4 ベタモルフォーゼ
鏡に映っていたのは、モーヴピンク色の長いストレートヘアをした見知らぬ若い女性だった。
「なにこれ……⁉」
思わず漏れたその声は、聞き慣れたものではない。
澄んだ女性の声が、静かな部屋に響いた。
「だれ⁉どういう事⁉これどうやって戻るの⁉なんでちょっと魔女っぽい服着てるの⁉」
「……」
「え?」
マキナと見つめ合ったまま、しばし沈黙が続く。
「おい」
「え、あ、戻れって思えば戻れる。かも。たぶん……」
マキナは言葉を選ぶように何度も口を開きかけ、最後は歯切れ悪く言葉を濁した。
「ねぇ、なにその返事怖いんだけど。いますごい玉が震えてるからね。あー震える玉なくなっちゃってたわ。はは」
「何言ってるか分からない」
……
「で、これは一体なんなの?」
「……わからない……猫に好かれるとか?見た目的に……」
「ん?何言ってるの?ネコとかタチとか好かれるわけないじゃん女になっちゃってるんだから」
「何言ってるか分からない」
「……もういいから戻り方教えて」
「…………横に浮いてる杖を持って戻ろうと思えば戻れる。たぶん……」
「わかった」
いつの間にか隣に浮いている黒い杖を握り、元に戻ろうと願った。
戻れ戻れ……
全身を覆うように黒い液体が現れ、体を包み込む。
体の奥から何かが引き戻されるような感覚が走り、ゆっくりと元の形へ戻っていく。
そして、黒い液体が流れ落ちると見慣れた体に戻っていた。
「もどった!」
「……」
「ごめんマキナ……色々勝手に触っちゃって……」
「うん……」
マキナはすこし悲しそうな顔をしている気がした。
僕たちは倉庫を出て書庫に戻ってきた。
「ねぇ、基礎だけでいいから魔法のこと教えてくれない?」
「分かった……まず魔法には大きく分けて二つある。ひとつは詠唱魔法。詠唱をすれば誰でも発動できる。もうひとつは天賦魔法って言ってその人だけが使える特別な魔法。これは生まれた時から持ってる人と持ってない人がいる。固有魔法って呼ばれてたりもする」
「ふーん」
微かに笑みがこぼれた。
「属性とかはないの?」
「あるよ」
「じゃあ早く何属性か調べよう!」
マキナは不思議そうな顔をして言った。
「適性度とかあるけど詠唱すれば大体全部出せるよ」
「そうなんだ……」
「で、ほとんどの人が最も適性度の高い属性を極めて詠唱を省略できるようにする。凄い人は、詠唱を省略しても完全詠唱と同等の威力を出せる」
「じゃあその適性度はどうやって測るの?水晶とか?」
「ちがう、適性度を測るための詠唱魔法がある。ちょっと待ってて」
本棚に並んだ背表紙を指先で一冊ずつなぞりながら目的の本を探す。
「あった、これ」
「適性の魔導書?」
「とりあえずここ読んで」
マキナは詠唱が書いてあるところを指さした。
「えーっと。我が身を巡る理よ、内に宿る本質を映し、その適性を示せ」
詠唱を唱え終わると持っている魔導書の開いている一ページが輝き始めた。
「眩し!なにこれ!」
「光属性への適性が高いと、そうやってページが強く輝く」
「へー、光属性は何ができるの?」
「ちょっと待って」
マキナは棚から一冊の本を取ると、何のためらいもなくいきなり手首に刃を滑らせた。その瞬間血が弧を描き、床へと滴り落ちる。
「え、なに、こわ」
「これで試してみて」
「なにを?」
「光属性魔法」
そういいながら開いた本と手首を差し出す。
「いやいや別に口で言えばいいじゃんそこまでする?普通」
覚悟がありすぎだろ。
「大丈夫」
「いや大丈夫じゃないから。イカみたいになってもしらないからね!」
僕はマキナの腕に手をかざして詠唱を始めた。
「降り注げ、命を紡ぐ白き輝き、裂けた肉を結び、痛みを退けよ 治癒?」
「それ次の行もちゃんと読ん……」
マキナの手首がかすかに光を帯びた。その光はじんわりと広がり傷が治っていく。
「うわすご」
「………ありがとう」
「よし、一通り魔導書を見たら魔物を狩りにいこう」
「え」
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