少しだけ残ったもの(修正版)
――帝国暦三五〇年・春初め 放課後――
校舎の外は、まだ明るい。
「なあ、あの人さ」
ガイが口を開く。
「あの見学の人」
「分かる、めっちゃ綺麗だったよな」
「声もよかったし」
ルークが腕を組む。
「普通の人じゃないな」
「絶対、どっかの貴族」
サムが少しだけ眉をひそめる。
「だからって、どうするんだよ」
「どうするって」
ガイが笑う。
「探すだろ」
「は?」
「いや、気になるじゃん」
エドも笑う。
「まあ、少しくらいなら」
四人は街へ出る。
人の流れ。
店の並び。
いつもの景色。
「金髪でさ」
「小柄で」
「青い目」
パン屋の親父が首を振る。
「その辺じゃ見ないな」
花屋の店主が少し考える。
「貴族の人じゃない?」
「やっぱりか」
それ以上は出てこない。
少し歩く。
「なあ」
ルークがぽつりと言う。
「クロウのとこも、貴族だよな」
「……ああ」
サムが頷く。
「でも、あんな人いたか?」
「見たことはないな」
ガイが少しだけ考える。
「でもさ」
「ザザって、聞いたことある気がする」
「気がするだけだろ」
軽く笑う。
でも、流れきらない。
「……まあいいや」
ガイが肩をすくめる。
「聞けばいいんだろ」
「誰に?」
「クロウに」
それだけで、少しだけ空気が軽くなる。
四人はまた歩き出す。
ただの好奇心。
でも、少しだ、残る。
夕方の光の中で、消えきらないまま。
――帝国暦三五〇年・春初め 翌日・昼休み――
昼の教室は少しだけ騒がしい。
椅子の音。弁当を開く音。
笑い声。
クロウは席に座っていた。
いつも通り、少しだけ静かな場所。
「なあ」
顔を上げると、ガイが立っていた。
後ろに、エド、ルーク、サム。
「昨日の見学の人」
いきなりだった。
クロウは一瞬だけ視線を落とす。
「知ってる?」
軽い調子。
でも、逃がさない聞き方。
「……知ってる」
周りが少しだけざわつく。
「マジで?」
「誰なんだよ」
クロウは少しだけ間を置く。
「……家の人」
一瞬、沈黙。
「は?」
「家って何だよ」
ガイが笑う。
「いやそうじゃなくて」
ルークが眉をひそめる。
「親戚?」
「……うん」
クロウは頷く。
完全には嘘じゃない。
「じゃあさ」
ガイが少しだけ近づく。
「詳しく教えろよ」
周りの空気が、少しだけ寄る。
「どこに住んでるとか」
「何してる人とか」
「あと」
エドが笑う。
「また来るかどうか」
クロウは小さく息を吐く。
少しだけ、揃っていない。
視線が集まっている。
軽いのに、引く感じがある。
クロウは視線を上げる。
「……分からない」
短く言う。
「えー」
「知らないわけないだろ」
ガイが食い下がる。
「家なんだろ?」
クロウは少しだけ考えてから。
「……聞いてみる」
それだけ言う。
空気が、少しだけほどける。
「マジで?」
「じゃあ頼んだ」
軽い笑いが戻る。
でも、完全には戻らない。
クロウは弁当に手を伸ばす。
さっきより、少しだけ重い。
それでも、止まってはいない。




