第42話 クロウの過去
観測塔は、王都の中心に立っていた。
高い。
異様に。
城よりも高い。
塔というより、
針みたいだ。
空を突いている。
だが。
この世界では、
半分崩れている。
石が割れ、
壁が崩れ、
上の方は空に消えている。
クロウが言う。
「……懐かしいな」
俺は見る。
「来たことあるのか」
クロウが笑う。
「何度もな」
エリシアが言う。
「この層では」
少し間。
「重要施設」
俺は聞く。
「観測用か」
エリシアが頷く。
「うん」
クロウが言う。
「そして」
塔を見る。
「脱出口でもある」
俺は言う。
「外へ行く道」
クロウが笑う。
「そういうことだ」
塔の入り口は開いていた。
扉は壊れている。
中は暗い。
俺は一歩入る。
空気が変わる。
静かだ。
外よりも。
クロウが言う。
「上だ」
俺は聞く。
「階段か」
クロウは首を振る。
「エレベーター」
エリシアが言う。
「ログ昇降機」
クロウが笑う。
「名前は何でもいい」
塔の中央。
円形の空間。
床に、
円がある。
古い。
だが、
まだ動きそうだ。
クロウがその円の中心に立つ。
俺も。
エリシアも。
クロウが言う。
「さて」
少し間。
「ここで問題だ」
俺は言う。
「何だ」
クロウは俺を見る。
少しだけ真面目な顔。
「外に出ると」
少し間。
「戻れない」
俺は言う。
「聞いた」
クロウは頷く。
「もう一つある」
沈黙。
エリシアが言う。
「……言うの」
クロウは笑う。
「今のうちにな」
俺は聞く。
「何だ」
クロウは少しだけ空を見る。
そして言う。
「外に出たやつは」
少し間。
「ほとんど帰ってこない」
俺は言う。
「死ぬのか」
クロウが笑う。
「違う」
少し間。
「変わる」
俺は目を細める。
「どう」
クロウは答える。
「人じゃなくなる」
沈黙。
塔の中は静かだ。
エリシアが言う。
「クロウは」
俺を見る。
「戻った」
俺はクロウを見る。
クロウは肩をすくめる。
「途中でな」
俺は聞く。
「何を見た」
クロウは少し考える。
そして言う。
「全部」
短い。
だが重い。
俺は言う。
「それで」
クロウが笑う。
「戻ってきた」
俺は聞く。
「なぜ」
クロウは少しだけ黙る。
それから言う。
「つまらなかった」
沈黙。
俺はクロウを見る。
嘘じゃない顔だ。
クロウは続ける。
「世界の外はな」
少し間。
「答えしかない」
俺は言う。
「それの何が悪い」
クロウが笑う。
「面白くない」
エリシアが小さく言う。
「……クロウ」
クロウは肩をすくめる。
「だから戻った」
俺を見る。
「お前みたいなやつが」
少し間。
「また出てくるまで」
沈黙。
塔の上から、
風の音がする。
崩れた天井から、
赤い空が見える。
俺は言う。
「……じゃあ」
クロウを見る。
「今度はどうする」
クロウが笑う。
「今回は」
少し間。
「最後まで行く」
エリシアが言う。
「本気?」
クロウが頷く。
「多分な」
俺は円を見る。
古い装置。
ログ昇降機。
クロウが言う。
「準備はいいか」
俺は答える。
「最初から」
エリシアが言う。
「じゃあ」
クロウが床を踏む。
円が光る。
赤い線。
白い線。
ログが走る。
塔が震える。
クロウが笑う。
「行くぞ」
床が消える。
体が浮く。
塔の外。
赤い空が遠ざかる。
王都が小さくなる。
そして。
上へ。
さらに上へ。
世界の外へ。
第42話でした。
クロウというキャラクターは、
この物語の中でも少し特殊な立場にいます。
彼は世界の仕組みを知りながら、
それでもこの世界に残っています。
なぜなのか。
その答えは、
もう少し先で明らかになります。
そして次回、
いよいよ塔の上へ到達します。
物語はさらに「外側」に近づきます。




