ダンジョン・デビュー
「おお、ここがスフルの洞窟ダンジョンか」
翌日、魔動乗合バスから降りたショーゴが、大きな鍾乳洞の入口を見て声を弾ませている。
入口の前にはいくつもの露店が並んでいた。冒険者たちに物を売ったり、持ち帰った品を冒険者ギルドよりも高めに買い取ろうとする商人たちだ。
「まさか街から洞窟まで、バスが走ってるとは思わなかったな。1人1100ジェムかかったけど」
「運賃を惜しんで歩いてくる冒険者も多いけど、ここまで片道で2時間もかかるのよね。それが20分で来られるのは有り難いわ」
ショーゴの言葉に、最後に降りてきたミントがそんなことを言ってきた。
乗ってきたバスは乗客をすべて降ろしたので、戻りの停留場所へ移動していった。そこではまだ午前中という時間帯ではあるが、おそらく1パーティだけがそこで待っている。待ちくたびれて寝てるメンバーがいる様子から、何日もダンジョンの中で過ごしてきて、ようやくこの時間に出てきて街に帰るという感じだろう。
その様子を目で追っていたショーゴが、
「4人分の運賃を稼ぐために、今日は最低でも魔石100gを手に入れるまでは帰れないな」
などと言って、先に降りて洞窟へ向かう冒険者たちに目を向けた。
冒険者たちは入口横にあるテントの前で行列を作っている。
「あれは何の行列だ?」
「受付だよ。入る時に今回の計画を伝えて、出てきた時に帰還報告をするんだよ。予定を何日過ぎても出てこないと、捜索隊が編成されることもあるんだ」
「へぇ〜。登山届と下山届みたいなものか」
ケインの説明を聞いて、ショーゴがそんなことを連想する。
その時、
「ショーゴさま。お待ちしてましたわ」
と言って、ディアが受付のテントから出てきた。
「ディアさん? 今朝はギルドでお見かけしませんでしたが、どうしてここに?」
「ショーゴさまが今日、このスフル・ダンジョンに初挑戦されるとのご神託がありましたので、早めに来て待ってましたわ。さあ、こちらへどうぞ」
そう言ったディアが、ショーゴたちをテントの奥に用意された長テーブルへと案内する。そこは初心者専用に用意された、事前講習のための窓口でもある。
「さて、ショーゴさまが初めてなのはわかってますが、フォエネル組のみなさんは、今回で何度目の挑戦になるでしょうか?」
「俺とミントは20回目だ」
質問にすぐケインが答えた。続いてその2人とは半年遅れで冒険者になったアッコも、
「あたしは今日で5回目です」
と、小さく手を挙げて答える。それを確認したディアが、
「これからみなさんの入られるスフルの洞窟ダンジョンは、テルラ大陸でもっとも古いダンジョンの1つです。それでありながら奥へ行くと強い魔物が出てくるために、いまだ踏破されてないダンジョンの1つでもあります」
と、さっそく説明を始める。次に地図を広げて、
「このダンジョンがいまだ踏破されてない理由は、とにかく大きいのと奥へ行くほど魔素が濃くなって、強い魔物が出てくるためです。それとこのダンジョンは他のところとは違って、ほぼ1階層だけの平面ダンジョンですので、現時点での最深到達記録は階層の数ではなく、距離で36kmとなってます」
と示した。
「36km……。メチャクチャ深いな……」
「ショーゴさま。ダンジョンとしては深くありませんわ。世の中には距離にして最奥部が100kmを超えるダンジョンがあります。それらと比べると、あまりにも攻略難易度の高いダンジョンですの」
「え? じゃあ、初心者の俺たちには無理ゲーなんじゃ……」
話を聞くショーゴが、そう言って隣に座るケインに顔を向ける。
「いや、スフルの周りにあるダンジョンの中では、もっとも初心者向きと聞いてるぞ」
「その通りですわ。初心者は奥まで行かなければ良いのです。E級以下の冒険者は入口から5kmまで。D級冒険者は入口から10kmほどを目安にしてください。それから入口から12kmのところまでは道が整備されてまして、照明も整ってます。それに10km地点まででしたら飲食店や武器屋などの売店や救急医療施設なども用意されてますわ」
「え? ダンジョンの中にお店なんかあるんですか? でも、そこまでの荷物は……」
「ショーゴさま。あちらをご覧ください。ちょうど魔動バイクに乗った上級パーティが入っていくところですわ」
ディアが疑問に答える前に、入口の方へ注意を向けさせた。
そこでは受付を済ませた上級パーティーが、ダンジョンへ入っていくところだった。魔動バイク7台、メンバー10人の大きめのパーティだ。
「あれに乗って中に入れるんですか?」
「ダンジョンの奥まで行くC級以上のパーティと中の施設で働く方に限って、魔動バイクでの入場を許してます。ここがほぼ平面のダンジョンだからこそ、できるのですわ。そのため、たまに交通事故も起きてますので、広い通路では真ん中を歩かないようにご注意ください」
「たまに速度を出す人がいるから、怖いのよね。こことか……」
ミントが地図を見ながら、入口から少し入った場所を指差した。長い直線が続いたあと、ゆるく曲がっている場所だ。そのため速度を落とさないまま走り、走行ラインが外に膨らむとか、逆に内側に寄せて走るとかされて怖い思いをしたのだろう。
「ところでディアさん。あの魔動バイクや魔動車って、俺たちにも動かせますかね?」
「魔力のある方でしたら、他に魔法が使えなくても動かせると思いますわ。あちらで露店が並んでいるところの後ろに、レンタル車両の駐車場があるのにお気づきでしょうか。ここまでバスではなく、自家用やレンタルの魔動バイクや魔動車で来られてる冒険者も多いのですわ」
「へぇ〜。そうなんだ……」
話を聞いたショーゴが、広場に並んだ魔動車や魔動バイクに目を向けた。ほとんどは魔動バイクだ。それを見たショーゴが、
「じゃあ、俺たち4人全員、その気になれば乗れそうだな」
と言って、パーティに目を向ける。
「そのあたりは冒険者ランクがD級になった時にでもお考えください。D級になりましたら、ギルドから魔動バイクや魔動車の運転講習会の案内が来ますわ。それで自分に動かせるかどうか、ご確認されると良いと思います」
「そっか、それは楽しみだ」
そう言ったショーゴがまた駐車場に並ぶ魔動バイクや魔動車を少し見たあと、視線を地図に戻して説明の続きを待つ。
「話をダンジョンに戻しますが、このダンジョンは入口から10km地点までの主要ルートにはDランク以上の強い魔物は滅多に出てきません。それに魔物と戦わなくても魔石を採集できますので、低級者向けの……」
「え? 魔物と戦わなくても?」
ケインが説明するディアの腰を折った。続いてミントも、
「魔石を採集って、どういうこと……ですか?」
身を乗り出すように、気になることを聞いてくる。
「このダンジョンでは原理はわからないのですが、拾っても拾っても、時間が経つと魔石が生まれてくるのです。ダンジョン全体では毎日何tもの魔石、ないしは魔石を持つ魔物が生み出されてると見積もられてますの。お二人はこれまでに20回も入ってるのですから、拾ったことはないのですか?」
「えっと……、何度か拾って『ラッキー』と思ったことはあるけど……」
ミントは誰かが落としたものと思ってたようだ。それを聞いたディアが、
「もしかして冒険者ギルドの出している地図帳は、お持ちではないのですか?」
と尋ねながら、振り向いて後ろのテーブルにある箱から小さな冊子を2つ出してくる。
「地図帳なんてあったんですか?」
「あったも何も、今まではどうされてたのですか?」
「えっと……。自分で地図を描いて……」
と答えたミントが、アイテムボックスからメモ帳を出してくる。そこには地図と細かなメモが書き込まれていた。
そんなミントに、ディアが地図帳を渡してくる。もう1つはショーゴへだ。
「うわぁ〜。知らない道や部屋がいっぱい……」
「多くの初級冒険者は入口に近くて魔物が出たという報告の少ない部屋や小路に集まりますので、当然、そういうところでは魔石は生まれてくる端から取り尽くされて見つかりづらくなってます。お二人は、これまでどうされてたのですか?」
「人が少ないところを狙ってたわね。そういうところほど魔物との遭遇が多かったから、穴場だと思って……」
「なるほど。ある意味では間違ってませんわ」
答えるミントとは対照的に、ケインは地図を見つめたまま固まっている。
「ギルドでは常に新しい情報で書き換えた地図帳を無償でお配りしてますので、できるだけ最新のものを手に入れてください。どのダンジョンでも、だいたい4か月から6か月ほどで新しい地図帳が出てきますわ」
と注意したところで、ディアがテーブルに広げた地図を示して、
「で、肝心のダンジョンの説明ですが、現在、多くの上級者パーティが挑戦されているのが中央ルートです。ここは入口から30km地点まで到達されてますが、このルートでは20km地点まで魔光石を設置済みですので、照明魔法の使えないパーティでもそのあたりまでは進めそうです。ただし12kmより奥は通路がほとんど整備されてません。理由は16km付近から急に魔素濃度が高まるためと、その濃い魔素が12kmあたりまで流れてくることがあるためですわ。それがBランクのサラマンダーやアース・ドラゴンなどを連れてくることもあるおかげで工事が進まないのと、魔素濃度が変わる影響で魔光石が切れて交換が必要になる問題が起きてるからですの」
「あれ? 魔光石って、魔素が濃いほど交換が要らなくなるんじゃ?」
ディアの説明に、ミントがそんな疑問を挟んできた。
「魔光石が半永久的に光り続けるのは、魔素が安定してる場合に限られます。それに魔光石は使う場所の濃度に合わせて調整してあるこそ半永久的に光るのですが、肝心の濃度が変わると脆いのですわ」
「へぇ〜、濃度が……。それは知らなかったわ」
ミントがそう言いながら、テーブルに広げられた地図と渡された地図帳を見比べている。
「次に道が整備されている12km地点で、中央ルートから左上に分岐する上ルートが始まります。ここは最深の24km地点まで踏破済みで、ほぼすべての道や部屋に魔光石も設置されてます。このルートでは最深部を含めて3か所から濃い目の魔素が湧き出してまして、そのあたりから生まれてくる魔石や魔物を狙って張り込むパーティもいますわ。そこでは1日あたり8kg近い魔石が取れますので、C級やD級のパーティにとっては良い稼ぎ場になってますの」
「D級でも行けるのですか?」
「はい。過去にはD級に成り立てのパーティが数週間分の水や食料を持ち込んで、1回で全員がC級に昇級したこともありました」
「うわ、そこまでする人たちもいるんだ……」
話を聞いていたアッコが、イヤそうな顔をしている。
「最後に、入口から8kmの地点からも右に分かれる北ルートがありますの。このルートも中央ルートと同様にまだ踏破されておらず、最深到達記録の36kmは、このルートで出ています。ここでは奥へ行くとBランクのミノタウロスやレッドボアが報告されてますので危険ですが、いくつかの魔道具らしきものが出てきたことから、一部の攻略組が熱心に挑んでますの」
「何ですか? その魔道具というのは……」
「魔法で動く道具ですわ。しかもダンジョンから出てくるものは優秀な魔道具師でも再現できない特殊な機能を持ってますので、高値で取り引きされてますの」
「ダンジョンから道具が出てくるんですか?」
「ダンジョンの奥にいる悪魔が冒険者を誘うために用意したと言われてます。ここで見つかってる魔道具らしきものは使い方すら何もわかってないので魔石と同じ価格で取り引きされてますが、この近くですと北にあるノマノダンジョンからは貴重な帰還石が出てきてますわ」
「帰還? それは、どういうものですか?」
「使う前に場所を記憶させておくと、そのあとで魔法を込めると、記憶させておいた場所に瞬間移動する魔法石ですわ。ギルドやダンジョンの出口を記憶させておいて、危険な魔物に遭遇した時の緊急脱出用として使われてますの。ショーゴさまもお金を貯めるか、ノマノダンジョンで見つけるかして、いくつか手に入れておくのをお勧めしますわ」
「へぇ〜、ダンジョンから、そんな便利なものが出てくるのか……。なおさらゲームの世界じゃないか」
ショーゴの中で、そんな気持ちが膨らんでくる。
「それとですが、この北ルートに現れる魔物と、森に現れる魔物の種類が似ていることから、昔から森のどこかにまだ見つかってないダンジョンの出入り口があるのではないかと言われてます。それを解き明かしたパーティには、特別報酬が用意されてますわ」
「このダンジョンには、そういう謎解きもあるのか……」
話を聞いてたショーゴが、地図帳を開いて入口から中央ルートを順番に見ていく。
細い道や小さな部屋まで、驚くほど細かく描き込まれている。しかもすべての箇所に何らかのコメントまで書き込まれている。細い道のように見えているが、ここは「ただの亀裂」という感じの注意書きだ。
魔石の採集ポイントについても、そこで1日に何gの魔石が生み出されるかまで、誰が調べたのかわからないほどの記述ぶりだ。
「ケイン。ここ、スケルトンがよく出るって書かれてるぞ」
ショーゴが気になる小部屋を見つけて指で示した。
「スケルトンか……。あれはDランクの魔物だけど、剣と盾を持ったヤツがいて強そうだから、これまで見かけたら逃げてたぞ」
「強いのか?」
「えっと……、強そうだから……」
ケインが口ごもった。これまでに一度も戦ったことがないので、本当の強さを知らないのだ。
とはいえ長生きするためにも、冒険者は臆病な方が良いのだが……。
「同じDランクのゴブリンやヘルハウンドとは、戦ったことはあるのか?」
「それは剣があれば2体相手でも楽勝だ」
「そのゴブリンやヘルハウンドはずっと奥まで行かないと出てこないけど、スケルトンは入口に近いところでも目撃されてるぞ。同じDランクでも、それだけ弱いんじゃないか?」
「なるほど。言われてみれば……」
ケインがショーゴの考えに納得している。
「ここ、先客はいるかな? スケルトンは倒すと平均で83gの魔石が手に入るって書かれてるから、2つ倒せば今日の元は取れるぞ」
「地図帳には、魔石の重さなんて情報も書かれてたのかよ。そりゃ、行くっきゃないな」
ケインがショーゴの手から地図帳を奪って、パラパラと中を見た。
地図帳の後ろの方はガイドブックになっていて、その中には魔物ごとに落とす魔石重量の平均値の一覧も書かれている。
「どこなの?」
もう1冊の地図帳を持ったミントが、自分でもページを捲りながら聞いてくる。
「入口から4kmのあたりから、右へ2kmほど奥へ行った場所だ。意外と穴場かもしれん」
「途中に空洞が6か所もあるわね。全部、まわってみる?」
ミントがアッコと一緒に地図で確認する。それを受けてショーゴが、
「ディアさん。他に説明はあるでしょうか?」
と確認する。それにディアが、
「ありませんわ。このまま受付も済ませましょう。冒険者カードのご提示と、簡単な計画を……」
と言って、パーティの入場受付を始める。
そして受付を済ませたショーゴたちは、意気揚々とダンジョンへ入っていった。
「ここまで何も起きてないな。索敵しても何一つ魔物の反応が返ってこないし……」
ショーゴたちは地図を見ながら、入口から4kmのところから右に入っていく小路を進んでいた。
小路に入ってからは、ショーゴが先頭を歩いている。索敵の魔法がどこまで使えるかわからないので、ここで確認しておきたいのだ。
そんな小路だが、最初の入口こそ狭かったが、100mほど進むと道幅が少し広くなっていた。このあたりにも数m置きに魔光石が設置されてるため、4人は何不自由なく探索できている。
そして左側に最初の空洞の入口があった。そこをショーゴに続いて覗き込んだアッコが、
「あ、魔石、みっけ!」
と、落ちていた黄色い魔石を拾って、
「これ、何gかな? さすがに1g以下ってことはないよね?」
と言いながら、魔光石の光にかざす。
「いや、1gはないかもしれないなぁ」
とはケインの一言だ。
「ここは先客が取り尽くしたんだろうな」
と言ってきたのは、道のところにいるショーゴだ。その隣で地図を見てるミントが、
「次に右に入る道の先に小さな部屋があるけど、そっちも入ってみる?」
と言ってくる。
「小部屋かぁ。たぶん先に来た人たちがいるだろうから、あまり期待できないなぁ」
とボヤきながら出てくるケインに、
「可能なら、すべての部屋を覗くのがダンジョン攻略だよ」
とショーゴが言って、小走りに右に入る道のあるところまで駆けていく。
「なんだ。通りから中は見えないのか」
道というよりも横穴は、少し先で曲がっていた。そのため小部屋というか、空洞の様子は窺えない。穴は四つん這いにならないと入っていけない大きさだが、ショーゴが何の躊躇いもなく潜り込んでいく。
「あいつ、索敵の魔法が使えるからって、度胸がありすぎだ。さっきも曲がった先がどーのとか心配してたくせに」
あとに続くケインも、這い這い歩きで入っていった。曲がった先では再び天井が高くなって立ち上がれる。そこで伸びをしてからケインが先へ進むと、先に行ったショーゴが立ち止まってまん丸な目で部屋の中を見ていた。
「ショーゴ、どうした?」
「中を見てみろよ。来て大正解だ」
「大正解って……、うおっ!」
中を見たケインが、思わず声を上げた。そこには水晶のように大きな結晶になった色とりどりの魔石がいくつも床から生えている。
「すごいわね。もしかして、これ全部魔石なの?」
「たぶん誰もこの部屋には来なかったから、どんどん大きくなったんじゃないか?」
瞳を輝かせてるミントの横で、腰を落としたショーゴが1つめの魔石を拾う、
「重いな。これだけで10kgはあるんじゃないか?」
とんだ棚ボタだった。
「この部屋、入口が狭かったおかげで、何か月も誰も来なかったんだろうな。もしかしたら何年も……?」
などと言いながら、ショーゴが拾った魔石をポイポイとアイテムボックスに放り込んでいく。それにミントも、
「あたしも集めるわ」
と言って、自分のアイテムボックスに入れ始めた。
「俺も手伝うぞ。これを全部拾って持ち帰れば、俺たちD級を通り越してC級になるかもしれんぞ」
ケインも集めた魔石を自分のアイテムボックスに放り込んでいた。
部屋の外ではアッコが、
「これ、あたしたちだけで独り占めしてもいいのかな? 少しは残した方がいいんじゃ……?」
と言いつつ、どこかオロオロしている。
部屋が小さいため、先に入った3人がしゃがんで魔石を拾ってると、それだけで立ち入る隙がない。それで1人外で待つことになったせいで、余計な不安を感じてるようだ。
「なんだよ、これ。美味しすぎんだろ」
ケインは思いもしなかった幸運に、すっかり上機嫌だ。
対照的に部屋の外で挙動不審になってるアッコに、
「アッコ、大丈夫だ。全部拾っても、そのうちまた育つって書いてあるよ」
ショーゴが地図帳にあるガイドブックを見て、魔石に関する注意を探して不安に答えた。
そして小部屋にあった魔石は、ものの5分とかからないうちに、すべて3人のアイテムボックスの中へと消えていた。
「さすがにラッキーは2度も3度も続かないか」
部屋を出た4人はまたショーゴを先頭にして、途中にある部屋を覗きながら最終目的地の部屋へ向かっていた。小部屋では思わぬ収穫があったが、他の部屋では先客に取り尽くされていたようだ。
やはりあの部屋だけは入口が這って入らなくてはならないほど狭くて先が見えなかったので、多くの先客たちが進むのを躊躇っていたのかもしれない。
「となると目的の部屋も、先に入ったヤツラがすべて持っていってるだろうなぁ」
「一番奥の部屋には魔物が出るみたいだけど、これも全部倒されてるかもね」
ケインとミントが、そんなことを言いながらも武器を構える。遭遇戦があるかもしれないからだ。
だが先頭を歩くショーゴは、まだ武器を構えてはいない。
「今のところは何も索敵の魔法に引っかかってないから……」
なのだが、
「あ……」
急に立ち止まったショーゴが槍を構えた。
「ショーゴ、魔物か?」
「部屋の中にウジャウジャいる。今見えるのは一部だけど、スケルトンが30体以上だ」
「さ、30体も?」
数を聞いてミントの声が裏返った。その前にいるショーゴは、
「やっぱりこの索敵の魔法、間に1mの障害物があると先が見えないみたいだ。曲がり角では、もうちょっと奥が見えるみたいだけど……」
と、冷静に魔法の使える範囲を確認している。
その時、部屋から1体のスケルトンが出てきた。木製の円盾と安物の剣を持っている。
「え? 思ったより素捷いぞ」
ショーゴが剣戟をかわして槍を突き立てた。だが、そこは骨と骨の間だった。横に突き出した刃も骨をかすめただけで、ほとんど手応えがない。
すぐ槍を引いて次に来た剣を受け止め、今度は的の大きな頭を狙うが、運悪く目の穴に入ってしまう。距離的に横に突き出した刃が届いてないので、完全な空振りだ。
「ショーゴ、代われ!」
ケインがショーゴの頭越しに剣を振り下ろした。それがスケルトンの頭を砕き、少しだけ動きを止める。
「あ〜、大失態だ。スケルトン相手に槍や弓は使い物にならねえことを忘れてたよ」
ショーゴが槍をアイテムボックスに戻して、代わりに魔法の杖を出した。
「魔法で戦うの?」とはミントの質問。だがショーゴは、
「これは『魔法の杖』という名前の鈍器だ!」
と言い放って、スケルトンの大腿骨を打ち砕いた。それで片足にされたスケルトンが、バランスを崩して尻餅をつく。
「うわぁ〜〜〜〜〜……」
とはミントの反応。そのミントが急に「倒れろ〜!」と叫んで、部屋から出てこようとするスケルトンに火炎弾を撃ち込んだ。
「おお、やっぱスケルトンには打撃系だな」
ミントの攻撃を見て、ショーゴがそんなことをいう。そして、
「俺はまだ魔法を撃てないから、火炎の打撃だぁ〜!」
などを意味不明なことを言って、炎をまとった瘤のある方を棍棒のように振りまわして部屋に飛び込んでいった。
「な、何やってるのよ?」
ミントの声がまた裏返った。
部屋の中からボコボコという音が聞こえてくる。そして外へ逃げ出してきたショーゴが、追ってきた1体のスケルトンを迎え討った。
倒されたスケルトンが、消えて魔石に変わる。それをやったショーゴが、
「おーい、ミント。ちょっと来てみろよ。おもしろいことになってるぞ」
と手招きしてくる。
「おもしろいこと?」
「見りゃあわかる」
とショーゴに言われて、ミントが恐る恐る部屋の中を覗き込んだ。
「ひっ!」
中には無数のスケルトンが、うじゃうじゃと蠢いていた。あとで夢に見そうな恐ろしい光景に、ミントが一瞬震え上がる。ところが、
「落ち着いて、よく見てみろ。こいつらの骨が絡まって、出口が塞がれてるんだ。乗り越えて出てこようとするヤツはいるけど、この状態ならミントには撃ちたい放題じゃないか?」
とショーゴに指摘されて、急に落ち着いてくる。その反動もあって、
「そうかも……」
今は半分、放心した感じだ。その2人の後ろから、ケインとアッコが中を見て固まっている。
「これ、何体ぐらいいるかな?」
「わからん。密集しすぎてて数えられないよ」
と言ったショーゴが、出てこようとしたスケルトンを突き倒した。
「出口で壁になってるスケルトンに当たらないように、弾幕を張ってくれないか。もしかしたら一掃できるかもしれん」
「それまで魔力が保つかなぁ?」
と心配するミントだったが、意を決して火炎弾を連射し始めた。
スケルトンが面白いように倒されていく。
「いいぞ、すごい勢いで減ってるじゃないか。3分の1は倒したぞ」
「まだ3ぶんの1?」
索敵の魔法で様子を見るショーゴの言葉に、ミントが魔法が保つかと本気で心配になってくる。
「ケイン。ミントの魔力が切れたら、あとは俺たちの出番だぞ」
「わかってる。任せとけ」
と出番を待つケインだったが、その出る幕はなかった。ミントの魔法でほぼ一掃され、最後に残った出口を塞いでいたスケルトンたちはショーゴが倒してしまったからだ。
行き場を失ったケインの体力は、事後の魔石集めと、魔力切れで動けなくなったミントを背負って連れ帰ることに使われることになった。
「えっと……。とんでもないことになってますわ」
ショーゴたちが持ち帰った魔石の山を見て、ディアが固まっている。
ディアはダンジョン前の受付でショーゴたちを見送ったあと、一度教会に戻っていた。そしてショーゴたちが帰ってくるというご神託を受けて、今度は冒険者ギルドへ来て待っていたのだ。
ディアの横では手伝いに入った受付嬢たちが、
「何よ、この数。これ、全部スケルトンの魔石なの?」
「それよりも採掘された魔石の量よ。これ、何百kgになるのかしら?」
と騒ぎながら、重さを量ったり、色ごとに仕訳したりしている。
当然、ロビーにいた冒険者たちも何が起きたのかと野次馬のごとく集まってきていた。
「えっと、みなさん。間違いなく昇級することになりますので、今の冒険者カードを出してください」
大人数で計量してる受付嬢たちを見ながら、ディアがカードの提示を求めた。それにショーゴが、
「昇級って、どんな感じでしたっけ?」
と尋ねる。
「F級は累積1000ポイントでE級に昇格、E級は1年以内に1万ポイントを獲得するとD級に昇格できます。で、D級は1年以内に3万ポイントを稼ぐとC級に昇格できるのですが……。この量だと、更に半年以内に追加で10万ポイント、魔石の量で100kgを納めると昇級できるB級に届くなんてことは……」
ディアの頬が引き攣っていた。それは──
「それよりも4人に支払われる報酬です。紫色のものがけっこう含まれてますので、買取価格もその分だけ多くなりますわ。おそらく1人1千万ジェムを超えますわ」
ということだった。
「い、いっせんまん……」
アッコがあまりの額に泡を吹いている。
やがて軽量が終わると、この日、ショーゴたちの持ち帰った魔石の量は500kgを超えていたことが確定した。これをポイントに換算すると約50万ポイント以上。1人あたり13万に近いポイントの獲得だ。そのためショーゴは、あと1万ちょっとのポイントでB級への昇級を逃したことになるが、それでもギルド登録の3日目にはC級冒険者になる最速記録を更新することになった。もちろんフォエネル組の3人もD級を飛び越えてC級冒険者へ昇級だ。
そして、この日受け取った報酬も、1人1560万ジェムという、これまたスフルの冒険者ギルドにとっては歴代最高記録として残されることになった。
「これ、金銭感覚がバグるヤツだ……」
報酬額を伝えられた時、ショーゴはそんな一言を漏らしていた。




