初クエスト
「え? パーティに参加ですか?」
翌日、冒険者ギルドに来たショーゴは、さっそくディアからそんな提案を受けていた。
「今日は初仕事ですから、森に深く入らない場所でできる素材採集を考えてましたが……」
「森に入らなくても単独での活動には何かと危険が付きまといますわ。魔物が森から出てこないとは限りませんもの」
「まあ、昨日はさっそくラビットウルフで思い知らされたからなぁ。でも、誰と組めば良いんですか?」
「それでしたら、良さそうなパーティに声をかけてありますわ。フォエネル組のみなさ〜ん、来てくださぁ〜い」
さっそくディアが、カウンター近くの壁ぎわにいた3人に声をかけた。
銀髪の少年、茶髪で犬耳モフモフ尻尾の少女、黒髪をポニーテイルにした少女という3人組だ。
「ディアさん、最初から決めてたんですか?」
「まあまあ、ショーゴさまにとっても、悪い話ではないと思いますわ」
3人が来る間に、2人がそんな言葉を交わす。
「ディアさん。この人が、新しく来た御使いの勇者さまですか?」
先頭に立つ銀髪の少年が、そんなことを聞いてきた。頭に小さく丸いケモミミがあるところから、彼も獣人であるらしい。
「ええ。まだ来られたばかりで、この世界のことも、自分がどのような力を持たれてるのかも知らないと思いますの。フォエネル組の皆さんには、そのお手伝いをお願いしたいと思いますわの」
「了解しました。こっちもお溢れに与って、早く昇級できるかもしれないんだ。期待してるぜ、ショーゴ」
銀髪の少年が、そう言いながら握手を求めてくる。その手を握り返すショーゴが、
「お溢って、どういうことだ?」
と言葉の意味を聞いてきた。それに茶髪の犬耳少女が、
「少し前までスフルにいた勇者さまは、お二人とも、あっという間に手の届かないレベルまで駆け上がったからよ」
と教えてくれる。そこに、
「ねえ、ミント。その話は何度も聞かされたけど、本当なの?」
と聞いてきたのは、黒髪の少女だ。それに犬耳のミントが、
「本当よ。その中でも、あたしたちと同じ頃に冒険者になった魔法使いの子がヤバくてね、たった1か月でB級になって街を出ていったわ。もう1人もアッコが来る前にはB級になって、街から旅立っていったわね」
と説明する。それを聞いたショーゴが、「それ、昨日も誰かが言ってたなぁ」と話を思い出した。それで話を戻すように、銀髪の少年が、
「パーティを組んでるとさ、メンバー同士が揉めないようにって、報酬も冒険者のポイントも全員平等に振り分けられるんだ。端数が出た時は、リーダーが役得でもらうけどな。そういうことだから俺たちがどこまで付いて行けるかにもよるが、C級まで引っ張ってもらえたらラッキーってな」
などと言ってくる。
「前の2人はすごかったかもしれないけどさ。俺は昨日この世界に来たばかりで、まだ何も知らないんだ。その青田買いはどーかと思うぞ」
「ははは。きみは神さまに選ばれて、ここへ来たんだろ? それなら、すごい能力があるに決まってるじゃないか」
「それが冒険者としての能力とは限らないんだけどなぁ」
ショーゴが対応に困っている。そんなショーゴに、
「その話は置いといて、俺はこのパーティのリーダーで剣士のケインだ。で、こっちのミントは魔法使い、隣のアッコは弓使いだ」
と、銀髪の剣士ケインが一気に全員を紹介してきた。
「さっきディアさんが言ってた……ホーネル……組がパーティ名か?」
「いや、まだパーティ名は決まってないんだ。俺は3人組だから『鼎月』がカッコイイと思ってるんだけどなぁ」
「テーゲツ?」
ショーゴが気になる単語を尋ねる。それにミントが、
「空にある3つのお月さまのことよ。どこかの街にいた勇者さまが、3つをそのようにまとめて呼んだらしいの」
と教えてくれる。
「こっちでは、どう呼んでるんだ?」
「特別な呼び方なんてないわよ。『3つの月』とか、人によって『空の3大星』と言うぐらいかしら……」
「ふ〜ん。それで、ホーネルって?」
ショーゴが最初の質問に戻した。それにはケインが、
「ホーネルじゃなくてフォエネル。俺らが生まれ育った村の名前だ」
と答えると、そこにディアが、
「名前の決まってないパーティは、便宜的に出身地やリーダーの名前などで呼んでるのですわ」
と補足してくる。そのディアが、
「それよりもショーゴさま。初心者の単独行動はあまりお勧めできませんので、今日一日だけでもフォエネル組のみなさんと、パーティを組まれてはいかがでしょうか。それと、お話はパーティーを組むか決めてからでも……」
と言ってくる。それを受けてショーゴが、
「あ〜、たしかにここで話し込むのは、お仕事の邪魔ですよねぇ」
と言いながらロビー全体を見渡すが、それにケインたちは、
『え?』
という顔をしてきた。すぐミントが、
「ディアさんは教会から派遣されてきた、勇者さま専属ですよ。今、ここにいる勇者さまはショーゴさんしかいませんから、他にお仕事はないと思うのですが……」
などと言ってくる。それに続いてケインも、
「というか俺たちにパーティを斡旋してくれたのは有り難く思うけど、以前は勇者さまが冒険者業に慣れるまで、ディアさん自身がパーティを組んで指導してたって聞いてますよ。しかもA級冒険者の資格持ちだってウワサもあるけど……」
と言い出すと、みんなの視線がいっせいにディアに向かった。
『それ、本当なんですか?』
ショーゴとアッコの言葉が重なった。それで両手を挙げたディアが、
「そのウワサは本当ですわ。でも、神さまに怒られましたので、もうやらないことにしましたの」
と、言いにくそうに答える。
「怒られた?」
そこを気にしたのはショーゴだ。
「ご神託を受けて地上でサポートするのがお役目なのに、勇者さまよりも強くなってどうする……と……」
「じゃあ、A級冒険者というのは?」
「はい。お恥ずかしながら……」
ケインに聞かれて、ディアがそっと金色の冒険者カードを出してくる。金色はA級冒険者の色だ。
「うわ〜、本当に金色だ」
と言ったのは黒髪のアッコ。続いて犬耳のミントが、
「もしかしてディアさんが、スフルで一番強いんじゃ?」
なんてことを言ってくる。
「勇者さま方とパーティを組んでたおかげのお溢れです。ただサポートしてただけですのに、気がついたらA級に昇級る条件がそろってると気づいた受付嬢がいまして、それで強制的に……」
「なるほど。これは期待が大きくなるな」
ニヤニヤするケインが、そう言ってショーゴの肩を叩く。それで何も言い返せなくなったショーゴが、
「わかったよ。じゃあ、今日は初日だから、採集系のクエストでも受けて行こうか」
と言って、クエストの並んだ掲示板の方を指差した。
そこで4人は適当に5つのクエストを選んだ。すべて薬草や鉱石の採集クエストだ。
その4人が装備を身に着けたのは、街を出て大きな街道を離れてからだった。
「……ウソだろ。もう集め終わったぞ」
ケインが集めた薬草や鉱石の山を見て、呆れた顔をしている。そのケインは何枚もの依頼書を見ながら、数を確かめていた。
ここは大きな土砂崩れのあった崖の下だ。崖の高さは十数m。下は崩れた土砂による岩場となっており、土砂が何mもの高さに積もっている。その土砂の届いてないところは、背の高い草に覆われた草むらになっていた。
4人は今、その崖の下にある岩場にいる。そこに転がっている大きめの岩の上に布を敷いて、そこに集めたものを並べて採集の成果を確かめているところだ。
「まさか探索の魔法が、こんなにも強力だとは思わなかったな……」
その採集を1人で済ませてしまったショーゴ自身も、あまりの成果に驚いていた。
アッコも、
「あたしたち、何一つ見つけてないんだけど……」
崖に近づいていって、せめて1つぐらいはという気持ちで転がっている石を拾っている。
「ショーゴ。探索の魔法って、探してるものの場所が見えるの?」
と聞いてきたのは魔法使いのミントだ。
「場所が見えるというより、意識してるものがどこにあるのかを教えてくれる感じ……かなぁ?」
そのように答えながら、ショーゴが草むらに目を向ける。
「探索の魔法は何も指定しないと、危険を教えてくれるためのものなんだ。崖の上には数体の魔物がいるけど、下にはいないね。でも、草むらのあのあたりに、毒はないけど気性の荒いヘビがいるよ。それと少し手前に、けっこう大きな窪みが隠れてるとか、あっちには躓くほど大きな石が転がってるとか教えてくれる」
「ふぇ〜。草で何も見えないから、それは便利だね」
ミントが目を凝らして見つけようとするが、深い草に覆われて何一つ確認できない。
「で、目当てのものを探す時は、俺がそれについて知っている必要がある。そこで先に鑑定の魔法で、最初の1つめを探すんだ。これが一番厄介でね。これにもっとも時間を取られると思う」
「そう言う割には、すぐ見つけてなかった?」
「ゴモリの根のことを言ってるのかな? 今日はたまたまだと思うけど、探索の魔法を2回目に使った時に、その範囲内で見つかったからね。最初の1つさえ見つかれば、あとはそれを参考にして一気に広い範囲を探索できるから、そこからはあっという間だ。でも、最初の1個が見つからなかったら泥沼にハマってたと思……」
そこまで言いかけたショーゴが、いきなりアイテムボックスから槍を引っ張り出した。そして、
「アッコ。上!」
と叫んで、崖の方へ駆け出していく。
「え?」
アッコは声を上げたショーゴの方を見てしまった。そのショーゴは鬼気迫る形相で駆けてくる。視線は上を見ていた。
「横に跳べ!!」
ショーゴに言われると、アッコは反射的に低い方へ転がった。
「レッドボア!?」
遅れてケインが脅威に気づいた。崖の上から体長10mを超える赤い大蛇が、口を開けて落ちてきてたのだ。その口を目掛けて、ショーゴが刃先が十字になった槍を突き上げた。
上に向いた刃先がボアの喉に入っていく。次に横に突き出した刃が口の奥に当たって、重みでショーゴを圧し潰してきた。ボアの体重は何百kgもある。その重量に負けてショーゴの体勢が崩れた。だが、それで柄が地面に突き立った瞬間、ボアが横向きの刃によって自身の重みで生きたまま胴体を引き裂かれていった。まるで包丁で捌かれるように、みごとに2つに割かれていく。それで半分ほど刃が通ったところでボアが光に包まれて消え、残った赤い石をドスンと落とした。
「びっくりしたぁ〜……」
地面に押し倒されたショーゴは、今も槍を天に向けていた。その先ではボアの残した光が漂っている。ショーゴは見開いた目で、しばらく消えていく光の粒を見ていた。
「い、生きてる……」
と零したのはアッコだ。坂になった岩場を転がる途中で、上から落ちてくる大きなヘビを見ていた。自分がそれに狙われていたのに気づきもしなかったことが、今になって恐怖となって襲ってくる。
一方で岩場を登ってきたミントが、
「こんな大きな魔石、初めて見たわ」
などと混乱した口調で言いながら、ボアの残した赤い魔石を拾い上げた。
「探索の魔法で魔物が崖の上にいるのには気づいてたけど、まさか飛び降りてくるとは思わなかったな」
起き上がったショーゴが、そう言いながら近づいてきた。そして、
「崖の上にはアラクネと、あと3体のウォーウルフがいるけど、あれも飛び降りてくると思うか?」
と言って、崖の上を指差した。それで見上げたミントが、崖の上からこちらを見ている少女を見つける。上半身は人の姿をしてるが、下半身は蜘蛛の魔物だ。
「さすがに、この高さを飛び降りてくるとは思えないけど……」
ミントが魔石を持ったまま後ろに下がった。
「ここに長居するのは危険だ。クエストの採集分は終わったんだから、さっさと街に帰ろうぜ」
敷いていた布ごと、採集クエストで集めたものを包んだケインが、撤収を促した。それにアッコも、
「無事に帰るのが一番のクエストよね。帰りましょう」
と、青い顔で言ってくる。時間が経つほど、先ほどの恐怖が込み上げてきたのだろう。
「はぁ……。まだお昼が過ぎたばかりなのに、もうクエストを達成しただけじゃなくて、レッドボアまで倒してきたのですか?」
ディアが驚きを通り越して呆れた顔になっている。ギルドに帰ったショーゴたちから、報告を聞いたところだ。
そのディアの前にあるカウンターには、クエストの書類5枚と採集した品物、それとボアの魔石が置かれている。その中から膨らんだ根っこを手に取り、
「このゴモリの根は見つけるのが難しいはずですが、それを数時間でよく集められましたね。群生地でも見つけたのですか?」
などと言いながら、品質を確かめている。
「ううん。1つ1つ、別の場所から掘ったわ。ショーゴ、次から次に見つけるから、びっくりしちゃった。それも大きいものばっかり」
それに答えたのはミントだ。
「これをすべてショーゴさまが見つけたのですか?」
「探索の魔法を使ってみた結果ですよ。運よく早めに1個目が見つかりましたからね。あとは芋づる式に……」
ディアの質問にショーゴが答えると、
「すごかったよねぇ。最初は街の西にある森の入口で探し始めたのに、『北に2つ見つけた』とか言って、どんどん山の崩れた崖のところまで……」
「そこまで行く途中でも、モギ草とか魔クズとか、次々にクエストにあった薬草を見つけては集めてたし……」
ミントとケインも、道中であったことを話してくる。
「ショーゴさま。いったい何km先のものを見つけられるのですか?」
「限界は試してないなぁ。取り敢えず今日は1km以内に危険がないかを探りながら、ゴモリの根を必要な数だけ見つけるために探索の範囲を3〜4kmまで広げてみた感じで……」
「そんなに遠くまで……ですか?」
驚いたディアが口に手を当てた。だがショーゴは、
「でも、地下の深いところまでは探れないんですよねぇ。探索ついでにゴモリの根の大きさまで探ってみた時に気づいたのですが、地面から1mちょっとの深さまでしか見えませんでした」
と言って、ちょっと不満そうな表情を浮かべている。
「地面を掘ることを考えれば、1mでも見えれば十分なのでは?」
「いえ、それで気づいた問題が2つ。今日集めたゴモリの根は、浅いところで太く育ったものばかりです。それで数がそろったので掘りませんでしたが、上は細いけど下が膨らみかけたところで見えなくなってるものを、いくつも見つけてるんですよ。もしかしたら見逃したゴモリの根の中に、今日、掘ったものよりも大きく育ったものがあるんじゃないかと思うと……」
「それは贅沢な悩みですわね」
確認はしてないが、今は「逃がした魚は大きい」の心境だった。
「それと地上では遠くまで探れましたけど、厚さ1mちょっとでその先が見られなくなると考えると、ダンジョンに入った時の索敵が気がかりになるんですよねぇ。道が曲がった先とか、横道に隠れてたりする魔物を、どこまで見つけられるか……」
「魔法の上級者でも、それは難しいかと……」
ディアがショーゴの贅沢な悩みに呆れている。ケインたちも、
「ショーゴがいると、斥候役が要らなそうだな」
「魔法で魔物を探すなんて、あたし、考えたことなかったわよ」
「あたしは斥候役だったのに、上から来るボアにはまったく気づいてなかったわ。今日はただのお荷物だったような気分……」
今日のできごとを振り返って、思ったことを言い合っている。
それを聞いていたディアが赤い魔石を手に取って、
「それにしても重いですわ。これをみなさんで倒されたのですか?」
と聞いてきた。
「それが、ショーゴ1人で……」とはミントの答え。
「あたしたちに倒せるはず、ないじゃないですか」と答えたのはアッコだ。
ディアがカウンターの後ろにある天秤で重さを量りながら、
「レッドボアと言ったら、C級の冒険者でもチームを組まないと倒せないBランクの魔物ですよ。これまでに何人もの勇者さまを担当してきましたけど、初クエストでB級以上の魔物を狩ってきた方、ショーゴさまが初めてですわ」
などと言ってくる。
「さて、今日の報酬の精算は後まわしにして、先にポイントの処理を先に済ませますわ。魔石は1.4kgちょっと。1kgを超えてますので、ポイントは5割増しで2118ポイントになります。それと達成クエストが5つありますので、こちらも合わせて340ポイント。合計で2458ポイントの獲得になりますわ。これをパーティ人数で均等に割りますと、今日1日で614ポイントになります」
「え? そんなに?」と驚いたのはミントだ。
「端数の2ポイントは、パーティリーダーのケインさんに……」
「ま、待ってくれ。さすがに端数まではもらえねえ! それはショーゴにやってくれ」
ケインが慌てたように首を振って、そんなことを言ってくる。
「いいの?」
「今日のポイントはお溢れでももらいすぎだ。その上、端数までもらったら、あとが怖くて落ち着かなかねえよ」
「それは無欲だね」
ショーゴが面白いものを見る目で、ケインを見ている。
「それとですね、ショーゴさまは300ポイントを超えましたので、初日でF級への昇級となります。それとアッコさんもF級になってから1000ポイントを超えましたのでE級に昇級です」
「まだ半分もなかったのに……」
と零してアッコが固まった。その隣ではケインが固まったままだ。
その2人の反応を見て、ショーゴが苦笑している。
そこへディアが、
「ショーゴさまとアッコさんは冒険者カードを更新しますので、今のカードをご提出ください」
と求めてきた。それでショーゴが無地の木のカードをカウンターに置くと、その隣にアッコも似たようなカードを並べてくる。それをすぐ手に取ったディアが、
「すぐに新しいカードをご用意しますので、少しお待ちください」
と言って、書類とカードを持って奥の部屋へ入っていった。
「まさか本当にお溢れで昇級できるとは……」
ディアの戻りを待つ間、ケインがそんなことを言ってくる。続いてミントが、
「それにしても探索とか索敵って、すごい魔法が使えるのね。勇者さまって、他の世界から来た人たちでしょ?」
という話題を持ち出してきた。
「そうだよ。昨日、いきなり神さまに呼び出されてね。修行のためだってこの世界へ送り込まれたんだ」
「それは何の修行?」
「そこは教えてくれなかった。『自分で気づいて、眠ってる才能を開花させろ』だってさ。せめてヒントぐらいは欲しかったよなぁ〜」
ショーゴがぼやきながら、ロビーを見渡す。昼過ぎのこの時間、ロビーにいる冒険者はまばらだった。今日は天気が良いのだ。多くの冒険者たちは出払っている。ここにいるのはショーゴたちのように早くクエストを終わらせた者たちや、昨晩酒を飲みすぎて昼ごろまで寝てた者たちだ。あとはクエストの内容と報酬が納得できないか、自分の能力で受けられるものが見つからなくて、新しいクエストが出てくるのを待っている者たちである。
「ショーゴは元いた世界では、どのくらいの魔法が使えたの?」
「使えないよ。そもそも俺のいた世界には魔法がないんだ」
「魔法、使えないの? 探索とか索敵なんて、すごい魔法が使えるのに?」
「それは昨日、雲の上で会った神さまから教えてもらった魔法だよ。って言っても、その時に教えてもらったのは『鑑定』『検索』『閲覧』の3つだけだ」
「最後の閲覧って?」
「神様が用意してくれた、図書館に収められた本を見る魔法……かな? この世界の知識を、神様が許してくれた範囲で調べられる魔法だよ。あとはディアさんからも生活魔法として服や体をキレイにする浄化魔法と、濡れた髪や服を乾かすための火と風の魔法を教えてもらった」
ショーゴが答えながら、手のひらに風の魔法を出してみる。
「それで他にも使えないかと昨晩、寝る前に閲覧で出てくる情報を読みまくって、今日使った『探索』と『索敵』の魔法は使えるようになったけど……」
そこまで言ったところで、ショーゴがハァ〜っと大きな溜め息を吐いた。
「まだ魔法のことがよくわからないから、調べる系の魔法以外は独学では覚えられなかったんだよなぁ」
「覚えられないって、まだ1日でしょ? むしろ覚えるの、早すぎない?」
聞かされる方のミントは、ショーゴの話に呆れている。
「ショーゴって、どんな素養はあるの?」
「俺の素養? えっと……。鑑定、魔法のステータス……」
ショーゴが自分に手のひらを向けて、鑑定魔法を使った。それでショーゴにしか見えないステータス画面が現れる。
「基礎魔力のステータスは生活魔法で使った、火、水、風がちょっと上がって12になってる。土は初期値の10のまま、霊はゼロだけど、光と闇が20を超えてるのは、調べる系の魔法と関連があるからかな? それに、そこから派生した雷と幻影、幻覚の魔法も出てきてるから、やり方さえわかれば何か使えるはず……なんだよねぇ」
「基礎? ステータス? 初期値? 派生? 何、それ? ショーゴ、鑑定でステータスが見られるの? それ、すっごく便利じゃない」
「ん? ミントは自分のを見れないのか?」
「見れないもないも何も、そんな魔法なんて知らないわよ」
「知らない? ……あ、そういえば神さま、これはチートスキルだって言ってたっけ?」
「チート魔法……。すごい。うらやましい……」
ミントが魔法の杖をギュッと握りしめて、ショーゴをジッと見てくる。
「チートと言えば、昨日、こんな機能を見つけたんだ。鑑定、ミントのステータス」
そう言ったショーゴが、今度はミントに手のひらを向けてステータスを見る。
「見たいステータスのところを長押しすると、追加情報が出てくるんだ。……って言っても、俺以外には見えないけどね。それで、今見てるミントの魔法についての情報を見ると……。ああ、やっぱりいろいろ出てきた。ミント、火の魔法ばかり使ってるだろ」
「うん。あたし、火の属性が強いんだよね?」
「それはもったいない。火の魔法だけじゃ、ただ焼くだけだ。闇の魔法と合わせると、爆発の魔法が使えるみたいだ」
「闇と合わせる? それ、どういうこと? 爆発の魔法なんて、上級魔法じゃないの」
自分にもすごい魔法が使えると聞いて、ミントが身を乗り出してきた。と同時にモフモフの尻尾がブンブンと左右に揺れる。
「爆発はこの情報を見る感じでは上級ではなく、2つの属性を合わただけの、初歩に毛の生えた程度のものだ。それよりも今は光と風の魔法を鍛えなよ。この2つの魔法を高めていけば、治癒の魔法が覚えられる。これ、ケガした時に必要だぞ」
「えええ? あたしにも治癒の魔法が使えるの? どんなに練習してもできるようにならないから、治癒系の素養はないと思ってたわ」
「治癒の魔法は、それだけを覚えようとしても無理みたいだね。その前に光と風の魔法を使って、その力を高めておく必要があるみたいだ。そこに土と水の魔法を組み合わせると、手足を失っても再生する魔法が覚えられるよ」
「あたし、再生魔法も使えるようになれるの? そんなこと、誰も教えてくれなかったわ」
話を聞いたミントが、さっそく目の前に小さな光を作って魔法を鍛え始める。それを横で聞いていたケインが、
「ここに来る勇者さまって、みんな神さまから同じような能力をもらってくるのか?」
という疑問を聞いてきた。
「そこは知らないなあ。たぶん昨日会った神さまの感じから、全員が全員ではないと思う。それよりも……だ」
そこまで答えたショーゴが、身体をミントに向けて、
「ミント。このあとちょっとの時間でいいからさ。俺に攻撃に使えそうな魔法の使い方を教えてくれないか。昨日、ディアさんから生活魔法を教わった時も感じたけど、たぶん使う感覚さえ摑めれば、あとは独学でも何とかできると思うんだ。代わりにミントが上級魔法や超級魔法を覚える条件、わかる範囲で教えるからさ」
とお願いしつつ、交換条件を提示する。だがミントの方は、
「超級魔法の覚え方なんてわかるの? まさか、もっと上もわかるとか?」
なんて方を気にしている。
「わかるよ。ある魔法を覚えるためには、どの魔法を組み合わせるか。そのためには何の属性や才能が必要か……とか」
「すごい。それ、知りたい。そのためなら、何でも協力しちゃう……」
ミントの瞳がキラキラと輝き、尻尾が激しく振りまわっていた。
「まさかとは思うけど、死んだ人を蘇らせる伝説の魔法なんて、本当にあるのかな?」
「死んだ人を……? えっと、そんなのあるのかな? 検索、死者蘇生の魔法。……あ、出てきた」
「あるの!?」
ミントの声が大きくなった。その声を聞いてロビーにいた人たちの目が、いっせいに集まってくる。
「おい、ミント」とはケインの注意。それに「ゴメン」と短く謝ったミントが、慌てて手で口を押さえる。と同時に尻尾も動きを止めて、だらんと垂れ下がった。
「えっと、死者蘇生の魔法というか、蘇りの魔法はあるけど、生き返らせるには条件があるね。まず肉体がほぼ完全であること。大ケガをしてるとか、重い病気で弱った肉体では生き返らせられないみたい。生き返らせる前に治癒の魔法や再生の魔法で、身体を再び死なない状態にしておく必要があるようだ」
調べた結果を語るショーゴの言葉を、ミントが食いつくように聞いている。
「そこで身体を治したあとで蘇りの魔法を使うんだけど、これは死んでから30分以内に使わないと、魂が肉体から離れてしまって戻らないこともあるみたいだね。1時間経つと成功率は9割、3時間で半分、24時間を超えると、さすがに無理みたいだ」
「でも、死んだ直後なら確実に生き返らせられるのね。すごい。知りたい。使ってみたい……」
ミントは完全に舞い上がっていた。それを横で聞いてたケインとアッコが、
「それが使える魔法使いがいたら、パーティは大助かりだ」
「というかギルドに1人は欲しいよね。それができる魔法医さん」
と言ったところへ、
「マホーイって何かしら?」
と聞きながら、ディアが戻ってきた。
「ミントに攻撃魔法を教えてもらいたいって話ですよ」
ショーゴがそもそもの話に戻した。それにディアが、
「……あ、攻撃魔法? すみません。完全に失念してましたわ」
と思い出したように言ってくる。
「勇者さま方は魔法のない世界から来られてるので、以前はこの世界に慣れるまで、わたしとパーティを組んでいただいて実地で教えていたのですが……」
ディアが複雑な表情を浮かべて、そんなことを語り始めた。
「昨日はこちらの世界を発展させてもらうことばかりに気が向いていて、すっかり忘れてましたわ。申し訳ありませんでした」
「いえ、攻撃魔法じゃないだけで、昨日は浄化の魔法と、服や髪を乾かす魔法を教えてくださったじゃないですか。魔法が使えるって感覚を知れただけでも有り難いですよ」
ショーゴがそう言われたディアが、それでも申し訳なさそうな顔を向けてくる。そのディアが次に、
「それではミントさん。わたしの代わりとなりますがショーゴさまのお相手、お願いできるかしら?」
と言ってくる。
「やるやる。そのついでにショーゴから、新しい魔法の覚え方を教えてもらうの。こんなチャンス、そうそうないもの」
「新しい魔法の覚え方……ですか?」
ディアが気になる言葉を拾って、ショーゴに顔を向ける。
「検索と閲覧の魔法ですよ。今の状態から、何をすれば新しい魔法を覚えられるとか、こんな魔法を覚えたかったら何をすればいいとか、系統樹が出てくるもので……」
「ああ、なるほど……。それを言われると、こちらの世界では魔法があるのに、それを個人の才能としか思ってませんでしたわ。魔法は便利ですが、そのせいで経験則以外の深い知識が乏しいのかしら?」
そのように話を理解したディアが、持ってきたものを一度カウンターの後ろに置いて、
「それよりも、こちらがショーゴさまとアッコさんの新しい冒険者カードになります」
と2枚のカードをカウンターに出してきた。ショーゴのカードは無地の木で作られたもので、アッコのは赤茶色のものだ。赤いニスが薄めに塗られた感じだろう。文字はどちらも焼印で刻まれている。
「それと、次に報酬の精算です」
そう言ったディアが、精算に関する書類をカウンターに出した。
「今日の報酬は、総額で155,803ジェムとなります」
「じゅ、じゅうごまん……」
書類に書かれた数字を見て、ケインがのけぞった。
金額にピンとこないショーゴが、
「これ、どのくらいの価値になるの?」
と、隣にいるアッコに尋ねる。
「わ、わかんない……」と青い顔で答えるアッコに変わって、
「これ、庶民の月給2か月分よりも多いわ」とミントが答える。
「それで、今日の報酬はお一人様38,950ジェムになるのですが、端数の3ジェムはポイントと同じようにショーゴさまの取り分で良いのかしら?」
と確認するディアが、4枚の紙をカウンターに出してきた。そこにはすでに今日の日付と、それぞれに4人の名前が書かれている。
「それでいいのかな?」
とはショーゴの確認。それに3人が黙ったまま、首を激しく縦に振っている。
「お支払いは3万ジェムを超えてますので、すべてギルドの口座で預からせていただきますわ。事務処理が終わり次第の入金となりますので、しばらくお待たせいただきますが……」
「そうなの? じゃあ、少し現金を下ろしておかないと……」
などと言ったのはミントだ。
「ディアさん。俺の口座って?」
「ギルドに登録した時点で作られてますわ。あちらの口座窓口に冒険者カードを出せば、すぐに口座内にある金額を調べて、お求めの現金を引き出せます。ショーゴさまの口座は昨日作られたばかりですので、まだ何も入ってませんけど」
「現金か……。まあ、しばらくは出す必要はないか……」
ショーゴがアイテムボックス内にある金額を確かめて、そんなことを言う。「今日は、これからどうされるのですか?」
まだ時間があるため、ディアがこのあとの予定を聞いてきた。
「それならミントに攻撃魔法を教えてもらう予定です。それでいいよね?」
「うんうん。今日は儲けさせてもらった分、張り切って教えちゃうよ!」
ミントはすっかり乗り気だった。
「アッコ。俺たちはどうする?」
「その前に、お昼にしようよ。食べるの忘れてたから、もうペコペコだよぉ」
『……言われてみれば……』
アッコの言葉に、3人が昼食を摂ってないことを思い出した。
ということで、4人はそのまま遅めの昼食へと向かうのだった。




