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お買い物リミットブレイク

「あの、ご主人様……」

 プリマリアさんが困っている。

 でも、譲る気は毛頭ない。

 彼女には何時もお世話をしてもらっている。

 常に感謝してる。

 彼女のことを、何時だって大切に想っている。

 だけど。

 こればかりは譲るわけにはいかないのだ。

「ご主人様……あの、お荷物は私が」

「いや、大丈夫だよ」

「きゅ、きゅぅん……」

 まるで玩具を取り上げられた犬のように、プリマリアさんが落ち込んでいるけれど――僕はただ、荷物持ちをしているだけだ。

 食材がたっぷりと入った買い物袋。

 それを両手に一つずつ持って、僕はプリマリアさんの一歩前を歩いている。

 学校から家に帰る途中、プリマリアさんを偶然見付けた僕は、彼女から荷物を奪うように取り上げて帰路に着いているのだった。

 女の子の荷物を持つのは男として当然。

 それに、彼女にもたまには少し楽をしてほしいという思いもあった。

 だけど、当のプリマリアさんは物凄く落ち着かない風で、

「でも、私はご主人様のメイドです。その私が、ご主人様に荷物持ちをさせるなんて……」

「別にプリマリアさんがさせてるわけじゃないよ。僕が勝手にしてるだけだから」

「ご主人様ぁ……」

 何かを懇願するような、潤んだ上目遣い。

 背中にぞくりとしたものが駆け巡り――いやいや落ち着け僕。

 僕はその感覚を引っ込めて笑顔で、

「んー。じゃあ『命令』するよ。僕に荷物を持たせて、プリマリアさん」

「わうんっ!?」

 『命令』という単語が出てきた途端、プリマリアさんはびくりと震えて、何かを必死に耐えるように唇を噛んだ。

「ご主人、様の、ご命令と、あらば……」

 なんだか油の切れたブリキ人形みたいに面白い反応をしていた。ハートを貰いに魔法使いを探しに行きそうだった。

 それでもプリマリアさんは僕の命令に、忠実に従った。必死に自分の意志を押し殺して、スカートと一緒に握り潰して。

「…………」

 嗚呼、やっぱりダメだな。

 このひと、可愛すぎる。

「プリマリア」

「っ……」

 名前を呼び捨て、振り向く。

 プリマリアはそれだけで、身を竦ませた。

 僕は、彼女の首輪に手を掛ける。

「あっ……」

「ずいぶん、不満そうに応えたね?」

「も、申し訳ありませんっ……」

 こんな、ただの言い掛かり。

 八つ当たるような言い分にさえ、プリマリアは謝る。

 嗚呼、ダメだよ。ダメじゃないか。さっきからそんな可愛い顔をして。

 虐めてくださいと言っているようなものだよ、プリマリア。

 僕は買い物袋を地面において、空になった手を伸ばした。

 彼女の紅い首輪。そして、真っ白な首。

 その間へと、指を通す。

 首輪が引っ張られて――彼女の首が、軽く絞まる。

「あっ、うっ」

「プリマリアは、僕の何?」

「わ、わたしは……ご主人様の、メイドです……」

「それから?」

「ご主人様の、飼い犬です……」

「そうだね、だったら……きちんとご主人様の『命令』に、従わないとね」

「は、い……なんなりと、ご命令を……」

「命令して欲しいんだろ、君の場合は」

 言って、今度は彼女の髪に指を通して、耳に、触れる。

「くぅんっ」

 それだけで彼女はびくりと震えて、膝を曲げた。

 それを腰に手を回すことで抱き支えて――嗚呼。ちょうどいい位置に来たな。

 僕は彼女の耳に唇を寄せる。そして、

「さぁ、おねだりしてごらん。プリマリア」

 言葉が紡がれ、息がかかり、プリマリアの耳を至近距離から刺激する。

「わ、ふぅ……」

 彼女が腕の中で震える。おそらくは歓喜と、快感で。

「お、お願い、します……私に、命令してください……どんなご命令にも従います……だから、どうか……私を使ってください、ご主人様ぁ……」

 恍惚の瞳で。声色で。

 僕に甘えてくる『犬』(彼女)が、堪らなく可愛かった。

「いい子だね――」

 僕は、彼女の望みどおり。

 買い物袋を片方、軽い方だけ握らせて、『命令』した。






――――――――


「〜♪」

 プリマリアさんは上機嫌で荷物を持っている。

 今歌っているのはなぜかドイツ軍歌。このひとのレパートリーは幅が広い。

「嬉しそうだね、プリマリアさん」

「ご主人様のご命令ですから♪」

「…………」

「ご主人様……?」

「あ、いや。何でもないよ」

 僕はときどき、リミッターが外れるというか、歯止めが効かなくなるときがある。

 これは昔からのこと。

 まぁ、つまり、『キレ』たら強いタイプだったのだ。

 だけど、冷静になったあとで自分が恥ずかしいこと言ってたなぁと思ったり、やりすぎちゃったなぁと後悔もしたりする。

 彼女が我が家に来てからは、その頻度も増えたし。

 悪癖だと認識し、直すべきかとも思う。

「〜♪」

 けれど、嬉しそうに僕の『命令』に従う彼女を見ると、このままでも良いかという気持ちも湧いてきてしまう僕だった。

 彼女と一緒にいる限り、僕のドSは直らないかもしれない。

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