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デウス・エクス・マギア ~模写魔法の発動条件がTS(性別逆転)だったので隠れて使います~  作者: 星乃 緋咲
3章 王都・入学試験編

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21 準備は数年。終わるのは一瞬。

視点変更 敵


 「なるほどね」


 メフィルは自ら盾となったゴブリンを蹴り退け、何事もなかったかのように立ち上がる。


 あの氷弾。


 完全詠唱までしたのは、威力を高めて僕を仕留めるためじゃない。


 追尾範囲を広げるためだったのか。


 あの程度の威力なら当たっても死なないと最初から分かったうえで、助けを呼ぶことを優先した、と。


 まあ、何がともあれ――


 お手並み拝見といこうか。


餓鬼制御(ゴブリンシュトイエル)


 ゴブリンたちが四方から一斉に飛びかかる。


 その瞬間だった。


 地面が白く輝いた。


「……っ!?」


 巨大な魔法陣。


 地面一帯を覆うほどのそれが、眩い光を放っている。


 次の瞬間、無数の光の剣が地中から突き出した。


 飛びかかっていた七体のゴブリンは、避ける間もなく身体を貫かれ、空中で動きを止める。


 まじか。


 無詠唱かよ……。


 なるほど。


 ファヌスを殺したのはこいつか。


 だが、すぐに違和感が胸をよぎる。


 いや、待て。


 ファヌスを殺したのは、村へ侵入した女だ。


 目の前の受験生を見据える。


 なら、こいつは別人か。


 そう結論づけようとした、その時だった。


 男が一本の万年筆を取り出す。


 その先端から黒い液体が溢れ出し、意思を持つように腕を這い、肩、首、全身へと絡みついていく。


 やがて男の姿は黒に飲み込まれ、完全に見えなくなった。


 数秒後。


 黒い液体が上から下へ流れ落ちていく。


 その中から現れたのは、長い髪を揺らす一人の女性だった。


 なんだ!?


 女は満身創痍の少女へ歩み寄ると、その額へ人差し指を当てた。


 次の瞬間、少女は全身から力を失い、その場へ崩れ落ちる。


 メフィルは嫌な胸騒ぎを覚えた。


 やばい。


 本能がそう警鐘を鳴らし、周囲に潜ませていたゴブリンを一斉に女へ差し向ける。


餓鬼制御(ゴブリンシュトイエル)!」


 迫り来るゴブリンを前に、長い髪の女は薄ら笑いを浮かべた。


雌性支配(レギナドミナート)


「なぜお前が……!」


 倒れていた少女の身体が、ぴくりと動く。


 ゆっくりと立ち上がると、虚ろな瞳のままゴブリンたちへ片手を向けた。


氷弾(アイスクーゲル)(フォアハング)


 冷気が森を駆け抜ける。


 無数の氷弾がゴブリンたちへ襲いかかり、その身体を次々と凍りつかせていく。


 ゴブリンたちは瞬く間に厚い氷へ包まれ、次々と砕け散った。


「ゴブリン二十四体の討伐を確認。四百八十ポイントを加算します」


「よし! 大成功! ん? なんか言った?」


「なぜお前がファヌスの天賦を使える。天賦魔法は、その者にしか使えないはずだ」


「ん? うーん、しらなーい」


「そうか……」


 こいつ自身の天賦か?


 まあ、どちらにしろ、こいつがファヌスをやったことに違いはない。


 メフィルは地面へ片手をついた。


 足元の土が脈打つように盛り上がり、無数のゴブリンが地中をかき分けるように這い上がってくる。


「少ないなぁー。もっと出せないの?」


「行け」


 血に濡れた少女が、虚ろな瞳のままゆっくりと歩き出した。


氷弾(アイスクーゲル)(フォアハング)


 抑揚のない声で呟く。


 無数の氷弾がゴブリンたちへ降り注いだ。


 ――命中する、その寸前。


 ゴブリンたちは一斉に跳び上がる。


 氷弾は空を切り、そのまま地面を凍らせた。


 宙へ逃れたゴブリンたちは、その勢いのまま長い髪の女へ襲いかかる。


 その魔法の弱点はよく知っている。


 操りながら魔法を行使させるには、操り手が絶えず人形へ意識を向け続けなければならない。


 なら、まずゴブリンたちを操り手へ差し向け、その集中を乱す。


 動きが鈍った隙に、操り人形を仕留めればいい。


 雌性支配(レギナドミナート)で操れるのは女だけ。


 この場にいる人形は、あの少女一人。


 とりあえず、こいつの首をはねて一対一に持ち込む。


 あの少女を失えば、いくら天賦魔法を再現できようと、操る対象がいなくなる。


 術者はゴブリンに任せる。


 ゴブリンたちが一斉に長い髪の女へ襲いかかった。


「ゲッ!」


 それと同時に、メフィルは操られた少女へ向かって地面を蹴った。


 予想通り、少女の動きが止まる。


「やっぱりな」


 振り抜かれた刃が、少女の首へ届く寸前――


無明の蜜(スコトスネクター)


 少女の身体から、ふっと力が抜けた。


 ……なんだ?


 メフィルの刃は空を切り、そのまま少女の頭上を通り過ぎる。


 少女は糸の切れた人形のように、その場へ倒れ込んだ。


 操りが解けたのか。


 そう思った瞬間、肌を刺すような殺気が膨れ上がる。


 メフィルは咄嗟に振り返った。


 長い髪の女の手元へ黒い魔力が集まり、巨大な鎌を形作っていく。


 女は片手で柄を握ると、迫り来るゴブリンの群れへ向け、力任せに振り抜いた。


 黒い斬撃が地面を抉りながら、扇状に森を駆け抜ける。


 ゴブリンたちは避ける間もなくまとめて薙ぎ払われ、その姿が一瞬でかき消えた。


 斬撃は勢いを失わない。


 そのままメフィルへ迫ってくる。


「っ……!」


 メフィルは咄嗟に剣を構え、刃で受け止めた。


 凄まじい衝撃が両腕を貫く。


「ぐっ……!」


 踏ん張ることすらできず、メフィルの身体は地面を抉りながら大きく吹き飛ばされた。


「なんだ……今の魔法は……」


 思わず声が漏れた。


 詠唱魔法では絶対にない。


 ならば、天賦魔法か。


 そこまで考えたところで、メフィルの思考が止まる。


 いや、待て……。


 目の前の女は、先ほど男の姿から変貌したばかりだ。


 こいつの天賦魔法は、あの変身じゃないのか……?


 それだけではない。


 ファヌスの雌性支配(レギナドミナート)まで使い、今度は見たこともない巨大な鎌を生み出した。


 どういうことだ。


 天賦魔法は、一人に一つ。


 それがこの世界の常識のはずだった。


 だが、目の前の女は、その常識を次々と覆していく。


「お前……いったい、なんなんだ……」


「なんだチミはってか?」


「くそ! ヴァルトは何をしてるんだ!」


「ん? ヴァルト? お仲間さん? その人かどうか知らないけど、さっき会ったよ」


「は?」


 女はそう言うと、おもむろに懐へ手を差し入れた。


 何を取り出すつもりだ。


 メフィルが警戒するなか、女は懐から途中で折れた一本の角を取り出す。


「この人?」


 指先で角をつまみ、メフィルへ見せつけた。


 メフィルの表情が固まる。


 見間違えるはずがない。


 その色も、形も、微かに残る魔力も――間違いなくヴァルトの角だった。


 メフィルはヴァルトの角を見つめたまま、しばらく黙り込んでいた。


 やがて小さく息を吐くと、乾いた笑みを浮かべる。


「……ずいぶん長く準備してきたんだけどなぁ」


「準備?」


 長い髪の女が問い返す。


「僕たちは、七年以上も前から動いていたんだよ」


 メフィルは何でもないことのように話し始めた。


「村を襲って住民を支配し、ゴブリンを使って周辺の女をさらわせる。捕まえた女は地下へ運んで、魔力が尽きるまで吸い上げていた」


 長い髪の女の表情から、わずかに笑みが消える。


「どうして、女だけを?」


「女の魔力は質がいいんだ」


 メフィルはあっさりと答えた。


「一般的に男より多くの魔力を蓄えやすく、吸収した時の変換効率も高い。僕たちにとっては、優秀な魔力源だった」


 その口ぶりは、人間について話しているというより、何かの資源について説明しているかのようだった。


「男は必要なかったからね。命令に従わない者は、全員殺したよ」


 そこで一度言葉を切り、思い出したように笑う。


「もっとも、家族を守るために素直に従う男なんて、ほとんどいなかった。だから結局、大半は殺すことになったけどね」


 長い髪の女は何も答えず、じっとメフィルの顔を見つめていた。


 やがて、静かに口を開く。


「仲間全員殺られて、仇とか取りたくないの?」


「仇?」


 メフィルは一瞬きょとんとしたあと、堪えきれないように吹き出した。


「まさか。あいつらがどうなろうと、僕には関係ないよ」


 その声にも、表情にも、強がっている様子はない。


 ファヌスが倒されたことも。


 ヴァルトが戻ってこないことも。


 メフィルにとっては、使える駒が減ったというだけのことだった。


「僕が生き残れば、それで大丈夫」


 あまりにも迷いのない言葉だった。


「計画は、また一から始めればいい。仲間だって、必要になったら新しく集めればいいんだから」


「……仲間じゃなかったの?」


「僕の役に立っている間はね」


 メフィルは穏やかな笑みを浮かべる。


「死んだなら、それまでだよ」


 そう言うと、ゆっくりと地面へ片手をついた。


「だから僕は帰る」


 足元から巨大な魔法陣が広がり、大地が激しく波打つ。


 次の瞬間、土の中から無数の腕が突き出した。


 十体、二十体――それでも止まらない。


 土をかき分け、数え切れないほどのゴブリンが次々と地上へ這い上がってくる。


 瞬く間に周囲を埋め尽くしたゴブリンたちは、長い髪の女へ一斉に向き直った。


「行け!」


 その合図と同時に、ゴブリンたちが一斉に地面を蹴る。


 数え切れない足音が重なり、森全体が揺れた。


 メフィルはその隙に二人へ背を向け、森の奥へ駆け出す。


 迫り来る群れを前にしても、長い髪の女は動かなかった。


 代わりに、傍らで虚ろな瞳を向けていた少女へ静かに命じる。


「行け! フェア! 氷結剣(アイスシュヴェルト)だ!」


氷結剣(アイスシュヴェルト)


 少女の手元に冷気が集まり、一本の氷剣が形作られた。


 そのままゴブリンの群れへ、たった一人で正面から突っ込んでいく。


 先頭のゴブリンが棍棒を振り下ろす。


 少女はわずかに身体をずらしてかわすと、すれ違いざまに氷剣を振り抜いた。


 一体目が倒れる。


 間髪入れず、左右から二体が襲いかかる。


 少女は低く身を沈め、横薙ぎの一閃でまとめて斬り伏せた。


 振り下ろされる棍棒を受け流し、突き出された剣を弾き、一体、また一体とゴブリンを倒しながら前へ進んでくる。


 操られている人間の動きではない。


 あまりにも速く、正確すぎる。


 メフィルは逃げながら何度も後ろを振り返った。


 あれだけいたはずのゴブリンが、信じられない速度で減っていく。


 気づけば、少女とメフィルを隔てていたゴブリンは一体も残っていなかった。


 虚ろな瞳が、真っ直ぐメフィルを捉える。


 ……。


 メフィルの首が落ちた。


 主を失ったゴブリンたちは一斉に動きを止め、糸が切れた人形のようにその場へ崩れ落ちた。


読んでいただきありがとうございます。

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