COLOR グレー時々黒
翌日、私達は警察署に向かった。
どんな事を聞かれるのか?色々質問された際、まともに答えられるのだろうか?
様々な事を考え、シュミレーションを繰り返しているうちに朝を迎えた。
待ち合わせ場所で広美と合流する。やや疲れた表情を覗き込むと微かに目の下にクマが
見える。どうやら彼女も眠れなかった様だ。
「それじゃ、行こうか」「うん」
覚悟を決めて警察署の門を潜ったが警察の対応は実に拍子抜けする程、
簡単なものだった。
実際の被害や証拠が無い為、被害届も出せず、相談に来た事を証明する為の紙に
住所氏名年齢を書いて終わり。だと受付の警察官に言われてしまった。
それでも喰い下がって被害を訴えると半ば面倒臭そうに、
「マンション付近のパトロールを強化します」とだけ言われ、警官は奥のデスクへと
戻ってしまった。
証拠も確証も無い今の段階ではこれ以上取り合って貰えないと判断し、ボウ然としたまま
警察署を出ようとした時、私達を呼び止める声がした。
振り返ると、首から下げたIDカードに「山崎滋」と書かれた50代と思われる
スーツを着た男がニコニコしながら手招きをし、外を指さす。
(着いて来い)と言う事だろうかと私達は目配せをし、後を追った。
山崎の後を追って行くと数台のパトカーが停まっている近くで山崎は部下と思われる
若い男とタバコを吸っていた。
小さな缶の灰皿に数名の男達が小さくなってタバコを吸っている様子を見て、警察でも
キチンと分煙しているのだなと変に感心してしまった。
私達に気が付いた山崎は片手を挙げ、手招きをしている。
「すみません。こんな所にお呼び立てしてしまい申し訳ありません。立場上、あまり
人前では出来ない話もありますので。
私は山崎と申します。階級は警部補です。こちらは部下の相川。先程は受付で
不快な思いをされたと思います。まず、お詫び致します」
山崎と相川は頭を下げる。
その姿を見て、呆気に取られている私達に山崎は言葉を続ける。
「先程受付で話されていた事が聞こえてしまったもので、すみません」
もう一度山崎は頭を下げる。
「貴女の必死に訴える姿を見てつい声を掛けてしまいました。
ストーカーの被害に遭われているという事でしたね?受付では言葉が足りなかった
様なので少し補足させて下さい」
私は頷き、話を促す。
「ありがとうございます」また山崎は頭を下げる。
「本当は我々もストーカーと言う卑劣な犯罪は許せませんし、積極的な捜査もしたい。
しかし、証拠も確証も無ければ動けないのも事実です。
ご存知かも知れませんが「民事不介入」と言うカベは実は我々警察にとっても
大きなカベなのです」
山崎と相川は悔しそうに唇を噛む。
「山崎さん、相川さん。わざわざありがとうございます。
確かに受付ではガッカリして悔しい気持ちになりました。でも、こうして謝って頂き、
捜査したくても出来ないで悔しい思いをしている刑事さん達もいてくれる。それだけでも
少しホッとしました。
今の所、私の住んでいる付近のパトロールの強化位しか方法が無いんですよね?
それならばパトロールの方、どうか宜しくお願いします」
私は二人の刑事に頭を下げる。どうか、本当に何も起こらない様、祈りを込めて。
頭を上げると山崎は厳しい表情で私達二人を見詰め、
「確かに。藤堂美鈴さん。と、佐伯広美さん、でしたね?ここからがあまり人前で
話せない話になりますが、お時間宜しいですか」
私達が頷くと山崎はポケットから一枚の名刺を取り出す。
神木 條
ただそれだけが書かれた名刺を受取る。
裏面には電話番号と住所、簡単な地図。
戸惑いを隠せない私達を察したのか山崎は名刺の人物について説明を始める。
「彼は何と言うか、トラブルバスター。「解決屋」なんですよ」
「エッ?」
「彼とは何度か面識がありますが腕は確かです。私の知る限り失敗はゼロ。
引き受けた依頼は必ず解決します」
解決屋などと言う職業が存在する事にも驚いたが、警察が個人の解決屋などと言う得体の
知れない人物を紹介する事に更に驚いた。
「先程も言いましたが、我々も捜査をしたい。貴女方も早く元の生活を取り戻したい。
しかし現状ではお互い身動きが取れない。
そこで、この神木氏にストーカー被害の調査を依頼し、証拠をを揃えて頂ければ
私が責任を持ってその後の捜査を行い、必ず立件します」
山崎の言う事も一理ある様に思う。そして人前では話せないと言う理由も理解できた。
今のままでは私達も警察も前に進めない。
解決屋。などこれまでの人生で関わり合う事など考えもしなかった種類の人物に自分の
プライベートを晒す事になる今回の件をそんな人物に依頼する事に
抵抗を覚えてしまうのも私の中に同時に存在する。
「不安に感じるお気持ちはよく理解しているつもりです。ただ現状では我々は手出し
する事が出来ません」
山崎はフーっと一つ息を吐き
「私にも貴女達と同じ位の娘がいます。もし、私の娘も貴女達と同じ被害に遭わない
とも限りません。力の弱い女性をターゲットにする卑劣な犯罪を私は絶対に許さない」
山崎はそう言うと口を真一文に結び、拳を堅く握っている。
広美と短く相談し、名刺の人物に調査の依頼をする事を決心した。
「ありがとう。彼は少し変わっていますが腕が立つ事は確かです。安心して下さい。
証拠が揃えば我々の領分です。何かありましたら直ぐに私に連絡を下さい」
そう言って山崎は自分の携帯番号が書かれた名刺を差し出す。
私達は山崎らに短い挨拶を交わし、警察署を後にした。
僅かがだこの時は希望が見えた気がした。




