第34話 外側
白い光が、そこにある。
黒い空間の中で、
それだけが浮いている。
静かだ。
何も動いていない。
だが。
見ていると、
どこか“こちらを見返している”気がする。
クロウが言う。
「……これが外か」
エリシアが首を振る。
「違う」
少し間。
「入口」
俺は歩く。
光へ。
足音はない。
距離も曖昧だ。
近づいているのか、
止まっているのか、
分からない。
だが。
確実に、
“引かれている”。
クロウが言う。
「気をつけろ」
俺は答える。
「分かってる」
エリシアが小さく言う。
「……触らないで」
俺は聞く。
「理由は」
エリシアは少し迷う。
そして言う。
「そこから先は」
「戻れない」
クロウが笑う。
「いいね」
俺は立ち止まる。
白い光の前。
手を伸ばせば届く距離。
光は揺れない。
ただ、
そこにある。
俺は聞く。
「ここは何だ」
エリシアが答える。
「観測点」
俺は言う。
「誰の」
エリシアは答えない。
クロウが言う。
「外のやつらだろ」
エリシアは否定しない。
俺は光を見る。
その奥。
何かがある。
感じる。
見えないのに、
確かにある。
「……見てるな」
クロウが笑う。
「やっと気づいたか」
エリシアが言う。
「ずっと見てる」
少し間。
「最初から」
俺は目を細める。
「俺をか」
エリシアが答える。
「世界を」
クロウが言う。
「ついでにお前だ」
白い光が、
わずかに揺れた。
その瞬間。
頭に、
何かが流れ込む。
視界が開く。
別の視点。
高い場所。
無数の世界。
並んでいる。
同じ構造。
違う展開。
繰り返し。
試行。
選択。
誰かが、
それを見ている。
観測している。
記録している。
俺は呟く。
「……実験か」
クロウが言う。
「だろうな」
エリシアが言う。
「観測」
少し間。
「調整」
俺は言う。
「俺は何だ」
エリシアは答える。
「例外」
クロウが笑う。
「バグだな」
俺は光に近づく。
手を伸ばす。
エリシアが強く言う。
「ダメ!」
一瞬だけ止まる。
だが。
俺は触れた。
世界が反転する。
音が消える。
色が消える。
すべてが、
“軽くなる”。
俺の体が、
薄くなる。
存在が、
削られる。
クロウの声が遠い。
「……おい!」
エリシアの声。
「戻って!」
だが。
離れられない。
光の奥。
そこに、
“誰か”がいる。
見えない。
形はない。
だが確実にいる。
そして。
声がした。
「……観測値更新」
低い。
感情のない声。
「異常個体」
少し間。
「接触確認」
俺は言う。
「お前か」
沈黙。
そして。
「……応答不要」
次の瞬間。
世界が、
押し戻された。
俺は後ろに吹き飛ぶ。
床に叩きつけられる。
息が詰まる。
クロウが近づく。
「……馬鹿か」
俺は答えない。
呼吸を整える。
エリシアが膝をつく。
「……だから言ったのに」
俺は言う。
「見えた」
クロウが聞く。
「何が」
俺は答える。
「外」
少し間。
「世界じゃない」
エリシアが静かに言う。
「うん」
俺は続ける。
「見てる」
クロウが笑う。
「気づいたか」
俺は立ち上がる。
体が重い。
いや。
軽すぎる。
何かが、
また削れている。
思考が遅い。
言葉が、
少し遠い。
エリシアが言う。
「もう限界」
クロウが言う。
「戻るぞ」
俺は光を見る。
もう、
ただの光に見える。
さっきの“気配”は、
感じない。
だが。
確かにあった。
俺は言う。
「……終わらせる」
クロウが笑う。
「いいね」
エリシアが言う。
「その前に」
少し間。
「ここから出る」
空間が揺れる。
第三層が、
崩れ始めている。
クロウが言う。
「時間切れだ」
俺は頷く。
「……行くぞ」
三人で走る。
黒い空間を抜ける。
白い光を背にして。
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