23 一位になってもいいことはない
試験終了の合図が鳴ってからしばらくして、受験生たちは広場へ集められていた。
フェアはまだ少し痛む横腹を押さえながら、ニアとマキナの隣に立っている。
「それじゃ、結果発表するよー」
高台に立ったアデルが軽い調子で手を叩く。
すると広場の中央に巨大な光の板が浮かび上がった。
そこへ次々と名前と順位が表示されていく。
フェアは不安そうに順位表を見上げ、下から順番に自分の名前を探していく。
しかし、見つからない。
「……あれ?」
さらに上。
まだない。
十位。
五位。
三位。
「え、ちょっと待って……」
そして。
最上段。
第一位 フェア・ノルディス
「…………え?」
フェアはしばらく固まった。
「あ……」
ニアの声が漏れる。
広場がざわめき始める。
「一位?」
「あの子誰だ?」
周囲から聞こえてくる声に、フェアは慌ててニアを見る。
「ニア君!これまずいって!」
「頑張ったんですね」
「いや、記憶がないんだけど!」
ニアはそっと目を逸らした。
その時。
「静かにー」
アデルの声が広場へ響く。
「ちなみに腕輪への細工や、ポイントの改竄は確認されてないよ。ひとまず順位はこれで確定ね」
ざわめきは完全には収まらなかった。
だが、教官がそう言う以上、その場で食い下がる者はいない。
「私……本当に一位なの?」
「一位って書いてあるじゃん」
「そういうことじゃなくて!」
結局、その日の試験は何事もなく終了した。
◇ ◇ ◇
翌日。
フェアのもとへ、一通の呼び出しが届いた。
指定された部屋の前まで来ると、フェアは小さく息を吐く。
「……絶対、昨日のことだよね」
嫌な予感しかしない。
覚悟を決め、扉をノックする。
「どうぞー」
中から聞き覚えのある軽い声が返ってきた。
「失礼します」
扉を開けると、部屋の奥にはアデルが座っていた。
そして壁際には、見覚えのない少年が一人。
腕を組み、不機嫌そうな表情でこちらを見ている。
「来たねー、フェアちゃん。とりあえず座って」
「……はい」
フェアが席へ着く。
アデルは机の上へ一枚の紙を置いた。
そこには、試験中のポイント推移が細かく記録されていた。
「まず最初に言っておくけど、腕輪への不正は確認されなかったよ」
「はい……」
アデルは困ったように頬を掻く。
「フェアちゃんが倒したことになってるゴブリンの数なんだけどさ。私たちが試験区域に放した数より、明らかに多いの」
「……え?」
フェアの表情が固まる。
アデルは紙を指先で叩いた。
「試験区域の周囲には結界が張られてる。外から人や魔物が勝手に入れないようにね」
つまり。
本来なら、学校側が用意していないゴブリンなど存在するはずがない。
「でも腕輪には、一体ずつ正常に討伐記録が残ってる」
「…………」
フェアは何も言えなかった。
なにせ、その時間の記憶自体がない。
アデルが小さくため息を吐く。
「これが上に知られるとさぁ……」
アデルは遠い目をした。
「『結界の管理どうなってんだ』とか、『試験監督は何してたんだ』とか、『不正を見逃したんじゃないか』とか……」
両手で頭を抱える。
「絶対怒られる」
◇ ◇ ◇
その頃。
部屋の外。
扉のすぐ横の壁へ耳を当て、一人の少年が会話を聞いていた。
もちろんニアである。
呼ばれてはいない。
だが、フェアだけ呼び出されたと聞いて気になったので、勝手についてきた。
「まずったな……」
だいたい原因は分かっていた。
メフィルが後から大量に増やしたゴブリンだ。
もっと言えば、フェアのポイントが異常に増えた原因についても心当たりしかない。
◇ ◇ ◇
部屋の中では、アデルが話を続けていた。
「だからね、フェアちゃんには実力を見せてもらいたいの」
「実力?」
「昨日の結果を疑ってる受験生が結構いるんだよ」
アデルは壁際の少年へ視線を向ける。
「特に、そこの二位くんとか」
「二位くんと呼ぶな」
少年が眉をひそめた。
フェアは初めて少年をまともに見る。
「二位だった人?」
「ああ」
少年はわずかに目を細めた。
「俺は、あの試験結果を認めていない」
「そう……ですか」
「腕輪の記録が正常なのは認める。お前が自分で記録を改竄したとも思っていない」
「じゃあ、何なんですか?」
少年はフェアを真っ直ぐ見据える。
「お前に、本当に一位の実力があるのか確かめたい」
「え?」
「試験終了直前、お前は異常な速度でポイントを稼いだ。それなのに、お前自身はどうやって稼いだのか説明できないそうだな」
「それは……」
フェアは言葉に詰まる。
少年は続ける。
「ならば簡単だ」
壁から背を離し、一歩前へ出た。
「俺との戦いを、全員に見せればいい」
「…………え?」
「試験二位の俺と、一位のお前」
少年の口元がわずかに上がる。
「どちらが上か。戦えば誰にでも分かる」
フェアは数秒ほど黙り込んだ。
そして。
「嫌です」
「なぜだ!」
「痛いからです!」
こうして、フェアは試験二位の少年と戦うことになった。
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