第12話
目の前に立っていたのは宿で対峙して逃げてきたはずの男だった。
「あんな姑息な手で逃げ切れると思っていたのか?」
「中々にいい探知能力があるみたいだな」
皮肉でもなんでもなくただ単純にそう思ったが追われる身からすればたまったもんではない。
「俺たちを追うのに相当暇らしいな」
「まさか……むしろここまで手を焼かせるとは思っても見なかったぞ」
そう言いながら男は腰に差している剣を抜き放った。俺もそれに合わせてアリシアを下ろして『榛名』と『浜風』を展開して構える。
男は一歩踏み込みそのまま袈裟に斬りかかる。その剣筋を半身になって避け、相手の外側から『浜風』で切る。相手もただ切られるのではなく、剣を戻す勢いで籠手に俺の剣を当てた。
とても籠手を叩いたとは思えないほどの衝撃が腕に伝わり体が上に跳ねてしまった。
「しまっ……!」
「もらった」
がら空きの胴体に剣が迫り来る……!
「魔符『小火炎』!!」
剣が刺さる寸前にアリシアの援護が入り相手はそれを回避するために距離をあけた。
「ゼロ様をやらせはしません!!」
「助かったぞアリシア!」
「厄介な術者だ」
仕切り直して今度は同時に攻撃を仕掛ける。俺が斬りかかりその死角からアリシアが魔符で援護を繰り返す。その連携に相手も先程よりは攻撃精度が落ちてきていた。
だが消耗が早いのはこちら側だった。アリシアの魔力が先に切れかけてしまう。アリシアは意識が朦朧として立っているのもやっとという感じだった。
「ぜ、ゼロ様……」
「後は任せろ」
アリシアを下がらせると俺は男に正対して剣を持つ手に力を込める。
「貴様一人でこの俺をどうにかできるとでも?」
「やってみなきゃ分からんだろうよ」
そして俺は今までとは比べ物にならないほどの速さで動く。相手が目を見開いている間に距離を縮めそのまま『榛名』を切り上げる。
ギリギリでそれに反応した男だが既に相手の死角から『浜風』が迫っておりそれには対処できず胴体を上へと薙いだ。
「ちっ、浅かったか……」
攻撃した後その場に残らずにすぐに距離を開けたが思いのほか踏み込みが甘かったようだ。相手の鎧を断ち切ることは出来ず傷をつけただけだった。
「この鎧に傷をつけられたのは久しぶりだ……!これは本気を出せるな」
そして相手が距離を開けた状態で何かをしようとしてくる。俺の中の本能が警鐘をけたたましく鳴らしている。
「奥義『浄化されし悪の炎!!』」
相手の剣から燃え盛る白銀の炎が立ち上がり地面を這って俺とアリシアに迫ってきた。
「展開『イージス』!!」
正面に防壁を作るが相手の威力があるせいかすぐにヒビが入り始める。
(……このまま逃げるか……!)
『イージス』が炎を防いでいる間に地面を崩してそれに潜り込む。そして魔力で蓋をしたタイミングで『イージス』が砕けたのが感覚で分かった。
「……防がれたときはどうしようかと思ったが……残念だったな」
男がその場から離れるのをじっと耳を澄ませて確かめてから地上に戻った。
「……助かったか」
「そうですね……まるで化け物でしたね」
世界はそんなに甘くないと言うことを改めて知らされたが、それより他に懸念事項があった。
「そんなことよりも問題なのが……ニナを連れ去った連中のなかにあの男がいるって言うことだ」
「確かに厄介ですね……」
このままではニナを取り戻すのに少しばかり面倒な方法を使わないといけなくなるだけだった。
「結局ゼロ様はどうされるおつもりですか?」
「一度ニナの様子を見に行くつもりだ。そこからしないとどうにもならんしな」
「……無茶はしないでください」
アリシアは心配するように俺の身を案じてくれた。それを見て俺もなるべく危険な橋を渡らないようにしようと思った。
ひとまず態勢を立て直すために宿に戻ると女将さんがすごい顔をして俺に詰め寄ってきた。
「ここの修理代……出してくれるんだろうねぇ?」
「は、はい……」
仕方なくアリシアに修理代を出してもらったが……とても恥ずかしい思いをした。




