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第35話 帰還

黒い空間が崩れる。


音はない。


だが確実に、


“存在”がほどけていく。


床が消える。


壁が消える。


空間そのものが、


薄くなる。


クロウが言う。


「急げ!」


俺は走る。


エリシアも。


三人で、


出口へ。


さっき通ったはずの道。


だが形が違う。


歪んでいる。


記録がない場所は、


安定しない。


クロウが前を指す。


「左だ!」


俺は曲がる。


一瞬、


判断が遅れる。


足がもつれる。


クロウが腕を掴む。


「落ちるぞ!」


俺は踏みとどまる。


「……助かった」


クロウが笑う。


「危ないな」


エリシアが言う。


「もう限界近い」


俺は聞く。


「あとどれくらいだ」


エリシアは答えない。


クロウが言う。


「聞くな」


少し間。


「動けるうちに動け」


前に、


光が見える。


出口。


第三層からの脱出点。


エリシアが言う。


「そこ!」


俺は最後の力で踏み込む。


光へ。


飛び込む。


落ちる。


感覚が戻る。


音が戻る。


重力が戻る。


俺は地面に膝をついた。


石の床。


塔の中。


第二層だ。


クロウが着地する。


エリシアも。


少し遅れて。


三人とも、


息が荒い。


クロウが言う。


「……戻ったか」


俺は答える。


「ああ」


だが。


何かが違う。


頭の中。


空白がある。


思い出そうとする。


――出てこない。


俺は呟く。


「……削られたな」


クロウが笑う。


「だいぶな」


エリシアが言う。


「……半分」


俺は目を細める。


「半分?」


エリシアが頷く。


「うん」


少し間。


「もう半分しか残ってない」


沈黙。


クロウが言う。


「いいね」


俺は言う。


「笑うな」


クロウは肩をすくめる。


「現実だ」


俺は立ち上がる。


体が軽い。


軽すぎる。


思考も。


言葉も。


何かが抜けている。


だが。


まだ、


自分だ。


俺は言う。


「……王都に戻る」


クロウが頷く。


「だな」


エリシアが少しだけ迷う。


「戻ったら」


俺は聞く。


「何だ」


エリシアは言う。


「もう普通に見える」


俺は目を細める。


「何が」


エリシアが答える。


「世界」


少し間。


「壊れてるって分からなくなる」


クロウが言う。


「それが一番怖いな」


俺は歩き出す。


塔の出口へ。


一歩。


一歩。


足取りは軽い。


だが。


どこか、


空っぽだ。


外に出る。


王都。


人がいる。


店がある。


声がある。


普通の世界。


何も問題ないように見える。


俺は立ち止まる。


空を見る。


何もない。


裂け目もない。


ログもない。


ただの空。


クロウが言う。


「どうだ」


俺は答える。


「……普通だ」


エリシアが小さく言う。


「それが危ない」


俺は考える。


何か、


大事なことがあったはずだ。


だが。


思い出せない。


俺は言う。


「……でも」


少し間。


「終わってない」


クロウが笑う。


「分かるか」


俺は頷く。


理由は分からない。


だが。


確信だけがある。


この世界は、


まだ終わっていない。


エリシアが言う。


「次がある」


俺は聞く。


「どこだ」


クロウが空を見る。


そして言う。


「もっと上」


少し間。


「もっと外」


俺は剣を握る。


軽い。


だが、


確かに持っている。


俺は言う。


「……行くぞ」


クロウが笑う。


「いいね」


エリシアが頷く。


「うん」


三人で歩き出す。


王都の中へ。


普通の顔をした世界の中へ。


だが。


誰も知らない。


この世界が、


すでに何度も壊れていることを。


そして。


その外に、


まだ“何か”があることを。


俺は小さく呟く。


「……次だ」

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


第1章「王都ログ崩壊編」は、

“世界の裏側に触れるまで”の物語でした。


壊れている世界。

繰り返されるループ。

そして、それを見ている存在。


アーカはようやく「外」を知りましたが、

同時に、自分自身が削られていくことも知りました。


戻ってきた王都は、何事もなかったように動いています。

けれど、その“普通”が一番危うい状態です。


クロウは終わらせる側。

アーカは止める側。

エリシアはその間にいる存在。


三人の立ち位置が揃ったところで、

ここから物語は「外側」へ進みます。


第2章では


・世界の多層構造

・観測している存在

・ループの本当の意味


に踏み込みます。


そして、アーカに残された時間は多くありません。


このまま進めば、彼は“普通”になってしまう。

つまり――何も気づけない存在に戻る。


それでも進むのか。


それとも終わらせるのか。


次の章で、その選択がより重くなっていきます。


引き続き、読んでいただけたら嬉しいです。


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