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デウス・エクス・マギア ~模写魔法の発動条件がTS(性別逆転)だったので隠れて使います~  作者: 星乃 緋咲
3章 王都・入学試験編

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20/27

20 ヒーローは遅れてやってくる

戦闘が入るので少し長いです。


 少し前。


 その頃、フェアはゴブリン地帯を歩き回っていた。


 「20ポイントが加算されました」


 「よし。ニア君とマキナちゃんは大丈夫かなぁ……」


 二人のことを気に掛けながら森を進んでいると、不意に悲鳴が木々の間へ響き渡った。


 「なにっ!?」


 フェアは反射的に駆け出す。


 枝葉をかき分け、木々の間を縫うように走り抜ける。


 やがて視界が開けると、一人の受験生が後ずさっていた。


 その目の前では、異様な殺気をまとったゴブリンが棍棒を振り上げている。


 「氷弾(アイスクーゲル)


 フェアが放った氷弾は、振り下ろされる棍棒よりも早くゴブリンの腕を撃ち抜いた。


 腕が弾け飛び、棍棒が地面へ転がる。


 それでもゴブリンは苦しむ様子すら見せない。


 ゆっくりと顔を上げると、赤く濁った瞳でフェアを見つめた。


 ……痛みを感じてない?


 異様だった。


 ゴブリンは残った腕を伸ばし、転がった棍棒を拾い上げる。


 血を滴らせながら立ち上がると、フェアから目を離さないまま、じりじりと後退し森の奥へ消えていった。


 まるで誰かに命令されているようだった。


 「大丈夫ですか?」


 フェアが手を差し伸べる。


 あれ……?


 この人、馬車で一緒だった……。


 少年は差し出された手を見るなり露骨に顔をしかめ、その手を無視して自力で立ち上がった。


 「お前は……」


 「ごめん、余計なことしちゃったかな?」


 「別に」


 不機嫌そうに服へ付いた土を払う。


 その直後だった。


 ガサガサッ――。


 茂みの奥から大量のゴブリンが姿を現した。


 「なっ……」


 フェアは迷うことなく少年の前へ立つ。


 「ここは私に任せて。君は逃げて」


 「ゴブリンぐらい俺だって――」


 「違う。このゴブリン、何かおかしい」


 その一言で少年も異変を察したのか、言葉を飲み込んだ。


 「……俺は足手まといか」


 「足手まといなんかじゃないよ」


 フェアは優しく笑う。


 「だから早く」


 少年は悔しそうに歯を食いしばると、拳を強く握り締めた。


 そして踵を返し、その場から駆け出す。


 その背中を見届けると、フェアは小さく息を吐いた。


 「よし」


 両手を前へかざす。


 「氷弾(アイスクーゲル)


 放たれた氷弾が先頭のゴブリンの額を撃ち抜いた。


 ゴブリンはそのまま地面へ崩れ落ちる。


 だが、他の個体は怯むことなく左右から一斉に迫ってきた。


 数が多い……!


 フェアは両手をさらに前へ突き出す。


 「氷弾(アイスクーゲル)(フォアハング)


 無数の氷弾がゴブリンたちを次々と撃ち抜いていく。


 次々と倒れていくゴブリンを見て、フェアは安堵の息を漏らした。


 「はぁ……危なかった」


 その時だった。


 ……あれ?


 ポイントが入ってない。


 胸に小さな違和感が走る。


 本当に倒せているの……?


 そう思った瞬間だった。


 倒れていたはずのゴブリンが突然起き上がり、棍棒を投げ放つ。


 「っ――!?」


 気付いた時にはもう遅い。


 唸りを上げて飛来した棍棒がフェアの横腹へ直撃した。


 ドゴッ!!


 「ぁ……っ!」


 息が詰まり、身体が大きく吹き飛ばされる。


 地面を転がりながら横腹を押さえ、ふらつく足で立ち上がった。


 迫る一匹へ向けて手をかざす。


 「アイス――」


 しかし。


 横腹へ激痛が走り、詠唱が止まる。


 「ぅっ……」


 力が抜け、その場へ膝をついた。


 ゴブリンがゆっくりと手を伸ばす。


 直後――


 魔法が飛来し、ゴブリンを吹き飛ばした。


 「おい」


 聞き覚えのある声だった。


 振り向くと、そこには逃げたはずの少年が立っていた。


 「君は……なんで?」


 「ここで逃げたら、リタイアするより恥だろうが」


 吹き飛ばされたゴブリンが、焼け爛れた頭のままゆっくりと立ち上がる。


 まるで誰かに糸で操られている人形のようだった。


 「なんだよ、あれ……」


 「私は大丈夫だから……逃げて」


 「……女を置いて逃げる男がどこにいるんだよ」


 「でも――」


 「分かってる」


 少年は苦笑する。


 「俺には何もできない」


 一度目を閉じ、小さく息を吐いた。


 「だから今の俺にできる、一番恥ずかしくないことをする」


 そう言うと、少年はフェアをひょいと担ぎ上げた。


 「うわぁぁ!」


 「よし」


 「ちょっと! 私が恥ずかしいんだけど!」


 「大丈夫だ」


 「いや、何が!?」


 少年はそのまま全力で駆け出した。


 背後ではゴブリンたちの唸り声が響き渡る。


 木々の間を夢中で駆け抜けるたび、身体へ衝撃が伝わる。


 そのたびに横腹へ激痛が走り、フェアは苦しそうに表情を歪めた。


 それでも痛み以上に気になったのは、少年の息遣いだった。


 最初は一定だった呼吸が、少しずつ、少しずつ乱れていく。


 肩で息をしながらも、少年は一度も立ち止まろうとはしなかった。


 その時だった。


 「やぁ」


 進行方向から、不意に声が掛かる。


 少年は反射的に足を止めた。


 「っ……!?」


 いつからそこにいたのか。


 一人の男が、木にもたれ掛かるようにして立っていた。


 「その子に少し用があるんだ。譲ってくれない?」


 男は穏やかな笑みを浮かべたまま、少年の肩に担がれているフェアへ視線を向ける。


 「誰だ?」


 少年は警戒しながら、フェアへ問い掛けた。


 「いや……知らない」


 「そうか……」


 返事を聞いた瞬間、少年は迷いなく方向を変えた。


 そのまま地面を蹴り、一気に駆け出す。


 「おい、お前いったい何をしでかしたんだ。明らかに何かに狙われてるぞ」


 「知らないわよ! 私も!」


 木々の間を縫うように走り抜ける。


 だが次の瞬間、木陰から飛び出してきたゴブリンの飛び蹴りが少年の脇腹へ直撃した。


 「グハッ!」


 「うわぁっ!」


 二人まとめて地面へ投げ出される。


 少年は何度も転がり、フェアもそのすぐ横へ落ちた。


 痛みに顔を歪めながら立ち上がり、周囲を見渡す。


 木々の隙間。


 茂みの奥。


 太い幹の陰。


 ありとあらゆる場所から、無数のゴブリンが姿を現していた。


 完全に逃げ道を塞がれている。


 やがてゴブリンたちが左右へ分かれ、その奥から先ほどの男がゆっくりと歩いてきた。


 「大人しく見捨てればよかったものを」


 男は小さくため息を吐く。


 「余計なことをしなければ、君は死なずに済んだのに」


 フェアは痛む横腹を押さえながら、男を睨みつけた。


 「あなたの目的は私なんでしょ……? なら、この人は関係ないはずよ」


 私が狙われているなら、これ以上巻き込むわけにはいかない。


 「ん? うん」


 男はあっさり頷く。


 「だから一度は見逃してあげたじゃん。それなのに、自分から顔を突っ込んできた」


 笑みを崩さないまま、少年へ視線を向ける。


 「僕は二度もチャンスをあげるほど甘くないんだよ」


 「そう」


 フェアは呼吸を整え、なるべく平静を装った。


 「それで、私に何の用があるの?」


 「ん? ヒナサ村で奪われたアーティファクトを取り戻しに来たんだよ」


 まったく身に覚えがない。


 だがフェアは、それを表情には出さなかった。


 代わりに、すべて分かっているかのように口元を緩める。


 「ああ、あれね」


 男の目がわずかに細まった。


 「分かった。教えてあげる」


 「ふーん。ずいぶん潔いんだね」


 「でも、条件がある」


 フェアは少年の前へ立つ。


 「この子は逃がしてあげて」


 男はきょとんとした顔で首を傾げた。


 「……分からないなぁ」


 声は穏やかなままだった。


 「なんで君が、交渉できる立場だと思ってるの?」


 その笑みが、ゆっくりと歪む。


 「そんなに守りたがられるとさぁ……余計に殺したくなっちゃうじゃん!」


 頭上で枝が大きく揺れた。


 「っ……!」


 木の上へ潜んでいたゴブリンが、一気に飛び降りてくる。


 手には一本の剣。


 狙いは少年の背中だった。


 完全な死角。


 少年が気付いて振り返った時には、すでに剣先が目の前まで迫っている。


 避けられない。


 フェアは反射的に少年の腕を掴み、強引に引き寄せた。


 直後。


 振り下ろされた剣が、フェアの腕を貫いた。


 「いっ……!」


 鋭い痛みに表情が歪む。


 それでもフェアは、貫かれた腕とは逆の手でゴブリンの首を掴んだ。


 「氷弾(アイスクーゲル)!」


 ゼロ距離から放たれた氷弾が、ゴブリンの頭部へ直撃する。


 その身体は大きく吹き飛び、地面へ転がった。


 「おい!」


 少年は目を見開く。


 「なんでだよ! どうしてそこまでして、名前も知らない俺を助けようとするんだ!」


 「あなただって、名前も知らない私を助けるために戻ってきたんでしょ?」


 「俺は……そんなんじゃない」


 少年は悔しそうに顔を背ける。


 すると男が、心底呆れたように声を上げた。


 「おい、危ないだろ!」


 二人の視線が男へ向く。


 「殺しちゃったらどうするんだよ。ゴブリンを操ってるこっちの身にもなってくんない?」


 肩をすくめ、嘲るように笑う。


 「それにさ、この状況で命を張って守ったところで意味ないでしょ」


 その言葉を聞いた瞬間、少年は男へ手をかざした。


 「炎よ、我が手に集い牙となれ――炎弾(ファイヤクーゲル)!」


 炎の弾丸が一直線に男へ迫る。


 しかし男は慌てる様子もなく、片手を伸ばした。


 近くにいたゴブリンの首を掴み、強引に自分の前へ引き寄せる。


 炎弾はゴブリンの身体へ直撃し、そのまま燃え上がった。


 「あぶな」


 男は軽い調子で呟く。


 「くそっ……」


 少年が歯を食いしばる。


 満身創痍のフェアは、震える手を少年の肩へ置いた。


 「ねえ……」


 かすれた声で呼び掛ける。


 「この状況を打破できるかもしれない、一か八かの賭けがあるんだけど……どうする?」


 「愚問だ」


 少年は迷わなかった。


 「俺は何をすればいい」


 「私が魔法を完全詠唱している間……ゴブリンから守ってほしい」


 少年は一瞬だけ黙り込む。


 「……できる?」


 「やる以外の選択はない」


 「お願い……」


 少年は剣を抜き、フェアを背にするように構えた。


 その後ろで、フェアが静かに詠唱を始める。


 男はその様子を眺め、小さく笑った。


 まるで面白い見世物でも始まったかのような目だった。


 「ふーん」


 わざとらしく顎へ手を添える。


 「まあ、ここからどう打開しようとするのか気になるし……少し遊んでみるか」


 男が指を動かす。


 すると、一体のゴブリンが群れの中から前へ出た。


 他の個体よりも一回り大きく、筋肉質な身体。


 手には太い棍棒が握られている。


 赤く濁った瞳が少年を捉えた瞬間、巨体が地面を蹴った。


 凄まじい勢いで距離を詰め、棍棒を大きく振り上げる。


 少年は受け止めるため、剣を横に構えた。


 直後。


 ガァンッ!


 凄まじい衝撃が両腕を襲う。


 「ぐっ……!」


 足元の地面が沈み、腕の骨が軋む。


 それでも少年は踏みとどまり、棍棒の軌道を少しずつ横へ流した。


 勢いが逸れた瞬間、身体を捻ってゴブリンの胴を斬りつける。


 「ギャアアッ!」


 ゴブリンは悲鳴を上げながら、棍棒を横薙ぎに振り抜いた。


 「っ――!?」


 避ける間もなく、棍棒が少年の腕へ直撃する。


 鈍い衝撃とともに身体が宙へ浮き、そのまま地面へ叩きつけられた。


 何度も転がり、ようやく止まる。


 「ぐ……っ」


 腕に走る激痛へ顔を歪めながらも、少年は必死に顔を上げた。


 視線の先。


 ゴブリンは少年には目もくれず、詠唱を続けているフェアへ向かっていた。


 大股で距離を詰めると、フェアの髪を乱暴に掴み上げる。


 「っ……!」


 身体が引き上げられ、傷ついた腕と横腹へ激痛が走る。


 それでもフェアは詠唱を止めない。


 苦痛に顔を歪めながら、ただひたすらに口を動かし続ける。


 少年は震える腕で剣を握り締めた。


 立ち上がろうとするだけで、全身が悲鳴を上げる。


 足に力が入らない。


 視界も霞んでいる。


 それでも――


 「うぉぉぁぁっ!!」


 最後の力を振り絞り、地面を蹴った。


 ゴブリンへ一直線に駆ける。


 そして、両手で突き出した剣がその胸を貫いた。


 「ギャアアアアッ!」


 ゴブリンが絶叫を上げる。


 心臓を貫かれた巨体が大きく仰け反り、フェアの髪を掴んでいた手が離れた。


 フェアの身体が地面へ落ちる。


 「っ……!」


 ゴブリンは数歩よろめき、そのまま地響きを立てて倒れ込んだ。


 それを見届けた瞬間、少年の手から剣が滑り落ちる。


 全身の力が抜け、その場へ膝から崩れ落ちた。


 「限界だ……」


 「……ありがとう」


 フェアはゆっくりと立ち上がる。


 「もう大丈夫……」


 震える腕を持ち上げ、男へ掌を向けた。


 その先で、冷気が一点へ凝縮していく。


 「氷弾(アイスクーゲル)――追尾(ツィールズーヘ)


 放たれた氷弾は白い軌跡を描き、一直線に男へ迫った。


 男がわずかに顔を傾ける。


 氷弾はその頬を浅く掠め、そのまま森の奥へ飛び去っていった。

 

 「マジかよ……」


 少年は力なく呟くと、そのまま地面へ倒れ込み、意識を失った。


 一瞬の沈黙。


 男は堪えきれずに吹き出した。


 「お前、人に命懸けさせておいてそれかよ」


 フェアは返す言葉もなく、その場へ膝をつく。


 荒い呼吸を繰り返すたび、傷ついた横腹と腕に痛みが走った。


 「ていうか、今の魔法って確か追尾弾だよね?」


 男は氷弾が消えていった森の奥へ目を向ける。


 「どこに行っちゃったの? 本当に拍子抜けだなぁ」


 再びフェアへ視線を戻し、嘲るように口元を歪めた。


 「完全詠唱までして、それかよ」


 男はゆっくりと歩み寄ってくる。


 フェアは立ち上がろうとしたが、足に力が入らない。


 逃げることも、魔法を放つこともできなかった。


 男はそのままフェアの首を掴み、軽々と持ち上げる。


 「っ……!」


 足が地面から離れた。


 喉を締め付けられ、呼吸が止まる。


 傷だらけの身体には、抵抗する力などほとんど残っていない。


 男は苦しむフェアの顔を眺めながら、小さくため息を吐いた。


 「僕、尋問が苦手なんだよ」


 指へ込める力を強める。


 「だから早く吐いてくれないかな。アーティファクトをどこへやった?」


 「うっ……!」


 フェアの表情が苦痛に歪む。


 その直後だった。


 フェアの腕輪が赤く明滅する。


 「警告。対人攻撃を検知しました。ペナルティを適用します。現在のポイントは10ポイントです」


 「は?」


 男が間の抜けた声を漏らした、その瞬間。


 ヒュン――!


 森の奥から空気を切り裂くような音が響いた。


 何かが、凄まじい速度でこちらへ迫っている。


 男の表情がわずかに変わる。


 反射的にフェアの首から手を離し、両腕を顔の前で交差させた。


 木々の間から飛び込んできた人影の蹴りが、男の腕へ叩き込まれた。


 ドゴォンッ!!


 「ぐっ……!」


 男は咄嗟に防いだものの、勢いを殺しきれない。


 両足で地面を深く抉りながら、大きく後方へ吹き飛ばされた。


 その最中、男が指先をわずかに動かす。


 すると周囲のゴブリンたちが一斉に駆け出し、吹き飛ばされる男の進路へ自ら身を投げ出した。


 次々とゴブリンへ衝突し、それらをクッション代わりにしてようやく勢いを止める。


 男は地面へ着地すると、ゆっくりと交差させていた腕を下ろした。


 蹴りを受けた両腕から、細い煙が立ち上っている。


 「なるほどね……」


 楽しそうに呟く男の前で、フェアは咳き込みながら立ち上がった。


 その傍らへ降り立ったニアが、血だらけのフェアを見て目を見開く。


 「うわっ! どうしたの、その血。瀉血(しゃけつ)?」


 「ニア君は……試験中に……私が瀉血すると思ってるの……?」


 「ごめん、冗談」


 ニアはすぐに真顔へ戻り、周囲を見回す。


 木々の間には、未だ無数のゴブリンがこちらを囲んでいた。


 「それより、なんでこいつらマップに映ってないの?」


 「え?」


 フェアは腕輪を操作し、試験区域の地図を開く。


 目の前にはこれほど多くのゴブリンがいるというのに、周囲を示す反応は一つもない。


 「本当だ……全然気付かなかった……」


 男が倒れたゴブリンたちを踏み越え、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。


 「さて」


 その口元には、先ほどと変わらない穏やかな笑みが浮かんでいた。


 「お手並み拝見といこうか」


 パチンッ。


 男が指を鳴らす。


 それを合図に数体のゴブリンが群れから前へ出た。


 左右へ散開しながら、ニアとフェアを取り囲むように駆ける。


 正面。


 左右。


 そして背後。


 逃げ道を塞ぐと、四方から同時に飛びかかった。


 その瞬間。


 ニアの足元に巨大な魔法陣が広がる。


 地面が白く輝き――


 無数の白光剣(モルゲンシュヴェルト)が、一斉に地中から突き出した。


 空中へ飛び上がっていたゴブリンたちが次々と貫かれ、そのまま宙で動きを止める。


 数秒後。


 光の剣が消滅すると、ゴブリンたちは力なく地面へ落下した。


 「ゴブリン七体の討伐を確認。140ポイントが加算されました」


 淡々とした腕輪の音声が森へ響く。


 フェアはそれを聞くと、力なく視線を落とした。


 「ごめんなさい……」


 か細く、悲しそうな声が漏れる。


 「ん?」


 ニアが振り返る。


 「私、もうダメみたい……」


 フェアは傷ついた腕を押さえながら、悔しそうに唇を噛んだ。


 「この怪我じゃ、もう戦えない……」


 「ポイント、まだ溜まってないの?」


 「うん……さっきのペナルティで、ほとんどなくなっちゃった……」


 ニアは少しだけ考え込む。


 それから、ゆっくりと男へ視線を向けた。


 「……いいこと思いついた」


 口元には、どう見ても良からぬことを考えている笑みが浮かんでいた。


 「え?」


 フェアが不安そうな声を漏らす。


 いつの間に取り出したのか、ニアの手には一本の万年筆が握られていた。


 その先端から、黒い液体が溢れ出す。


 液体は生き物のように腕を這い、瞬く間にニアの全身を包み込んだ。


 黒い塊が人の形を作る。


 やがて表面を覆っていた液体が、上から下へ流れ落ちていく。


 その中から姿を現したのは、フェアが先日目にした髪の長い女性だった。


 「え……?」


 状況を理解できず、フェアは目を瞬かせる。


 女性となったニアは何も答えず、フェアの前まで歩み寄った。


 そして、おもむろにその額へ人差し指を当てる。


 「ニア君……?」


 直後。


 フェアの視界が暗転した。


 全身から力が抜け、そのまま意識を失った。

 

読んでいただきありがとうございます。

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