ドラゴンの里襲来前夜
「族長! 大変です!
【死の森】のアレスからうっかり魔王を連れてくると連絡がありました! 」
「総員警戒態勢をとれ!
女子供は人型に変化し遠方の村へ身を隠せ!
若い男どもはその護衛を務めろ!
わしら老体で対処する! 」
「族長! 私も残らせてください! 」
報告を聞き、真っ赤な体表でありながら顔を青くしつつ声を張り上げるドラゴンの族長に若いドラゴンが名乗りを上げる。
それに続いて我も我もと声を上げるが族長の一にらみでその声はやんでしまう。
「ぬしらはまだ若い、わしら老いぼれと違って未来があるんじゃ。
……わしらが死んだときは後は任せた、さあゆけい! 」
族長の言葉に涙を流しながらも、若いドラゴンたちはその姿を人間に化けさせて馬車に乗り込み、遥か遠方にある人間の村を目指した。
置いたドラゴンたちは彼らの明日の無事を祈り、そして今から来るであろう災厄に対して気合を入れた。
少し時間を遡る事、【死の森】の大樹の家ではカエデがお菓子を口いっぱいに頬張りながらセツナの話を聞いていた。
早い話が、少し難しい研究を進めるため静かな環境がほしいということ。
カエデはその話を聞いてすぐに理解し、しばらく遊びに出かけると自ら答えた。
カエデの見た目は幼子だがその中身は、今は肉体に引っ張られ性格もおさなくなっているがその実齢300を超える。
セツナに至っては600を超えているが、本人たちはその事を気にしていない。
そもそも不老長寿なため年齢なんてものに興味はないのだ。
「それで、最近顔を出していtないしドラゴンの里なんか面白いと思うのだけれど」
ドラゴンの里の住人が聞けばふざけるなと叫びだしかねない事を平然と言ってのけたが、カエデは依然ドラゴンの里を訪れた時のことを思い出していた。
少々気の荒いドラゴンたちをセツナが魔法で、生死の境をさまよわせることでおとなしくさせ、その後始末のために広範囲に回復魔法を行使しうっかり荒れ果てていた山を緑豊かにしてしまったこと。
そのうっかりが思いのかドラゴンの族長に喜ばれもてなされたが、うっかり果実ジュースと果実酒を間違えて飲んでしまい、危うく火山を噴火させかねない状況にしてしまったことを思い出した。
その時ばかりはカエデも地面に額をこすり付け、セツナもそれを止めることはなくカエデを見下ろしていた。
「今度はお酒に気を付けて行ってきます……」
気を付けるまでもなく、ドラゴンの里ではそれ以来飲酒を禁止しており、どうしてもという場合は近隣の村にある酒場に行くことになっている。
そのためそれ以前と比べてドラゴンの里は人間との交流が増え、さらに人間の里ではドラゴンがちょくちく遊びに来るため盗賊などの被害が減り、双方良好な関係を築いている。
「じゃあこれお土産に持って行ってね」
セツナはモミジが外出を決めた瞬間にどこからかバスケットを取り出す。
それは布で覆われていたため中を見ることはできなかったがその独特な香りのせいでカエデはその中身を理解した。
それは、強力な精力剤であり、妊娠を促す効果もあった。
ただし、ドラゴンやエルフのような繁殖力の低い種族にしか効果はなく、人間が服用すれば命を落としかねないほどの劇薬となっている。
「いつも鱗もらってるドラゴンがそこら辺で昼寝してると思うからね。
私のほうは3週間もあれば片付くと思うから、ごめんね」
「気にしないでいいよ~。
ドラゴンの里で適当にお土産買ってくるから、じゃあ行ってきまーす」
元気に家を飛び出していくカエデの後ろ姿に手を振りながら、ドラゴンの里が今度こそ壊滅しないかと心配する傍ら薬をどのくらいのペースで作り上げるか、などの計算をしていたセツナはそれなりに急がないと間に合わないと結論を出した。
そして不安ではあったものの、今は薬の作成に専念しようと考え、地下へ向かうのだった。
なお、鱗を剥がれたばかりのドラゴンがカエデから里に行きたいといわれたときに大慌てで里に連絡を入れたのはこの直後のことである。




