15 性別逆転模写魔法⁉
戦闘が入るので少し長いです。
洞窟に土煙が立ち込める。
「何をしゃべってるんだ……」
婆さんは呆れたように呟いた。
「お、お姉ちゃん!」
「お姉"さん"ね」
「チッ……今は分が悪い。来い」
婆さんが短く命じる。
その直後、無表情のフェアが姿を現した。
さらに、その後ろから黒い液体をまとったマキナが静かに歩み出る。
「触れられるなよ」
その言葉を合図に、二人が同時に地面を蹴った。
「氷弾」
一直線に氷弾が飛来する。
僕は身をひねって紙一重でかわした。
その着地を狙うように、
「無明の蜜セカンドシフト」
マキナの手から溢れた黒い液体が二つに分かれ、瞬く間に双剣へと姿を変える。
黒い刃が交差するように振り下ろされた。
僕は何もない空間へ手を伸ばす。
淡い光とともに杖が現れ、そのまま双剣を受け止めた。
ガキィンッ!
火花が散る。
……ん?
受け止めた瞬間、妙な違和感が手に残る。
重いはずなのに軽い。
まるで本気で斬りにきていないような……。
考える暇もなく、マキナはすぐに距離を取る。
入れ替わるようにフェアが前へ出た。
「氷弾」
連続で放たれる氷弾。
カンッ!
カンッ!
カンッ!
飛来する氷を杖で次々と弾き返す。
その間にも、婆さんは魔法陣へ向かってゆっくり歩き続けていた。
魔法陣は脈打つたびに光を放ち、吸い上げた魔力が細い光となって婆さんの体へ流れ込んでいく。
「ちょっと、二対一はずるじゃない?」
軽口を叩きながら攻撃をいなしていると、肩越しに黒い影が映った。
……なんだ?
振り返る。
そこには、一冊の黒い本が宙へ浮かんでいた。
表紙はこちらを向き、一定の高さで静かに浮遊している。
なにこれ。
僕は杖で双剣を弾きながらページをめくる。
最初の一ページを除き、残りはすべて白紙だった。
「無明の蜜?」
書かれていたたった一行を読み上げる。
その瞬間、左手から黒い液体が滴り落ちた。
「うわっ!」
これ……マキナの魔法だよな?
黒い液体は僕の意思に応えるようにうねり、細身の両刃剣へと姿を変えていく。
「うおー……すごい……」
感心するのも束の間だった。
僕は一気に踏み込み、フェアの背後へ回り込む。
「聖なる光」
淡い光がフェアを包み込む。
彼女の瞳から虚ろな光が消え、その場で力なく崩れ落ちた。
僕はその体を受け止め、ゆっくりと地面へ寝かせる。
その時だった。
ズン……
空気そのものが沈むような重圧が洞窟を包み込む。
洞窟の奥から、ゆっくりと何かが歩いてくる。
……ん。
「ようやくだ」
現れたそれは人の形をしていた。
だが、人ではない。
背中には膜の張った巨大な黒い翼。
歩くだけで空気が震え、洞窟全体へ威圧感が広がっていく。
「……さぁ、続きだ」
悪魔は僕だけを見据えながら歩み寄ってきた。
女性を操る悪魔……?
「あ、わかった! 不倫した人が言い訳にする悪魔じゃん」
悪魔の眉がぴくりと動く。
次の瞬間、姿が消えた。
右。
違う。
左。
……いない。
「後ろだ」
ドンッ!!
背中へ強烈な蹴りが叩き込まれた。
衝撃と同時に凄まじい風圧が吹き抜け、髪と服が大きくなびく。
轟音が洞窟の奥まで響き渡った。
しかし――僕の体は、びくとも動かない。
「だめじゃん、ちゃんと力を込め――」
反撃しようとして、
僕は違和感に気付く。
……あれ?
体が動かない。
「おい、どうした? さっきまでの威勢は」
悪魔は鋭い爪を僕の喉元へ突き付ける。
「どうだ? 体が動かないだろ」
勝ち誇ったように笑った。
「そういえば自己紹介がまだだったな。俺の名はファヌス。そしてこれが俺の魔法――雌性支配」
悪魔はゆっくりと爪へ力を込める。
「本来は意識を失った女しか操れない。……だが今の俺は違う。女である限り、意識の有無など関係ない」
「そう……」
僕は小さく頷く。
そして、
変身を解いた。
「……は?」
悪魔の目が見開かれる。
「オラー!!」
その隙を逃さず、全力で魔力を込めた拳を腹へ叩き込んだ。
「グッ……!」
鈍い衝撃音が洞窟に響く。
ファヌスの体は大きく吹き飛ばされ、そのまま岩壁へ激突した。
轟音とともに岩肌へひびが走り、崩れた小石がぱらぱらと足元へ転がる。
「本当に……なんなんだ、お前は……!」
ふらつきながら立ち上がると、ファヌスはマキナへ怒鳴った。
「おいガキ! 今すぐそいつを殺せ!」
「疲れた」
マキナは一言だけ呟く。
その瞬間、双剣はどろりと黒い液体へ戻り、静かに消えていった。
……やっぱり操られてなかったか。
「な、に……?」
ファヌスの顔が驚愕に歪む。
体の表面へ一本、また一本と亀裂が走り始めた。
「君、自分が操れてるか分かんないの?」
僕は肩をすくめる。
「あ、もう聞こえないか」
「く……そ……が……」
苦しげな声を漏らしながら、その体は塵となって崩れ始める。
やがて風に溶けるように消え去り、跡形もなくなった。
――チリン。
静まり返った洞窟に、小さな金属音だけが響く。
ん?
僕は音のした方へ歩み寄る。
そこには小さな魔道具のようなものが転がっていた。
レアアイテムかな?
もらっとこ。
そう思い、ポケットへしまおうとした、その時だった。
つるり。
「あ」
指先から滑り落ちたそれは、乾いた音を立てて地面へ落ちる。
パリン。
見事に粉々になった。
「…………」
……まあ、いっか。
「お母さん……! お母さん!」
リタの悲痛な叫びが洞窟へ響き渡る。
駆け寄ると、そこには倒れた女性――リタの母親が横たわっていた。
「あー、魔力枯渇してますねー」
体を軽く確認してそう告げる。
「お兄ちゃん……」
リタは不安そうな目で僕を見上げた。
「終わり良ければすべて良しだよ」
僕は笑いながら女性たちへ手をかざす。
「聖なる光」
柔らかな光が洞窟を優しく照らした。
光は一人ひとりへ染み込むように流れ込み、枯れ果てた魔力を静かに満たしていく。
最初に反応したのは、比較的消耗の少なかった女性だった。
やがて次々と呼吸が落ち着き始める。
僕たちは監禁されていた男たちを解放し、事情を簡単に説明した。
意識を取り戻した彼らへ女性たちの搬送を任せ、すべてを終えた僕たちは村を後にする。
「お兄ちゃん!」
村を出たところで、後ろから声が飛んできた。
振り返ると、リタが息を切らしながらこちらへ駆けてくる。
「ありがとう……! お兄ちゃんのおかげで、みんな助かったよ!」
その笑顔を見て、僕は小さく手を振った。
「お礼はいらないの?」
その一言で足が止まる。
……あ。
僕は踵を返し、リタの前まで戻った。
「ダミクド草って……ある?」
「だっ……ダミクド草?」
「うん」
「それなら……」
リタは村の塀のすぐ横を指差した。
「え……」
そこには、今まで必死に探していたダミクド草が当たり前のように生えていた。
◇ ◇ ◇
朝日がゆっくりと昇り始める。
僕は気を失ったままのフェアを背負い、静かな森道を歩いていた。
「……ん……?」
肩へ回された腕が、ぴくりと動く。
「あ、起きた?」
「……あれ? 村に着いたの?」
寝ぼけた声が耳元で聞こえた。
「今から帰るのよ」
「え? ……ダミクド草は? あと、なんでオカマ口調?」
「簡潔に言うとね……」
僕はここまでの出来事を手短に話した。
「また助けられちゃったのか……」
フェアは少し申し訳なさそうに呟く。
「とりあえず降りてくんない?」
「あともうちょっとだけ……」
そう言うと、肩へ回された腕がぎゅっと強く締まった。
「はぁー……まあ、いいか」
僕は苦笑しながら、そのまま歩き続ける。
……後で、どんな夢を見てたのか聞いてみよ。
読んでいただきありがとうございます。
なんでもいいので感想、評価をいただけたら嬉しいです!
本当は「元の性別に戻れない」という設定にしようと思っていたんですけど、それでハーレムにしてしまうと百合になってしまうのでやめました。
まあ、百合は大好きなんですけどね。




