12 ベッタベタモルフォーゼ
二人と別れ、僕は森の中へ入った。
変なこと言わずに、村でトイレ借りればよかったなー。
そんなことを考えながら下を向いて歩いていると、前方の茂みががさりと揺れた。
よろよろとした足取りの少年が転がるように姿を現す。
服は泥だらけで、髪も乱れていた。
びっくりした……なに?
「た、助けて……」
少年は息を切らしながら、体を引きずるようにこちらへ近づいてくる。
僕は慌ててしゃがみ込み、目線を合わせた。
「どうしたの?」
「村の……村のみんなが変になって……そして、そして……」
言葉にならない様子を見て、僕は肩へそっと手を置いた。
淡い光が少年を包み、傷や疲労がゆっくりと癒えていく。
少年は何が起きたのか理解できないまま、自分の体を見つめていた。
「落ち着いて。とりあえず、その村って何て名前?」
「ヒナサ村」
……。
フェアたちが向かった村だ。
「君、名前は?」
「リタ」
僕はリタと一緒に村へ向かいながら、何があったのか詳しく聞いた。
異変が起こり始めたのは二日前の夜。
女性たちは深夜になると虚ろな目をしたまま、どこかへ歩き出すようになった。それを止めようと男たちが後を追ったが、帰ってきたのは様子のおかしい女性たちだけだったという。
……あー、二人とも大丈夫かな。
「ほかに何か気付いたことは?」
「うーん……みんな甘い匂いがした。あと、女の人たちは誰かに操られてるみたいだった」
「ふーん。ありがと。とりあえずここで待ってて」
「わかった」
リタと別れ、僕は一人で村の門まで向かった。
「すいませーん。この村に入りたいんですけど、いいですか?」
「……入るな……」
門番は感情のない声でそう答えた。
「さっき女の人が二人来たと思うんですけど」
「……入るな……」
何を聞いても返ってくるのは同じ言葉だけ。
ダメだ、バグってる……。
一度引き返すことにした。
リタの待つ場所へ戻ると、腕を組んで考え込む。
「うーん、どうしよう」
「お兄ちゃん、さっきの魔法で元に戻せないの?」
「ん? たぶん戻せるけど……操られてるのを解いたら、操ってるやつに警戒されちゃうでしょ?」
「確かに。お兄ちゃん頭いいね」
僕は得意げに胸を張る。
「まぁね」
「でも、入れなかったら意味ないよね」
…………。
「まぁね」
うーん、どうしよう。
考え込んでいると、リタが首を傾げた。
「ねぇ、お兄ちゃんの仲間は村に入れたの?」
「うん、たぶん」
「その人たちは、なんで入れたんだろう」
「さぁー。カワイイからじゃない?」
……ん?
カワイイ?
そこで一つの考えが頭をよぎる。
女の人が操られてるみたいだった。
もし女性だけを狙っているのだとしたら、フェアたちが村へ入れた理由にも説明がつく。
「わかったよ。入り方」
「えっ、なに? どうやって?」
「女の子になればいい」
リタは呆れたような顔で僕を見つめた。
「それ、どうやってなるの?」
女になる……。
そういえば、僕は一度だけ女になったことがある。
確か、変な万年筆を――。
手のひらに妙な感触を覚え、反射的に視線を落とす。
なんだ?
そこには、あの時の万年筆がいつの間にか握られていた。
え?
なんで?
どっから出た?
「どうしたの? お兄ちゃん?」
……まぁ、いいや。
「リタ少年。今から僕のことは、お兄ちゃんではなく――お姉さんと呼びたまえ」
「え?」
万年筆へ魔力を流し込む。
すると、黒いインクのような液体が全身へと絡みつき、ゆっくりと体を覆っていく。
骨格が軋み、輪郭が滑らかに変わる。
身長が伸び、髪がさらりと揺れ、衣服までも黒い液体に飲み込まれて別の姿へと変わっていく。
やがて変化が終わると、黒い液体は弾けるように霧散した。
「どう?お姉さんになった僕の姿は」
「す、すごい! どうなってるの、それ!」
「すごいでしょ」
「うん、すごいけど……」
リタは僕の足を指差した。
「なんか下から垂れてるよ」
「あ」
読んでいただきありがとうございます。
なんでもいいので感想、評価をください!
書いてくれたら嬉しいです!




