6 女性だけの馬車は花の匂い
僕は勢いよく馬車の後幕を開けた。
「お宝、ご開帳ー!」
そこには、足枷を付けられた人たちが何人も座っていた。
「……御閉帳」
僕はそっと後幕を閉めた。
「人! 人がいる!」
焦りながら馬車を指差す。
「ゴブリンたちの夜ご飯……」
マキナは落ち着いた様子で答えた。
「おい」
「所有権はニアにあるけど、どうするの?」
「人だっつってんの! ……あと連帯責任だから」
面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだ。
さっさと助けて、さっさと帰ろう。
「失礼しまーす」
控えめに声をかけながら荷台へ入る。
そして、一人ひとりの足枷を壊して回った。
「じゃあ僕は帰るので、あとはご自由に」
背後から小さな足音が近づいてきた。
「待って! 君が助けてくれたの?」
その声には安堵と感謝が入り混じっていた。
「はい……」
「ありがとうございます。本当にありがとうございます」
「じゃあ」
「待ってください!」
腕をぎゅっとつかまれる。
「せめて、お名前だけでも」
「いえ、名乗るほどの者ではございません」
名前なんて知られたら噂が広まって、僕が森へ行ったことまで親にバレるかもしれない。
その時、後幕が開いた。
「ニア、車輪の跡をたどれば村まで戻れるよ」
「おーい!」
「あっ……ニア様というお名前なのですね。それで、あちらの方は?」
「私の名前はニアではございません」
くそ。
「……私の名前は髙橋です」
「そうでしたか。ニアと呼ばれていたので、てっきりお名前かと……」
「あはは、面白い勘違いですね。元いた場所まで送れるみたいなので、そのまま乗っていてください」
「立て続けにお手数をおかけして、本当にありがとうございます」
僕は馬車の外へ出た。
「え? 馬がいないけど、これどうやって動かすの?」
「私が引く」
え?
怖っ。
「僕は何すればいい?」
「乗ってて」
「はい」
中にいると気まずいので僕は馬車の屋根へ飛び乗った。
やがて馬車がゆっくりと動き始める。
うわ、すご。
なんか見たことあるな、こういうの。
トラックを引っ張るやつみたいだ。
徐々に速度が上がっていく。
これはもう、馬力少女として名を轟かせられるな。
幌がわずかに揺れる。
白髪の少女が音もなく屋根へ登ってきた。
「ニアくんって、私と同じくらいの歳だよね?」
「君、話聞いてた? 僕は髙橋だよ」
「それ嘘でしょ。名前がタカハシなのにニアって呼ばれるのおかしいもん。名前を知られたくない理由があるんでしょ?」
「勘のいい子は、またゴブリンに攫われるよ」
「その時は、またよろしくね」
こいつ……
「君には魔法の才能がある。いっぱい勉強して、次は君がみんなを守るんだ」
「えっ! 本当に⁉私魔法の才能があるの!?」
しらん。
「うん、本当だ」
「じゃあ魔法をいっぱい勉強して、ニアくんみたいに強くなるね!それでニアくんを支えてあげる」
話を聞いてたのかな?
「うん。頑張って」
馬車は徐々に速度を落とし、やがて村の前で止まった。
「着いた」
マキナは息ひとつ乱さずそう言う。
僕は馬車から飛び降りた。
「よし、帰ろう」
「分かった」
「待って! お礼は!」
「魔法、頑張ってねー!」
僕たちはそのまま走って帰った。
読んでいただきありがとうございます。
なんでもいいので感想、評価をいただけたら嬉しくて嬉しくて震えます。
若い女性はラクトンと言う、甘い・フルーティーな香りの化学物質が出てるらしいです。
別に私はゴブリンではありません。




