食えないな
チュンチュンと鳥が鳴く朝の事。
「さすがヤジロウやでー、物語は進み出したでーよー」
俺は美紅と食卓を囲んでいる。
相変わらずヤル気のない話し方、ヤル気のない目つき、ヤル気のないパジャマ姿。
一言でヤル気なし子。そんな美紅に昨日のデートの事を話しながらの朝食タイム。
「進み出したは良いんだけどさ、仲がね、ちょっと険悪になったかもしれないから」
「そんなのだいじょーぶやでー、そのうちそのうち仲直りやでー」
「そうは言ってもな、あんなメメナを見たのは初めてだったからさ」
思い出しただけで背筋が凍る、いや畏怖って感じだ。
「それだけ仲が進んでるんじゃよー」
「そうなのか?長年主人公やってても人のキモチはイマイチよく理解できないんだよな」
「気にするべからずヤジロウよ、ちゃんとオワリに近づいるのだよー、ミクダヨー」
「そうだと良いんだけど」
まぁ今考えてもしょうがないか、美紅の言った通りになんとかなるだろ。
今日の朝食は白米に目玉焼き、醤油がなかったから仕方なくポン酢をかけている。俺のポリシーとしては醤油以外はノットなんだけど……結構ポン酢もいけるな、うん。
「目玉いらぬんでヤジロウにやる」
美紅は目玉焼きの黄身部分を綺麗に切り取ると俺の皿によこしてくる。
存在感満載なイエロースポット
「食えよ」
「黄身はカロリー高いんよー」
「いやいや、お前はカロリー取んなきゃダメだろ。肉をつけい肉を」
「いんだよ別に、死なない程度に生きてるから」
美紅は少しムッとした風を浮かべると、その箸を早める。早めるって言ってもほとんど変化はないけど。
「朝からちゃんと飯を食わんと、その内倒れるぞ?」
「白米と目玉焼きしかないのにちゃんと食うとかないでしょーよー」
「それでも黄身は大事なエネルギー源なんだぞ?黄身を抜いたら目玉焼きの意味なくね?」
「なら目玉焼き以外のやつ作ってよー」
わがままが
「しょうがないだろ、面倒なんだから」
「むー、作んないとぶっ倒れるからな」
「ぶっ倒れない様に黄身を食え」
俺は黄身を箸で掴み美紅の皿に戻す。
「食わぬ」
美紅は俺の皿によこす。
「食え」
又戻す。
「ヤダ」
又よこす。
コントかよこのやろー、ムカつく。
美紅はムカつく俺をよそに、白身を口に運んでいる。
よし、俺の投てき技術で黄身を放り込んでやる。
皮肉にも俺にはそれを可能にする技術がある、長年の主人公生活で培った投てき技術がな。
「はわぁ〜」
俺は美紅がアクビをしたその一瞬を見逃さず、黄身を箸で掴みフリスビーをする様な感覚でその小さな口に投げ込む。
いっけぇー!
しかし、ストライクとなるはずの投球が、不意に上げられた皿によって未然に防がれた。
黄身は見事に皿のど真ん中に命中、一応ストライク。
あらら〜…失敗。
「そんな手に私がハマるわけないよー」
皿を下ろしながら美紅が挑発的な一言。
そして再び黄身は美紅の手によって俺の皿によそられる。
美紅は頑なに黄身を食べようとはしない様だ。こりゃもうアレだね、どうしようもないね。
「ったくぶっ倒れろ、一度お前はぶっ倒れとけ」
「あいあいさー」
軽く流されました。
「はぁー 全く、食えない妹だな」
「妹を食うとかシスコンにもほどがあるとよー」
「そうゆー意味じゃねーよ!」
「変態の兄を持つと妹も苦労もんだわさー」
「だから!違うッ!」
荒ぶる俺を尻目に美紅は長いボサボサの髪を揺らしながら、台所に食器を置きに行く。
いつの間に食い終わったんだよ、あれか?どれだよ!ァぁぁぁぁ!!
荒ぶる心中、自分でもよくわかんない…
「はぁー……やばい俺疲れてるかも………」
顔を落とすとそこには、まだ微妙に残っている白米と美紅からよこされた黄身。
すっかり冷めたそれらには何故か俺の心を示している様に見えた。




