3 本は紙より電子派
翌日。
約束の場所へ向かうと、マキナはすでに待っていた。
「お待たせー。待った?」
「全然。さっき来た」
「ふーん。あれ、魔導書は?」
「家。だから今から連れていく。ついてきて」
初っ端からお家デートだと……!
そんな考えを振り払うように軽く首を振り、僕はマキナの後を追った。
森の中をしばらく歩くと、小さな洞窟が姿を現す。
「ここ」
マキナは洞窟を指さした。
「……この中?」
「この中」
彼女に続いて薄暗い洞窟へ足を踏み入れる。
「ねぇ。本当にここに住んでるの? 竪穴式住居の作り方なら教えられるけど」
「なにそれ」
一言返したマキナは立ち止まり、洞窟の壁を指さした。
「こっち」
「こっちって……行き止まりだけど」
そう言い終えるより早く、マキナは何事もないように壁の中へと歩いていく。
その姿は、壁に吸い込まれるように消えた。
え?
そうか、魔法の世界だもんな。
「何してるの? はやく」
「う、うん」
恐る恐る壁へ手を伸ばす。
抵抗はまるでなく、そのまま体が壁をすり抜けた。
そして、その先に広がっていた光景に思わず息をのむ。
「いや、なにこれ!」
目の前には巨大な館が建っていた。
「家」
「家にしてはでかすぎでしょ……」
ていうか、誰がどうやって建てたんだよ。
マキナは重厚な扉に手をかける。
軋む音を響かせながら扉がゆっくりと開くと、中は意外なほど明るかった。
廊下や広間には無数のロウソクが灯され、その幻想的な光が館全体を照らしている。
「お邪魔します」
「こっち」
マキナに案内されるまま長い廊下を歩き、館の奥へ進む。
やがて厚い木製の扉の前で立ち止まった。
「ここ」
扉が開く。
僕は思わず目を見開いた。
壁一面を埋め尽くすほどの本棚。
そこには数え切れないほどの魔導書が整然と並べられていた。
「すご……」
上の段の本とかどうやって取るんだろう。
「これ全部、魔導書なの?」
「うん。じゃあ私戻るから、何かあったら呼んで」
「わかった。ありがとう」
マキナが部屋を出ると、扉は静かに閉まった。
さて……。
本が多すぎる。
どれを読めばいいのかまったくわからない。
表紙も似たようなものばかりだし、せめてタイトルくらい大きく書いておいてほしい。
図書館みたいな部屋だな。
本棚を眺めながら歩いていると、不意に、マキナを見つけたときに感じたものと同じ、不思議な魔力を感じた。
まただ……。
なんだ、この感覚。
本棚ではない。
もっと奥からだ。
気づけば、その魔力に引き寄せられるように部屋を出ていた。
廊下を進んだ先には、物置のような部屋があった。
中には見たこともない魔道具が所狭しと並んでいる。
全身が映るほど大きな鏡。
用途のわからない杖や宝石。
奇妙な機械のようなものまで置かれていた。
すごいな……。
鏡よ鏡って聞いたら返事しそう。
そんなことを考えながら部屋の中を見回る。
すると、あの魔力は部屋の隅に置かれた小さな引き出しから漂っているようだった。
ゆっくりと引き出しを開ける。
そこには一本の万年筆が、大切そうに保管されていた。
……これか。
不思議と目を離せない。
吸い寄せられるように手を伸ばし、そっと万年筆を握る。
その瞬間――
「なにしてるの?」
「うわぁっ!」
突然背後から声をかけられ、思わず飛び上がる。
振り返ると、マキナが不思議そうな顔で立っていた。
「いや……ちょっと気になるものがあって」
「なに?」
「これ」
万年筆を手のひらに乗せて見せる。
マキナはそれを見るなり、わずかに表情を変えた。
「それは……」
「もしかして、魔力を込めると空中に文字が書けるとか?」
軽い気持ちで万年筆へ魔力を流し込む。
すると、ペン先から黒いインクのような液体が床へ落ちた。
……ん?
黒い液体は生き物のように僕の足元から這い上がり、一瞬で全身を包み込んだ。
「なっ……!?」
冷たいはずの液体は、触れた瞬間に熱へと変わる。
全身が熱を帯び、骨や筋肉がゆっくりと引き伸ばされていくような、不思議な感覚が全身を駆け巡った。
やがて黒い液体は体の中へと染み込み、跡形もなく消えていく。
見下ろすと、身にまとっていた服は見覚えのないものへと変わっていた。
胸元には今までなかった重みがある。
指先は細く、肩へ流れる髪がさらりと揺れた。
……なにこれ?
恐る恐る近くの鏡へ視線を向けた。




