22 助けられてばかりでも約束は消えない
フェアが目を覚ました時、最初に見えたのは木々の隙間から差し込む空の光だった。
「……ん……」
ぼんやりと瞬きを繰り返す。
頭が重い。
身体を起こそうとした瞬間、横腹と腕に痛みが走った。
「いっ……!」
そこで一気に記憶が蘇る。
ゴブリン。
見知らぬ男。
ニア。
そして――。
「……あれ?」
そこから先がない。
ニアが女性の姿になり、自分の額へ指を当てた。
覚えているのは、そこまでだった。
フェアは慌てて身体を起こす。
「ニア君……?」
周囲を見回す。
少し離れた場所には、何事もなかったかのようにニアが立っていた。
「起きた?」
「今……何時!?」
「え?」
フェアは返事も待たず、腕輪へ視線を落とした。
試験終了まで――残りわずか。
……
ほとんど時間がない。
しかも、気を失う前までほとんどポイントを稼げていなかった。
途中で対人攻撃のペナルティまで受けている。
今から魔物を探したところで、二百ポイントなんて到底間に合わない。
「……落ちた」
「ん?」
「ごめん……ニア君」
「何?」
「支えるって言ったのに……」
「何を?」
「……七年前、私がさらわれてた時、ニア君に助けてもらって……そのお礼に、魔法をたくさん勉強して、いつかニア君を支えるって言ったのに……」
フェアは俯き、ぎゅっと拳を握った。
「結局、また助けられて……試験にも落ちちゃって……これじゃ、もう……」
「何の話?七年前?」
ニアは何かを思い出した顔をした。
「あー!思い出した!あの時のガキ!」
……
「思い出してくれた?」
「ほんとに魔法、勉強したんだ……」
「え?」
「なんでもない」
ニアはそういうと、フェアの手首を指差した。
「ていうか、落ちてないよ?」
「え?」
「ポイント見てみ」
「見なくても分かるよ……。気を失う前なんて全然足りてなかったし、もう時間も――」
「はやく」
「……?」
フェアは言われるがまま、腕輪へ視線を落とした。
表示を切り替え、現在のポイントを確認する。
「…………え?」
思わず目を疑った。
もう一度見る。
何度瞬きをしても、表示されている数字は変わらない。
二百ポイントを――余裕で超えている。
「え?」
フェアは腕輪を顔へ近付けた。
「えっ?」
今度は離す。
もう一度近付ける。
「なんで!?」
「おめでとうございます」
ニアがぱちぱちと拍手する。
「私が気絶してる間なにしたの⁉」
「ん?んー。なにもかも。かな」
「なにそれ」
フェアは立ち上がろうとして、横腹の痛みに顔をしかめた。
「いっ……!」
「大丈夫?治そうとしたんだけど人の身体は完全には治せないみたい。自分の身体ならできるんだけど」
ニアに肩を支えられ、フェアは再び腰を下ろす。
それでも視線は腕輪から離れなかった。
「本当に……何をしたの?」
「二百ポイントあればいいんでしょ?」
「そうだけど……」
フェアはまだ信じられないように数字を見つめる。
さっきまで、全部終わったと思っていた。
七年前にした約束も。
ここまで勉強してきた時間も。
これからニアたちと一緒にいることも。
全部。
それが、まだ終わっていない。
「……よかった」
小さく声が漏れた。
肩から力が抜ける。
「そうだ!私と一緒にいたあの男の子は!」
「あー、あの人なら目を覚まして、さっきどっか行ったよ」
「そう……」
名前くらい聞いておけばよかった……
――パンッ!
遥か上空で、乾いた破裂音が響いた。
フェアとニアが同時に空を見上げる。
木々の隙間から、一筋の光が広がっていくのが見えた。
直後、二人の腕輪が淡く輝く。
『試験終了。受験生は戦闘を中止し、指定された回収地点へ移動してください』
ニアは大きく伸びをした。
「よーし、帰ろ」
「うん……」
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