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今日はステータス上げの日

「ここがボードダンジョンか」

 ショーゴが異世界に来て8日目である。

 今日は前回行った洞窟(どうくつ)ダンジョンではなく、そこからもう少し山の中に入ったところにあるボードダンジョンというところに来ている。

「前のダンジョンに比べると、来てる冒険者が少ないみたいだな」

「そりゃあ、ここはひたすら魔物が()いてくるだけのダンジョンだ。討伐(とうばつ)クエストを受けるぐらいでしか、来る目的のない冒険者が多いんじゃないか?」

 そう言ったケインが、ここで装備で身を固めていく。

「それよりも、さっさと受付を済ませて……」

「ショ、ショーゴさま……」

 入口へ向かおうとしたショーゴたちに、後ろから声が掛けられてきた。魔動バイクに乗ってきたディアだ。

「まさかこちらに来られるとは……。ご神託でスフルダンジョンの方で待ってましたのに……」

 場所が違うと知って、(あわ)てて駆けつけたのだろう。ディアが乗ってきた魔動バイクをアイテムボックスに仕舞いながら近づいてくる。

「ディアさん。大丈夫ですか?」

「ご心配なく。さっそくご案内しますわ」

 と言ったディアが、大きく深呼吸する。

「こちらのボードダンジョンですけど、かつては鉱山(こうざん)として使われてました。ところが、いつの頃からか魔物が()み着くようになってしまいまして、今ではすっかり放置されたダンジョンになってます」

 さっそくディアがダンジョンの案内を始めた。

「このダンジョンは大きくありません。地下20層の中規模なものです。奥まで行くとBランクの魔物も出てきますが、浅い層ではほとんどがDランク、Eランクの魔物しか出てきませんので、初心者にとっては良い修行場となりますわ。ショーゴさまの今日の目的は、どのようなものでしょうか?」

「まさにその修行ですよ。ステータスを計画的に高めたいんです」

「計画的に高める?」

「先々を考えて、それぞれにとって足りない能力値をここで(きた)えたいんです。俺はそろそろ魔法を覚えたいし、ミントは風の能力を高めたい。ケインは斬撃(ざんげき)以外のスキルアップだよな? アッコも弓使いの命中精度を高めたいだろうし……」

「なるほど。C級冒険者にはなりましたけど、実力はまだE級ですものね。どうぞ修行に(はげ)んでください」

 目的を伝えたショーゴたちは、受付で入場の手続きをしてダンジョンに入っていった。



「中は暗いな」

 ダンジョンの中は広い空洞(くうどう)だった。ところどころに太い柱を残して、鉱物が発掘(はっくつ)された(あと)だ。

 その柱のところに、明り取りとして魔光石が設置されている。だが、柱と柱の間隔(かんかく)が広いため、スフルダンジョンと比べると、かなり暗い(しょう)(めい)となっていた。

 広い(ゆか)のあちこちに、いくつもの()(ばち)(じょう)縦穴(たてあな)()られている。大きな穴の中には、何層も下が見えるほど深いものもあった。その斜面(しゃめん)()(せん)(じょう)の階段が作られ、下の層へ行けるようになっている。

 ショーゴたちは、そんなダンジョンの第1層で魔物退(たい)()を始めていた。

「右からグレイラットが3匹だ」

「わかったわ。つむじ風!」

 ショーゴの索敵(さくてき)に合わせて、ミントが風の魔法で小さな魔物を次々と(ほふ)っていく。

「次はあの岩陰(いわかげ)に2匹。これで見える範囲の魔物は終わりだ」

「あの後ろね」

 ミントが魔法で作ったつむじ風を、岩の後ろへ動かす。それに巻き込まれた大ネズミが、風に()まれて魔石となって消えていく。

「小さいね」

「ネズミの魔石なんて、こんなもんでしょ」

 魔石拾いはアッコとシオンの役目だ。と言っても、いちいち地面に手を伸ばして拾ったりはしない。アッコは弓の先で魔石に触れ、シオンは蜘蛛(くも)の糸で魔石を拾ってアイテムボックスに放り込んでいる。あとはアイテムボックスの中で、意識しなくても()(わけ)されてるという便利な仕組みである。

 まあ、それはそれとして、これまで大きな魔石を見慣れてしまったせいで、今日の魔石はあまりにも小さく見える。

「1層目はEランクの魔物しか出てこないのかな?」

「そんな感じだけど、もう少しここでミントの風魔法を(きた)えよう」

 ショーゴがステータス画面を見て、それぞれの成長具合を確かめる。

「あとどのくらい?」と聞いてきたのはミントだ。

「これまでの感じだと、あとグレイラット5匹かな。それで風のステータスが20になるから、突風(とっぷう)の魔法が使えるようになるはずだ」

「突風が使えるようになるの? そういうのがわかると、やる気が出てくるわ」

 魔法の杖を構えて、ミントがいい表情を受かべている。

 そんなミントとは対照的に、ケインが、

「ショーゴ。俺の出番はまだないのか? (ひま)でしょーがないんだが……」

 などと不満を言ってきた。

「すまない。朝、出発する前に説明した通り、今日の一番の目的は、ミントに治癒(ちゆ)魔法が使えるようになってもらうことだ」

「それはわかるけど、ちょっとしたケガを治せるだけだろ?」

「それは覚えたての治癒魔法の話だ。すぐにも強力な回復(かいふく)魔法や再生(さいせい)魔法に成長すると思うぞ」

「ミントがその通りに成長できたら、パーティとしてすごく心強いけどさ……」

 頭ではわかっていても、身体(からだ)を動かしたい気持ちは(あらが)えないようだ。そこへ、

「ケイン。あっちからスケルトンが1体来てる。まだミントの風魔法では倒せないから、任せていいか?」

 とショーゴが新たな魔物について教えると、

「任せろ。やっと俺の出番だな」

 ケインがうれしそうな声を出して、剣を構えて駆け出していく。

「ケイン。後ろからもう1体だ」

「それも任せろ!」

 スケルトンが見えた途端、(ほね)粉々(こなごな)(くだ)かれていった。そのあとから来たスケルトンも、あっという間に倒されている。

「さすがスケルトンの魔石。グレイラットの3〜4倍はあるぜ」

 仕事を終えたケインが、そう言って戦利品を見せてくる。

 そのケインのステータスを見たショーゴが、

「なあ、ケイン。棍棒(こんぼう)みたいなのは持ってないのか?」

 と確認してきた。

「ないぞ。それがどうした?」

「ケインのステータスだけどさ。使ってるのが剣だからって仕方ないけど、斬撃(ざんげき)のスキルばかり高くなってるんだ」

「そりゃあ、剣は()るものだからな」

「だけどさ、()(げき)()(とつ)のスキルも鍛えないと、新しい()(せい)スキルが出てこないぞ」

「なに? 俺にも派生スキルが期待できるのか? それは何だ?」

(しょう)(げき)粉砕(ふんさい)だ。スケルトンは(むずか)しいけど、それ以外の魔物を突き刺して倒してみなよ。それとスケルトンは次からは()るんじゃなくて、剣の腹でぶっ(たた)く感じで倒せないかな?」

「なるほど。やってみるよ。でも、それで何ができるんだ?」

「派生スキルが出てきたら、刃の()()く力が増したり、離れた魔物に(しょう)(げき)()を飛ばしたり、剣で岩でも粉砕(ふんさい)できたり……だな」

「おお! それはカッコいいな。どのくらい鍛えればできるようになるんだ?」

「知らん。ケインは突きも打つもやってないから、ステータスがどのくらい伸びるか見当もつかないからな」

「うむ。それもそうか」

 ケインが納得したところで、ふと顔をゆっくりと周りに向けた。

「ところで、次の魔物はどうした?」

 2人が話してる間、魔物は1体も(あらわ)れなかった。索敵(さくてき)の魔法を使うショーゴが、

「急に魔物が来なくなったな。()()くしちゃったか?」

 ケインと同じようにダンジョン内を見渡した。

 あとから入ってきた冒険者パーティーが、入口の近くにあった縦穴から下に降りていくのが見える。

「俺たちも下に降りようか」

「そうだな。ってか、ひたすら魔物が湧いてくると言う割には、少なくねーか?」

 ケインがそんな文句を言ってくる。

「ホント、それだよな」

 ショーゴもそのあたりに不満があるようだ。

 もしかしたら少ないようでも、来てる冒険者が多すぎるのかもしれない。



 ショーゴたちは第2層でも魔物が少なかったため、第3層まで降りていた。

 第3層からはゴブリンが()れで出てきたが、

「突き! 突き! 突き!」

「切り()け! 切り裂け! 切り裂け〜!」

 次々と(あらわ)れるゴブリンたちをシオンが蜘蛛(くも)の糸で動けなくし、そこにケインとミントがトドメを()す形で倒している。

「シオンがいるだけでチートだな」

 今のやりすぎ感を見て、ショーゴが呆れるというか、やられるゴブリンたちに同情のような感情を覚えさせられている。

「けっこう倒したけど、そろそろ治癒(ちゆ)魔法が使えるようになったかな?」

 ミントが汗を(ぬぐ)いながら、気になることを聞いてきた。ところが、

「ダメだ。動けなくしたゴブリンにトドメを刺すだけじゃ、思うようにステータスが上がらないみたいだ」

 という問題が発覚した。

「ええ〜、上がってないの?」

 ステータス上げには倒し方も影響するようだ。ゲームのレベル上げのように他のプレイヤーが魔物を弱めて、レベル上げをするプレイヤーにトドメを刺させるやり方は通用しないらしい。

「シオン。これからは捕まえたら、1匹ずつ解放してやってくれ」

「わかった。また3匹捕まえたけど、これはミントに、こっちはケインね」

 シオンが捕まえたゴブリンを解放した。

『ピィィィィィ〜〜〜〜〜!』

「あ、逃げやがった……」

 解放されたゴブリンが、悲鳴を上げて逃げ出した。剣を突こうとしたケインだったが、さすがに追いかける気にはならないようだ。

「風よ、切り裂け!」

『ピギャァァァ〜!』

 一方でミントの方は解放されたゴブリンを倒した。魔物の落とした魔石は、アッコが拾っている。

「今度こそ、ステータスは上がったよね?」

「ちゃんと上がってるよ。でも、あと何匹かはわからん」

「それでもステータスが上がるのなら、いつかは目標に(とど)くよね」

 ミントは前向きだった。


「おおお〜。なんか、急に()れが大きくなったな」

 第5層まで降りてきたら、そこではゴブリンではなく、コボルトの大群が待ち構えてた。

 とはいえ、

「よくやったシオン。1匹ずつ解放してやってくれ。数が多いから、俺も参戦するぞ」

 今回も魔物たちは蜘蛛(くも)の糸で動けなくされていた。行動力を(うば)われたコボルトたちが、

『シャァァァ〜〜〜〜〜!』

 と()嚇音(かくおん)を出している。

 このコボルトは頭こそ犬っぽいが、()(ちゅう)類型(るいがた)の魔物だ。だから()えるのではなく、シャーという声を出しているのだ。

 しかも解放されたコボルトは逃げることをせず、本能的に近くにいるメンバーに(おそ)いかかっている。

 ──ぶすっ!

 ケインが剣を突き立てた。

「風よ、切り裂け!」

 ミントは引き続き風の魔法だ。

「ダメだ。魔法じゃ間に合わねぇ!」

 ショーゴは魔法の発動に手間取っていた。使う前に距離を詰められ、仕方なく()って倒して()みつけたところで、動けなくした相手に火の魔法を撃ち込んでいる。

 そしてアッコは黙々(もくもく)と弓を引いて、冷静にコボルトの()(けん)を撃ち抜いている。

「ショーゴぉ。なんかブタが出てきたよぉ」

 魔物の動きを止めていたシオンが、そんなことを言ってきた。

「ブタって……。オークじゃねえか!」

「気をつけろ。Cランクの魔物が出てきたぞ!」

 ショーゴとケインが棍棒(こんぼう)を持った2足歩行のブタの登場に、警戒心(けいかいしん)を強くする。

「なんだ、こいつ。肉が厚くて突けねえぞ!」

 今のケインの突きでは、オークに通用しなかった。ショーゴの方も、

「やべえな。(やり)がまったく()さらないじゃないか」

 皮膚(ひふ)が厚いのか。それとも皮下脂(ひかし)(ぼう)が槍を受け止めてしまうのか。2人ともオークを傷一つつけられなくて苦労している。

「しょうがないなぁ。きみらは後まわしだね」

 シオンが倒せないオークを蜘蛛(くも)の糸で(から)めて、大きな柱へと(しば)りつけていく。

「助かったよ、シオン。さすが実力はC級だ。俺たちにはまだコボルトの相手がお似合いらしい」

「ちっ! 力の壁を思い知らされちまった感じだ」

 舌打ちしたケインが、その不満をコボルトにぶつけていく。そんな時、

「うわっ! 急に風が強くなった!!」

 風の魔法を使い続けていたミントが、そんなことを言い出した。すぐにステータスを見たショーゴが、

「おめでとう。今日の目標達成だ!」

 ということを確認する。

「ホント?」

「ウソなんか言うもんか。でも、目標を超えたら風が強くなるなんてことは、どこにも書かれてなかったけどな」

 と答えたショーゴの方へ、コボルトが突進してきた。それをケインが横から剣で突き刺した。

「なんだ? 今、変な違和感があったぞ」

 今度はケインだ。すぐにケインのステータスも見て、

「お、ケインにも新しいスキルが(あらわ)れてるぞ。(しょう)(げき)のスキルだ」

 と、新しい派生スキルが追加されたことを確認する。

「これ、たぶんだけど、剣で切り裂く力が強くなったんじゃないか?」

「それじゃ、オークに再挑戦だ!」

 さっそく(ため)()りとばかりに、糸に捕まってるオークに剣を突き立てた。先ほどまでは厚い皮膚(ひふ)皮下脂(ひかし)(ぼう)のせいで傷一つ与えられなかったのに、今は剣がオークの身体(からだ)を深々と突き刺している。

 やられたオークが光に変わって消え、青い魔石を落とした。

「うわ。でけぇ!」

 10cm(センチ)ぐらいある魔石を拾って、ケインが重さを実感している。

「これ、ゴブリンの5倍の重さはあるよな?」

「オークの魔石に比べると、コボルトって雑魚(ざこ)よね」

 コボルトの魔石はゴブリンの半分にも届いてない。それを比較したら、そりゃあ、そういう感想になるのも当然だろう。

「2人ともぉ、今は倒すのに集中して!」

 必死に弓を射続けているアッコが、2人に文句を言ってきた。そのアッコの手持ちの矢が、とうとう最後の1本になってしまう。

「あ〜ん。また拾い集めなくちゃ……」

 ここが弓の弱点だ。さっそくアッコが散らばった魔石と一緒に、使える矢の回収を始める。

「おりゃあ! とお!」

 ケインは糸で動けなくされたオークたちを、次々と()り倒していった。

 新しいスキルさえ手に入れてしまえば、今日はもうステータス上げは終わったという気分だろう。今は先ほどまで倒せなかったオークに、剣が通用してるのが楽しくて仕方ないという感じかもしれない。

 シオンも、ケインに糸を切られてるけど、そこは気にしてない様子だ。そのまま()らせてあげるか、解放して少しはステータスの足しにしてあげるか、どうしたものかと考えつつ、()考放(こうほう)()して今日の記録とばかりにスケッチを始めている。

「これ、もしかして、今日は終わりってことでいいのかな?」

 ミントがショーゴに聞いてきた。聞かれたショーゴも、

「俺のステータス上げは、また今度ってことでいいか」

 あとは好きにやってくれという気分になっていた。

「それよりも治癒(ちゆ)魔法よ。どんな感じで使えるのかな? 呪文(じゅもん)は何がいいかな? 古い言葉で『サナ』か『クレ』かな? それとも勇者さまたちが使ってた、『ヒール』とか『キュア』もいい感じよね。あ、『キュア』は()(どく)とか状態異常の解除か。いやいやいや、その前にちゃんと使えるか確かめたいけど……。ケガしてる人、誰かいないかな?」

 さっそく覚えたての治癒魔法を使ってみたくて、ミントが浮き足立っていた。

 糸に捕まっていた魔物は、ケインがすべてやっつけている。その魔物の落とした魔石を、アッコが矢を拾うついでに集め終えていた。

 そしてパーティの5人は今日も日が高いうちに、冒険者ギルドに帰ってきていた。



「みなさん、欲がありませんわ」

 戻ったショーゴたちから魔石を受け取ったディアが、そんな言葉を()らした。

「オーク13頭でやめちゃったんですか? 何頭も倒せたってことは、もっとダンジョンで(ねば)って50頭も倒せば、ショーゴさまは8日でB級冒険者になる大記録を作れましたのよ。当然、フォエネル組のみなさんもB級になって、冒険者として安定した地位を手に入れてたはずですのに……」

「ディアさん。それは期待が大きすぎますって……」

 ショーゴがディアの物言いに、困ったように返した。とはいえ、

「……あれ? もしかして今の俺たちにはシオンがいるから、(ねら)おうと思えばできたのか?」

 という可能性に気づくと、自然と後ろにいるシオンに目が向かってしまう。

「まあ、いいですわ。今日のお持ち帰りは、魔石約20kg(キログラム)。パーティでの獲得(かくとく)ポイントは23,000ポイントほどになりますわ。シオンさまはこれでD級に上がりますので、古い冒険者カードを出してください」

「はい。よろしくね」

 ディアに言われて、シオンが赤い木製のカードをカウンターに置いた。

「それと、今日の(ほう)(しゅう)は1人あたり5万ジェム近くになりますわ。これはギルドの口座に入れておきますわね」

 そう言い残したディアが、シオンのカードを持って奥の部屋へ入っていった。

「5万かぁ。久々に額が小さいよな」

 などと言ったのは、金銭感覚がバグったケインだ。それにアッコが、

「その感覚がもうおかしいわ。ショーゴと組むまでは、1日2000ジェムも(かせ)げたら何とか暮らしていける、5000ジェムだったら普通の家族よりも稼げてるって喜んでたじゃないの」

 と苦言を(てい)してきた。1週間前までは、それが当たり前だったのだ。

「ねえ、ミントも何か言ってよ。……って、ミント?」

 近くにいたはずのミントが、いつの間にかいなくなっていた。そのミントは、

「すみませ〜ん。治癒(ちゆ)の魔法を覚えたので、(れん)(しゅう)(だい)になってもらっていいですか? ダメ元で(なお)らなかったご(あい)(きょう)ってことで……」

 ケガして戻ってきた冒険者を見つけて、さっそく魔法を使おうとしていた。

「治ったらありがたいけど、大丈夫かぁ?」

「すみませ〜ん。あたしもまだどのくらい治せるかわからないので、(ため)しに使わせてもらいますねぇ。ヒール……」

 ミントは使う呪文を「ヒール」に決めたらしい。

「お、スゲー! 血が止まるだけじゃなくて、傷口まで消えてるじゃないか」

 血に()まった布を取った冒険者が、すっかり治ってる結果に驚いた。

 そのあともケガ人を次々と見つけたミントが、

「ヒール。こっちもヒール。これは治せるかな? ヒール、ヒール、ヒール……」

 治癒魔法を使いまくっている。今は骨折(こっせつ)した人の(あし)(つか)んで、繰り返し魔法をかけている。

「おいおい、まさか骨折まで治せるのかよ……」

 ショーゴが素質に気づいただけあって、才能が開花したミントの治癒魔法は最初からかなりの(こう)(りょく)を発揮していた。先ほどまで杖を突いて歩いてた人が、もう杖なしで歩けている。

(じょう)ちゃん、すごいな。こんな魔法、どうやって覚えたんだ?」

「すごいのは()使(つか)いの勇者さまのショーゴだよ。えっと、あれあれ、あれで高度な魔法が覚えられるのよ」

 と言ってミントが指差したのは、ショーゴが系統樹(けいとうじゅ)に書き起こしたものだった。まだ報告書としてはまとめられてないが、そのメモ書きがシオンのイラストと並んで、掲示板の一角に()られて紹介されている。

「もしかして俺たちでも覚えられるのか?」

「ステータスを見て必要な基礎スキルがあれば、誰でも1つ1つを鍛えて伸ばすことで派生スキルが生まれるのよ。あたしは風の魔法が使えるのに使ってこなかったから、これを知らなかったら治癒魔法なんて自分にできるなんて思わなかったわ。まさか1日鍛えただけで使えるようになったなんて……」

「1日で? す、すげー。それなら俺は、この爆発の魔法を覚えたいぞ。闇の魔法って、どうやって鍛えればいいんだ?」

「上級魔導師じゃなくても、爆発系の魔法が使えるんだな。これは知らなかったぞ」

 その場にいた冒険者たちが系統樹のメモを見て、ワイのワイのとやっている。

「あれは何の騒ぎかしら」

 そこへ戻ってきたディアが、シオンに白い冒険者カードを渡しつつロビーの人だかりに目を向けた。

 これがスフルの冒険者ギルドが大きく変わる大事件になるとは、まだ誰も思ってなかった。

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