10 薬草採取に来ただけなのに
「皆さん、準備はお済みでしょうか?」
受付カウンターの向こうで、ギルド職員が穏やかな笑みを浮かべながら問いかけた。
受験者たちが頷くのを確認すると、静かに説明を始める。
「それでは、これより試験を開始します。内容は薬草採取です」
職員は手元の帳面へ目を落としながら続けた。
「指定の薬草《ダミクド草》は南の森で採取できます。五株以上、状態の良いものを採取してください。採取の際は根を傷つけないよう注意を。また、森では野生の魔物も確認されています。戦闘は極力避け、安全を最優先してください」
一度顔を上げ、受験者全員を見渡す。
「もし薬草が見つからない場合や生育場所が分からない場合は、森の入口にあるヒナサ村へ立ち寄ってください。村の方々は森に詳しいので、採取に適した場所を教えてくださると思います」
説明を終えると、依頼書が一人ずつ手渡された。
「それでは、どうかお気を付けて。皆さんのご健闘を心よりお祈りいたします」
一礼する職員へ軽く会釈を返し、僕たちは南の森へ向かった。
◇ ◇ ◇
「ねぇ、薬草ってどんな草なの?」
歩きながら尋ねると、フェアは依頼書を広げる。
「えーっと……ダミクド草。特徴的な強い香りを放つ。抗菌・解毒の効果に優れているため治療薬の材料として使用される。葉はハート形で、夏になると小さな白い花を咲かせる。野山や道端の湿った場所に自生し、生命力が強く簡単には枯れない。伝説によれば、悪霊祓いや呪詛返しの儀式にも使われたことがある……だって」
「へぇ」
「とりあえず湿った場所を探しましょう」
「いや、最初に行くのはヒナサ村でしょ」
「え? なんで?」
「聞いたほうが早いから」
「まぁ、そうね……」
馬車に揺られるうち、窓から流れ込む空気は街とは違う緑の香りを帯び、湿った土の匂いが鼻をくすぐる。
「あれじゃない? ヒナサ村」
森の縁には、丸太の柵に囲まれた小さな村が見えてきた。
「ここからは徒歩だ」
御者が手綱を引くと、馬がゆっくりと足を止める。
車輪の軋む音が止まり、静かな森の音だけが耳に残った。
三人は礼を言って馬車を降りる。
「あ、ちょっと僕、お花摘みに行ってくるから先に行ってて」
「うん、わかった」
「あ、ごめんごめん。紛らわしかったね。トイレ行ってくる」
「分かってるわよ! あと、これから摘みに行くのは花じゃなくて草だから! うまいこと言ったみたいな顔しないで!」
「そんなつもりないけど」
僕は森の方へ歩き出し、マキナとフェアは村へ向かった。
◇ ◇ ◇
「マキナちゃん」
「ん?」
「マキナちゃんって、エルフだったりする?」
「え? 人間だけど。なんで?」
「いや、その……か、かわいいから」
フェアは視線を逸らした。
マキナは首を傾げたまま、不思議そうな表情を浮かべる。
「あ、ほら。もう着くよ」
「うん」
木製の門の前には、槍を携えた門番が一人立っていた。
「すみません。今ギルドの試験でダミクド草を探してるんですけど、この辺で生えている場所って分かりますか?」
門番は二人を一瞥すると、短く答える。
「入れ」
「え? いや、まだ――」
言い終わるより早く腕を掴まれ、そのまま村の中へ引き入れられる。
「ちょっ、待って!」
背後で重い門が勢いよく閉まった。
ガンッ――
「大丈夫? マキナちゃん」
「うん」
フェアは閉ざされた門を見つめ、小さく息をつく。
「仕方ないか。ニア君が来るまで、この辺で待ってよう」
「うん」
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