第38話 再構成の歪み
王都の通りを歩く。
昼の光。
人の声。
市場のざわめき。
どこにでもある昼だ。
だが。
俺は足を止めた。
「……まただ」
クロウが横を見る。
「何だ」
俺は通りの端を見る。
井戸。
石の井戸だ。
だが。
「こんなのあったか」
クロウが肩をすくめる。
「水汲む場所だろ」
俺は首を振る。
「違う」
記憶を探る。
この通り。
何度も歩いた。
何度も。
――何回だ?
そこで止まる。
思い出せない。
クロウが言う。
「削れてるな」
俺は井戸を見る。
違和感がある。
形は普通だ。
だが。
世界の“継ぎ目”みたいに見える。
エリシアが近づく。
井戸を覗く。
「……ここ」
俺は聞く。
「何だ」
エリシアが言う。
「再構成の跡」
クロウが笑う。
「傷跡か」
エリシアが頷く。
「うん」
俺は井戸の縁に手を置く。
石。
冷たい。
だが。
一瞬、
感触が消えた。
「……今」
クロウが言う。
「触れたな」
俺は頷く。
「消えた」
エリシアが言う。
「安定してない」
俺は聞く。
「どういう意味だ」
エリシアは井戸を見る。
静かに。
「この世界」
少し間。
「まだ完成してない」
クロウが笑う。
「いいね」
俺は言う。
「何がいい」
クロウが言う。
「壊せる」
エリシアが小さく言う。
「違う」
俺を見る。
「壊れる」
そのとき。
井戸の水面が揺れた。
風はない。
だが。
水だけが動く。
俺は覗き込む。
水の中。
王都の空が映る。
だが。
違う。
別の景色が重なる。
壊れた街。
崩れた塔。
赤い空。
クロウが言う。
「……見えたか」
俺は答える。
「別のループだな」
エリシアが頷く。
「うん」
俺は井戸を見る。
水面が戻る。
普通の水。
だが。
今のは確かにあった。
クロウが言う。
「干渉が始まってる」
俺は聞く。
「何が」
クロウが答える。
「世界同士」
エリシアが言う。
「再構成が不安定だから」
俺は井戸から離れる。
胸の奥がざわつく。
見た景色。
どこかで見た。
だが。
思い出せない。
クロウが言う。
「記憶の方も進んでるな」
俺は言う。
「……分かる」
エリシアが言う。
「止めないと」
俺は聞く。
「何を」
エリシアが答える。
「この状態」
クロウが笑う。
「そのために外に行くんだろ」
俺は空を見る。
普通の空。
だが。
井戸の水の中の空は違った。
赤かった。
俺は言う。
「……急ぐ」
クロウが頷く。
「だな」
エリシアが言う。
「次は」
少し間。
「境界」
俺は歩き出す。
井戸を背に。
普通の街を抜けて。
だが。
もう分かっている。
この世界は、
完全じゃない。
どこかが、
ずれている。
そして。
そのズレは、
確実に広がっている。
俺は小さく言う。
「……間に合うか」
クロウが笑う。
「知らん」
エリシアが言う。
「急げば」
三人で歩く。
王都の奥へ。
世界の境界へ。
第38話でした。
王都の井戸という小さな場所ですが、
ここで「別のループ」が初めてはっきり見えました。
世界が壊れているだけでなく、
複数の世界が干渉し始めています。
そして、アーカの記憶も確実に減っています。
このままだと、
彼は“普通の人間”に戻ってしまいます。
次回から、
いよいよ世界の「境界」に近づいていきます。
引き続き読んでいただけたら嬉しいです。




