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レッドでホットなチリペッパー

☆レッドでホットなチリペッパー




「……うー」

 熱い。

 そして、暑い。

 僕は汗を拭って、蓮華を動かす。

 今日の朝のこと。晩御飯の希望を聞かれて、

「今日は暑いから、こういうときは辛いものが食べたいかな」

 と、言った結果、本日の夕食は麻婆豆腐になった。

 思ってたよりも辛い。

 辛いのだけど、美味しい。

 餡がただ辛いだけではなく、挽き肉や豆腐の旨味をきちんと引き出して、その上で辛い。

 ご飯とよく合うこともあって、するすると口の中に入っていく。

 美味しい中華料理というのは、食べながらでも食欲を刺激する。

 それを家庭で作ってしまうのだから、この人は本当に凄い。

「美味しいよ、プリマリアさん」

「そう言っていただけると、光栄です」

 僕の対面で微笑むのは、プリマリア・ティンダロスさん。

 さらさらの金髪と、深紅の瞳。そして瞳と同じ色の首輪をつけた、僕のメイドさんだ。

 彼女は僕よりもゆっくりと蓮華を動かして、一口一口を確かめるように、口を付ける。

 その動作は優雅だし、僕と違って汗は殆どかいていない。数滴の雫が、頬を伝うだけだ。

 まるでプリマリアさんの座っている場所だけ気温が違うかのように、プリマリアさんは涼しい顔をしている。

「……プリマリアさん、暑くない?」

 彼女の着ている服は、いわゆるメイド服。

 黒が基調で、白いフリルがアクセントとして散りばめられている。

 長袖だし、スカートも長くて、肌はほとんど露出していない。

 どう考えても、涼しいとは思えない格好だ。

 だというのに、プリマリアさんはメイド服をきちんと着こなしている。どこか着崩して風通しをよくしていたりとか、そういうことをしているようには見えない。

「少し暑いですが……許容範囲です」

「ええと……メイド服って、暑くないの?」

「これは夏用のメイド服ですよ」

 夏用というと、半袖とか短いスカートをイメージするけど、プリマリアさんのメイド服は今の状態で夏モードらしい。

 見た目には冬に着ていたものと同じに見える。いつの間に切り替わったのかも、解らなかった。

 ……生地が薄いとか、そういうのなのかな?

 触ってみるわけにもいかないので、確かめることはできない。たぶんそういうものなんだろう、と結論付けた。

 プリマリアさんもまったく汗をかいてないわけではない。

 でも、僕と比べると雲泥の差がある。

 僕は水をひっかぶったように汗をかいているけど、プリマリアさんはそんなことはない。

「汗止めなどもしていますから」

 僕の視線に対して、プリマリアさんは付け加えるようにそう言った。

「汗止め……」

「色々と工夫して、汗が表面に出にくくなるように、気を使っているんですよ。ご主人様の前で、あまり汗を流すのを見せたくありませんから」

「そう? 僕は気にしないけど……」

「……私が気にしてしまうんです」

 女の人なのだから、当然か。

 返答が返ってきてから、失礼なことを言ってしまったかな、と反省した。

「ええと、ごめんね。なんかその、失礼だったと思う」

「いいえ。ご主人様が純粋に疑問に思われてのことですから」

 僕の謝罪を、プリマリアさんは軽く首を振って受け流してくれる。

 ギクシャクしなくて有り難いけど、申し訳なさが消えるわけじゃない。

 その気持ちを誤魔化す意味も含めて、僕は麻婆豆腐を掻き込んだ。




―――――――――


「っ……」

 ご主人様に悟られぬように、私は軽く身じろぎをします。

 ……くすぐったい、です。

 顔には汗が出ないよう、色々と細工というか、仕込みをしています。

 それはもちろん、ご主人様に少しでも「綺麗だ」と思ってほしいから。

 ですが、服の下はあまり余裕がありません。

 私の方の麻婆豆腐を甘口にしたり、服の下にいくつか保冷剤を仕込むなどしてはいるのですが……それでも、暑いものは暑いのです。人の身とは、随分と不便なものですね。

 肌に浮いた汗が流れていくのは、ひどくゾワゾワします。

 特に、胸の谷間は酷いものです。汗が溜まって、ひどく蒸れています。決してご主人様には見せられません。

 ……恥ずかしいですから。

 愛する人に、恥ずかしいところは見せられません。

 もしも見ていただくのであれば、もっと綺麗な状態でなくてはいけません。

 メイドとして、そして女としてのプライドです。どうしたって叶わない絵空事なのです。

 私はなるべく汗が落ちていかないように、静かに食器を動かすのでした。

 ……ば、ばれてません、よね?

 ちらりとご主人様を見ると、ご主人様は私の顔を覗き込んでいました。

 大好きな人に見られて嬉しい気持ちと、悟られてないかという不安で、汗の量が増えます。

 ……我慢、我慢です。

 我慢は得意です。どんな拷問にも耐え抜く自信がありますし、事実、何度かそのような場面もありました。

 唯一不安要素があるとすれば、その私の我慢を外すことができる存在が、今目の前にいらっしゃることですが……。

「プリマリアさん、ちょっと顔赤いよ?」

「そう、ですか?」

「大丈夫? のぼせたり、してない?」

 あの、ご主人様。

 お気持ちは嬉しいのですが、そんな顔をされると気持ちの蓋が外れてしまいそうです……。

 単純な暑さ以上の苦行を、この日の私は味わったのでした。

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