閑話 上着一着の行方
「シルヴィア様、お部屋を掃除してましたら、こちらが床に落ちていたのですが、どうなさいましょう」
黒髪の無表情な従者、ジェシカがシルヴィアに男物の礼装用の上着を差し出してきた。
見覚えのある上着を見て、シルヴィアは愉快げに口角を上げる。
「丁重に洗って、持ち主に返して差し上げなさい」
「かしこまりました」
ジェシカは一礼すると、礼装を手に部屋から出ていった。
シルヴィアは作業机から紙とペンを取り出す。
あの上着は、先日ウルがこの部屋に訪れた際に着ていたものだ。
酒が進むにつれ、暑いと脱ぎ捨て、そのまま忘れていったのだろう。
持ち主の見当がついていたシルヴィアは礼装を返す際に添える文を書き綴った。
・
数日後。
「皇宮よりお荷物が届いております」
従者が手にしている物を見て、アシュフォードは眉間に皺を寄せる。
それは先日の夜会でウルに被せた礼装用の上着だった。
そういえば、シルヴィアの元から連れ戻した時から着ていなかったことを思い出す。
礼装など、いくらでもあるので気にも留めていなかった。
「あと、こちらも一緒にと」
封筒には皇族の蝋印が押されており、嫌な予感しかしなかったが、一応封を切る。
そこにはウルがアシュフォードの上着をシルヴィアの部屋に忘れていったので、全ての痕跡を残すことなく綺麗にして返してやったから感謝しろと書かれてあった。
中身を読んだアシュフォードの眉間が更に深くなる。
その場で紙を握り潰したアシュフォードは、それを従者へと投げ捨てた。
「不要だ。捨てろ」
「かしこまりました。それでは、こちらも一緒に処分いたしますね」
握り潰された手紙と上着を手に、従者が部屋から出ようとする。
「......待て」
アシュフォードが呼び止める。
「......服は、置いてけ」
気まずさで視線を逸らすアシュフォードに、従者は首を傾げるも、言われた通り上着を近くの椅子へ掛けた。
従者が部屋から出たのを確認すると、アシュフォードはためらいがちに上着に手を触れる。
脳裏にウルがこの上着を着て、笑顔になっていた姿が浮かび上がった。
慎重に上着を持ち上げ、皺を伸ばすように手のひらで表面を撫でる。
また、いつか着るかもしれない。
そう自分に言い訳するアシュフォードは上着を誰にも見つからないように衣装棚の一番奥へと仕舞い込んだのだった。




