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「美鈴、アンタそう言えばあの彼氏と別れたの?」
「実は・・・まだ、なんだ。話はしてるんだけど、色々話してる内に何だかいつの間にか
丸めこまれちゃって・・・」
「ダメよ~。束縛とか激しいんでしょ?暴力とか振るわれてない?今まで相談に
乗って来た私が言うんだから間違いない。
「今の男じゃアンタは成長できない」」
休日のカフェ。親友の広美はきっぱりそう断言すると、もう冷めかけたカプチーノを
飲み干す。
「それにアンタもよく言ってるじゃない。「成長したい」って。
美鈴は可愛いし、性格だって良いんだからもっと美鈴に合った、美鈴を成長させられる
男が必ずいるんだから。だ・か・ら、とっとと今の男と別れちゃいなさい」
「うん。そう、だね」
3年前。私は広美によく恋愛相談をしていた。
優柔不断な私に広美は嫌な顔一つせず、いつも私に付き合ってくれた。
広美はいつも前向きに、時折、男勝りの口調で応援してくれるのだ。
そんな彼女を強いと思ったし、そんな彼女といると自分自身も強くなれた様な気がした。
「それよりも美鈴ちゃん?今、気になってる男、いるでしょ?」
「えっ!な、何よ、と、突然」
「隠しても無駄よ。広美姉さんは何でもお見通しなんだからね」
「や、止めてよ~。全然そんなんじゃないんだから・・・」
「ほほぉ~。竹原課長とは何でもないと」
「ひ、広美!なんで知ってるの!」
「ありゃ、本当に竹原さんだったの?ちょっとカマ掛けただけだったんだけど」
「もう、広美ったら」
「なるほど。君の新しい恋のお相手は同じ部門の上司ですか・・・」
「ちょっと、あんまり茶化さないでよ。それに竹原課長とは付き合ってる訳でもないし、
好きとかじゃなくて・・・」
「なくて?」
「食事には連れって貰ったけど、仕事のアドバイスとか相談とか乗ってくれるし、
あの・・その・・そう!憧れ!竹原課長は憧れの存在!」
「憧れね~。あのね美鈴。女子の言葉で「憧れ」と「好き」は一緒でしょ。
まぁ良いわ。竹原さんの事は後でゆっくり聞かせて貰うけど、気を付けなさいよ。
竹原さんモテるんだから。
それと、今の彼氏との事、きっちり決着付けなさいよ。情に流されずにね」
この頃、同僚の広美とよく一緒にいた。
広美は私と同い年で、見た目も愛らしく、竹を割った性格は男性社員のみならず、
女子社員からも人気があり、面倒見も良かった。
実際、地元を離れ、慣れない職場環境と知人が誰一人いない中、
部門が違うにも拘わらず、
休憩時間や昼食時などに声を掛けてくれたのが広美だった。
広美自身は自分の事はあまり話したがらないのか、私が彼女の相談に乗る事は無かったが時々、同僚同士での飲み会の席では自虐ネタ的に過去の話で皆を笑わせていた。
竹原との出会いは入社後4カ月程過ぎた夏の暑い日。
社内では、いよいよ新人にも少しずつ仕事が割り振られ、先輩から頑張れ、頑張れと
お尻を叩かれ始め、辞めるか、残るかの最初の篩に掛けられる時期。
彼は私が勤務する広報部へ異動でやって来た。
若手エリート幹部で、八月という中途半端な時期の移動。と言うだけで彼に対する会社の
期待値の大きさが分かる。
外見は実年齢よりも若く見え、物腰は柔らかい。当然、女子社員の憧れの的だ。
部門の人間には平等に接し、部下のミスは責めず、しかし、叱る時にはきちんと叱り、
褒める所はしっかり褒める。人間関係の押し引きが上手く、
人を育てる才能に丈けていたのだと思う。
当時、私には恋人がいたが、竹原と出逢い、彼と共に仕事をしていく内に気が付けば
私は彼に惹かれていた。
初めは本当に純粋に憧れの存在。
手が届かないと分かっているから。憧れているだけならば罪にはならない。
彼の家庭を壊わそうだなどと言う気も無い。
これは叶わない想いなのだから。
だからこそ相談に乗ってもらう場所も会議室や休憩所などの人目に付く場所を選んだ。
私に疾しい気持ちなど無い事を証明する為に。
それから程なくして彼から食事に誘われた。
拒む理由は無く、彼の誘いを受けた時、微かに胸の奥にくすぐったさを感じた。
食事をしながら彼は色々な話をした。
家庭が上手く行っていない事、離婚を前提に別居している事、職場以外に救いが無い事、
彼は彼なりに苦悩し、人生の闇でもがいていた。
職場では絶対に見る事の出来ない彼のその弱気な姿を見た時、
確かに彼を救いたいと思った。
それから男女の仲になるにはそれ程時間は掛らなかった。
私にも恋人の存在があり、後ろめたい気持ちはあったが竹原を、彼を独占出来る事の
優越感の方が勝っていた。
しかも、相手の家庭は壊れかけ、いや、彼の言葉から察するに、もう壊れているのだ。
という安心感は大きな心の拠り所となった。
二人きりの時、彼は普段見せる事のない表情を沢山見せた。
意外に大きい背中や子供の様に甘える彼を私以外の人達は知らない。
彼と二人きりの夜と秘密を一つずつ重ねる毎に私の気持ちは高揚して行くのだった。




