


一瞬の沈黙。


その言葉に、

シュンの胸が、ちくりと痛んだ。


(……乙女……)


否定できない。

それくらい、今のレイラは――柔らかい。


シャガルは特に気にした様子もなく、

店先の簪を一つ、無言で手に取った。


そして――

何の断りもなく、レイラの髪に差し込む。


「……これでいい」


レイラ

「…………」


リア

「え?」


シュン

「え?」


店主

「え?」



「ちょっと待て」


レイラは、慌てて自分の頭に触れる。


「まだ買っていないぞ」


シャガル

「問題ない」


レイラ

「ある」


シャガル

「似合っている」


レイラ

「そういう話ではない」


店主が、恐る恐る口を挟む。


「あ、あの……お代は……」


シャガルは一拍、黙った。


そして、レイラを見る。


「……持っておらぬ」


レイラ

「だと思った」


即答だった。


レイラは小さくため息をつき、

代金を払う。


「まったく……」

「勝手に人の頭に刺すな」


「夫だ」


「理由にならない」


そう言いながらも、

簪を外す気はない。


そのやり取りを、

シュンは少し後ろから見ていた。


(……夫婦……か……)


頭では、分かっている。

レイラは選んだ。

テュエルも、シャガルも。


(……でも……)


視線が、無意識にテュエルへ向く。


彼は、少し離れた場所で、

いつも通り、静かに立っている。


完璧な護衛。

完璧な距離。


(……テュエル……)


(……本当に……)

(……それで……いいのかな……)


シュンは、知っている。

テュエルが、どれほどレイラを想っているか。

どれほど、自分を後回しにする人間か。


(……許してる……のかな……)

(……無理、してないの……?)

(俺でさえ……こんなに辛いのに……)

 

胸の奥が、きゅっと締まる。


ナイルは、その様子を眺めながら、

ふっと視線をずらした。


少し後ろ。


テュエル。


(……テュエル君……)


彼は、いつも通り立っている。

護衛として、完璧な位置。


だが、

レイラが簪を差された瞬間、

その視線が、一瞬だけ揺れた。


すぐに、何事もなかったように戻る。


(……やっぱり……)


ナイルは、何も言わない。

言えない。


ただ、いつもの軽い声で場を和ませる。


「いやぁ♡」

「これはもう完全に“正妻の風格”だね♡」


「ナイル」


「はは♡」


リアは、

レイラの横顔を見る。


照れているわけでもなく、

誇るでもなく、

ただ――自然に、そこにいる。


(……ほんとに……)

(……夫婦、なんだ……)


その一方で。


テュエルは、

簪に視線を落としたまま、

一歩だけ、距離を取った。


(……護衛として……)

(……この位置が、正しい……)


そう言い聞かせるように。


シュンは、その背中を見て、

小さく唇を噛んだ。


(……レイラ……)

(……あなたは……)

(……ちゃんと……この人の心まで……見てる……?)


城下町は、相変わらず賑やかだ。


笑い声も、

呼び込みの声も、

香ばしい匂いも、溢れている。


それでも。


この一瞬一瞬が、

テュエルの心を削り、

シュンの胸に疑問を残し、

リアとナイルに「違和感」を刻んでいることを――


まだ、誰も口にはしなかった。

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ