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第37話 消えているもの

第2章の2話目です。


王都は一見、何も変わっていません。

ですが、アーカの中では確実に変化が起きています。


この話では「記憶の欠落」と「世界の再構成」が少しだけ見えてきます。


世界は元に戻ったように見えますが、

実際には少しずつ“別の形”になっています。


そして、アーカ自身も。


ここから物語は、

世界の構造とアーカの正体に近づいていきます。

朝の光が、石畳に落ちている。


王都の通りは昨日と同じだ。

人が歩き、店が開き、馬車が通る。


何も変わらない。


――はずだった。


俺は立ち止まる。


通りの角。


何かがあった場所。


だが、思い出せない。


「どうした」


クロウが言う。


俺は答える。


「……ここ」


少し間。


「何かあった」


クロウは周囲を見る。


「王都には何でもある」


俺は首を振る。


違う。


そういう意味じゃない。


ここには――


何か大事なものがあった。


気がする。


だが、


思い出せない。


エリシアが静かに言う。


「来てる」


俺は聞く。


「何が」


エリシアは俺を見る。


「削れ」


短い言葉。


だが重い。


クロウが言う。


「どれくらい残ってる」


エリシアは答える。


「……四割」


俺は言う。


「さっき半分じゃなかったか」


エリシアは小さく首を振る。


「進んでる」


クロウが笑う。


「いいね」


俺は言う。


「全然よくない」


クロウは肩をすくめる。


「止められない」


エリシアが言う。


「止める方法はある」


俺は聞く。


「何だ」


エリシアは空を見る。


王都の空。


青い。


普通の空。


「外側」


クロウが言う。


「やっぱりそこか」


俺は通りを歩き出す。


さっきの場所をもう一度見る。


思い出そうとする。


何があった。


ここに。


――パン屋。


突然、浮かぶ。


だが。


おかしい。


店はある。


確かにある。


俺は指をさす。


「ここ」


クロウが見る。


「パン屋だな」


俺は言う。


「……違う」


少し間。


「前は」


言葉が止まる。


思い出せない。


クロウが俺を見る。


「何だ」


俺は首を振る。


「……分からない」


エリシアが小さく言う。


「それ」


俺を見る。


「思い出せないんじゃない」


少し間。


「消えてる」


沈黙。


クロウが笑う。


「なるほど」


俺はパン屋を見る。


確かにある。


だが。


どこか、


“違う”。


店主が言う。


「いらっしゃい」


声は普通だ。


だが。


その顔を見た瞬間。


胸の奥が、


少しだけざわつく。


俺は呟く。


「……誰だ」


クロウが言う。


「店主だろ」


俺は首を振る。


「違う」


少し間。


「前のやつじゃない」


エリシアが言う。


「再構成」


クロウが笑う。


「世界が調整したか」


俺は店を見続ける。


パン。


看板。


煙。


全部ある。


だが、


俺の記憶と、


少しだけズレている。


俺は言う。


「……世界」


クロウが言う。


「なんだ」


俺は小さく呟く。


「書き換わってる」


エリシアが言う。


「うん」


少し間。


「あなたが触ったから」


俺はパンを一つ買う。


かじる。


味は同じだ。


だが。


何かが違う。


クロウが言う。


「分かるか?」


俺は答える。


「……少し」


クロウが笑う。


「それが消える」


俺はパンを見下ろす。


普通のパン。


普通の朝。


普通の世界。


だが。


確実に、


何かが減っている。


俺は言う。


「……急ぐぞ」


クロウが頷く。


「だな」


エリシアが言う。


「次の層」


俺は空を見る。


青い空の奥。


そこに、


見えない境界がある。


俺は小さく言う。


「……次だ」

第37話でした。


第2章は、派手な戦いよりも

「違和感」が少しずつ増えていく構成になっています。


記憶が消えること。

世界が微妙に変わっていること。

そして、その理由。


まだはっきりとは出てきませんが、

この章の中で少しずつ明らかになります。


次回からは、

“次の層”へ向かう動きが始まります。


よければ続きも読んでいただけたら嬉しいです。

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