第6話
目を開けるとそこは見知らぬ天井……と言うわけではなくアリシアの屋敷の天井だった。そして俺は夜のことを思い出し、激しく落ち込んだ。
いくら向こうから誘惑されたとはいえいきなりああいうことをするのは駄目だろう。隣を見ればシーツで豊満な体を隠しているアリシアが幸せそうに眠っていた。何となく悔しく思いアリシアの頬をつねる。
しばらくそうしているとアリシアは目を覚ましたようで焦点が定まっていない目で俺を見つめている。
「おはよう」
「……おはようございます」
アリシアはそう言って立ち上がった。肌を隠していたシーツがはだけて綺麗な裸身が朝日に晒される。その光景に俺は目を奪われたがすぐさま視線をそらす。
「ふふ……今さらじゃないですか、昨日あんなに激しくしたのに♪」
そんなことを言えるアリシアが羨ましいと思うと同時に負けた気がして悔しい。
「とりあえず着替えてくれ……」
そう言うのが精一杯で俺はベッドの下に落ちていた服をアリシアに投げた。勿論その方向は見ないようにだ。
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃないですか」
「いいか早く着替えろ!」
耐えきれなくなってすぐに部屋を出た。廊下に出ると涼しい風が通りすぎ熱をもった体を冷やしてくれる。
そうして待っていると着替えを終えたアリシアがこっちに向かってくる。
「さて……じゃあ本来の目的を果たそう」
「そうですね……ひとまずこちらに来てください」
「確認しておくが俺は街に行きたいからな」
まさかとは思うが一応念押ししておくとアリシアは分かったように頷いてくれた。これで他のところに行かれたときはしばきたおそう。
そう思いながら前を進むアリシアについていくと、屋敷のベランダにたどり着いた。
「あちらが最寄りである『ルーミア』です」
そう言って指を指す方向に見えたのはとてつもなく大きなお城だった。某テーマパークの城に見えなくもないがそれはそれだ。
「ここからですと……1日といったところですかね」
「1日か……」
多分この世界の基準で1日ということらしいが別に合わせる必要もないだろう。
「じゃあ昨日と同じように移動しようか」
「……ですよね……」
どことなく沈んだ顔を浮かべるアリシアが気になり俺は尋ねてみた。
「何か不満でもあるのか?」
「私の中の常識が壊れそうでですね……」
「ははは今更だ、というか俺について来るのなら覚悟しておいた方がいいぞ」
どこか諦めの表情を浮かべたアリシアをお姫様だっこする。突然の出来事に可愛らしい悲鳴を上げるがそんなことは気にしない。
「口を閉じとけよ」
そしてアリシアを抱えたままベランダから飛び降りた。そんなに高さはないがそれでも本能的な怖さは感じる。
「よいしょっと」
着地の衝撃を膝で受けとめそれでも耐えられない分を魔力操作で作り上げたクッションで分散させる。
「あ、危ないじゃないですか!」
地面に下ろされてからアリシアが抗議をしてきたがその頬は赤く染まっていて何とも可愛らしい。
「すまんすまん、でも楽しかっただろ?」
「それとこれとは別問題です!」
「それよりも……早く街に行こうぜ」
言うや否やすぐ車を作り上げて運転席に乗り込む。アリシアも溜め息をつきながら助手席に乗った。
エンジンを立ち上げ車を動かすと少しばかり座席に押し付けられると同時に車が加速した。
「気分はどうだ?」
「便利すぎてもう訳が分かりません」
アリシアはそう言いながらも外の景色を楽しんでいるようで説得力がなかった。しばらく運転していると城がだいぶ大きく見え始めた。
「そろそろ降りるか」
俺とアリシアはなるべく目立たないようにするために車を降りて徒歩の移動に切り替えた。
「……やっと普通の旅という感じがしますね」
「俺個人としては文明の力に頼りたいところだな」
テンプレ的な展開とかを味わいたいとか思っていたが昨日の今日でお腹一杯だ。
「ふふ、そうそう色々トラブルがあっても困りますよね」
アリシアがそう言った矢先に街の方から何が近づいてくる音が聞こえる。
「……嘘だろ?」
どうやらまたやっかい事が起きそうな予感がする。ひとまず近くにあった草むらに身を隠すことにした。
しばらくするとこっちに来ていたものが徐々に見えてきた。どうやら馬車のようだが見るだけで馬が疲れきっていることが分かる。
「……きな臭いな」
しばらく観察していると馬車を引いていた馬が力尽きたのか、馬車が横転した。不幸なことに馬はその下敷きになったようだ。
「ゼロ様どうしますか?」
正直な話関わりたくないのだが……ここで何かあったとしても後味が悪い気がする。
「……仕方ないか、アリシア行くぞ」
「分かりました」
俺はまだ戦闘態勢には入らずに警戒しながら横転した馬車に近づいていく。俺の後ろには後方を見るアリシアがついてくる。
横転した馬車は幸か不幸か車輪が破損しただけで外から見る分には問題はなさそうだった。
「とりあえず開けてみるか……アリシアは周囲の警戒を」
「任せてください」
俺は念のためにククリナイフを構成して扉を開けようと力を込めた。だが、フレームが歪んだせいか上手く開かない。
「くそ」
俺は自分の剣に『破壊属性付与』を使う。すると体が一気に重くなった。
「魔力を一気に持っていかれるのな……!」
自分の能力とはいえ使ったことのない祝福の反動を知る良い機会になったが、今の状況でなくても良いのではとも思ってしまった。
ひとます破壊属性を付与した剣で扉を切りつけると先程までの抵抗が嘘のようにスムーズに切ることができた。
「生きてるか?」
すると中で何かが動いた。どうやら何かが生きているらしい。俺はひとまず剣を分解してその人を引っ張り出した。
外に出すと助けた人はそれなりの身なりでおまけに少し幼いながらも美少女といっても問題ないぐらいだった。
「大丈夫か?」
するとその少女はゆっくりと目を開けて俺を見て衝撃の一言を放った。
「……兄さん?」




